編集部2022年8月6日

ウナギとミミズの切っても切れない関係とは? 生きていくのに欠かせないウナギのエサ事情

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降雨後はミミズでウナギがよく釣れるというのは実証済みで、上流域から下流域まで欠かせないエサである。そのミミズがウナギの成長に欠かせないことが研究により分かってきた。降雨後、土中からはい出たミミズは川へと流され、それがウナギにとって最重要のエサになっているという。論文をもとに解説する。

ウナギの常食エサは、やっぱりミミズ

写真と文◎浦壮一郎

  淡水の釣りにおいて釣り人が最も多用するエサといえばミミズ。特に降雨後はミミズがよく釣れるというのは実証済みで、上流域から下流域まで欠かせないエサである。そのミミズがウナギの成長に欠かせないことが研究により分かってきた。降雨後、土中からはい出たミミズは川へと流され、それがウナギにとって最重要のエサになっているという。論文をもとに解説する。

この記事は月刊『つり人』2021年9月号に掲載したものを再編集しています

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ウナギのエサは7~9割がミミズ?

 誰もがアスファルトの上で干からびているミミズを見たことがあるはず。わざわざ土の中からはい出てこなければ干からびることもなかっただろうに、どうして出てきてしまったのか。土中の水分量が増えた影響で逃げ出したものなのか、詳しい理由は不明ながら、どうやら降雨に伴ってミミズは陸上に出てくる習性があるようだ。それらは雨の流れによって川に運ばれたのち、いずれは魚類のエサになる。

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牛舎で採れたミミズ

 雨の後はミミズをエサに使うとよく釣れる。それは淡水におけるあらゆる釣りでもはや常識だが、おそらくは魚たちも雨が降るとミミズが流れてくることを知っているのだろう。それがミミズに対して活性が上がる理由のひとつだと考えられる。

 ただ、降雨後にミミズが川に入り込むとはいっても、所詮は陸の生物なのだからさすがに主食にはなり得ないはず。釣り人の多くはそう考えているだろうが、実はそうでもないらしい。

 2020年秋に発表された論文『降雨に伴って川に入るミミズが、ウナギの大きな餌資源になる』によれば、ウナギにとってミミズは最重要といってよいほどの主食であるようなのだ。

 論文を筆頭著者として発表したのは、メリーランド大学の海外学振特別研究員・板倉光さん。現在はアメリカ在住ながら、前職時代の日本在住時にはウナギの研究に携わっていた。板倉さんによれば、胃内容物を調べたところ全長40cm以下のウナギは「68~93%がミミズ」だったと言うのである(図1)。

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調査を実施した水域A、水域Bともに、川岸に植生や土が残る地点(上段)ではミミズがウナギの餌の大部分を占める一方、コンクリート護岸化された地点ではミミズが見られない(下段)。また全長40cm 以下のウナギにとって、ミミズはエサの68 ~ 93%を占めていることが分かった

 川にいるウナギのエサ、その7~9割が陸にいるミミズというのは驚かされる。ウナギの体長が大きくなるとミミズへの依存度は小さくなるが、成長期のウナギにとってミミズは極めて重要な主食なのだろう。大きなウナギはしだいにミミズを捕食しなくなるが、それは体長が大きくなるにしたがい、より大きなエサを好むためだと考察される。

「この研究結果で注目してほしいのは、河川下流域でも想像以上に陸域の資源に依存しているということです」

 重要なのはウナギとミミズの関係だけではなく、陸と川との繋がりだと板倉さんは言う。

 これまでは、河川上流域は河川内の生産性が低いことから陸上のエサ資源への依存度が高く、反対に河川内の生産性が高い下流域では陸域の依存度は低いと考えられていた。

 上流域は水がクリアなことからも見てとれるように、捕食者である魚類は河川内のエサのみで充分な栄養を得ることは難しい。そのため陸域からの昆虫の流入などが重要なエネルギー資源になっている。

 対する下流域はどうかといえば、もともと河川内にさまざまな栄養素が流れているため、陸の栄養素はさほど必要とされないと考えられていた。ところがこの研究では、上流域と同様に下流域でも陸域からの資源移動が重要であることを示したことになる。

春~夏~秋のすべての期間、ウナギはミミズを食べている

 ミミズが川に流れるのは降雨後。であるならウナギは主に雨が多い梅雨や夏の台風直後などにミミズを食べている……そう考えるのが自然だろう。ところがそれも、どうやら的外れのようである。実は長期的にミミズをエサにしているというのだ。

 降雨直後に胃内容物調査を実施すれば、その時点で何を食べていたのかは分かる。しかし時間的スケールが短いことから長期的な傾向までは分からないのが欠点。そこで実施されたのが炭素・窒素安定同位体による調査である。

「生物は食べたものの成分を数ヵ月程度は身体に反映させると言われています(種の違いや体の部位によって反映期間は異なる)。それを調べる手法のひとつが安定同位体による調査で、数ヵ月間程度のエサ利用を推定することができます」

 同調査の結果、ウナギの食性に対するミミズの寄与率はおおよそ50%だと推定されるという(図2)。胃の内容物調査では68~93%がミミズ、安定同位体分析では約50%がミミズだったというのだ。

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ウナギの胃からミミズが出現した2水域における、川岸に植生や土が残る地点の結果を示す。どちらの水域においてもミミズが最もウナギの食性に貢献していることがわかる。ウナギの食性に対する陸域資源の寄与率は調査したエサの中で最も高く、おおよそ50% と推定される

 季節による違いはどうだろうか。たとえば河川上流部における陸棲昆虫とイワナなど渓流魚の関係でみると、陸棲昆虫が捕食されるのは主に夏から秋。同じように考察するなら、ミミズが川に流入しやすい梅雨時期や台風シーズンに限定されると考えるのが普通だ。ところが他の陸生昆虫ほど限定的ではないらしい。板倉さんは説明する。

「陸から川に供給されるエサというのは季節のある一時期に限定される現象だと考えられています。たとえば本州では、カマドウマなら秋にたくさん出て、それだけなんです。ところがウナギとミミズの関係性でいえば、春も夏も秋もミミズを大量に捕食していました」

 降雨さえあればミミズは冬期を除くすべての季節で主要なエサになるということ。そんな無くてはならないエサ資源であるミミズが絶たれることにでもなれば、ウナギは致命的な影響を受けることが予想される。それがコンクリートで固められた護岸であるという。

 本論文をまとめるにあたって行なわれた調査はコンクリート護岸で覆われた水域でも実施している。結果、コンクリート護岸の水域で捕獲されたウナギの胃内容物にミミズは検出されなかったのだ。論文は次のように記している。

「コンクリート護岸は、ウナギにとって重要なミミズの供給を阻んでいる可能性があり、河川環境の修復にあたっては、陸域と河川生態系の繋がりを回復、維持することも重要であると考えられる」

 ニホンウナギは環境省や国際自然保護連合により絶滅危惧種に指定されている。資源量回復のためには陸と川の繋がりを再生する必要があるといえるだろう。

 

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全長40cm 以下のウナギは特にミミズを好んで食べる

 

 

 

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