ダルマストーブは私にとって、貧しい実家での生活の象徴のようなものだったので、とてもキャンプ場に似つかわしいとは思えなかった。しかし興味はあったので近づいてみた私は、そのストーブのせいか、それともオジサンの魅力なのか、不思議に和んでしまったのである。
冬の釣りキャンプの楽しみは「火」
Photo & Text by Masao Okumoto
北海道の冬は寒くて長い。アウトドアでは、なおさらその厳しさを感じる。そこで今回は、暖を取るための炎を特集。寒風吹きすさぶ真冬でも、これさえあれば快適なキャンプになる。
Profile 奥本昌夫
1969年、豊浦町生まれ。ソロキャンプ歴35年。1996年より北海道と海外とでフライフィッシングとソロキャンプ生活を行なう。『North Angler’s』、『FlyFisher』で連載多数。著書『北海道の鱒釣り』(つり人社)、DVD『イトウ戦記』など。キャンプとフィッシングガイド「Fish Camp」主宰。ウェブサイトはwww.fishcamp.jp
ダルマ型薪ストーブの魅力
最後に、今のキャンプブームにもつながる話だと思うのでちょっと付け加えておきたい。火遊びはオジサンの嗜みである、という話なのだけれども……。
私がキャンプで薪ストーブがいいなぁと思ったのは、20年ほど前の5月の屈斜路湖でのこと。その年も釣り雑誌の執筆活動という名目で、1人で何日もキャンプをしながら釣りをしていた。そのときに、5月の湖畔のキャンプ場が思いのほか寒いことを思い知らされた。湖の水温はまだ1桁、浸かっていると1時間で唇が青くなってくる。だが肥えたアメマスがよく釣れたので、我慢して釣りをしていた。
週末になって、近郊の町から来たというオジサンが、懐かしい三角テントの前で妙なものを出しているのに気がついた。あのペラペラの鉄板でできた、ダルマ型の薪ストーブである。
ダルマストーブは私にとって、貧しい実家での生活の象徴のようなものだったので、とてもキャンプ場に似つかわしいとは思えなかった。しかし興味はあったので近づいてみた私は、そのストーブのせいか、それともオジサンの魅力なのか、不思議に和んでしまったのである。
夜更けまで、今はもう思い出せないような話をしていたが、会話が途切れるとオジサンはストーブを開けて薪を弄ったり、薪を鉈で細かく割ったりする。そのストーブの温もりに当たっていると、なるほど、キャンプでの薪ストーブは、なかなか頼もしいものだなと思うようになった。
ストーブの煙突はさほど高くはなかったが、焚火のように煙に巻かれて泣かされることはない。何よりストーブの輻射熱で、直火よりも暖まる。小さな焚付け(細い薪)を割るのを見ていると、子ども時代には苦痛でしかなかった薪割りとは、まったく違った行為に見えた。楽しそうなのである。
モクモクと出る煙は、焚火の炎と同じように、見ていると不思議な安心感に包まれる。この煙を直接浴びなくてよいのが薪ストーブのいいところ。焚火を数人で囲むと、必ず誰かが涙を流すハメになる
そのオジサンの薪ストーブは、小ぢんまりとしたスペースの真ん中、キャンプの主役だった。おそらくただ薪ストーブを燃やしにキャンプに来ていたのだろう。私は若くて釣りに忙しく、キャンプにそれほどお金をかけられなかったから、薪ストーブを買うのはずいぶんと時間が経てからだったが、今ではストーブなしに冬キャンプはしない。
手に入れた今も釣りなしのキャンプは出かけないが、釣りに行ってストーブを燃やすのは正しい行為なのだと思うようにもなった。薪割りも同様だ。
今なら、その理由がはっきりと分かる。釣りを終えて戻ったときに薪ストーブがあり、煙突から煙が漂うのを見ると、そこには温もりがあることがはっきりと分かる。一時的なものにせよ帰るべき家のように思え、癒されるのだ。水に浸かって冷える釣りは、どう我慢したって辛い。しかしストーブで煌々と燃える炎を眺めていれば、身体はもちろん心も暖まる。そう考えると、釣りと冬のキャンプは悪くない組み合わせだと気がつくのである。
細かく割った焚き付け。乾燥した枝でもいいのだが、これを割って作るのも楽しみ。和式ではナタを使うが、焚き付け割り専用にドイツ製の斧を入手した。遊び感覚がないと、ただの労働でしかない
実家でもらってきた通常サイズの大きな薪を適度なサイズに割る。重要なのは薪割専用の斧を使うことで、簡単に力いらずで割れるようになる。それと、割台になる平らで分厚く硬い板状の木を持ち運ぶこと
大型の薪ストーブにはこのサイズがちょうどよい。細くしすぎると火力は増すが火持ちが悪くなる。薪はどちらも広葉樹で、右がミズナラ、左がタモの木。油分の多い針葉樹を燃やすと、ストーブはタールとススで手入れが大変になる
せっかく火があるのだから、個人的には焼き芋作りにも精を出したい。直火で焼く時のコツは、アルミ箔をかなり厚めに巻くこと、早めに炎から出して、遠火でじっくり焼くこと。そうしないとすぐに黒焦げになってしまう
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