ベイトフィネス機の買い替えを検討していた牛久沼ローカルのお嬢様が自腹で2台購入したのは2022年発売のアブ・ガルシアの最新モデル「ZENON LTX」。その性能はお嬢様を満足させることができたのか? 実際に使用してみてのインプレをお嬢様が寄稿してくださいました。
王冠を戴く元祖ベイトフィネスの末裔は、このごろもお慕われあそばされまして? (お嬢様風インプレ)
文◎アライお嬢様
ベイトフィネス機の買い替えを検討していた牛久沼ローカルのお嬢様が自腹で2台購入したのは2022年発売のアブ・ガルシアの最新モデル「ZENON LTX」。その性能はお嬢様を満足させることができたのか? 実際に使用したインプレをお嬢様が寄稿してくださいました。
筆者プロフィール
キャトル・エターナル・アライお嬢様/FX取引に失敗し没落してしまったもののロッドだけは手放さずバス釣りを続けているお嬢様。インターネット在住、ホームは牛久沼。最近の悩みは執事たちのアドバイスがあまり役に立たないこと。(肖像画◎画像生成AI作)
現場を知らないアドバイスは役に立たない
釣りを愛するお兄様・お姉様、ごきげんよう。立てばジュンバグ、座ればツイン、歩く姿はエスケープのキャトル・エターナル・アライと申します。世のお兄様方もなさっているインプレというものを、わたくしもやってみたいと筆を執りましたの♪
さて、バス釣りを嗜むからにはとっておきのマイゲームを追求したいもの。場所、ルアー、メソッド……答えのない自然を相手に、あらゆる選択肢のなかから自ら正解をつかみ取ってこそ、1尾の感動も大きくなるのでしょう。道具選びでもそれは同じですけれど、情報が溢れる現代社会で最良の道具を選ぶには、時として芯の強さが必要です。「通販サイトで評価が多いのは~」などと、謎の令和最新版爆安モデルを勧めてくる執事たち……。それはわたくしに必要なものではなく、業者が売りたいものでしてよ……。
今回は、執事たちのアドバイスを総スルーして自腹で2台同時購入した「ゼノンLTX」に、わたくしが如何に満足しているかを、あなた様にも知っていただけたらたいへん嬉しうございます!!
わたくしが今年、バス用のベイトフィネスリールを新調したいと思っていたところ、執事たちはあらゆるメーカー様の最新モデルを網羅したカタログをもってきました。目がとまったのが昨年創立100周年を迎えたスウェーデン発の由緒ある釣り具ブランド:アブ・ガルシアの「ゼノンLTX」だったのです。
ゼノンLTX
なぜゼノンを選んだのか、実際の使い勝手は後ほどご紹介させていただくとして、まずは「ベイトフィネス」について説明いたしましょう。すでにご存じの方は読み飛ばしてくださいませ!
わたくしが牛久沼で主に使っているベイトリールと呼ばれるタイプのリールは、ルアーを投げ飛ばす際にスプール(糸巻き部)が逆転して糸が引き出されていきますから、その構造からして軽いルアーは扱いにくいという宿命を負っていますの。もし、あなた様が羽毛のように軽いルアーを使いたくなったとしても、普通のベイトリールで無理やりに投げようとすれば、たちまち糸が絡まってしまい、何かと口うるさい執事たちからは「だからスピニングをお使いなさい」などと余計な指図をされるハメになってしまうことでしょう。
だいたい執事たちときたら、牛久沼のカバー際をねらうのにどうしてもフロロ12Lb以上のラインを巻きたいというこちらの事情も知らずに口を出してくるのですから困ったものですわ!!
話が逸れてしまいましたけれど……。それまでスピニングでしか投げられなかった軽いルアーをタックルの制約という鳥籠から解き放ち、ベイトリールでストレスなく投げられるようにする試みがベイトフィネスという概念でございまして、それを可能にして執事軍団の小言を封じてくれるリールがベイトフィネスリールというわけです。
コラム:アライお嬢様が語るベイトフィネスリールの歴史
いまでは渓流や海のルアー釣りにも広がっているベイトフィネスという言葉が生まれたのはバスフィッシングのトーナメントシーンからでした。きっかけは国内バストーナメントの最高峰・JB TOP50シリーズで戦っていた沢村幸弘お兄様が2009年に手掛けられた「KTFレボエリート・ワークス仕様」。第1世代のアブ・ガルシア「レボ・エリート」に、軽量ルアーを投げるのに有利な軽量・低慣性の浅溝スプールを組み込んだこのチューンドモデルを、同じ試合を戦う好敵手の皆様がこぞって欲したことがその後のベイトリールの方向性を決定づけたと言えましょう。
ほかのリールメーカーも黙っていたわけではありません。むしろトーナメントでベイトフィネスなる釣り方が注目される以前から国内のメーカーも軽量ルアーへの対応力をうたったリールを送り出していらっしゃいました。2003年発売のダイワ「リベルト・ピクシー」、2001年発売のシマノ「カルカッタ・コンクエスト50」は、いずれも当時の標準より小さな径のスプールを備え、買ったそのままの状態で3.5gクラスのルアーもキャストができる性能を持っていました。巻き物ルアー向けの設計でしたので、ワームの釣りがメインのトーナメントシーンで主流にこそならなかったものの、いまでも中古市場で渉猟なさっているお兄様がいらっしゃる名品でございます。
なのですけれど…さらに時代をさかのぼり、いまから半世紀近く前の1975年、軽いルアーが投げやすいと絶賛されたベイトリールがすでに登場していましたの。そう、レボと同じクレストマークを輝かせたABU「アンバサダー2500C」ですわ!
