水の冷たい春先は魚の活性も低い。動きの鈍い一尾との距離を詰めるためには、スローな誘いと釣り場選びが肝要になる。
水の冷たい春先は魚の活性も低い。動きの鈍い一尾との距離を詰めるためには、スローな誘いと釣り場選びが肝要になる。
写真と文◎編集部
追わせる釣りが難しい春
渓魚の活性は水温に左右される。適温になれば魚たちの動きは俊敏になるが、春は気温が高くても川の中はまだまだ冷たいことが多い。ルアーを追いかけさせて釣る渓流のルアーフィッシングにとって一尾が遠い季節だ。魚が動かない春は難しいものの、状況を正しく把握してポイント選びやルアー操作をすれば魚に出会えるチャンスは少なくないと話すのは、全国各地の渓を釣り歩いている田崎翔さん。
3月末、田崎さんが足を運んだのは山梨県を流れる桂川。最上流域には日本の名水にもなっている忍野八海があり、富士山から湧き出た伏流水が水源となっている川だ。さらに桂川にはタイプの違う支流がいくつも流入しているため逃げ場も多い。湧水河川は年間を通じて水温が安定しており春先は他の川と比べて水温が高いため、魚の活性も良好だ。
桂川の都留市〜大月市区間には都留漁協と桂川漁協という2つの管轄漁協があり、桂川大橋の上流が境界となっている。上流側の都留漁協は毎月1回放流が行なわれており魚影が濃い。放流魚種はヤマメ、ニジマスが中心でイワナは少々。どうしても魚の顔が見たい人には都留漁協がおすすめとは田崎さんの弁だ。
一方の桂川漁協はアユに力を入れているということもあり、トラウトの放流は解禁時に一回行なわれるだけ。都留漁協と比べると魚影はやや少ないが、その分釣れれば魚体のきれいな魚であることが多い。川幅が広く開けたポイントが多く、晴れている日であれば水温が上がりやすいのが特徴だ。
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春先の朝は深場ねらい
この日朝一番に向かったのは桂川漁協管轄内の支流、葛野川。水量の少ない支流は早朝でも釣れやすいそうで、谷が深くなる中流域を探っていく。
「水温が低い時、つまり魚の活性が低い時は一日中深い場所に溜まりやすい傾向があります。特に流れが緩くてトロッとした淵はねらいめです。ただ、今日は思っていたよりも水量が多いですね」
前日に降った雨の影響が残り、+10㎝超えの増水という状況。葛野川は水の引き早いため翌朝には平水に戻っていると考えてのポイント選びだったが、どうやら相当降ったようだ。
トップバッターとして選んだルアーはイメル50S(ティムコ)。渓流用シンキングミノーの基本ともいえるスペックで田崎さんはパイロットルアーとして愛用している。1 時間ほど釣り上がっても一度チェイスがあっただけで全く反応がない。ウエーディングすると水も冷たく感じられ、測ってみると水温は6℃深い淵が連続するようになってきたのでイメル50S よりも深いレンジを探れるナビア50FS(ティムコ)に交換する。「増水している時は平水時より流れが速くなりますが、それでも水深のあるポイントは底付近が比較的ゆっくり流れています。魚も底のほうにいるので深いところに届けやすくて流れにも強い重めのルアーが効果的です」
ルアーが浮き上がってしまうので過度なロッドアクションは不要。増水は基本的に魚の活性を上げるのでしっかり沈めてから動かしはじめ、ゆっくりじっくりルアーの存在をアピールできればよいと話す。
同じ増水であっても雪代の場合はどうしたらいいのか聞くと、田崎さんは「諦めましょう」と一笑。対策としては雪代が出ない時間帯、つまり朝暖かくなる前に流れの弱い深場を中心に探るしかないそうだ。雪代特有の白濁りではチャート系の蛍光色やグロー、白やパールといった目立つ膨張色もしくはシルエットがはっきりと出るブラックが効果的なことが多いとのこと。
7時。朝一番でも釣れやすい支流の中でも水温の安定している深い淵を探った
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水温が上がりやすい開けた本流エリア
ナビア50FS に交換後も芳しくなく、時刻は9時を回った。日差しが少しずつ川面に差すようになってきたので水温が上昇してきていると考えた田崎さんはラウド45S(ティムコ)にチェンジ。ルアーを小さく軽いものにして水温の上がりやすい浅いポイントを丹念にチェックしていく。この時期に浅場をねらう場合はある程度流れが効いているポイントをねらうのがコツだという。川底がしっかりしているためエサの川虫が豊富だったり魚が身を隠しやすいのだ。
9時。気温は上がってきたため膝下程度の浅い流れをチェックするも不発
細かく探るもののノーチェイス。谷深い支流では日差しが入りにくく水温が上がりにくいこと、水がある程度引いて本流も釣りになるはずと判断して桂川本流へ向かう。エントリーしたのは宮谷地区。水量のある瀬が続くポイントを釣り下っていく。ここで使うミノーはラ50S(ティムコ)だ。動きは大人しめで強い流れを受けても暴れにくいため、ダウンで探る際に使いやすい。プレッシャーを与えないように距離を取りながら、大岩の周りや落ち込みなど一つ一つのポイントを丁寧に探っていくものの反応はなし。「本流のほうが個体数は多いはずなのに全く反応がないとなると……」と田崎さんも首をかしげる。水温を測ってみると11時時点で9℃。想像より低いようで、浅場の魚ねらいは期待できないと考えた。
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3度の移動を経てついにヒット
大きく移動して都留漁協管轄の支流、大幡川へやってきたのは12 時過ぎ。今までの状況を踏まえて深め、緩めのポイントを中心に探っていく。深いところはナビア50FS、浅いところはラウド45 Sと使い分けるが、ルアーを交換する度と言っていいほど田崎さんは頻繁にフックを交換している。
「ハリ先は鈍りやすいので少しでも気になったら交換しています。特に春先はバイトが浅いことが多いので万全の態勢を整えておくことが大切だと思っています。今日は魚が釣れていないので普段と比べて交換頻度はむしろ少ないくらいです」
13時過ぎ、やや深い落ち込みにナビア50FS をしっかり沈めてからトゥイッチを掛けるとついにヒット。小ぶりながら春先の雨後という厳しい状況の中でたどり着いた一尾だ。今季初ヤマメに安堵の表情を見せる田崎さん。その後立て続けに二連続キャッチしてサイズアップを果たす。どちらもナビア50FS を使って深いレンジをゆっくりトレースして掛けた。特に3尾目の良型は黒点がとても多い目を引く外見をしている。
「細かい斑点がたくさんあるヤマメはマダラヤマメと言われているみたいです。昨夏は渇水がひどかったので川がどうなっているのか心配だったんですけど、この状況でもヤマメが3尾。ちゃんと魚が残っているようで安心しました」 そう言いながらやさしくリリース。個性あふれるヤマメとの再会を堪能した田崎さんは堰堤までの残り区間を足早に釣り上がり、渓を後にした。
桂川水系は人工構造物が目立つ。敬遠する人も多いが、そんな場所でもヤマメは泳いでいる
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この日使用したミノーたち
シンキングミノーとして一括りにされがちだが、ポイントや状況に応じて使い分けることでチャンスが増える
イメル50S。ベーシックなスペックでパイロットルアーとして最適
ラクス50S。イメルより動きがおとなしく、ダウンで使用しても泳ぎが安定する
ラウド45S。浅いところをテンポよく探れるので小渓流向け
ナビア50FS。イメルよりやや重く、少し潜るので深場ねらいに使いやすい
※このページは『つり人 2024年6月号』を再編集したものです。