春は産卵に備えて体力をつけるために鯉が荒食いする季節である。鯉が最も活発に動く水温は18~22℃とされ、水温14~15℃になると行動範囲を広げて、徐々に浅場へ移動してくるといわれる。川でも湖でも、春は迷わず浅い場所を選ぶ。
ポイント選びと釣り方
写真・文◎山本和由
河川最下流部の汽水域から山上湖まで、全国に広く生息する鯉。産卵を控えて活発にエサを食べる春は、なかでも鯉を釣りやすい季節だ。川魚の王様ともいえる鯉を釣るための仕掛けは、現在、大きく2つのスタイルがある。昔からの定番である「ダンゴ釣り」と、イギリスで生まれここ10年ほどで日本でもファンを拡大している「ボイリーとヘアリグを使ったカープフィッシング」だ。それぞれの特徴を押さえて挑戦してみよう。
この記事は月刊『つり人』2021年5月号に掲載のものを再編集しています。目次
- 後編:鯉釣りのポイントはこんな場所を選ぶ
- 後編:川の鯉釣りポイント
- 後編:春の湖の鯉釣りポイント
- 後編:鯉釣りは底探りから
- 後編:撒きエサで鯉を寄せる
- 後編:エサを投入し鯉のアタリを待つ
- 後編:鯉釣りのアタリと取り込み
- 後編:若手カープアングラーの実績リグ
- 前編:鯉釣りは待ちの釣り
- 前編:代表的な鯉の釣り方:ダンゴの袋包み仕掛け
- 前編:近年人気!:鯉釣りの「ボイリー」「ヘアリグ」とは
- 前編:鯉釣りに必要な道具
解説:山本和由(やまもと・かずよし)
東京都大田区出身。少年時代の多摩川のオイカワ釣りに始まり、やがて鯉釣りの魅力に目覚めて、数々のフィールドに通う。2004年からルーマニア、アメリカ、フランスなどで開催される鯉釣りの世界大会も取材。タナゴ、ワカサギ、カワハギなど楽しむ。著書に『決定版 コイ釣り入門』(つり人社)がある
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鯉釣りのポイントはこんな場所を選ぶ
春は産卵に備えて体力をつけるために鯉が荒食いする季節である。鯉が最も活発に動く水温は18~22℃とされ、水温14~15℃になると行動範囲を広げて、徐々に浅場へ移動してくるといわれる。川でも湖でも、春は迷わず浅い場所を選ぶ。
4月の川。岸にはアシが生え、いかにも春の釣り場といった風景だ
地域によってずれはあるが、平野部なら4月中旬にはハタキが始まる。平野部であっても水の動きにくい湖や沼では、川より半月くらい遅れることが多い。山上湖の釣期はさらに1ヵ月遅くなると見てよいだろう。よく聞くのが、サクラの開花が目安になるという話である。関東の利根川では3月ともなればカラシナの黄色い花が咲き誇る。春ゴイ釣りシーズの訪れを告げる花である。少し遅れてサクラが咲き始める。ただしサクラが咲くころは日によって寒暖差があり、釣果もその日の状況に左右される不安定な時期である。したがってサクラが散って葉桜になると本格的な釣期ともいわれる。
一番信頼しているのが、水辺に生える植物である。これは水辺の地熱で生育が左右されるので、参考にしてよいだろう。
フジの花が開花すれば春ゴイ最盛期ということわざもある。大切なのは気温何℃とか水温何℃という数字ではなく、生物としての感覚だ。周辺の風景を見て、どこが暖かそうか考えるのだ。
日当たりがよい。南向きで日がよく当たる。南風が吹き込む。そんな場所を捜してみよう。1月には草木が枯れていて薄茶色が目に付いた場所でも2月中旬を過ぎるとだいぶ緑色が目立ってくる場所があるはずだ。見渡してみて、なだらかな地形で、周辺で一番緑色が目立つ場所。そんな所があったら、水辺に降りてみよう。
川の鯉釣りポイント
蛇行する川のカーブの外側は流れが当たり、岸は削られて傾斜が急で深くなっている。岸が流れで削られるのを防ぐために、水制ブロックが沈められていることも多い。急深な場所は、春の釣り場候補から一歩後退である。
蛇行する川。左の内カーブ(カーブの内側)は砂がたい積して浅くなっている。釣果は圧倒的に内カーブが勝る
こんな場所で釣るならば、ブロックが終わって流れがゆるやかになる下流のほうである。反対にカーブの内側は地形がなだらかで、流れも緩くなり、水辺には砂がたい積した浅場であることが多い。岸にはアシやマコモなどの植物が群生しているだろう。水温の上昇が早く、エサとなる生物が豊富な春向きの場所である。そんな所で水中を観察すると、鯉がエサを食べるために口を突っ込んだハミ跡を見ることができる。期待大である。
支流が合流する場所も定番だ。鯉は冬の間、水温が安定する本流のやや深場で過ごし、産卵のために支流へ乗っ込む。その前の待機場所になる。
支流の吐き出しに設置された大きな水門が開けば、鯉は支流に乗っ込む
強い流れの手前に流れが巻き、反転流が起きている。エサを打つのはそこだ
春の湖の鯉釣りポイント
