パームス代表の飯田重祐さんに今シーズンからアユルアーのできる区間が大幅に増えた埼玉県の入間川で、新作のバイブレーションも使った釣りを見せてもらった
パームス代表の飯田重祐さんに今シーズンからアユルアーのできる区間が大幅に増えた埼玉県の入間川で、新作のバイブレーションも使った釣りを見せてもらった
東奔西走して高める経験値
ルアーフィッシングブランド・パームスのアユルアー開発を一手に担い、全国の釣具店や漁協が開催するアユルアー講習会にも協力している飯田重祐さん。自身がこの釣りを始めたきっかけは、オトリを模した「リアユ」の生みの親であるカツイチの中川宗繋さんに、アユファン拡大の協力を求められたのがきっかけだった。
飯田さんはもともとトラウトルアーのエキスパート。そして開発者でもあり、ルアーだけでも、ミノー、シャッド、バイブレーション、スピナーとあらゆるタイプのデザインを手がけている。その実績と新しい釣りへの挑戦から、ルアータックルでキャスティングして使うことを前提とした先駆け的アユルアーである「エスケード」を、2019年に世に送り出した。
丈夫な基盤リップを備え、リアにチラシバリをセットするフローティングミノーは、底石にまとわりつくように動かすことができ、ダウンにキャストして平瀬の石周りやザラ瀬を通してくると〝ドン〟と野アユが突っかけてくる。その性能はルアーのできる河川が増えるにつれ、各地で認められるようになった。
「エスケード」全長80 ㎜(7.5g)と100㎜(13g)の2タイプがあるフローティングミノー(全8 色)。サイズは流れの強さなどで使い分ける。フローティングボディーを確実に潜行させるための基盤リップを備え、製品にはカツイチ製のチラシバリが付属する
「エスケードバイブ」全長100㎜で11gと18gの2 タイプがあるバイブレーション(全7 色)。流れの下により入りやすく、11gは比較的緩い流れや浅瀬でも使え、18gはそれよりも速く強い流れ向き。流れの中でステイさせるのも効果的で、製品にはカツイチ製のチラシバリが付属する
飯田さんはチラシバリも自分で巻いている。写真は現在の標準的なセッティング(全長20cm)。写真はハリが3つ付いているが、ハリ数や全長は釣り場のルールもあるのでそれに従う
チラシバリはハリス1.2 号/ハリ7.5 号、ハリス1.5号/ハリ8 号による自作がメイン。今シーズンは酒匂川の新区間に合わせた全長10cmなども作った
首都圏でも注目のアユルアー釣り場へ
6月上旬、飯田さんとやって来たのは埼玉県の西部を流れる入間川。入間川は荒川の支流にあたり、管轄の入間漁協はエスケードが発売された年に、将来的なアユルアーの導入を検討するため、飯田さんを招いた講習会を試験開催したことがある。その取り組みを形にし、昨年、下流の一部区間に約9.5kmアユルアー専用区を設置した。するとシーズン後半には尺に迫る良型が釣れるなどして話題になり、組合長をはじめ役員も新しい取り組みに前向きなことから、今年は区間を一気に拡大。管内の下流約26km区間(飯能市の小岩井浄水場取水堰~川越市の東武東上線鉄橋)をアユルアー可能区間にした。
この日は、台風2号による増水の影響で、南関東の河川はまだ軒並み増水中というタイミング。その中で入間川は、他の川に比べればいち早く平水に戻っており濁りも取れていた。飯田さんにとっては4年ぶりの再訪だ。
午前8時、矢川橋上流の「福島つり堀センター」に立ち寄り、釣り場の状況をうかがう。増水によりアカが飛んだ直後で、やはりどこも厳しいとのことだったが、まずはよい瀬があるという「阿須運動公園前」や「阿岩橋上流」のポイントを探ってみることにした。友釣りの経験が豊富な組合員の方もようすを見に来てくれる。しかし、阿岩橋上流の分流にわずかにアユが見られたもののアタリは遠かった。
渋い状況の中、上流へ行くか、下流に行くかの判断となるが、上流の「千歳橋」付近はアユが見えるという。さっそく現地に向かうと、周囲は山が深くなり始め、渓流の趣が強くなる景色もよい区間。橋から川をのぞくと、周囲より少し掘れている真ん中の瀬と、岸寄りに広がっている平瀬にアユの姿があった。「いるね。これなら何とかなるんじゃないかな」と、飯田さんも糸口を掴んだようすだった。
エスケード&エスケードバイブで連発ヒット
川に降りたのは午前11時10分。飯田さんはひざ下ほどの水深で、10mほどの広さがある、岸寄りの平瀬のほうに立った。ルアーはまずエスケード。平瀬の落ち口付近にダウンで静かにルアーを着水させると、そのままロッド操作とリーリングで流れの中に引き込み、じわじわと這わせるように川底を動かしてくる。流れは澄んでいて、生きたアユのように動くアクションもよく見えた。
釣りはウエットウエーディングスタイル。「タモはアユルアーファンにも購入しやすい価格ものを作りました(パームスアユネット)。ゲーターもウエットとドライをそれぞれ開発中です」
ルアーカラーはアユ系を選ぶことが多いが、チャートを配したものなども普通に釣れるという。左端の大型バイブレーションは「今シーズンの尺アユ挑戦用(プロト)です」
しかしアユの反応は弱く、期待に反して掛からない。そのまま15分以上が経過したが、飯田さんは焦るでもなく、キャストごとにルアーの着水点を少し変えたり、トレース中のロッドを傾ける向きを左右にこまめに変えたりしながら、時間をかけて目の前のポイントを探り続けた。
