バチ抜けシーバスが盛んな東京湾沿岸部でもとりわけ早くから盛り上がるのが内房エリアだ。パターンと呼べるほどの釣果はまだ聞こえていないタイミングでの取材だったが、ふたりのエキスパートはしっかりとシーバスをキャッチすることに成功した。
バチ抜けシーバスが盛んな東京湾沿岸部でもとりわけ早くから盛り上がるのが内房エリアだ。パターンと呼べるほどの釣果はまだ聞こえていないタイミングでの取材だったが、ふたりのエキスパートはしっかりとシーバスをキャッチすることに成功した。
写真・文◎編集部
バチが抜けないときの備え
「バチ抜け取材のタイミングが年々早まってきていて、今回の1月下旬というのも、正直まだちょっとだけ早い気もしています(笑)」
実釣の直前、そう語ったのは東京湾の湾奥エリアをホームフィールドにする大野ゆうきさんだ。
「そうですね。東京湾岸のバチ抜けは富津から市原にかけての内房エリアから始まることが多く、早いと12月中に抜けるんですが、その頃のシーバスは産卵で深場に落ちるタイミングですからバチと連動していません」
とは、まさにこのエリアの河川や干潟といったシャローエリアの釣り全般を得意にする山内勝己さんだ。
今シーズンもすでに内房エリアではバチ抜けそのものは確認しているというが、明確にシーバスが付いていないこと、そしてバチ抜け自体も安定しておらず、この潮回りのこの時間帯なら、というセオリーどおりには抜けていない状態で「というわけで、今回のエリア選定などは、山内さんに委ねました(笑)」と大野さん。
荒川、旧江戸川、中川、多摩川、隅田川といった都市河川でも年明けからバチ抜けという現象自体は見られるものの、やはりしっかり抜けてバチ抜けがパターンとして成立するのは2月下旬以降の春という。
実際、特にシーズン初期は、期待して現場に行ったらバチが抜けていなかったり、バチはいてもシーバスの気配が薄いことは往々にしてあることから、ふたりは常に二段構え、三段構えで釣りに挑んでいるという。
といっても、タックルやルアーを何種類も用意してということではない。基本はワンタックルで対応。ルアーはバチが表層で確認できるときに対応するもの、水面下や底で抜けているときに対応するもの、さらにバチが抜けていないときの備えとしていくつか性格の異なるルアーを追加しておけばシーバス釣り自体は楽しむことが可能だと口を揃える。
レンジ、アクション、スピードを重視
山内さんがセレクトした釣り場は千葉県市原市の五井海岸に注ぐ養老川の下流域。
「養老川に限らずこの一帯の河川では早い年なら1月下旬でバチ抜けパターンが成立するのは珍しいことではありません。今日は潮回り的にも可能性は充分にあると期待しています」
と山内さん。当日は大潮4日目。満潮は6時40分(186cm)と17時39分(189cm)、干潮は11時59分(86cm)と翌日0時19分(0cm)。夕方の満潮時刻は17時台よりも18時や19時台のほうがしっかり抜ける可能性はあるというが、大潮最終日とあって17時3分の日没からしっかり暗くなってから下げ潮に転じる。
前日は強烈な北西風でこのエリアはほとんど釣りにならない状況だったが、当日は一転して風は弱まり、いやがおうにも期待が高まった。
護岸されている下流域右岸には等間隔で釣り人が並んでいることがわかる。一方、ふたりがエントリーした左岸側はアシ原に覆われて足場も悪いためウエーディングスタイルで臨んだ。
満潮からの下げ始めの17時50分に釣りを開始する。国道が走る橋の明暗に近い側に立ったのは大野さん。最初に投じたのはモアザンスライスリム125F。波間に漂う揺らぎアクションで弱い引き波を立ててバチを演出できる。アップに投げてドリフトさせるほかダウンからスローに巻いてもバタバタしない控えめなアクション。港湾部なら同じく大野さん監修のスライ95F の出番も多いという。
大野さんのファーストチョイスはモアザン スライスリム125F
大野さんよりもやや上流に入った山内さんはスリムシンペンのモアザンバレンテ90Sを投じた。
「まずは様子見ですのでふたりで同じ釣りをしても効率的ではない。大野んが表層引き波系のスライを投げているので、自分は水面下50cmを探れるバレンテを選びました」
山内さんのファーストチョイスはモアザンバレンテ90S
そこからしばらくは反応らしい反応がなかった。下げ潮がしっかり利いて沖に潮目が走っても水面にはバチやライズは見えない。「とはいえ、人間に見えていないだけで底でバチが抜けていることもありますから」と言うと、大野さんはルアーをバレンテ90Sにチェンジして明暗付近まで送り込んでいくと18時28分にバイトをとらえた。
お気に入りのバレンテ90S でキャッチしたまだ若い個体。大野さんは上のアイにセットして使うことが大半という
「大きくないけど1尾目は嬉しいですね。バチは出ていません。多分この魚はアミを食べているんだと思います」
そう言われて足もとをライトで照らすと、辺り一面がアミだらけであった。これだけの数のアミがいるというのに、長さ数mmのアミには似ても似つかないプラグにわざわざ食ってくるのだろうか。
「シーバスはクジラのように大口を開けてアミを濾して食べるわけではありません。小魚を食うときと同じように口を閉じた状態で下から近づいて瞬間的に口を開いてアミを塊ごと反転食いします」
つまり、アミを効率よくひと口でたくさん食べられる筋を見つけたうえで、捕食するレンジとアクションとスピードをアジャストさせて引き出した1尾ということだ。
「バチがこの時期のシーバスにとって最高のご馳走であるのは間違いありませんが、出ていない以上はシーバスも食べられるエサを食べていますからアングラーもフレキシブルに対応したほうが魚に近づけます」
