大阪湾に注ぐ淀川を遡ると京都府で桂川、鴨川、宇治川、木津川と水脈が分かれる。いずれの川にも天然アユが遡上して近年はアユルアーを楽しむ人が急増中だ。こと京淀川漁協の管轄エリアはこの4 年で注目度が爆上がり。オトリミノーの作者である藤松弘一さんが人気の釣り場を探ってみた。
大阪湾に注ぐ淀川を遡ると京都府で桂川、鴨川、宇治川、木津川と水脈が分かれる。いずれの川にも天然アユが遡上して近年はアユルアーを楽しむ人が急増中だ。こと京淀川漁協の管轄エリアはこの4 年で注目度が爆上がり。オトリミノーの作者である藤松弘一さんが人気の釣り場を探ってみた。
写真と文◎編集部
アユルアー効果で遊漁収入が4年間で20倍!?
昨夏リリースされたアユルアーの中でも3連ジョイントの「オトリミノー」はひと際注目を集めたアイテムのひとつ。このルアーの生みの親が藤松弘一さんだ。滋賀県大津市に本社のあるジャッカルの専務取締役で「TIMON」ブランドを取り仕切り、数々の名作を手掛けてきたルアービルダーでもある。オトリミノーは安曇川、愛知川、野洲川、石田川といった琵琶湖流入河川をはじめ、相模川に利根川と関東の人気河川にも足を運んで性能を確かめ作り上げた。藤松さんはアユルアー制作に打ち込むうち友釣りにも魅せられ、九頭竜川支流の足羽川がホームグラウンドというくらい夏はアユに熱中している。
「オトリミノーを作ってから全国の漁協からアユルアーに関する相談が増えました。この春も横浜の釣りフェスティバル、大阪のフィッシングショーと遊漁者の減少に悩む組合員さんから名刺を渡され『うちの川にもぜひ来て欲しい』と声がかかるようになったのです」
藤松さんがそう話すとおり、アユルアーを認可したい漁協は全国で増えており、今号の各記事を読んでいただければそのようすは分かる。この夏、藤松さんが一度サオをだしてみたいと計画していたのが京淀川漁協管轄の河川だ。
同漁協は淀川水系の桂川、鴨川、宇治川、木津川の下流部を管轄している。京都府伏見区内を流れる桂川が中心的な釣り場であり、この4年の間にアユルアーを楽しむ釣り人が急増したという。遊漁者の呼び込みに力を入れているのが漁協監事で遊漁担当の藤林幸次さんだ。6月5日、藤松さんは主要釣り場となる桂川の久我橋に藤林さんを訪ねた。
「4年前に久我橋のすぐ下流にあった堰堤が撤去されたんです。流れが通るようになると、その瀬にアユが密集し、ルアーでねらうとよく掛かる。以降つりチケの電子遊漁券を導入し、漁協のホームページを一新させ、SNSで発信を始めました。すると多くの人に認知されて、遊漁券も買うてくれる人が増えたんです。漁協の遊漁収入は令和2年までゼロに等しい数字でしたが、令和5年度は4年前に比べ20倍の売上になりました。遊漁者が急増したのは、ほかならぬアユルアーのおかげです。アユを釣ってみたいという人はとても多く、地元の釣り人だけでなく県外から訪れるお客さんも少なくありません」
そう熱く語る藤林さんは自らもアユルアーを楽しみ、毎日ホームページとフェイスブックに桂川のようすや釣果をアップしている。今年の解禁日は5月26日で最大16人ほどのアユルアーマンが並んだ。短時間で10尾以上を掛ける人もいて最大20㎝もあがったそうだ。その後も天候と水況に恵まれた日は必ず釣り人の姿が見られ活気がある。
なお京淀川漁協が行なうアユの放流は30㎏と少ない。「掛かるアユのほとんどが天然と思って間違いありません」と藤林さんは言う。淀川大堰の魚道では13年前からアユの遡上数をカウントしており、今年は5月30日時点で観測史上7番目となる31万782尾が数えられている。
久我橋下流の瀬は撤去された堰堤の基礎が川幅いっぱいにあり、そのコンクリートの瀬にアユが付く。日が照って魚の活性が高まるとギラギラと食む姿が見える。また基礎の下流に続く瀬もアユはおり良型が有望とのことだ。
オトリミノーは138㎜、104㎜、88㎜の3サイズがあり、カラーバリエーションは8種。特徴は何といっても3連ジョイントの艶めかしい尾ビレの振りだ。アイがフロントの上下(バイブレーションポジション、ミノーポジション)に付いているのでレンジ調整もしやすい
138㎜のビッグミノーは穂先が入りすぎる軟らかいロッドでは操作がしづらい。この夏登場の「ナワバリレンジ」はチューブラ―ティップを採用して適度な張りがある。オトリミノーの3 サイズとも操作がしやすい。また10 フィートから8 フィート6 インチにレングスを変えられる。流域規模に合わせた長さを選べるのがうれしい
藤松さんが低活性時に効果的という「満開チラシ」。写真はオトリミノーのスペアフックとしてジャッカルからリリースされた
良型を挑発する138㎜オトリミノーの使い方
藤松さんは久我橋下流の瀬を前にした。ロッドは10フィートの「ナワバリレンジ」、ラインは「鮎ルアーAMSフロロ」7ポンド、ルアーは「オトリミノー138」である。この数年でさまざまなフィールドで実釣を重ね、ルアーのサイズや色使い、効果的な誘い方が徐々に見えてきたという。
