春はサクラマス、夏は天然アユを求めて県内外からたくさんの釣り人が訪れる九頭竜川。遡上魚でにぎわう川にはシーバスも多い。そして秋に降下するアユはシーバスのメインベイトになる。10 月下旬から11 月の九頭竜川は落ちアユパターンの最盛期。さて、どんな釣り方をすればよいのか?
春はサクラマス、夏は天然アユを求めて県内外からたくさんの釣り人が訪れる九頭竜川。遡上魚でにぎわう川にはシーバスも多い。そして秋に降下するアユはシーバスのメインベイトになる。10 月下旬から11 月の九頭竜川は落ちアユパターンの最盛期。さて、どんな釣り方をすればよいのか?
写真と文◎編集部
潮時に時合が支配されにくい川
「九頭竜川のシーバスはサイズを問わず魚体がきれい。惚れ惚れとする魚が釣れるのが僕の中では一番の魅力です」
そう話すのは兵庫県尼崎市在住の中井佑一郎さん。3年前から九頭竜川にドハマりし、6月から11月半ばまでのシーズンは足繁く通う釣り場のひとつという。釣り場はサクラマスとアユ保護のため6月1日から11月14日までは福井大橋が上限とされ、とりわけ魚影が濃いのは北陸本線鉄橋直下の堰堤までである。
「九頭竜川に限らず、潮位変動が小さな日本海の釣り場は潮の時合に支配されにくい。潮時を気にせず、大らかに釣りを組み立てることができる一方で時合が読みにくいんです。分かりやすい時合としてはマヅメ時。あとは雨による水の増減が釣果に大きく影響してきます」
中井さんと九頭竜川を訪れたのは10月初旬。まずは河口域から釣りを組み立てようと目論んだが、冬型の気圧配置で北寄りの爆風が吹き荒れ海は波高4mの大シケ。風の影響を受けやすい広大な中下流部のポイントを見切って上流域を目指す。
「河口から三国大橋までが下流域、三国大橋から天菅生橋までが中流域、天菅生橋から北陸本線鉄橋までが上流域と私は釣り場を分類します。今年の夏に釣果が多かったのは中下流部。イナッコやウグイを意識した釣り方でよく釣れました。10~11月はアユが落ちてきますからシーバスはおそらく上流域に集中して入っています」
やってきたのは北陸本線鉄橋の下流。数日前に降った雨の影響で平水より30cmほど水位は高い。この増水で産卵期を迎えたアユが堰堤付近に溜まり、落ちアユパターンの釣果も上向いているそうだ。
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
命の循環、落ちアユとは
落ちアユパターンの釣り方を解説する前に、まずはアユの一生について触れておきたい。
アユは1年で命をまっとうする年魚である。秋から冬に孵化した仔魚は海や河口域にくだり、浜辺の波打ち際や浅場を回遊してプランクトンを食べて育つ。海や河口ですごすアユは「シラス」といわれる半透明で細長い体型だ。この幼生が形態を変え成体になっていくことを「変態」と言う。アユの場合は体長が概ね35mmを超えるとアユらしい体型に変態する。そして川の水温が10℃前後に上昇した春に群れなして川を遡る。遡上期に35~60mmだった体型が川に入るとみるみる育つ。なぜ川に入るかといえばラン藻や珪藻という石に付く栄養価の高いエサを食べるため。河川に定着する期間は概ね6~10月で9月以降は成熟して産卵のため降下する。いわゆる「落ち」と呼ばれる行動が始まる。親アユの降下は出水が引き金。今秋のように台風が少ない年は降下が遅れる傾向もある。下流部に集まったアユは小砂利底の浮き石が多い瀬で産卵を行なう。産卵は夕方から活発になり、夜の8時ころにかけて行なわれることが多く、産卵とともに力尽きた魚体は、下流に流されていく。
シーバスは遊泳力のないアユが流されてくるのを待ち構えて捕食する。この捕食形態を理解することが落ちアユパターンのキモになる。ルアーのサイズは落ちアユの大きさに合わせる。成熟サイズは河川によってまちまち。個体差もあり30cm近い魚もいれば16cmクラスもいる。ともあれ大型ルアーのほうがアピール度は高い。この日中井さんが主力にしたのは「アルゴ160」、「ラムタラジャイアント177」といったビッグサイズのトップ&ミノーである。
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
ルアーを流し込むための要点
シーバスはどんなポイントでアユを待ち構えているか?
