アユルアーのフィールドといえば大きく開けたなだらかな清流が人気だが、渓谷の小規模河川も魅力にあふれている。緑にあふれたロケーションは素晴らしく変化に富んだ渓相で楽しむアユルアーはゲーム性も抜群だ
海産アユの放流量が多く、解禁序盤から好釣果が期待できるアユルアーの一級フィールド
釣り場や釣り方も大事ですが、まずは道具が大切です!
仲谷さんが愛用しているのはブレインストーム鮎(ゴールデンミーン)。9フィートという長さがルアーを大きくドリフトさせ、繊細なティップがチャンスを逃さない
カーボンソリッドのティップは追従性に優れるのでルアーが流れを弾きにくい。また、ティップの視認性も重要。ルアーの泳ぎや石をノックする振動がひと目で分かる
流れの強い筋にルアーは引かれていく。増していく抵抗にスムーズに追従するロッドが使いやすい
立ち込むとロッドが置けないので腰にロッドホルダーを装着しておくと重宝する。そして遊漁券は見やすい場所に付けておくこと
水深があって流れも強いとルアーが底まで潜らない。そんな場所に強いアユがナワバリを張っているので、リーダーに丸玉オモリを打って強引に沈める
イカリやチラシなど、当日の状況に合わせて掛けバリを使い分けることも重要。ハリ先が極めて鋭いだけに鈍りも早いので、こまめに交換すること
雨濁りの心配が薄い吉野川上流域の支流
奈良県川上村を流れる中奥川は、大アユで知られる吉野川(紀の川)を構成する源流の1本。管轄する川上村漁業協同組合がアユルアーを認めており、友釣り専用区を含めて全域でゲームが楽しめる。釣りやすい清流とは趣きが異なり、奥深い山間を流れる入り組んだ渓相は、目まぐるしく流れを変化させながらトロ場と白波の立つ瀬が連続する。緑豊かな紀伊半島の中央部を流れるだけに水質はよく、良質なアカが付いた岩や大きな石が転がる。アユは海産と湖産を放流しているので追い気が強く、ルアーに対する反応も上々。特に海産アユの放流量が多く、解禁序盤から好釣果が期待できるアユルアーの一級フィールドだ。
この川に魅了されたアングラーが仲谷聡さんである。
「中奥川は水の透明度が高いので、ナワバリアユが石に付いたアカを食んでいる光景を目にできますから、ルアーを送り込むだけでも胸が躍りますよ」と、今シーズンも解禁直後から足を運んでいる。
仲谷さんの釣行に同行したのは6月6日。取材直前の3日に紀伊半島沖を北上した台風2号が激しい雨をもたらして取材が危ぶまれたが、水温こそ14℃まで低下したものの濁りはなかった。こうした中奥川のような上流域の支流は、少々の雨では濁らない。本流が増水と濁りで釣り難い状況になっても釣りが可能というケースは多い。ちなみに当日も午後から本降りになったが不意に水位が上昇することもなく、夕方まで安全に釣りが楽しめた。日ごろ本流をホームグラウンドにしている人は、降雨時の選択肢として上流域の支流を視野に入れておくといい。
川へ立ち込む前に石の形と色に注目
現地入りしたのは朝7時。吉野川との合流点で同行した疋田奈央さんの遊漁券を購入しつつ川の状況を確認。川沿いに車を走らせて初王寺橋の上流に入った。
アユルアーでは、釣りを始める前に足場の高い場所から川を観察してポイントに当たりを付ける川見が欠かせない。とりわけ渓流は地形が入り組んでいるのでサオ抜けも多く、立ち込む前に丁寧にチェックすることで釣果率は大幅にアップする。仲谷さんは段々瀬の上流に広がるトロ場に目を向け、ひと際大きくて黒い石を指差しながら「中奥川は黒色や濃い茶色の石に良質のアカが付きます。角ばっているより丸みを帯びている石が有望です。目を凝らすと石裏アユがチラチラと見えていますね。ただしナワバリを張っているというよりも、石裏の弛みに身を寄せて水温の上昇を待ちわびているようです」と状況を分析。盛夏なら日の出とともにアユはトロ場から散ってアカ付きのよい瀬肩や瀬尻周りの石にナワバリを張るのだが、まだ朝の気温が低くて雨で水温が下がっていたこともあり、アユが動くのは昼過ぎだろうと読んだ。午前中は水深のあるトロ場に腰を据え、ダウンのアプローチで目ぼしい石を1つずつ舐めるように探っていった。