藤松さんが大型に効くカラーと話す「UV フラッシュ鮎」。その言葉どおりに良型を引き当てた
「オトリミノーには88 ㎜、104㎜、138㎜の3サイズがあります。小型の多い初期だからといって小型ルアーに反応がよいかといえば必ずしもそうではありません。88、104で掛かった釣り場で138に交換するとまた掛かる。反応するアユが違うのでしょう。友釣りの経験でいえば追われやすいオトリと追われにくいオトリがあるように、ルアーも同じ傾向がきっとあります。今年は6月に入って相模川の解禁日や琵琶湖流入河川の石田川を釣りましたがどちらも138㎜でよく掛かりました」
効果的な操作というのが瀬肩の絞り込みの対岸側にダウンクロスで投げたルアーを小刻みにトゥイッチしながら手前に向かってドリフトさせる釣法である。チョンチョンと軽くティップを揺らせばオトリミノーが石を食んでいるかのようにヒラを打ちながらドリフトしていく。このアクションが野アユの闘争本能に火を点ける。なお多くの瀬肩は水通しがよく石組もしっかりしているナワバリアユの一等地である。
もうひとつが流心に添うように下流に送り込んだルアーをゆっくりとリーリングして引き上げる釣法だ。オトリミノーはそのジョイント構造から尾ビレを艶めかしく振りながら動き、水を強く当てれば石を舐めるような動きをする。またラインアイがバイブレーションポジションとミノーポジションの2つがある。水深に応じてアイを使い分ければ浅場も攻めやすい。
「アユは流心だけでなくへチやカケアガリにも付いています。へチの奥の奥の浅場にもルアーを通してみると思いがけない良型が掛かることがあります」
堰堤基礎の下流から釣りをスタート。この日は工事の影響で濁りが出ており水深のある場所は川底が見えないのが辛いところ。桂川は小石底の川であり、石の小さな川は馬の背などの川底変化にアユが付きやすい。藤松さんは軽くキャストして馬の背のカケアガリに当てるような操作を繰り返す。すると数投でゴンという手応えを得た。
「掛かったようですね(笑)」
と目を細め、静かにじっくりと寄せていく。躍り上がったアユは黄色くはないが138㎜のルアーより一回り大きいサイズである。
同じ場所で2尾目が続くかと思ったが単発で終わる。
「アユも石も見えないような濁りのある川は足を使ってテンポよく探ります」
藤松さんは慎重に立ち込みながら幾つかの筋をダウンで丁寧に探っていくが反応がない。今度は左岸に渡ってアプローチをしてみることに。
左岸筋の流心は波立ちが大きく周囲に比べ大きな石が入っている。また水深があるため濁りも濃い。ここで藤松さんはオトリミノー138のカラーをナチュラル系の「HL煌鮎」からアピール系の「UVフラッシュ鮎」に交換した。
「ブラックライト(紫外線)を当てると発光するカラーです。昨年の実績では自然体とは程遠いUV系の色に反応するアユが非常に多かったのです。特に濁った川に強いですが、水の澄んだ釣り場でも実績は高いです。しかも良型が掛かりやすい」
そう言って藤松さんはルアーをダウンに入れて20mほど送り込むと、流心の石を感じながらゆっくりとリトリーブ。この方法で何度か流心を探ってみるとガツン! とひったくられるようなアタリ。魚は流れに乗って一気に走るパワフルな引きを見せ、藤松さんは下流に走って魚の引きに追従する。流れの弱まる瀬落ちまでくるとゆっくりと寄せる。サオを立てオトリミノーが顔を出す。その下で水面を割るまいと踏ん張っているのはアユだ。抜き上げると肉付きのよい19㎝クラスがタモに収まった。
「立派なアユですね」
と藤松さんは魚を愛でる。その後はコンクリートの瀬で食むアユがたくさん見られるようになり、この時合に1尾を追加する。今度はアユの味がよいという上流の祥久橋下流の瀬に移動すると得意の瀬肩パターンでさらに1尾。午後には支流の鴨川下流部を探ってみたが、こちらは群れアユが見られたのみで残念ながら掛かる魚はいなかった。
桂川も鴨川も千年の都を潤す都市河川である。人口密集地を流れる憩いの水辺で痛快な天然アユが釣れる。この魅力にとりこになる人はこの先も大いに増えていくだろう。
久我橋から川見をする藤松さん。4 年前に堰堤が撤去され残された基礎の周辺がアユの付き場になった
右から京淀川漁協監事の藤林幸次さん、組合長の桂利三さん、藤松さん。アユルアー人気のおかげで川に活気が戻ってきたと藤森さんは話す
ジャッカルの藤松弘一さん。釣り始めて間もなく1尾目をキャッチし「初めての釣り場なので不安でしたが、ほっとしました」とこの笑顔
太陽が高くなった9 時ごろには藤松さん以外にも3 名の釣り人がサオをだした。週末は天気のよい日は10 人以上が並ぶこともあるという
流心に送り込んだオトリミノー138 をじわじわとリーリングで引き上げると一気にサオが絞り込まれる。藤松さんは走って魚についていく
遊漁券は「つりチケ」で購入できる
※このページは『つり人 2024年8月号』を再編集したものです。