1.5~2.5号の小さなエギを操り、ヤリイカやケンサキイカを乗せるのが「ツツイカエギング」だ。専用エギ「ヤリケンサック」を開発した脇田政男さんはアジングタックルでこの釣りを楽しむ。8月下旬、ケンサキイカに沸く三陸エリアの〝釣査〟に密着した。
1.5~2.5号の小さなエギを操り、ヤリイカやケンサキイカを乗せるのが「ツツイカエギング」だ。専用エギ「ヤリケンサック」を開発した脇田政男さんはアジングタックルでこの釣りを楽しむ。8月下旬、ケンサキイカに沸く三陸エリアの〝釣査〟に密着した。
写真と文◎編集部
年中ツツイカが回遊する!?
黒潮の大蛇行や海水温の温暖化で太平洋沿岸部の生息ターゲットが変わってきた。こと三陸の海の変化は大きいようす。2023年に沸きに沸いたのがケンサキイカである。
ケンサキイカ。胴の後端はその名の通り剣の先のように見える。ヤリイカと比べるとやや丸みを帯びている
ヤリイカやスルメイカに比べ温暖な水域を好むイカだが、昨年は5月から10月初旬まで釜石や大船渡などリアス式海岸の各港がケンサキねらいの釣り人で大盛況だったという。
今回脇田さんが訪れたのは唐丹湾に面した大石港。伊能忠敬ゆかりの地として記念碑が建っている
「去年のお客さんはイカばっかり。小さな餌木やテーラなどのイカ釣り用の仕掛けが飛ぶように売れました。今年は昨年ほどの勢いはありませんが、8月中旬まで各港で釣れていましたよ」
とは大船渡市越喜来港近くにある釣具店「なかじまや」店主の話である。
そう、ケンサキイカやヤリイカもエギングで釣れる。「ツツイカエギング」、「ライトエギング」と呼ばれ1.5~2.5号程度の小型エギが用いられる。しかしアオリイカに比べると接岸する釣り場が少なくエギのアイテム数も限られるのが現状だ。そんなジャンルに一石を投じたエギがジャングルジム「ヤリケンサック」である。開発者の脇田政男さんは主に京丹後など北近畿の海を中心にツツイカエギングを楽しんでいるが、三陸は恰好のフィールドと話す。
2024年にモデルチェンジとなったヤリケンサックのスペックは次の通り2.2号は自重7g。沈下速度は約6 秒/m。1.8 号は自重4.5gで沈下速度は約8 秒/m。この記事ではこのエギを使って釣りをしていく。アオリイカをねらうためのエギと違って小さくて軽い
「もともと三陸のオカッパリでは秋冬に接岸するヤリイカ、スルメイカが人気でしたが、初夏から夏にケンサキイカが回遊し始めたことで一年中ツツイカエギングが楽しめるフィールドになっています。特にイカが濃いと思うエリアが岩手の大船渡から釜石周辺で、これより北に行くとイカの回遊は少ないと感じます」 ジャングルジムといえばアジやメバルのライトゲームやロックフィッシュ用品を主軸に展開するささめ針のブランドである。「ビーンズシンカー」をリリースし、通称「ビフテキリグ」を世に広めたことはロックフィッシュファンの間でよく知られる。三陸は今も昔もソイ、アイナメの豊富な根魚フィールドであり脇田さんは製品テストにたびたび訪れる。近年は大にぎわいのツツイカエギングの人気に驚かされ「ヤリケンサック」がベストマッチするエリアとして熱視線を注ぐ。
脇田さんと三陸海岸を訪れたのは8月下旬。ピークの過ぎたケンサキイカと入れ替わるようにスルメイカの釣果も聞こえだしたタイミング。目指したのは釜石市の唐か らにわん丹湾に面した死骨埼東岸にある大石港である。
港に着いて車を降りると港内全体に「あたりめ」のようなイカの香りが漂っている。墨跡は多く沖に面した突堤ばかりか港内最奥部にも見られる。しかし日没前の港は先端に釣り人がぽつんと一人いるのみで閑散としている。
スローなフォールで抱きやすい
「ヤリケンサックはアジングと同じようにライトゲームのノリで楽しむことを推奨しています。私はアジングタックルを使っていますが、エギングタックルで釣るよりも繊細な乗りを察知しやすく掛け取る楽しみが倍増します。この面白さを多くの釣り人に知ってほしい」
そう話す脇田さんのロッドは6フィート11インチのアジングロッド。2500番のリールにはエステル0.4号が巻かれている。そのメリットは圧倒的な感度である。