アシの生える浅いワンド。山上湖の代表的な春の釣り場だ
平野の湖や沼は山があっても低くて岸から遠い。湖岸近くは平坦で田畑やハス畑となっていることが多い。全体に遠浅なので、岬やワンドといった平面の地形の変化で判断する。
岬をねらうなら、ワンド内に産卵場所があるような所が好ましい。アシのような植物が豊富なワンド、小川の流れ込み、船溜などが産卵の目標になるから、釣り場候補となる。
平野の湖より山上湖のほうが春向きの場所を絞りやすい。ワンドや岬といった平面の地形だけでなく、背後に山が迫っていて湖岸が急傾斜だったり、岩場だったり、民家や旅館が多いなだらかな所があったりと、立体的な地形も参考にできるからだ。
山上湖では急斜面のドン深な場所を除外して、なだらかな地形の場所を捜せばよい。そんな場所はアシが生えていて、小さな流れ込みがあって、小魚のハネも多いはずだ。
川でも湖でも、なだらかで浅ければどこでも食うわけではない。エサを入れるのはカケアガリ、溝やわずかなくぼみ、沈木などの障害物周りなど少しでも変化のある場所である。
そのためには底の状態を調べることが大切だ。その方法は、釣りの手順で解説しよう。
鯉釣りは底探りから
底探り。水底をなでるようにオモリを引いて、底質や変化を調べる
目指す場所に到着したら、最初に底の状態をチェックする。竿を伸ばしオモリだけで投げ、手の平で底をなでるようなイメージでソロリと引いてみる。竿を立てて行なうより、左右どちらかに倒して引いたほうが感触をつかめるだろう。リールをゆっくり巻いてもよいし、竿で引いてもよい。自分がしっくりするやり方で行なう。オモリを引く速度は遅いほどよい。目安は1秒間に10cm程度。これを底探りという。
抵抗なくスーッと寄ってくるなら、なだらかな砂底である。オモリが着底して引き始める時にヌメッと何かから抜け出すような感覚があって、その後も少し抵抗を感じるなら泥深い底だ。コツコツという感触なら、小石が敷き詰められた底。コトコトと感じたら、硬くて波打っているような砂底と推測できる。
グッと重さを感じ始めたら、カケアガリだったり、水草が生えていたり、あるいはゴミがたい積していたりする。この見極めは慣れないと難しい。カツッと何かに当たったら、石や流木などのカカリである可能性が高いので、引く手を止めて竿先を軽く沖側に跳ね上げるようなイメージでオモリを浮かせば、根掛かりの率は減る。
他と違う変化を感じたら、その辺りに再度投げて場所を記憶して投入点候補とする。左右に移動しながら釣り座周辺を探り、2~3ヵ所見つけられたら理想である。これで投入目標を決める。
撒きエサで鯉を寄せる
ダンゴの釣りでは、ダンゴ自体が寄せエサの役目をするので、別作業として行なう人は少ないが、ボイリーの釣りではフィーディングと呼んで、基本的に事前の撒きエサが行なわれる。
スローイングスティックという筒状の器具でボイリーを撒く。コマセ柄杓で代用可能。撒きエサが許可されているか確認して行なうこと
ボイリーを使う場合、スローイングスティックという撒きエサ器(磯釣りや堤防釣りでコマセを撒く柄杓で代用してもよい)で、ボイリーを1~2粒ずつ投入する。もしくはスポッドと呼ばれる器具をミチイトの先に取り付けて、竿を使って投げ込む。標準的撒きエサ量は、ボイリーなら両手の平に一杯程度、ダンゴならピンポン球大で10発くらいにする。
エサを投入し鯉のアタリを待つ
エサを投入し終えて待ちの態勢に入る。ここから鯉とのかけひき、根比べが始まる
竿立てをセットして、タモを用意し、すべての竿を伸ばしてリールを付けたら、仕掛けにエサ付けをして予定地点に投入する。
仕掛けが着底してイトフケをとったら、ミチイトがたるまない程度にゆるめて水にミチイトがなじむのを待つ。なじんだら竿立てに竿を乗せる。
最近は竿を水平にしてアタリを待つ人が多いが、基本の竿角度は30~40度である。竿を置いたらリールのすぐ上のミチイトを指でつまんで軽く引き出し、少し指先に抵抗を感じる程度でスプールが逆転するくらいにドラグ調整する。風の影響を受けにくくするために、ミチイトはわずかにたるませる。ただし川では、流れでミチイトが張るのは仕方ない。
ここからが待ちの時間。鯉釣りの勝負所であり、面白さでもある。すぐにアタリが出ればよいが、アタリがない場合の次の動きに釣り人の個性が出る。ダンゴの場合はばらけるので、釣り始めは1時間程度で次のエサの支度にかかり、準備できしだいエサ替えする。日帰りの釣りなら、その後のエサ交換も2時間をめどに行なう。
ボイリーはザリガニとかカメにやられない限り、10時間でもエサは残っている。自信がある所に入ったエサを1時間で交換する必要はないが、あるとすれば投入点変更だ。底探りで他に魅力的な所があれば、2~3時間待って投入点替えしてもよいだろう。
鯉釣りのアタリと取り込み
