根掛かりが避けられない釣りではない。根掛かりを避けてはいけない釣りだ。シンカーを通じて、ラインを通じて、ティップを通じて伝わる地形の情報。そんなボトムとの対話をじっくり楽しむのがマダコ釣りであり、その醍醐味を味わえるのが冬の横浜沖堤だ。
今こそオカッパリマダコ!静けさの中で楽しむボトムとの対話
写真と文◎編集部
この記事は月刊つり人2021年2月号の記事を再編集しています
根掛かりが避けられない釣りではない。根掛かりを避けてはいけない釣りだ。シンカーを通じて、ラインを通じて、ティップを通じて伝わる地形の情報。そんなボトムとの対話をじっくり楽しむのがマダコ釣りであり、その醍醐味を味わえるのが冬の横浜沖堤だ。
冬こそ横浜が有望な理由
柔軟に曲がるティップとボトムに張り付いたタコを引きはがすバットパワーを備えたロッドで、ボトムとの対話を楽しんだ遠藤真一さん
千葉県のシマヤ釣具木更津店に勤務する遠藤真一さんは、シーバスからヒラマサ、そしてヒイカまでターゲットの大小を問わずソルトルアー全般をこなすマルチアングラーで、マダコ釣りも得意科目のひとつ。ボートからもオカッパリからも楽しんでいるが、身近な釣りゆえ、これまでマダコねらいでホームグラウンドの千葉を出ることはなかった。しかし今回、遠藤さんが向かった釣り場は神奈川県の横浜沖堤。
実は横浜市と川崎市の沿岸は共同漁業権が設置されていないことから古くからマダコ釣りが盛んで、ここ横浜沖堤でも昔から楽しまれてきた。共同漁業権とは、特定の水面を共同に利用して漁業を営む権利であり、魚やイカなど泳ぎ回るものではなく、ウニや貝、海藻など定着性のある生き物に対する漁業の権利で、これにタコも含まれる。
ただし、横浜沖堤と言えばマダコよりもクロダイの釣り場として有名である。しかも、マダコとクロダイの釣期が被ることから、この釣りの両立は難しく、小さなボサカニなどをエサにヘチ際を静かにねらっている横で、イシガニなどを縛った大きなテンヤ仕掛けを投入すると釣り人の間でトラブルに発展することがままあった。
ヘチ釣りのベテランで、たまに堤防でタコ釣りを楽しむこともあるという郡雄太郎さんいわく「落とし込み釣りファンがタコ釣りファンを必ずしも敵対視しているわけではありませんが、少し配慮してほしいというのはあります。タコ釣りと、シーバスのテクトロ(横浜港内は禁止が呼びかけられている)を横でやられてしまうとクロダイが釣れなくなるのは事実。堤防は僕らのものではないですが、なるべくヘチ釣りファンの少ない堤防に渡るとか、クロダイは潮や風の当たる面を探るので反対側をねらうとか、少し配慮してもらえるだけで共存できると思います」と話してくれた。それを伝えると遠藤さんも「分かります」と大きく頷いた。しかも、初冬ともなれば、各堤防に落とし込み釣りファンの姿がまばらになる。取材当日も、乗り込んだ渡船客の8割以上はシーバスやサワラねらいのルアーマンで、クロダイねらいはほとんど見かけなかった。
遠藤さんのタコ釣り道具一式。餌木、トリプルサルカン、シンカーなどが入っている
実釣開始!
当日は大潮。5時14分満潮、10時50分干潮。6時の1便に乗り込み渡ったのは船宿のスタッフの方から「タコ釣りで実績が高い」と教わった最も沖側に位置するD堤防。夜明かしの釣り客と入れ替わると、堤防には遠藤さん以外の釣り人がいなくなった。
D堤防は横浜沖堤群の中で最も沖側に位置する。地続きに延びているのがD堤防で、水道を挟んだ先にある白い灯台のある堤防が第一新堤。D堤防の地続きのふ頭は両端に立入禁止の柵があるのでその先に入ってはいけない
「やっぱりヘチ釣りの方がいないのは気を使わなくて済むのでやりやすいです。それから渡船屋さんのタコ釣りウエルカムという姿勢もうれしいですね」
横浜沖堤自体が初ということもあり、まずはD堤防とつながるふ頭側のヘチから探っていく。
「お、深いですね。7〜8mはありそうです」
着底後、静かに聞き上げ、再び落としながらゆっくりと潮下へ進む。そして一旦、回収。次の二投目の着底後、ゆっくり聞き上げたロッドのティップが曲がった。
「ん、これは本物かな」
今度は両手を添えてバットまで曲げてみる。その重みがついてくる、つまり根掛かりではないことを確認すると、腰を落としてスラックを巻いて強くアワセを入れる。
「多分、来た」
多分というのは、基本的にタコは魚のように引かないし、アオリイカのようにジェット噴射で抵抗しない。ただただ重く、海面に浮上させてみたら石だった、長靴だったということは普通によくある。
しかし、遠藤さんの掛けた重みは本物だった。目測500g。さらに数投後にも同サイズをキャッチ。「横浜釣れますね〜」と遠藤さんもご機嫌だ。
「初場所なんで根掛かりを覚悟してきたんですが、起伏はあるけどガチャガチャというほどではない。遠投して広く探ってもむしろ砂地が多いので拍子抜けしています」
ふ頭側から釣りを開始すると、すぐにティップに重みが伝わった。軽くシェイクしながらロッドをゆっくり立てていくが重みは抜けない。さらに底から少し離れる感覚があればタコの可能性大! ロッドが硬すぎると根掛かりだったときに重症化しやすく、タコだった場合にも違和感を察知して逃げられやすい
スムーズにロッドを前に倒しながらラインスラックを巻き取ったら大きくアワセを入れる。手ごたえがあればバットパワーでぐいぐいとリフトアップする
海面まで浮上させたらタモやギャフは使わず、タックルパワーを信じてゴボウ抜きする。このとき、ロッドを沖側に突き出し、壁面に張り付かれないように注意したい
「これ理想の掛かり方です」と納得の1パイ目。「でも、貝とかカニが吸盤に付いていないですね」とじっくり観察
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