冬になると思い出すあの味。寒さが極まるほど旨くなる魚。この時期ならではの釣りの楽しさ。とっておきの寒の味はまさに十人十色。今回は佐賀県鹿島市の「マブナのふなんこぐい」をご紹介します。
脂が乗った上身とポン酢の相性抜群!薬味のニンニクで箸が止まらない
解説◎田代俊一郎(たしろ・しゅんいちろう)
この記事は月刊つり人2021年3月号の記事を再編集しています
冬になると思い出すあの味。寒さが極まるほど旨くなる魚。この時期ならではの釣りの楽しさ。とっておきの寒の味はまさに十人十色。今回は佐賀県鹿島市の「マブナのふなんこぐい」をご紹介します。
田代俊一郎(たしろ・しゅんいちろう)
福岡県福岡市在住。西日本新聞に勤務し、ソウル支局長、社会部長、文化部長などを経て、現在、客員編集委員。釣り好きで知られ、釣りにまつわる著書も多い
冬のおすすめ。マブナのふなんこぐい
ふなんこぐいとはフナの昆布巻きのことで各家庭によって味付けは異なる。これはフナ市で振る舞われた婦人会の味付け
「呼びこまん寒鮒売の老の声」
ある俳人の作だが、冬の季語の寒鮒をしみじみと詠み込んでいる。かつてこの季節にフナを食べる生活があったことを示す秀句だ。そのフナ売りの呼び込みの声が現在も生きているのが、新春の風物詩になっている佐賀県鹿島市のフナ市だ。
この地方では二十日正月(旧正月)の日に商売繁盛、家内安全を願ってフナを食べる風習が300年以上続いている。ハレの日の郷土料理である。
フナ市が旧正月前日の1月19日午前4時ごろから始まるのは調理時間を考えてのことだ。暗い中、長崎街道の宿場町の面影を残す酒蔵通りには縁日のように、活魚のフナを売る露店が並ぶ。ヘラブナより、食味がいいと言われるマブナのほうが高い。フナは養殖モノと天然モノがある。
例年、1月19 日の早朝4 時くらいから大勢の方々がフナを求めて酒蔵通りにやって来る。
おせち料理と同様、ハレの日の料理として店頭に並ぶ。同じ味付けでフナではなくイワシを使ったふなんこぐいもあった
ふなんこぐいは土くさい愛称で、具体的に言えば「フナの昆布巻」である。ウロコや内臓を取らずに、レンコンやダイコンなどの野菜と一緒に長時間煮込む。味付けは味噌や砂糖など。各家庭にはそれぞれアレンジしたレシピがある。
少年時代、近くの川で釣った小ブナを母がよく甘露煮にしてくれた。ふなんこぐいはそれに通じる。故郷、おふくろの味を、そして私の釣りの出発点を思い出させる。
活魚のフナもたくさん売られている
食のワンポイント
多くの方たちはこうして活魚のフナを購入して自宅でふなんこぐいを調理する
フナ市ではたくさんの露店でふなんこぐいが売られているほか、地元の婦人会の好意で観光客に無料でふるまわれてもいるので、正直自分で作ることはあまりしない。以下は好んで作る知人からのアドバイスだ。
まず「すめ汁」という薄い味噌汁を作る。水炊きした昆布を巻いたフナや野菜をさらに水炊きする。それに「すめ汁」や砂糖や水あめなどを入れて炊く。アクを取りながら骨までやわらかくなるように半日以上煮込めば完成だが、焦げ付きに注意が必要とのこと。
地元の婦人会の方々による手作りのふなんこぐいをいただく。まさに故郷の、懐かしい味だ
釣りのワンポイント
釣りはフナに始まると言われるように、最も身近な釣りの対象魚だろう。もちろんフナに終わるとも言われるように、高度なテクニックがいる独特のジャンルでもある。
素人の私は近くの用水路や小川で小ブナをねらってウキ釣りを楽しんでいる。小継のサオにナイロンイトを結び玉ウキに板オモリとハリだけというシンプルな仕掛け。エサは市販のミミズだ。近年、淡水でエサ釣りする人は少なくなっているが、親水性の最初の段階としてフナ釣りは面白い。とりわけ子どもたちに伝えたい釣りだ。
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