その海域には北は筑後川から南は球磨川まで多くの河川が流れ込む。流域の広い大型河川もあれば九州山地から流れ込む中の河川も多い。その多くの川が海域最大の特徴である泥の干潟を作り出す。小さな生物にとって養分の多い住み心地の良い場所でありそれらベイトを求めて多くの捕食者をも育んでいる。
熊本の釣具店勤務の店員さんの釣りに同行しました
写真と文◎編集部
熊本が特別な理由
熊本のシーバスがデカいことは全国的によく知られて、各地から腕自慢、あるいは自己記録更新を夢見るアングラーが熊本を訪れている。一生に一度のチャンスすらほとんどないメーターオーバーのシーバスを、年に複数キャッチするアングラーもいるのがこの海域。シーバスアングラーであれば一度は行ってみたいと思うだろう。しかも大小河川に加え多島海域である天草地方にも釣り場が点在する。シーバスフィッシングの醍醐味をすべて味わえる場所が熊本なのだ。
そんなシーバスの聖地といわれる熊本が最も盛り上がる季節が秋だ。例年、10月下旬(今年は10月26~27日)に開かれるシーバスパーティーの参加申し込みはすぐに700名の定員に達したという。この大会を主催しているのが、山田秀樹さんが勤務する山本釣具センターだ。
山田秀樹(やまだ・ひでき)
熊本県在住。通称ビッグヘッド様。子供の頃、ライギョから始めたルアーフィッシングは中年になった現在まで魅了されており、体力勝負から頭脳勝負で海川の多彩な魚と日々戯れている。山本釣具センター宇土店勤務。
この大会、参加人数もさることながら、釣れる魚の大きさも半端ない。ランカーサイズといわれる80cm超えは当たり前で、90cmのシーバスですら入賞(8位以内)が難しいことがある。優勝に絡むにはメーターを超えることが条件になるとんでもない大会なのだ。
ちなみに優勝しても賞品や賞金はなく、釣った魚は持ち込み不要で、開会前に配られるキーアイテムと一緒にサイズが分かるように撮影し、釣った場所やサイズなどを明記してメールするフォトトーナメント形式。時間内に行って帰ることができればどこで釣っても構わないが、そこまで時間をかけて熊本より大型シーバスが釣れる場所もそうそうないことから、実際は熊本県内が激戦区になる。
ただし、安易に熊本の河川にウエーディングするのもおすすめしない。有明海の干潟と同じ泥の干潟が河口域には広がっており、場所によってはかなり深い泥にハマって動けなくなる。4mもの干満差があるので、身動きできないまま潮が上がってくると危険なことも考慮したい。できれば、現地を知っている人に案内してもらうか安全な釣り場を教わるほうがいい。エントリーのしやすい護岸も県内には多い。入る場所の難易度とシーバスのサイズが比例しているわけではないのは言うまでもない。
今回入った釣り場の全景。右手前の敷石に立つ予定。その先の干潟はかなり深くハマってしまうという。3番目の橋脚付近にチャンネルがありそこが流心となる
ADVERTISEMENT
山田さんの日常の釣り
熊本に住む山田さんにとって、シーバスゲームは日々の日常の釣りである。家の近所でも釣れるし、車で1時間圏内には釣り場が山ほどあるので、ちょっと空き時間があれば楽しめる環境だ。
「干満差が激しいこともあり、もともと釣りができる時間が限定されます。満潮で潮が高い時には川に入れないし、干潮時もはるか沖まで干潟が広がって入れません。上げでも下げでも入れる時間が限定的で、ひとつの場所で3時間以上釣りができないので短期決戦になり、ジジィには助かります(笑)」
と山田さん。だから常にタイドグラフを気にしており、休みの時間と時合がうまく重なれば集中してキャストを続ける。それを日々重ねることで釣果を上げていくのが山田さんのシーバスゲームだという。
ひとつの場所に足繁く通うことはその釣りの上達には最適な方法のひとつだろう。雨の増水や渇水、上げ、下げなど日々同じ場所で釣りを続けることで魚の状況を見極めることができるようになってくる。それらの状況に対処をしていくことでポイントの攻め方のバリエーションが増えていき、初めての場所でも慌てずに攻略方法を立てて、魚にアプローチできるようになる。