「基本的には瀬が絡むところです。流心には付いておらず、瀬脇の岸際がえぐれている場所や、流速が弱くなるスポットです。複数の流れの筋が合わさるヨレも見逃せませんね」
中井さんは対岸の流心脇にルアーが漂うように、流れの筋を見極めてキャストする。ポイントを直撃しても食ってはくれない。ヨタヨタ状態のアユが流されてきたかのような演出が肝要である。そのためにはルアーがどう流れていくかを計算して立ち位置を決め、アップ気味にキャストする。またラインが先行するようにポイントに流し込んだほうが流れを横切りにくく、自然体に近い流下を演出しやすい。
余計なアクションは必要ない。水面に浮かべたルアーをただ流すだけの釣りが落ちアユパターンである
「風波が立つとルアーを認識しにくいせいかバイトは減ります。落ちアユパターンの好条件は無風、そして晴天で太陽が出ていたほうがよく当たります」
そう話してくれたのは、このポイントに精通する地元アングラーの岸聖大さんだ。15時を回ると風が落ち着く。夕凪といえるタイミングでアルゴ160にバイトが出た。しかし、ルアーを飛び越えてしまうほどの誤爆でヒットならず。
九頭竜川のシーバス事情に精通する地元エキスパートの岸聖大さん。この日は長男の桐雅さんと釣りを楽しんでいた
その上流では右岸と左岸からくる流れが合わさるヨレがあった。そこはシーバスが定位しそうな流速でアユも流れ着きそうだ。イトフケを巻き取りながらヨレに向かって流していくと、ねらいどおりの位置でボシュッとルアーが吸い込まれた。じっくり送り込むイメージで合わせるとロッドが大きく弧を描く。「乗った!」と思った矢先にフックアウト。中井さんは落胆せず、淡々と探っていく。
「夕マヅメのいい雰囲気です。まだチャンスはありますよ」
流れが弱まる瀬のヒラキに立った。やや上流の流心先のヨレをめがけてアルゴ160を投入する。瀬脇でゆったりと流れるルアーをツンと軽く突き上げるバイトが出た。そのまま流し込んでいくと今度はルアーの上流でバイト、さらには横でもバイトと誤爆を連発。そして4度目のアタックを受けてルアーが水中に没した。合わせると乗った。
「今度はバラしませんよ」
激しく頭を振って抵抗する魚に一定のテンションをかけていなす。時おりエラ洗いをしようと派手な水柱が立ったが、中井さんは落ち着いている。じわじわと距離を詰め、タモに導いた。
背ビレがピンと立った傷ひとつないメタリックボディー。
「これぞ九頭竜シーバスって感じです」
と中井さんの目尻も下がる。九頭竜川の秋シーバスはアユの遡上量と釣果が比例する。なお、アユにとっては命を繋ぐ季節である。九頭竜橋上流には九頭竜川中部漁協が造成したアユの産卵場がある。基本的に浅瀬には無暗に立ち込まないように注意したい。
落ちアユパターンで使用したのは左上からアルゴ160、ラムタラジャイアント177、バレーヌ180F(プロト)、バレーヌ125F。フォローとして織り交ぜていくルアーが右上からエルドール115F、パンチラインマッスル80、ハイドロアッパー90S
浅瀬に群れなすアユの姿はあちこちで見られた
※このページは『つり人 2023年12月号』を再編集したものです。