秋の荒食いとはいえ、連日アングラーで賑わう湾奥エリアのシーバスゲームは、そう甘くはない。そんな激戦区で釣果を上げるための場所選びやルアーチョイスを、同エリアに永く通っているベテランの前田泰久さんに解説してもらった。
激戦区で釣果を上げるための場所選びを解説
写真と文◎塚田 智
釣れる常夜灯
「このオレンジが釣れるんですよね。ぼちぼち始めますか」
東京湾奥をホームに25年以上シーバスねらいを楽しんでいる前田泰久さ ん。夜の水面に明暗をつくりだす常夜灯にも、「釣れる常夜灯」とそうでな いものがあるという。
明暗はシーバスねらいの釣り人によくねらわれているポイント
旧江戸川、舞浜大橋と並走する首都高湾岸線の常夜灯は、オレンジ色にぼうっと光る、いわゆる「ナトリウム灯」が焚かれている。一方、湾岸線と並走する国道357号線には、白いLED照明が灯っている。前田さんいわく、LEDよりもナトリウム灯のほうが、ベイトを引き寄せる強い光を発しているのだという。
白色のLED 灯だ。光源から水面までの距離なども関係してきそうだ
「どちらも人間の目にはしっかりと見える明暗ができているんですけど、白いLEDは水中まで光が通らないんじゃないかなと思っているんですよ。ベイトの量が明らかに少ないんです。以前、別の場所でちょうど常夜灯を交換しているところを昼間に見かけたことがあって、後日行ってみたらオレンジから白いLEDに変わっていました。それから何日か通ってみたのですが、明らかに釣れなくなったんです。よく釣れる明暗だったので残念でしたよ(笑)」
ナトリウム灯は理科の実験などでも用いられるので知っている人も多いはずだ。しかし近年は省エネの観点から順次LEDに変わってきているので、今となっては貴重になりつつある。全シーバスアングラー必修科目である明暗というパターンも、じきに効力を弱めていくのかもしれない……。今のうちに、身近なフィールドでもぜひ確かめてみてほしい。
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よく飛び、よくアピールする小型シンペン
少々ネガティブな導入になってしまったが、湾奥エリアでもとくに旧江戸川を得意とする前田さんは、そんな明暗を釣るための引き出しのひとつとして、小型シンキングペンシルを用いる。
「舞浜大橋の明暗は魚影の多いスポットですが、アングラーの数も多いのでそんなに甘くはありません。そこで手堅く1尾釣りたければ、50㎝前後のアベレージサイズを食わせられる小型シンペンがルアーセレクトとしてはおすすめです」
使うシンペンは「バロール」の65㎜。現在130と90サイズが発売しており、65は来年1月には店頭に並ぶ予定という。
前田さん監修のバロール65 は来年1 月に発売となる。テールを振るだけでなく、わずかにロールも入ってくるのが特徴だ
「既存モデルからのダウンサイジングなので、食わせに振ったと思われるかもしれませんが、アピール力も充分あります。シンペンらしくテールを振るアクションに加えて、ロールも入る艶めかしい動きが特徴です」
当初は60㎜で開発が進んでいたというが、理想の飛距離やアクションを出すべく、最終的には65㎜に着地。なかでも、ウエイトセッティングには時間を費やしたという。
「既存サイズとはウエイトの位置が違うんです。前後にひとつずつウエイトプレートが入っているのですが、130はロールを強く出すために後ろのウエイトをテール最後部に入れています。一方、65はボディー真ん中からやや後ろ寄りにしています。こうすることでテールダンスしつつも、若干ロールが入ってシルエットに変化が出てくるんですよ。このサイズ感でありながら、充分なアピール力が確保できました」
加えて、さまざまな状況に対応できる汎用性もバロール65の強みだ。ウエイトプレートは前1g、後ろ2gの設定だが、これは「必要最低限」の重さだという。
「状況に応じてウエイトシールを足してルアーの姿勢を変えたり、もっと飛距離を出したりできるように、現場でアレンジできる幅を持たせるためです。ちなみに既存サイズもすべて“いちばん軽い”ウエイト設定になっています」
浮き姿勢はこのくらいの頭上がり。水面の波立ちが強かったり、浮き上がりをおさえたいときはフロントフック前にウエイトシールを貼って調整する