「無理をせずに魚を出すためのマニュアルも段々と積み重ねて来ました。泥の中を歩き回る釣りも、若い頃はよくやりましたけど、今は省エネで楽しんでいます(笑)」
山田さんのロッド選択
もう10月になったのに、昼間にはTシャツでも汗ばむ陽気の河川敷で、山田さんと待ち合わせた。川を見ると、川幅のほとんどが泥底という状況だ。
「今、下げ止まりから上げに代わったんで水位が上がってきます。手前に見えている護岸の敷石まで水が来たら始めましょう。敷石の上に乗って釣りをします。そこも満潮には腰くらいまで水位が上がるので膝くらいまでになったら戻ります。ポイントはあの三番目の橋脚の明暗です」
石積みから三番目の橋脚までは、軽く見積もって100m近く離れていそうだ。
「遠いでしょ?あそこまで届けるために使っているロッドがこのバリスティック106MMHベータです。ヒラスズキでも使っていて細身で軽いけどパワーがあって抜き上げもできます。しっかり曲げて投げれば飛距離も申し分ありません」
ウエーディングではロングロッドは敬遠されがちだが、飛距離優先で全長3205mmのロングロッドを選択。
バリスティック106MMHβは自重わずか188gと非常に軽く、かなり張りがある。山田さんは普段はヒラスズキに使用しているが、河川のシーバスでも飛距離が出てキャストアキュラシーもいいので手放せない一本という
橋の外灯が作る明暗の境に通すのは熊本では意外とも思える10cm前後のルアーだった。この時期の主なベイトは20cm前後のコノシロで、ルアーもそれに合わせて大きくなる傾向だが、あくまで飛距離を重視して30g前後のルアーをチョイス。
「マッチ・ザ・ベイトの考え方は私にはないです(笑)。ルアーの波動や潜るレンジ、そして時合を合わせていくことを考えています。大型のルアーも使いますが、ベイトが大きいからではなくその時の気分ですね(笑)」
水位が上がってきたタイミングで入水していく。上げ潮のため橋の下流側に足場を取り、明暗の境をねらってキャストする。明暗の少し明るい側に着水させ、そこから暗いほうへ流し込み、逆にさらに明るい側へ出してくる。巻きスピードも変えて引いてくるレンジも細かに変えるなど短い時合に試せることを試している。
時折、橋の上流側でベイトが何かに追われてボイルが起きる。飛距離は充分足りている。ルアーをローテーションしながらレンジを探っていく。
水位がくるぶしまで上がってきた。そろそろ撤収するタイミングも近いと思ったその時、暗闇の中から「来ましたよ」の声。ゆっくりと寄せてネットにランディングしたのは82cmのグッドサイズ。しかも実は前日にも同じ場所で84cmを釣っており、二日連続で80cmアップのキャッチに成功した。
「今年は川へのベイトの入りが遅く、シーバスも川に入っている数は少ない感じです。でもそんな年は出ればデカい傾向にあります。毎年のことですが、ベイトがいないから釣れないということもないし、いるから釣れるということもない。しかし、投げなければ釣れないということは確かです」
ベテランらしい含蓄のあるアドバイスといえよう。
84㎝。ヒットルアーはカタクチジョニー125S(ポジドライブ)。山田さんいわく河川で釣れるシーバスはメスが多いので、バーブレスフックを使って弱る前に速やかにリリースしてあげることで末長く釣りが楽しめるように心がけているという
当日使用したルアー。フックはすべてバーブを潰している。上からシンキングスライダーHW(タックルハウス)、フラットフラッター95S ヘビーモデル(ポジドライブ)、カタクチジョニー125S(ポジドライブ)、メタルフラッター(ポジドライブ)
当日のタックル
ロッド:バリスティック106MMHβ(ヤマガブランクス)
リール:ツインパワーXD4000XG(シマノ)
ライン:ファメルレジェンシエラー8の1.2 号(山豊テグス)
リーダー:耐摩耗ショックリーダー25lb(山豊テグス)
YB ランディングハンドルとYB ランディングハンドル・ステー(ともにヤマガブランクス)はウエーディング時の携行性を向上させる
※このページは『つり人 2024年12月号』を再編集したものです。