身近な都心の水辺に棲む大型魚「シーバス」に近年魅せられ、夜のウエーディングを楽しむ。この釣りで何が一番怖いかと聞かれれば「アカエイ」と答える。その対策にマストなフットウエアをご紹介。
防弾・耐刀素材でエイの恐怖を克服
文◎サトウ シュンスケ
大田区在住で千代田区神田神保町勤務。身近な都心の水辺に棲む大型魚「シーバス」に近年魅せられ、夜のウエーディングを楽しむ。この釣りで何が一番怖いかと聞かれれば「アカエイ」と答える。その対策にマストなフットウエアをご紹介。
筆者プロフィール
サトウシュンスケ/1980年6月6日神奈川県生まれ。11歳のころからヤマメ・アマゴに魅せられ、25歳で入社してからはアユとグレにどっぷりとハマり、40歳を過ぎてルアーフィッシング(特にシーバス)に凝るようになる。取材旅が何よりも好きな月刊つり人編集長。
しがない中年親父が狩人になる夜
コロナ禍を経て韓国のアイドル歌手にハマりまくりの嫁の髪は最近ピンクになったり赤くなったり紫になったりしてポップなファッションを楽しんでいる。中学生になった娘は部活の卓球に打ち込み、時おりベースを弾いたり、絵を描いたり、漫画を読んだりして好きな物がどんどん増えているようす。女性ふたりのiPhoneからは好みの音楽が別々に流れ、家の中はぐちゃぐちゃな音に満ちていることが多い。家族がそれぞれの楽しみを見つけるのは結構なことで微笑ましい。が、どういうわけか自分の肩身は狭くなる一方である。それも仕方のないことで取材の長期ロードや編集作業で家を空けてばかりの親父ゆえ、たまにリビングで大の字に寝転んでいようものなら「邪魔!」と叱責を受けるのだ。
「亭主元気で留守がいい」
まさにこんな感じの中年親父となったわけだが、ある意味釣り場へ行ける自由を得たともいえる。仕事は忙しい。時間に余裕が生まれるのは夜ばかりという生活の中、たどり着いたのがシーバス釣りだった。
時合を読み、地形を知り「このタイミングでルアーを食わす」と潮時表やグーグルマップとにらめっこをする時間が楽しく、それらの読みが的中した時の快感ときたらない。四季折々の多彩なパターンに合わせたルアーの選択肢の多さも魅力だ。そしてドスッとくる重たいアタリ、ヘッドバンキングとエラ洗いの激しいジャンプによる抵抗、漆黒の川と海で繰り広げられる興奮度の高い攻防は、しがない中年親父がまるで狩人になったかのような気分に浸れる。
車に常備されているシーバスアイテム。この秋から導入した「レイガードⅡ」のおかげで一段ギヤの上がったウエーディングに繰り出すようになった
ウエーディングの一番の恐怖
2023年はシーバスファンになって2年目。ウエーディングにドハマりしてしまい夜な夜な川や干潟に浸かる単独釣行を繰り返している。夜の川や海に浸かるので充分な注意と装備で挑んでいるが一番の恐怖はアカエイだ。特に自分のホームである多摩川河口域はエイがすこぶる多い。腰まで浸かるディープウエーディングでフカフカの川底の浅瀬を進んでいると、巨大なエイホールを踏むことが何度もある。その瞬間「ウワ~」と思わず声が出る。そして毒針にいつ突かれるかという戦慄が走る。
そもそもアカエイは普段は砂底に浅く潜り、目と噴水孔、尾だけを砂の上に出してほぼ砂地と同化している。踏まなくても知らず知らずのうちにアカエイが潜んでいる目の前や胸ビレの周りを通りがかれば、驚いたエイが長い尾ビレを鞭のようにしならせて攻撃してくることも考えられる。
アカエイの毒針。この針がいつ自分を貫くかという恐怖がウエーディングにはある
