◯●●●●◯
海無し県の埼玉でもシーバスは釣れる
写真◎編集部 文章◎工藤靖隆
海獣のいるところにシーバスあり?
シーバスのメジャースポットである東京湾奥隅田川を遡ると、岩淵水門付近で新河岸川と合流する。新河岸川にはシーバスが泳ぎ、支流には柳瀬川や九十川、不老川がある。私が生まれ育った三芳町でも砂川堀という雨水排水路が新河岸川に流れ込む。
私が幼いころの新河岸川は釣りに行こうとは到底思えないほど汚い川だった。橋を渡るときは息を止めて悪臭から逃れ、少し離れた荒川やビン沼へ釣りに行っていた。
そんな新河岸川で、2006年9月に珍事が起きた。新河岸川上流部である埼玉県川越市の水田に、オットセイが現われたのだ。当時は荒川や多摩川でアザラシが遡上し話題にはなっており、東京湾奥のシーバスアングラーの間では出没エリアは例年に比べてシーバスが多いのではないかという根拠のない噂が流れていた。もしかしたらあの新河岸川でシーバスが釣れるのではないか。富士見市での一尾に始まり核心的なポイントを数ヵ所見つけた。それから数年を掛けて徐々に上流へ足を延ばし、川越市でもシーバスを釣っている。
海から離れていてもわりと釣れる
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
長期的な増水が重要
今年は猛暑にもかかわらず、雨が多く9月末までシーバスが上流域にいてサイズもよかった。河川上流や支流のシーバスというと、増水が好機と思うアングラーが多いだろう。しかし、私が最も大切だと思っているのは、一瞬の増水ではなく長い目で見て水量をいかに安定して維持しているかどうかだ。
新河岸川へシーバスが遡上するのは5月末ごろから。その後、梅雨による安定した増水で一気に上流へ広がっていく。なお、比較的小規模な群れになるようで、よいエリアが常に変動しているのも上流域の特徴かもしれない。潮の干満よりも降雨量による水位に左右されるため、下流や港湾に比べて増減水であっという間に魚がいなくなることが多い。干潟の下げの釣りに近い動きだ。
9月になると台風と秋雨前線の影響により度々の増水を繰り返す。この時期の増水はシーズン初期とは異なり、冷たい雨が降るたびにシーバスは下っていく。私は今まで9月後半の大潮以降に新河岸川の最上流域でシーバスを釣ったことはない。ただ、志木市や朝霞市の辺りはこの時期によい釣りができる。また、下流にある墨田川には港湾の魚が入り始めて、10月に秋の最盛期を迎える。
上流域を釣るにはいいタイミングとは言い難いが、ロッドのテストも兼ねて10月上旬に新河岸川へ足を運んだ。
富士見江川の落差もよく魚が付いている。オイカワらしきベイトが飛び跳ねていたが反応はなかった
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
ボサを避けるためのロングロッド
小河川や小場所というと、取り回しのよいショートロッドが好まれるが、上流域では8.6~10フィート程度でやや強めのロッドを勧める。私が行くような自然環境が多く残るエリアではボサが生い茂り、護岸も土で水際に立つことも難しいことが増える。できるだけボサをかわしてのキャストやリトリーブコースの調整をするため、ロングロッドだと使いやすい。
リールはスピニングならPE1.2号以上でリーダーはナイロンの20ポンド前後。ルアーは6~9㎝のフローティングミノーを使うことが多い。これは広範囲を探るよりも、小場所の魚を少ないキャストで確実に食わせたいからだ。
この日使用したロッドはTulalaの新作シーバスロッドのプロトモデル。長さは9フィート10インチ。このロッドは20g前後のルアーでボトムや中層を引く時の情報の得やすさを意識したモデルだが、製品化するにあたっては汎用性の幅を持たせることも大切。アングラーの力量次第でその幅は変わるが、必ずしも快適に使えるわけではない。今回は軽量ルアーを使ってみて、その快適性をテストしてみた。
川の規模と比べると小さな流れ込み。沖の回遊を待つか、手前の流れ込みを探ってすぐに移動するか。こんな駆け引きもこの釣りを面白くする
前回テストしたモデルでは20~30gのルアーをフルキャストした先での操作感はよかったが、軽量ルアーを近距離では使いにくかった。アクションを掛けた時のティップとルアーの移動量にギャップを感じたからだ。この感覚は食わせの釣りでとても大事な要素だと思っている。
今回はティップセクションの設計を変更してもらい結果は上々。これでOK!と言いたいところだが、正直に言うと一つの不安要素が頭に浮かんだのでまた調整してもらおうと思う。妥協せずに修正作業を何度も繰り返すため、なかなか発売時期が決まらないのである。楽しみにしているユーザーさん、ごめんなさい。
高い足場でも足もとまで長くトレースするためにはロングロッドが有効
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
魚の向きでコースを決定
さて、前日に雨が降り増水したタイミングでシーバスはどう動いただろうか。明るいうちに上流からポイントを見て回る。時折雨がパラついて光量は少なめなので条件的にはよさそうだが、減水傾向のせいかバイトはなかった。夜のワンチャンスをねらい、昼間に見つけた貯水池からの小さな流れ込みを目指した。
ヤブを漕ぎ、できる限りプレッシャーを与えずに流れ込みの横、下流側に立つ。おそらく居ても2~3尾だろう。あれこれとルアーを変えて反応を探るとか回遊を待つのではなく、数投で勝負が決まる。海水や汽水域の群れとは違い、純淡水域のシーバスはそういう釣りが多い。
シーバスは上流を向きつつも流れ込み側を意識していると考えて、1投目は流れ込みの白泡の中を通したが、反応はない。ルアーは7㎝のフローティングミノー。2投目ではロッドの長さを生かして落ち込みから少し離れた泡の切れ目を水平に通すと、明らかなバイトが出たが掛からず。ハリ先のチェックなどをして場を落ち着かせた後に、今度は流れ込みの外側から斜めに泡が消える位置を通したところでロッドが絞り込まれた。
パワフルに下流へ走るが、ロッドパワーで引き止めた魚は筋肉質なシーバス。ベイトが豊富なのだろうか、サイズの割には重いのが印象的だった。
この釣りは、大きいサイズが釣れるわけでも数がたくさん釣れるわけでもない。特に最上流域に行くほどサイズは下がっていく。ただ、シーバス釣りを長く楽しみたいと考えたときに、人との競争にとらわれず純粋に季節を感じる楽しさが気に入っている。
また、シーバスが釣れたこと以上に感慨深く思うのは新河岸川がきちんと生きているということ。この数十年で悪臭漂う川から自然豊かな川へと変わった。まれに「ドブでシーバスが釣れる」という表現を目にするが、ドブではなく美しい川である。この川を蘇らせるために浄化活動に取り組んでいる多くの市民団体や行政に深く感謝しながらこれからもこの川でのシーバス釣りを楽しんでいこうと思う。
目星をつけていたポイントで見事キャッチした埼玉シーバス
※このページは『つり人 2024年12月号』を再編集したものです。