お嬢様のアンバサダー2500C
70年代の日本はルアーフィッシングの黎明期ではあったものの、『フィッシュ・オン』や『オーパ!』(開高健)などの釣り紀行や『釣りキチ三平』(矢口高雄)の影響で、ABU(のちのアブ・ガルシア)のリールは国内でも憧れの道具として認知が進んでいった時代でした。これらの作中で登場するアンバサダーが5000Cや6000Cという大きな数字のモデルだったことからも、2500Cが標準と比べていかにコンパクトなリールだったかがわかります。その軽量ルアーへの対応力は、もちろん当時の他のリールと比べてのものなのですけれど、のちにベイトフィネスと呼ばれることになる試みの元祖と言って差し支えないのです。
ちなみに、そのポテンシャルの高さを買われてチューンアップパーツを組み込まれた2500Cが、昭和から平成をまたいだ令和のいま、渓流のルアー釣りの第一線で人気を博しているのですが、それはまた別のお話。
決め手はスプール径。すべては牛久沼で生き残るため
ベイトフィネスリールも今日ではいろいろな釣り具メーカー様から多くの製品が発売されています。そのなかで、アブ・ガルシアのゼノンを選んだのは、クレストマークが気高く輝いているから…というだけではありません。
ABUがスウェーデン王室御用達の名誉にあずかり、その証として国王の徽章であるクレストマークを自社製品につけるようになったのは1951年のこと。最新モデルにも燦然と輝く
たしかにそれはとても魅力的で、わたくしも第3世代のレボMGX、第4世代のレボSLC、LT7と牛久沼で使いこんできました。アブ・ガルシアのリールには全幅の信頼を置いてはいますけれど、きちんと他社様のリールともスペックを比べたうえでこのリールをもとめましたのよ。
決め手になったのはゼノンがΦ30mmという最新のベイトフィネスリールとしては大きめのスプールを備えていながら150gと軽いことでした。
なぜΦ30mmのスプールが必要だったかと言いますと……。
ご存じのとおり、スプールが小さいほうが軽いルアーを投げるうえでは有利ですから、ベイトフィネスリールのハイエンド機種はΦ20mm台の小径スプールが多くなってきています。けれど、小径スプールに太い糸を巻くと、糸がくるくるになってしまい、ピッチングやフリッピングで少々具合がよろしくなくなってしまいます。
わたくしが牛久沼で使いたいルアーはカバーネコと2.5inワームのヘビダンなのですけれど、岸際の障害物をねらって50cmのバス様もヒットするフィールドですから糸もあまり細くはできません。弛ませた糸の重さを使ってシェイクしたいのでPEではなくフロロを通しで使いたく、そうしますと細くしたとしても12Lbが限界。執事たちは「7Lbとかになさいませ!」などと指図してきますけれど、それに従ったら最後、ここいちばんにラインブレイクの失態を演じた結果、宗秩寮(そうちつりょう)※1からお叱りを頂戴してしまうのですわ!!!
バス様の数が少なくなっている昨今、ラインブレイクは最も忌むべき失態……執事軍団のアドバイスは心を鬼にしてスルーしなければならないのです。
12Lbのラインを巻くことを考えたとき、やはりスプール径は小さすぎないほうが良く、それでいてなるべく軽い機種をもとめられないかしら……と選んだ結果でしたの。
※1 宗秩寮(そうちつりょう):昔、宮内省にあった華族の監督を司る部署。「宗秩寮からお叱りを頂戴してしまうレベル」は旧華族出身のお嬢様コミュニティでは鉄板のジョークであるとかないとか
かっちり感とピッチング性能にお嬢様大満足
前置きがとっっても長くなってしまいました。悪い癖ですわ……(っ˃̶-˂̶ c)。
ここからわたくしが実際に牛久沼で使ってみた感想をお伝えいたしますね。ただ…お恥ずかしい話なのですが…家財の大半を失って没落してしまった身ですので…モニイ(金)※2にものを言わせてあらゆる最新機種をとっかえひっかえ使い比べるようなご紹介はできません。わたくしが過去に使ったリールとの比較となってしまう点はご容赦くださいませ。
※2 モニイ:明治初期の女学生たちの間では「ナイス」「モニイ(マネー)」など外来語を使うのが今でいうギャル語的なノリで実際に流行していた。ただし、当時の日本社会においては女性が漢語や外来語を使うのは生意気だとする風潮が強く、新聞には彼女たちの言葉遣いを批判する投書が見られる
お嬢様が使ってきたアブ・ガルシアのリール各種。第3世代のレボMGX(奥左)はたまやオープンで優勝したときのウイニングタックルなんだとか。第4世代レボSLC-IB8(中左)は2016年の発売と同時に2台同時購入(エスケープツインのテキサスリグ用)。132gという驚異的な軽さで、細腕のお嬢様にとっては替えの利かないお気に入りだそう