その毒針は硬いノコギリ形状である。ウエーダーはひと突きで貫通して大穴が開く。刺された人の話を聞けば巨大なカニに思い切り挟まれたような疼痛が走るという。血がどくどくと出て、その傷口はなかなか塞がらない。人によっては発熱、嘔吐、血圧低下、痙攣などを発症し、アナフィラキシーショックによる意識障害や呼吸困難を引き起こす可能性もあり、最悪の場合は死に至る。タンパク質系の毒で細胞そのものを破壊していくから傷口を塞ぐことができない。つまり、穴が開いたら戻らない。7年経っても傷口がうずくというアングラーもいるくらい痛みが残る。この毒は熱に弱い性質があるので、応急処置としては40℃くらいのお湯で患部を洗うことである。
そんな恐怖の釣りをすること自体「阿呆か」と突っ込まれる方もいるだろうが、釣り人の欲望は果てしない。釣果を得るという成功体験を経ていくと欲望はエスカレートする。まだ見ぬ世界への挑戦、言い換えれば「非日常」を味わいたくなってしまうのだ。なにしろシーバスの通り道に近づけるウエーディングを始めると、潮目やミオ筋にどんどん近づきたくなって自然と前進してしまう。
エイがとんでもなく多い多摩川河口域
これ以上のアカエイ対策はない!
さて、そんなウエーディングファンのひとりとして、今年入手したのがパズデザイン「レイガードⅡ」である。5万6000円+税とかなり値は張るものの、アカエイ対策としてこれ以上の投資はないだろう。
まずウエーダーの中に履くインナータイプのエイガードである。このタイプのエイガードには2タイプの繊維(スぺクトラ繊維とアラミド繊維)があり、素材も高強度ポリエチレン、ケプラー、ノーメックスの3種類がある。それぞれの特徴がある中で、レイガードⅡに採用されているのは高強度ポリエチレンを素材にしたスぺクトラ繊維である。この素材のメリットを列挙する。
・耐切創性が高く切れにくいため警察や警備などの防護服に向く
・耐水性が高く吸湿度による劣化はしない
・紫外線による劣化が少なく、船の係留ロープにも多用
・繰り返し洗濯が可能
防弾・耐刀素材として工業用・作業用グローブとしても使われる頑強な繊維で編まれており、その網目はエイの毒針よりも小さいことから貫通を防ぐ。防弾チョッキと同じ構造で、跳ね返しているのではなく強靭な繊維の摩擦で侵入を防ぐ(ただし防弾チョッキはレイガードⅡよりも重ねる布の枚数が多く使用する糸も太い)。メーカーの話では千枚通しでグサッと刺しても5mmくらい入ったところでそれ以上は入らないという。
つまりこの網目より細い毒針であれば、先端の切っ先部分が少し侵入してしまう可能性はゼロではない。だから「100%の防御」とは謳わず「被害の軽減」という表記にとどめている。が、実際にはくるぶしより下には2枚のスぺクトラ繊維の生地目をクロスさせて重ね、ふくらはぎ部分にスぺクトラの樹脂板を入れることで可能な限りの進入を防ぐ構造になっている。
レイガードⅡの愛用者は「長く酷使をしても生地が全く傷まない」と口を揃え、長い目で見れば「むしろ経済的」と言う。その愛用者のひとりは10年履き続け、これまでに10回以上エイを踏んでいる。うち4回は毒針に刺されてウエーダーに大穴を開けられたそうだが、大けがを負ったのかといえば、レイガードⅡを装着していたおかげで無傷だったそうである。
さまざまな締切に追われる年末の多忙極まる中も、深夜の数時間は狩人になった自分に酔い浸る。そしてレイガードⅡを履いている自分は、エイホールを踏むたび「来い!」と叫びながら夜の川や干潟地帯を前進していく。そうして今年は自己記録の88cmを含む80cm以上を6尾、ウエーディングでキャッチすることができたのだ。
自己最高記録魚をウエーディングでキャッチ
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