キャスティングの距離は10mほど。立ち位置やルアーの着水点をこまめに変えることで、さまざまなトレースコースを試しアユの反応を探る。リーリングスピードは全般に抑え気味で、リールを巻かずにロッドの上下左右のみで流れの中を泳がせる操作も頻繁に織り交ぜ、ルアーに水流を受けさせながらゆっくり引き上げて来る(写真は阿須運動公園上流の瀬)
すると11時30分、「来たよ」とこの日の1尾目がヒットする。この間、それほど大きくはないポイントに対して、休みなくキャストとトレースを繰り返していたので、実際の経過時間以上に「粘って」ヒットさせた印象だ。サイズは16cmほどで、シーズン初期のアユとして型は悪くないが、掛かった直後から体色が白く、川もアユもまだ本調子でないことが見て取れた。
次をねらい始めてしばらく、飯田さんがルアーをチェンジする。手に取ったのは「エスケードバイブ」。昨年までの開発とテストを経て、今シーズンから新たに発売されたパームスのアユ用ルアー第2弾だ。フローティングミノーのエスケードに対し、こちらは名前のとおりのバイブレーション。重さ違いの2タイプ(Type 1/11g、Type 2/18g)があり、ここでは水深に合わせたType 1を選んだ。するとすぐに野アユが突っかけて来て、12時10分に2尾目がヒットする。
ヒット後のランディングは以下の写真の通り。
アユが掛かったらルアーの巻き込みすぎに注意。走りをロッドでいなし、サオ1本分まで引き寄せたらまずルアーを出し、最後は掛かりアユを優しく引き抜いてタモで受ける
「エスケードバイブは、底を少し切るくらいのレンジで流れの中にステイさせたり、じわじわと動かすのが基本の使い方です。バイブレーションでシンキングタイプのルアーなので、ロッドは少し高めに保持して、吊り下げ気味にコントロールします。ただし、流れやルアーの位置によってはロッドを下げて使うことももちろんありますよ。特徴はバイブレーションであってもあまり逆立ちせず、水中で水平に近い姿勢を保つようにデザインしている点で、それにより石を乗り越えたり、横をすり抜けるように動かしてくることができます。昨シーズンはテストも兼ねてほぼこれだけで釣りをしていました」
基盤リップの付いたフローティングミノーであるエスケードに対し、このエスケードバイブには、バイブレーションならではの楽しさもあるという。
「エスケードは最初のアユルアーであることもあり、誰が使ってもオートマチックにアユが釣れる性能を重視して作りました。ただ、さまざまなアユ釣り河川に行くようになると、バイブレーションならもっと流れの下に入りやすいだろうなというポイントも当然あるわけです。そこでエスケードバイブを作りましたが、実際に使ってみると、ほかにもよさがありました」
「まずはリップがないので水流抵抗が小さく、流れの強い場所も含めて、長く使っていても疲れにくいことです。またリップの干渉がないぶん、時にはアタリの前触れのようなちょっとした変化も感じ取れます。そして今もそうですが、ロッド操作による〝少し横〟〝少し下〟といったトレースラインの微調整もしやすい。バイブレーションだから単に流れの下に入れやすいというだけでなく、アングラーが操作して釣る感覚をより味わえるのがこのエスケードバイブの面白さです」
アユ釣りのリズムに慣れる
その後飯田さんは、12時27分に3尾目、12時46分に4尾目を、それぞれエスケードバイブでヒットさせた。結果的にこの日は、この平瀬をしっかり時間をかけてねらったことが正解で、次にねらった川の中央の筋からも反応はなかった。その判断の理由はどこにあったのだろうか?
「橋の上からも、川に降りてからも、この平瀬はアユの姿が見えたことが第一です。アユは魚影が確認できる状況なら、ルアーでねらう場合もそこをしっかり釣ったほうが何かのタイミングで反応させられることが多い。そのため、すぐにヒットが得られなくても、流れの中にチラチラと魚影が確認できる段階で、〝ここはそのうち掛かる〟と判断して、ある程度粘るべきと考えていました。もちろん、今日の川は明らかにタフな状況で、他の場所をねらってもすぐに結果が出なさそうだったこともありますが、このあたりの感覚はトラウトの釣りとやはり違い、経験で理解した部分がありますね」
そして渋い状況の時ほど、基本的なアプローチを徹底することが大切とも言う。
「まずはリーリングが速くならないようにすることですね。ヒットがなかなか得られないと、多くの人はキャスティングもリーリングも単調になってきます。特にリーリングは、簡単にハンドルを巻くだけになってしまって、ルアーをサーッと通しているだけという状態になりやすい。でもそうなるとアユはますます釣れません。そういう低活性の時ほど、時にはステイなども織り交ぜて、アユのいる場所でじっくりルアーを見せる必要があります。あとは同じように、キャスティングも一投ごとの着水音を静かにして、なるべくポイントを荒らさずに釣り続ける。そうした基本を守ることで、アユのスイッチが入ったタイミングで掛けられる可能性が高くなります(笑)」
今シーズンはノベザオを使ったアユルアーによる尺アユねらいにも挑戦予定という飯田さん。フロントランナーの探求心はとどまるところがなく、当分は忙しい時間が続きそうだ。
※このページは『つり人 2023年8月号』を再編集したものです。