「ヤリイカやケンサキイカのサワリは繊細です。ラインやティップに出る違和感で合わせないと乗らないことが多々ありますが、アジングタックルならこの違和感が明確に出ます。特にエステルを使うとイトフケも出にくいのでイカの重さも感じやすい。ただし胴長40cmを超えるような〝大ケン〟になると重すぎてラインブレイクすることもあります。大型が釣れる釣り場ならエステル0.5号をおすすめします」
フロロカーボン1.2号のリーダーの先にセットしたのは11月にリリースされる新型ヤリケンサック2.2号。自重7gで沈下速度は約6秒/m。体高があって浮力が大きくスローフォールでアピールするのが特徴だ。なお5種類のカラーはすべてグローが採用されている。
ヤリケンサックは全モデルにグロー(夜光)を採用しているため蓄光すると淡く光る
「探り方はアジングと一緒です。5秒刻みにカウントダウンをしながらレンジを探っていくイメージです。群れの回り始めは表層付近で釣れることが多いですが、だんだん底のほうに溜まってきます。スイッチの入ったイカは意外と足もとまで追ってきます。ピックアップまで丁寧に操作するのがキモです」
薄暗くなった港には次々と釣り人がやってきた。そしてあっという間にサオがずらりと並び、昼間の静けさが嘘のようなにぎわいとなった。
18時を回ったころ脇田さんに待望のアタリが出た。コンとティップを引き込む強いアタリを掛け取ると「乗った!」と声を張る。小気味よいジェット噴射の引きが伝わり、抜き上げたのはケンサキイカだ。
「カウント30くらいのレンジでしたね。ケンサキがいてよかったです!」
それから数分後にもさらにアタリをとらえて連発。群れが抜けたと心配していたケンサキイカがどうやら今夜のお相手になりそう。
夜の帳が下りると周囲の釣り人は海面に向かってライトをたく。岩手県の港では集魚灯の使用が認可された港が多い。脇田さんいわく三陸では御馴染みの光景という。明かりにはベイトが集まり、イカの回遊も足止めできる。集中的に釣果があがりやすい。ただし各港でルールは異なるので使用の際は漁業調整規則の確認は必要である。
ただし集魚灯を使ったとて延々と乗り続けることは少ない。数時間おきに時合が訪れ、数ハイ釣れるとぱったり止まる。概ねその繰り返しと脇田さんは言う。
「私の場合は夜通し釣りをすることはありません。やっぱり日没直後や夜明け前後のタイミングがイカの活性は高いと思います」
時合が到来すると各所でイカが躍り上がる。脇田さんもサワリを感知するが乗せきれない。こうしてとらえきれなかったサワリの後も集中していれば続けざまに反応が出ること多い。
「一度反応したイカはエギへの執着心が高くなります。掛け損ねても抱いてくることはよくあるんですよ」
との言葉どおりにクンと出た微かなサワリを今度は逃さず、赤みの強い20cmクラスが抜き上げられた。ケンサキイカの地方名はさまざまで赤い身から「アカイカ」と呼ぶ地域もある。ちなみに関東の沖釣りフリークの間では「マルイカ」の名で通じている。
日没後の時合では2連発で掛けたがその後はしばらく沈黙が続いた。風は強くないものの背後から吹いたり正面から吹いたりと変化する時間もある。軽量エギを操るツツイカエギングでは風向きも考慮した釣り場選びが大切。なるべく風と喧嘩しない追い風となる釣り場を選びたい。
21時15分、ラインに微かに重さが乗る程度の微妙な違和感をとらえて合わせると、この日一番重量感のあるイカが乗ってきた。時おり強い引き込みをするジェット噴射をいなして寄せ、抜き上げに成功した。
「9月下旬にはケンサキはもう終わりを迎えていますが、秋冬に回遊するヤリイカとスルメイカも熱いです。ヤリはケンサキよりもさらに繊細なサワリで乗せた特の快感はたまりません。スルメはサワリも明解で引きも強くて面白い。ツツイカエギングの入門にも最適です」
ねっとりと甘い食味が最高なケンサキイカの大回遊により、かつてないほど盛り上がる三陸ツツイカエギング。秋以降のヤリ、スルメもずばり期待大である。
※このページは『つり人 2024年11月号』を再編集したものです。