わたくしがこれまでメインで使っていたベイトフィネスリールは、第4世代レボシリーズのLT7というモデルで、これもたいへん満足して使わせていただいております。とくにマグネット式のブレーキはスプールの回転数を上げづらいピッチングでもしっかり効いてくれますので、トラブルがとっても少ないのが気に入っている理由です。
……なのですけれど、12Lbのラインを巻いて、Mパワーのロッド(これもカバー際をねらいたいことによるセレクトですので)で3.5gのダウンショットをピッチングしようとすると、わたくしのつたない技術では弾道がわずかに浮いてしまいまして、バンク際のウッドカバーの根元には少々入れづらく、この点がもう少々素敵になっていただければ……と、ゼノンLTXに期待をよせておりました。
ゼノンLTX(2022年発売)
自重 :150g
ギア比 :8.3:1
スプール径:Φ30mm
糸巻き量 :8Lb・50m
ブレーキ :マグトラックスⅢブレーキシステム
価格 :4万3500円+税
レボLT7(2017年発売)
自重 :166g
ギア比 :7.1:1
スプール径:Φ32mm
糸巻き量 :8Lb・100m
ブレーキ :マグトラックスⅢブレーキシステム
価格 :2万5000円+税
佐川のお兄様が届けてくださった荷物を開封すると、最近のリールには珍しい専用ケースのなかに誇らしげに収まったゼノンの銀色のボデーが目に入ってきました。
この喜びを何と表現いたしましょう……。うれしかったのは専用ケースが付属していたことだけではありません。
名機・アンバサダー2500Cを送り出したアブ・ガルシアが、世界的には決して需要が多いとは言えないガラバゴス的日本市場向けに、半世紀近くが経過した今でも、その末裔ともいえるベイトフィネス機をこれほどの気合を込めて送り出してくれたのです。
そんな世界的ブランドの気概にわたくしは北湖よりも深く感動し、ひとり全層循環※3を起こしながらゼノンを取り出し、リールを新調したすべての人びとがそうするようにゆっくりとハンドルを回しましたの……。
そうして気づいたこと……わたくしが今まで使ってきたアブ・ガルシアのリールのなかで剛性感が間違いなく最強なのです。わたくしとしてはベイトフィネスリールにはあまり求めていなかった性能ではありますけれど……ハンドルを回したときの遊びの少なさ、負荷をかけてもギアのかみ合わせにロスが生じていなさそうなこの感覚は釣り場での快適な使用感に直結するものですし、設計を同じくするゼノンシリーズの「MG7」「ビースト」の巻き物リールとしてのポテンシャルに大いに期待してしまいました。
※3 琵琶湖の全層循環:ターンオーバーと同じ原理で、晩秋から冬にかけて琵琶湖の最深部まで水が混合されること。「琵琶湖の深呼吸」とも呼ばれ、最深部まで溶存酸素が供給される生態学的に重要なプロセスだが、近年は暖冬でこれが起こらない年があり生態系への影響が懸念されていた。「ひとり全層循環」はお嬢様ジョークと思われる
第4世代レボLT7(左)と比べてギアボックスが顕著に大型化。大口径ドライブギアも剛性感を上げるのに一役買っていると思われる
が、その代償としてお嬢様の持ち方(3フィンガーのパーミング)では中指の収まりが少々窮屈に感じてしまったとのこと。「持ち方を改めればよいだけですから些末なことですわ」とお嬢様
そして、求めていたピッチング性能について。実際に12Lbのラインを巻いて、3.5gシンカーのレッグワームダウンショットをMパワーのロッドでピッチングしてみましたところ、ばっちり低弾道でウッドカバーの根元をねらうことができました。それも、ロッドの反発力を活かした速いスイングではなく、ふわっとしたピッチングでそれができましたの♪
牛久沼ではヘビダンでもシンカーの着水音が釣果に影響する実感がありまして、着水音を消しやすいふわっとピッチングを心がけているのですが、これではロッドの反発力が活かせませんからスプールの回転とブレーキ性能だけが頼りでした。まさにこの点をクリアするためにベイトフィネスリールを新調しようとしていたわけですけれど、ゼノンLTXは見事にその点を叶えてくれたのでたいへん満足です。
そして、わたくしが満足そうに14ftのレンタルボートで出船する姿を見て執事たちも喜んでくれたというわけですの。
このように自分にとって最高の道具に巡り合えるのは幸せなことです。ですが物と情報があふれた現代社会……。それはかえって難しくなってしまったのかもしれませんわね。
あなたが釣り具をお求めになるときにも情報の海で迷子になってしまうことがあるかもしれません。迷ったら答えは釣り場にございます。2023年もご釣行あそばせ!
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