ひと昔前なら東北では話題にならなかった魚種が、このところ存在感を示し始めている。タチウオもそのひとつだ。 ここでは漁業関連の資料と釣果実績などをもとに、東北各県のタチウオ釣り事情を探ってみよう。
テンヤ、仕掛け、道具やエサの巻き方など初歩を解説!
まとめ◎道下裕
こちらの記事は『テンヤタチウオ最前線』に掲載したものをオンライン版として公開しています。
ひと昔前なら東北では話題にならなかった魚種が、このところ存在感を示し始めている。タチウオもそのひとつだ。ここでは漁業関連の資料と釣果実績などをもとに、東北各県のタチウオ釣り事情を探ってみよう。 船テンヤタチウオをとことん掘り下げた『テンヤタチウオ最前線』掲載記事からオンラインでも一部特別公開!
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東北の海と「温暖化」そして「魚種転換」
近年、東北では暖流系の魚が地元メディアに取り上げられる機会が増えている。
この半年をみても「志津川湾(宮城県)で、海藻類を食べるアイゴが増え、ワカメの養殖や『磯焼け』などへの影が懸念されている」「相馬市沖(福島県)で伊勢エビやトラフグが増加。新たな漁業種としてブランド化も検討される」といった具合だ。
なかでも「八戸市近海(青森県)で特産のイカやサバが獲れなくなった。代わってタチウオやアカムツが台頭。本来ならイカ、サバ、イワシで水揚げ全体の9割を占める八戸港。影響は漁業、加工業者に留まらず、物流業者にまで及んでいる」というレポートはポータルサイトに掲載され、一定のインパクトを与えた。
八戸市の記事で興味深いのは、主要魚種の不振が「地球温暖化」と「魚種交替(転換)」、それらに伴う「局地的な影響」に着目、言及している点である。
ちなみに「魚種交代」とは20年ほどの周期でみられる自然現象の変動に伴うもの。たとえば北西太平洋の日本海が寒冷な時期は太平洋の南米沖が温暖になり、その時期に海で獲れる魚も太平洋全体の規模で変わるのだという(詳細は「青森 イカ 激減」で検索し、ご覧いただきたい)。
さて、ここでのお題「タチウオ」だが、本来なら東北では馴染みが薄い魚種。しかし、エリアによっては「偶然」に止まらない釣果が発信されるなど、その遭遇率は着実に高まっている気配である。
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数字と証言で推し量る、東北各県のタチウオ釣り事情
青森県
「イカに匹敵する水揚げ」が連想されるタチウオだが、実のところその実数は定かではない。2021年のイカが前年比44%減で、全盛期と比べると4%とされることから過度な資源量は期待できないのではないか。
参考までに資料A(同一基準で東北各県の、タチウオの漁獲量を比較できるもの。但しその出典が定かではないため、本稿では「資料A」とする。
なお、最新データは2018年まで)によると、青森県では2009~2018年までの間に漁獲実績は記録されていない。すなわち八戸市沿海にタチウオが姿を表わしたのは。ここ数年ということになる。
釣りの対象魚としてはどうか──。地元釣具店によれば「隣県の秋田、岩手も含め、まだ未知数というのが正直なところ。一部、岸壁や堤防のショアジギングで釣れたという話も聞きますが、タックルの需要はコーナーを作るほどではないですね」とのこと。
とはいえゲスト扱いながら、青森港や陸奥湾ではマダイやヒラメのジギングで釣果が発信されている(2019~2021年)。さらに八戸港ではプレジャーボートのタチウオテンヤ、ジギングで船中二桁、各人複数尾の実績が発信されるなど、今後の展開が期待される。
東北ではつい数年前まで釣りの対象魚ですらなかったタチウオだが、現在は南部はもちろん北部でも存在感を増してきている。太平洋側の東北の玄関口である福島県小名浜では夏から秋にかけて沖堤防からルアーで釣れ盛るうようになった
ここからは各県の考察だ。
秋田県
2009年、2010年にそれぞれ1トンの漁獲を記録後、2018年までは空白(資料A)。漁業対象の魚種としては、かなり弱い。
それでも2019年以降に群れが北上したのか、釣りでは2020年前後に男鹿半島のジギング、秋田港周辺でのショアジギングで釣果が発信されている。ただ、タチウオをメインでねらうという情報は得られていない。
山形県