鯉釣りは向こうアワセだ。竿先がフワッと動き、ククッとお辞儀した後に、ミチイトが引き出されてドラグが逆転する。それから竿を持ち、ドラグを少し締めてやり取りが始まる。ドラグは強い引き込みが来たら逆転する程度に締める。
竿を胸元に引きつけてのけぞるような、力任せのやり取りはよくない。竿角度は鯉の締め込みに応じて45~60度の角度で行なうのが理想である。
小型なら竿で鯉を寄せ、寄せた分リールを巻くことの繰り返しで足もとに寄せる。大型で強い場合、足場に余裕があれば、竿角度を保ったまま後ずさりして、寄った分だけリールを巻いて元の位置まで前進する。この繰り返しである。
取り込みは慌てずに行なう。よく見られるのは、鯉が左右や沖に向かって逃げ回っているのにタモで追いかけ回す場面だ。こんな時は竿角度を60度くらいに保ったまま止まるのを待ち、頭がこちらを向いたら寄せてタモに誘導する。
取り込んだら糸が自由に出るようにドラグを緩めて竿を置き、タモごと鯉を持ち上げて、マットやシートの上に置き、バケツで水をかけてぬれタオルで目をふさぐ。ハリ外しは必ずペンチで行なうこと。リリースは、マットごと鯉を運んでゆっくり泳ぎ去るのを待つが、足場が高ければタモごと水中に入れて送り出してやる。悠然と泳ぎ去るその姿を見送ったら、きっと深い満足感にひたれるはずだ。
取り込みは必ず鯉の頭を釣り人側に向けてから行なう。タモで追い回してはいけない
釣った鯉はダメージのないうちにできるだけ早くリリースする。自力で泳ぎ去るまで待とう
若手カープアングラーの実績リグ
ボイリーは大型ねらいに強い。ここではヘアリグやその発展リグを使って、近年大ものを手にしているカープアングラーの事例を紹介しよう(文・写真:内藤祐介/山梨県身延町在住)
スリップDリグ
現在、個人的にメインに使用しているリグ。自身の工夫を加えてすでに4年ほど使っているが信頼度が高い。カープフィッシングはリグを投入してから長く待つ釣りなので、「自信を持って待てる」というのはとても大切な要素になる。一般的なDリグ(アイの近くにハリスでD型の輪を作り、そこに通した小径リングにポップアップ型のボイリーをセットすることでボイリーが自然に動く)では、フックに沿ってラインがあるが、私が工夫したものはフックストッパーを使って輪にゆとりを持たせることで、スイベルがよりスライドしやすくなり、フックが口の中に残りやすく、フッキング率がさらに高まるようにしてみた。また、ハリスにフロロの50ポンドという太いラインを使用することで、リグの絡まりを心配せず待てるようにもした。納得のいく形になったところで最初の釣りに出かけたところ、108cm・23kgの自己記録の鯉を釣ることができ、その後も大ものの大半はこのリグで手にしている。今も少しずつ改良を加えてはいるが、個人的に最も信頼するリグとなっている。
実際のリグ部分と108cmの自己記録となっている一尾
スピナーリグ
数年前から流行り初め、今一番人気といってよい注目リグ。スピナースイベルなどいくつかの専用パーツを使う。太めのフロロカーボンハリスを使うので絡みにくく、大ゴイのアタリをじっくり待てる。ロニーリグとも呼ばれ、ボイリーのサイズ、種類、数を問わず使いやすい。さらにボトムタイプのボイリーとポップアップタイプのボイリーのどちらにも使用でき、なおかつそれぞれの専用リグと同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮する。仕掛けの途中からボイリー(ポップアップタイプ)を付けたハリを浮かせる構造のヘリコプターリグと組み合わせることで、硬い場所から軟らかいシルトやウイードのある場所まで、どんな底質のポイントでも使え、さらにフックだけを簡単に交換できるため、リグを新たに作るわずらわしさが少なく、状況に合わせてフックの種類、サイズを変えられるのも利点となっている。個人的にはこのリグを覚えてから、シャロー・泥底・クリアウオーターという条件(鯉がスレていて底質的にも釣るのが難しい)で、多数の良型がキャッチできるようになり、最大で100.5cm・20.3kgを釣ることができた。
実際のリグ部分と100.5cmのビッグワン
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『コイ釣り場特選ガイド』
北は北海道から南は九州まで、各地のコイ釣り精鋭筆者陣が、80ヵ所以上の釣り場をていねいに解説。紹介するフィールドは、山上湖、ダム湖、気水域を含む河川までと、バラエティーに富んでおり、眺めているだけでも楽しい。 各釣り場は、「コイ釣りNEWスタイルマガジン」を標榜する斬新なカープフィッシング専門誌『Carp Fishing』に掲載された「この春(・夏)おすすめのカープフィールド」「この秋(・冬)おすすめのカープフィールド」をベースに選抜したもの。