前田さんが常備するウエイトシール。細かな調整ができるよう、1g 以下のものが何種類かあるとよいスムーズな反発力を活かして、短めのレングスながら充分な飛距離を出すことができる
上からバロール65、90、130。ウエイトプレートの固定位置がそれぞれ異なり、アクションの質もまた違ったものになっている
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流れを掴むためのコツとタックルバランス
前田さんがバロール65を使うときにもっとも注意するのが、ラインを張らず緩めずのテンションに保つこと。こうすることでルアーが流れを掴んで泳ぐので、ロールしながらしっかりアクションする。
「これは明暗の境目を巻いてくるときも、ドリフトで送り込むときも同じです。コツは、着水点と自分の立ち位置を結ぶラインが一直線になるように、イトフケを取りつつロッドを動かしてラインメンディングすることです」
明暗は、明るいほうに投げて暗いところでターンするように通していくのが基本。シーバスが口を使うストライクゾーンは狭いので、1投ごとに着水点を変え、ターンさせる場所も変えながら探っていこう。
また、“ここでターンさせる”など、水中の情報が手もとにしっかりと伝わってくるようなタックルバランスも重要だ。
「このルアーを使うときに限らず、動きの弱いルアーを使う場合は繊細なティップを持ったロッドが欠かせませんね。僕が使うのはエクリプスのアクシアトラック88MLLという番手で、ティップ部がLパワーに設定されています。港湾部やウエーディング時の取り回しのよさに加え、ルアーが受けるわずかな水流をしっかりキャッチすることができます」
リールは24セルテートの4000番を使用するが、ハンドルは純正ではなく、サードパーティー製のカーボンに換装。軽量化することで水中からの情報をより高感度に伝えてくれるタックルバランスになっているのだ。
リールは24 セルテート(ダイワ)の4000 番ノーマルギア。ハンドルはカーボンハンドルに換装している。ラインはPE0.8 号にフロロカーボンリーダー20Lb 約60cm をFGノットで接続
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爆風の湾奥に活路はあるのか!?
10月上旬に旧江戸川へ訪れた前田さん。この日は夕方から風速9mという強風が吹いており、風を正面からまともに受ける湾奥はなかなかに厳しい状況だった。
「南風だと川の流れと同調させることができないのでちょっと難しいですね……。表層の水が風で逆流していて、ルアーをナチュラルに引いてこられない状況です」
時期的にも、今年はまだ水温が25℃と高く、いわゆる秋の荒食いにも入っていないとのこと。
「水温17~ 18℃くらいがシーバスの適水温だと思うのですが、まだベイトをガンガン追い回す感じにもなっていませんね。今日は魚をお見せするのは難しいかもしれません……。(苦笑)」
とはいえそこは経験豊富なロコアングラー。風が弱まった20時ごろ、ようやくボイルが見られるようになった数十分のあいだに貴重な1バイトを得る。キャッチには至らなかったが、激戦区かつタフコンディションのなかでわずかなチャンスを見事に捉えた瞬間だった。
「ショートバイトすぎて乗りませんでしたね。しかし今のは明暗が絡んだ場所ではなく、上流からの流れが滞留する真っ暗なところで食ってきました。純粋にルアーそのもののアクションで口を使わせられたということですね」
その後は三番瀬の干潟エリアをウエーディングし、下げ止まりまでサオをだし終了。湾奥シーバスとのご対面は次回に持ち越しとなったが、バロール65のポテンシャルを垣間見るには充分な釣行であった。
胸くらいまで浸かるウエーディングでも取り回しのよい長さ。なお、前田さんは感度を損なわないために、ロッドエンド部を脇に挟まずに巻いていたのが印象的だった
ハンドルの軽量化は感度向上にかなり貢献する。なにも見えない真っ暗なところでは感覚に頼るしかないので、タックルバランスは重要だ。ちなみにバロール65 を巻く速度は1 秒1 回転が基本。常に一定で巻くことを意識しよう
※このページは『つり人 2024年12月号』を再編集したものです。