2009年~2015年までは2~5トン程度の漁獲が記録されている。2016年~2018までは空白だが(資料A)、2019年以降に群れが動いた気配があることから、個体が皆無というわけではなさそうだ。
釣りでは2020年に酒田市の遊漁船が実績を発信。マダイとイナダ含みの夜ジギング、日中のジギングでのゲストらしい。酒田港周辺でのショアジギングでも釣果が記録されていることから、魚の群れ次第では、県北エリアを足がかりにブレイクする可能性があるかもしれない。
新潟県
東北七県ではないが位置的に近いこともありここに加えた。かつては日本海での、タチウオの生息地の北限と目された。調査エリアでは唯一、この魚と馴染みが深く、1982年には500トン以上の水揚げを記録。全盛期ほどではないが、近年では2009年~2017年の間も10~37トン程度の漁獲実績を残す(資料A)。
漁場の中心となるのは糸魚川市などの上越地区(糸魚川市・能生)。釣期は6月下旬~10月上旬で、7月が食味の旬とされる
釣りのスタイル(メソッド)も完成されている印象。ポピュラーな対象魚であることを伺わせる。60~100gのメタルジグでのジギング、サンマやサバ、コノシロの切り身をエサにするテンビン釣り、30~50号のテンヤを用いるテンヤ釣りなどのバリエーションを持つ。
調査エリアでは本命と目されるが、懸念材料は減少傾向にある資源量。2006年の漁獲量が55トンから右肩下がりで推移し、2018年には空欄となっている(資料A)。
岩手県
2009年~2018年の漁獲実績はすべて空欄(資料A)。しかし、県境の気仙沼湾(宮城県)では遊漁船、プレジャーボートでの釣り(ジギング)が成立していることから、個体の動き方次第では今後に含みを持つ。
広田湾(陸前高田市)の遊漁船、晃進丸船長・千田悟さんの話によると「大船渡湾内には回遊(南下)せずに周年居座る個体がいるようです。カツオ漁のエサとして使われるマイワシの生簀下には大体いますね。ただ、釣りモノとしてはどうか……。気仙沼湾にしても個体数は未知数。群れの足が早いだけに釣果も波がある。展開次第では魅力的なんですが」と語る。これについてはショップ筋も見方は同じ。
現在の北限は越喜来湾(=おきらいわん・大船渡市)辺りまでと想定される。県北の宮古市でもジギングで釣れた記録があるものの、遊漁船筋の見方は本命でねらうには至らない。いずれにしてもカギを握るのは安定的な回遊と個体数だろう。
宮城県
本来は馴染みが薄い魚種とされてきた。資料Aによると、2009年~2017年までの漁獲量は1~28トンの間(2011年の22トンを除き、2015年までは一桁台に収まる)を推移。それが2018年、一気に105トンを超えた。
県水産関連の資料によると、近年の水温上昇に伴い分布域が北上。宮城県沿岸でも生息が可能になったとされる。サイズが20~150cmまで幅があり、成熟した個体も混じることから、沿岸部で産卵・繁殖の可能性ありとみているようだ。
釣りに関しては追波湾(=おっぱわん・石巻市)が牽引するかたちで、気仙沼湾と仙台湾南部海域が追随。エリアが限定されるが、夏場の釣りモノとして着実に地盤を固めている。いまのところ主流はジギングだが、今後はテンヤのニーズも高まるのではないか(追波湾、気仙沼湾については後頁でも触れる)。
福島県
県関連の資料によると、福島県でのタチウオの漁獲量は増加傾向にある。2021年7月末時点での漁獲量は19トンで、近年では最も多い。資料Aによると2006年~2018年で最多の漁獲量は4トン。ここ数年で資源量が大幅に増えたことを伺わせる。
漁場の中心は県北の相馬。双葉地区。釣りにおいては夏場に相馬港周辺での釣果が発信されている。プレジャーボート、遊漁船でのマダイジギング、ロックフィッシュのオプションで指2本から5・5本程度までのサイズを記録。
県側ではサイズに幅があり、成熟卵を持つ大型の個体も確認できることから、福島県沖で再生産(繁殖)している可能性もあるとみているようだ。
ほか県境に近い、平潟港沿海(茨城県)へ遠征するファンも多いようである。
ヒラメやカレイで賑わった常磐エリアもここ数年、冬から春はタチウオで盛り上がっている。少し北上すればもう東北である
大阪湾がそうであったように東北でも、まずは堤防からの釣りが流行り、そして船からのジギングが流行り、やがて船からのテンヤに行く着くのかもしれない
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