水通しがよい場所にはアカが付きやすく、アユも好んでナワバリを張るが、流れが強くなるとルアーが暴れやすくなる。ルアーの使い分けでは対応できないほど押しが強くなる場所も渓流には多く、仲谷さんはリーダーに1~2号の丸玉オモリをセットして強制的に潜らせていた。いわゆるスプリットショットリグだ。とりわけ流れが強い場所ではルアーから20cmに打ち、流れが緩くなるにしたがって40cmで離していた。通常の釣り方ではルアーが入らない場所はアユの警戒心も薄く、ナワバリを張っていれば一発で当たってくるとのこと。
チャンスを逃さないソリッド穂先が奏功
午後から雨が本格的に降りだした。温かい雨だったことから午前中の凍えるような冷たさは解消された。水温が上昇したことでアユが瀬に出てくることに期待した仲谷さんは、午後3時を回ったところで十二社神社に近い早瀬に入った。吉野川との合流点に近い下流域は川幅も広がり、ビギナー向けの釣りやすそうなスポットが続く。普段は友釣りファンが並ぶとのことだが、朝の冷え込みと雨を嫌ったのか人影はなく貸し切り状態だった。
仲谷さんが意識したのは流れの筋。広がった川を見渡して、周囲より強く流れている筋を探して上流に構えた。「高場からだと満遍なく流れているように見えますが、川面に近づいて観察すると流れが集まって周囲より強く流れている場所が分かります。こうした生きた筋の石にアカが付きます。水が温んできたのでアユがトロ場から出てきているかも知れません」と、ルアーをダウンクロス気味にキャストした。川幅が広いポイントでは、ルアーをドリフトさせながら広く探れるダウンクロスの釣りが有効なのだ。
また、ドリフトさせることでルアーが受ける抵抗の変化を敏感に感じ取ることができる。流れの脇や石の裏をルアーが通ると抵抗は軽くなり、流れの強い筋に入ると抵抗が増してティップが曲がり込む。このティップの曲がりが明暗を分けるという。ルアーが流れに乗った時に張りの強いロッドを使っていると、ルアーが流れを受け切れずに暴れてしまう。ヒットゾーンでルアーの挙動が安定しないようではノーチャンス。繊細なカーボンソリッドのティップを搭載した追従性に優れるロッドを使うと、ルアーは流れを弾かずスムーズに潜ってボトム付近で安定する。流れにメリハリのある渓流では、しなやかなティップが必須なのだ
仲谷さんは石の裏から流れの筋に向かってルアーをドリフトさせると、ルアーは流れの筋に引き寄せられ、ニュートラルからギアを入れた車のように流れをつかんで潜行した。ティップはルアーに引かれて曲がりながらブルブルと振動している。流れを捉えたルアーがボトムで石を叩きながら安定して泳いでいることが分かる。そのまま黒く見える石の近くにルアーを寄せていく。
「川の水も温んできていますし、いかにも釣れそうですけど……」と仲谷さんが呟いたところで果たしてロッドは曲がった。仲谷さんの読みどおりにアユはトロ場から動いてアカを食みに瀬に出てきていた。慎重に寄せて抜き上げ、無事にタモで受け取って安堵の空気に包まれた。
「状況が好転しているので、まだ釣れると思います」と手早くアユを引き舟に仕舞って、次の筋にルアーを入れていくと、すぐにガツンとルアーが引っ手繰られた。沈黙から一転して立て続けの釣果である。しかも2尾とも会心の背掛かりだった。
「今日は午前中の水温が低かったので数は出ませんでしたが、何とか夕方に早瀬に出てきたアユを連続でキャッチすることができましたね」と満足してロッドを置いた。
今回は苦戦を強いられた中奥川だが、梅雨が明ければ本番だ。夜はトロ場に身を寄せるが、朝には瀬の中に積極的に入ってアカの付いた石にナワバリを張る。「石の脇を泳がせていたルアーがあらぬ方向にかっ飛んでロッドが絞り込まれます。あの衝撃を味わったら病みつき間違いなしですよ」と、仲谷さんは目もとを緩ませた。
※このページは『つり人 2023年8月号』を再編集したものです。