アジング釣行を繰り返すなかで、ふと感じるアジの生態に関する疑問の数々。そもそもアジって、どんな魚?そんなアングラーたちの疑問を海と魚のスペシャリストにとどけてみました!
アジにまつわる素朴な疑問をスペシャリストに聞きました!後編
まとめ◎ 猪俣博史
質問者: 丹羽喜嗣 広瀬逹樹 橋詰大輔 藤原真一郎
アジング釣行を繰り返すなかで、ふと感じるアジの生態に関する疑問の数々。そもそもアジって、どんな魚?そんなアングラーたちの疑問を海と魚のスペシャリストにとどけてみました!
この記事は2021年秋に出版された「アジングAnglers!」に掲載したものを再編集しています。
回答者:工藤孝浩
神奈川県水産技術センター内水面試験場主任研究員。海や魚に関する書籍やテレビ番組などの監修も数多く手がける海と魚のスペシャリスト
こちらの記事は 2021年秋発行のムック本「アジングAnglers!」に掲載されています。ビギナーからベテランまで誰もが楽しめるアジング専門誌。この1冊を読めば最新アジングシーンがまるわかり!コチラからチェック↓↓↓
目次
Q7:アジの適水温はどれくらいですか?
アジは北海道の全沿岸から九州南岸までのほぼ全国沿岸に分布しており、さらに国外では朝鮮半島南岸から東シナ海、台湾海峡を経て中国大陸南岸の海南島まで広大な海域に分布を広げています。このことは、幅広い水温帯に適応していることを示しています。北海道でよく釣れる水温と、南九州のそれを比較すると10℃近くもの開きがあります。また、適水温を求めて日本列島を南北に大移動する群れがある一方で、年間を通じて特定の湾から動かない群れもあります。つまり、アジの適水温は地域ごと、さらには群れごとに異なるので、絶対値としての適水温は存在しないと認識したほうがよいでしょう。
Q8:アジは眼がよい魚ですか? 視力はどれくらいですか?
網膜上にある視覚のセンサーである錐体細胞の密度から、デジカメの画素数を比較するような手法で、魚類の視力を推定可能です。これによるとアジの視力は0・11と推定されました。多くの魚類の視力は0.1〜0.2の範囲にあることから、アジの視力はどちらかといえば悪い部類に入ります。
Q9:アジにはどのようにモノが見えているのですか?
眼の角膜から水晶体を通って錐体細胞が集中する網膜中央部に入る直線を視軸といい、その方向を見る時に最大の視力が発揮されます。アジはこれがほぼ水平方向であり、真横から真正面のものはよく見えるものの、上方や下方にあるものはよく見えていないと推定されます。
また、アジは体長に対して比較的大きな眼を持っており、眼は平たい体の両側面からやや突出して付いています。そして、正面はもちろん背面の真上からも腹面の真下からも両眼がギリギリ見えます。これは正面のみならず真上も真下も両眼視できる、非常に広い視野を持つことを示しています。死角は真うしろのほんの一角だけです。ただし、広い視野の代償として両眼視のエリアはわずかであり、対象物との距離感の把握は不得手だと考えられます。こうした魚体のつくりから、本来は獲物をねらって捕食するプレデターではなく、プランクトンフィーダーであることがうかがえます。
Q10:ワームカラーで悩むことがありますが、そもそもアジは色を認識しているのですか?
ヒトの錐体細胞は3色型の色覚を持ち、赤・緑・青の光の三原色の混合でつくられた色が見えますが、アジはそれらに加え紫外線も見えています。錐体細胞は感度が低いので充分な光量を必要とし、日中にその能力を発揮します。
その一方で、低光量下での感度が高い桿体細胞の働きにより、アジは夜間でも物がよく見えています。しかし、桿体細胞は1種類の光にしか反応しないため、色覚には関与しません。つまり、日中のアジは紫外線を含む多彩な色を識別しており、夜間には物はよく見えているものの色は識別していないと考えられます。
Q11:クロアジとキアジ(金アジ)は別種ですか?
アジには、体高が低く背部が黒っぽい沖合回遊群の「クロアジ型」と、体高が高く黄色味が強い瀬着き群の「キアジ型」が知られています。前者は漁獲量が圧倒的に多いものの食味はイマイチで、後者は漁獲量は少ないが脂が乗って美味であるとされています。両者は体形や体色のみならず食味まで大きく異なることから、別種とはいえないまでも、亜種レベルの違いがあるのではないかと従来考えられていました。しかし、近年進展した遺伝子の研究から、遺伝的に両者には差がないことが明らかになりました。つまり、痩せか肥満かという体質の違いにすぎないようです。黒っぽい体色は透明度が高い環境に、黄色っぽい体色は透明度が低い環境に適応したものと考えられます。
キアジは、内湾などのエサに恵まれた海域に居着き、運動しないために体高が増して体脂肪率が高まります。これはヒトにも通じる現象でよく理解できます。ところが、クロアジはエサが乏しい外洋を泳ぎ続けるにも関わらずキアジと変わらない成長速度なのです。これは、非常に優れたエネルギーの転換効率をもつ体質といえます。
Q12:40cmを超える“ギガアジ”の正体とは?
既知のキアジでもクロアジでもないギガアジの正体について、私は「クロアジ大型化仮説」を提唱しています。その根拠は、耳石を用いたギガアジの年齢査定によります。
たとえば、私が調べた最大個体は、既知の成長式から大きくはみだす48㎝でした。これを無理やり式にあてはめると40歳を超える超高齢魚と推定されますが、実際は12歳でした。つまり、ギガアジは年齢を重ねた超高齢魚ではなく、超速で成長した巨大個体だったのです。ここで思い至るのは、クロアジの優れたエネルギーの転換効率です。エサに恵まれない外洋で激しい運動をしつつキアジ並みに成長するクロアジが、エサに恵まれた沿岸に定着したら、常識はずれのスピードで成長するのではないでしょうか。実際、ギガアジは湾奥部などでも釣れることが多く、キアジともクロアジともつかない体形、体色をしています。アングラーの皆さんはどうお考えでしょうか?
- 1
- 2