今日の潮回りでこのタイミングならバチパターンだと決めつけるのは危険である。ルアーの色やシルエットをベイトの見た目に近づけるのはたしかに重要だが、それがルアー釣りの本質ではない。このあとにバチが出たとして、バチの見た目に近づけることよりも、バチを食べたいシーバスにとって食べやすいレンジ、アクション、スピードが演出できるルアーを選ぶことが重要で、それが大野さんの提唱するマッチザバイトの釣りである。
ベイトっ気がないのかと思いきや、辺り一面がアミだらけという状況だった。アミの集合体として口を使ったのではないかと大野さん
バチにも期待、バチ以外にも対応
幸先のいい1尾であったが、そこからふたりの釣りは停滞した。潮が下げ始めてから2時間が経過しても、ヒットは1尾のみで、追加のバイトもない。当然、流下するバチは見えず、沈ませたルアーのフックにも絡んでこなければライズもない。
「下流に行きましょう」
決断したのは山内さんだ。国道より下流側は砂地でバチそのものが抜けるというよりは、もっと上流の泥底から抜けたバチが流下して川面いっぱいに溜まるエリアという。
しかし、大きくエリアを下って表層引き波系ルアーで探ってみたものの水面にバチの引き波もライズも見えない。やっぱりバチはなさそうだと判断した山内さんは、より強くなった下げ潮の流れの強さやヨレの位置を判断しようと、ルアーをシャローランナーに変更して右岸の際を通してみる。すると、ゴツンと食ってきたのは先ほどの大野さんの1尾目と同サイズの若いシーバス。
長らく停滞したが、大きく下流に移動した22 時近くにようやくゲームが動き出す。山内さんがショアラインシャイナーZ バーティスR 98F SSR で釣ったこの1 尾から怒涛の連発劇が幕開けした
そしてこの1尾がヒントになって、ゲームは思わぬ方向に動き出していった。
大野さんがキャッチした時刻は21時48分。17時台の満潮とあってすでに釣り開始から4時間が経過しており、おそらく多くのアングラーなら下げ始めからの2~3時間で「今日はナシ」と判断して敗走している時間帯かもしれない。実際、期待したバチに関してはたしかに「ナシ」であったが、だからといってシーバス釣りまで「ナシ」ではない。どころか大アリだった。
山内さんの1尾にヒントを得て、右岸際にバレンテ90Sを通した大野さんに60cmクラスがヒット。
「多分、ゴロタが岬状に張り出した裏側の流れが弱まるヨレにこのサイズのシーバスがいる感じ」
と推理した大野さんはたて続けにバレンテで70cmクラスも追加。
時期的に産卵後と思われるがしっかりエサを食べて回復傾向にある70cmオーバー。ベイトではなくバイトにマッチさせられればバレンテ90S はバチになりアミになりベイトフィッシュになるということ
「やっぱりこのヨレのブレイク際にいる。産卵後のアフターの魚だと思うけど、しっかり食べて体形も回復気味ですね。ひとつのベイトに固執する偏食パターンは確かにありますが、自然界ですから食べられるものを食べておくというのが基本で、おそらくこの魚たちはアミも食べればハクなどの小魚も食べるしバチやカニも食べているんだと思います」
山内さんもバレンテでもう1尾を追加する。
「養老川はバチも多いですがアミもハクも稚アユも多いベイトが豊富な川なんです。シーズン初期はベイトの種類も少なく、バチがいっぱい抜けると明確なバチパターンになりやすいですが、シーズンが早い分、2月下旬にはピークを迎え、3月にはバチ以外にも多彩なベイトの可能性がある川ですから、ルアーのセレクトにはある程度の幅をもたせたほうがいいですね」
みるみるうちに水位が下がっていく。すると魚のポジションが変わったようで、そうなると大野さんもルアーを小型リップ付きのスリムシンキングペンシルのガルバスリム110S に変え、キャストする角度もややアップ気味にして、この日最大の75cmを筆頭に怒涛の3連発。
ガルバスリム110S でキャッチしたこの日最大の75cm
「ヨレの中で食っていた魚が水位が下がったことで流れの中で食うようになりました。ウエイトはあるルアーですがリップ付きなので表層でレンジキープしやすく、いい魚が食ってきてくれました」
こうして潮止まりまで春シーバスのファイトを楽しんだふたりは、最後にほぼ同時のヒット&キャッチでツーショット撮影にも成功。
春の河川はバチパターンが有効かつ楽しい。しかし、それ以外にもこんなにもエキサイティングな展開がある。
「今回は残念ながら期待したバチは抜けませんでしたがこんなに楽しい釣りが堪能できる可能性があるので、あまりパターンを決めつけないで柔軟に対応しましょう。今後は湾奥など広範囲で春シーズンが本格化するので楽しんでください」と大野さん
大野さんが監修したモアザンブランジーノEX AGS 94LMLマッチザバイトカスタムフォーカス。淀みなく曲がるレギュラーテーパーに張りのあるティップを搭載。シビアなキャスト精度が求められるエリアで威力を発揮するモアザンブランジーノ87LML アーバンサイドカスタムの操作性と高い感度を保ったまま9 フィート4 インチまでレングスアップしている
山内さんが監修したモアザンブランジーノEX AGS 93L/M-S カレントセンサーカスタムはミィディアムパワーの強いバットと、鋭敏なソリッド穂先を組み合わせたファーストテーパー。小型プラグも感度よく操作でき、なおかつ干潟や河川下流域での大型ねらいにも幅広く対応。繊細なソリッド穂先はバチパターンとの相性のよさに定評がありながらも、その特性は時期を限定せずオールシーズンで活躍する一本だ
※このページは『つり人2024年4月号』を再編集したものです。