人気番組「情熱大陸」にフライフィッシングの名手・渋谷直人さんの出演が決定! 好評発売中『FlyFisher』2021年6月号では渋谷さんの釣りにフォーカスした特集を組んでいます。 ここでは記事の一部を再編集して掲載。 渋谷直人さんはフィールドで何を見て何を考えているのか?
知っていれば明日役立つ、的確な思考と言葉。
津留崎 健=写真
人気番組「情熱大陸」にフライフィッシングの名手・渋谷直人さんの出演が決定! 好評発売中『FlyFisher』2021年6月号では渋谷さんの釣りにフォーカスした特集を組んでいます。ここでは記事の一部を再編集して掲載。渋谷直人さんはフィールドで何を見て何を考えているでしょうか?■「情熱大陸 vol.1157 渋谷直人 フライフィッシャー」
6月6日(日)よる23:00~放送
秋田県玉川水系斉内川は雪代が終わると同時にオオクママダラカゲロウのスーパーハッチがあることで有名なライズ河川である。今回の取材ではよい時期から少し遅れた6月初めに訪れたため、スピナーフォールも少なめで大ヤマメのライズに遭遇することはできなかった。それでも各ポイントでは綺麗なヤマメたちが数尾ライズしてくれて、ドライフライ・フィッシングを楽しませてくれた
◆こちらの動画も要チェック!
渋谷直人さんがフライフィッシングで100投以内に尺上イワナ5尾をねらいます。 盛期の渓流とはいえ、目標が高すぎでは……? リテイクなし、(もちろん)やらせなしの実釣ドキュメントです!
「ドライフライ・フィッシングは、すべての渓流釣り方の中でも、最大限の威力を感じる釣法」
渋谷直人=文 Text by Naoto Shibuya魚釣りとは狩猟である、と僕は考えている。狩猟である以上、獲物を捕まえるための執着心をなくしては成立しない。これはフライフィッシングでももちろん同じだ。
僕がメインターゲットとしているヤマメ、イワナは、フライフィッシングでねらうには、世界的に見ても難易度が高いと思う。サイズが大きいわけではないが、すばしこく、なにしろ警戒心が非常に強い。この「難しいターゲットをどうやったらうまく捕まえることができるか」を考えたすえに、僕は釣りの手段としてドライフライ・フィッシングにたどり着いた。ヤマメ、イワナを本当に甘く見てはいけない。どれだけ釣り人側が有利になることに集中しても、思いどおりにならない魚だ。
僕は、この最高に難しい相手を前にして、「優雅にフライフィッシングらしく」というイメージを捨てなければならないと思っている。この釣り自体は海外から伝わったもので、確かにスタートは、スタイリッシュで外人っぽく釣りすることが目的だったことは否めない。しかし渓流に立ち続ける間に、ヤマメ、イワナを確実に釣るにはそのために適応しなければならないと感じた。もちろんこれは僕だけではなく、日本にフライフィッシングを定着させた先輩たちの中にも同じことを考えた人たちがいた。これは逆に、日本のフライフィッシングは、難しい対象魚によって変化させられたともいえる。
しかも、エサ釣りやルアーと、各種の釣り方を楽しむ人たちと同じ渓流を共有するのだ。言葉は悪いが、彼らを出し抜くにはなにか武器が必要だった。そして僕は、先輩たちの釣り方も参考にしながら渓流に立ち続けるうちに、その有利さを最大限に生かせるのはドライフライだと考えるようになった。
これは、磨き上げれば日中の時間帯では圧倒的に長い時間チャンスがある、ヤマメ、イワナに向いた釣法であると思う。僕にとってのドライフライ・フィッシングは、すべての渓流釣り方の中でも、単純に最大限の威力を感じる釣法で、その一番有利な方法以外で釣りをしたいとは思えなくなった。
僕が重要視しているのは、必要なタイミングでしっかりと尺ヤマメ、尺イワナを仕留められるかどうかである。そして、それを繰り返し再現できるかということだ。「僕自身に釣りの師匠は存在しない。見習いたい姿勢の釣り人は何人もいるが、釣り方をマネしたいと思うような人はいない。自分の空想の中の世界が理想であり、それを現実に最も近づけられるのは自分以外にありえないと思っているからだ。
『FlyFisher』2021年6月号では、渋谷さんがこのように考えるようになった経緯や、釣りを組み立てる考え方、理論について思いつく限り解説していただいています。この下に続く取材時の写真のあとに、渋谷さんの釣りを長年見続けてきた『FlyFisher』滝大輔編集長による人物評を掲載します。
高校生の頃、ダブルハンドにシンキングラインでサクラマスをねらい2年間1度もアタリさえなくめげていた時に、気晴らしに来たこの斉内川でのライズフィッシングはすべてをリセットしてくれるきっかけになった。あの時釣れた9寸オーバー6尾が改めてドライフライにもっと取り組もうと思わせてくれた
この区間に入るための杣道がしっかりとあったのだが、かなり分かりにくくなってしまった。知らずに急斜面を降りると危険なので注意しなければならないが、釣りが上手な人は道を探すのも上手だし危険回避能力にも長けているように感じる
この堰堤が最終部落からの遡上止めになっていたのはもう30年以上前の話で、今は中間部に大きな堰堤ができてしまい期待感が薄くなってしまった
この日のアベレージサイズ。25cm程度だが雪代明けの磨かれたような魚体は美しい。オオクマスピナーの流下量によりライズするサイズが大きく異なるのは、この川の魚影の多さを物語っている。プール一面のライズが過去にはよく見られたが、現在は有名ポイントも形を変え少なくなりそれにつれてヤマメの数も減った気がする。スピナーフォール最盛期には40cmクラスの大イワナのライズも珍しくなかったが、最近は最高の季節に来れていないのでどうだろうか
渋谷直人の思考は1度の釣行で最大限の喜びを得る、という目的へ一直線
『FlyFisher』編集長から見た渋谷直人初めて一緒に渓流に立ったのは何年前だったかよく覚えていない。それでも初夏、雨の日の翌日の素晴らしく晴れ渡った渓流で、それは美しいヤマメを何尾を目の前でこともなげに釣ってみせてくれた光景は、今でもたまに夢にみる。いくら東北とはいえ、魚はあまりに簡単にフライに飛び出してくるから、この渓流はスレてないんだなあと思えていたのは、自分もサオをだすまでのことだった。
川連ロッド7フィート7インチ#3が届いた日から、自分では「格闘」といってしまいたいくらいのチャレンジが始まった。「納得するまではこのロッド以外は触らない」と友人たちに公言までしてやってみたが、6Xティペットのスプールはすぐ空になるし、ちょっとのことでイライラして、自分の小物ぶりを突きつけられた。
筆者は、渓流のフライフィッシングについて、4つの要素を勝手に設けている。
1・現場判断能力。今、魚はどのような状態で、どのようなエサが流れてきているのかを現場で知る能力。魚釣りの基礎といえるかもしれない。
2・釣り場選択能力。この季節、この天候で、どの川へ行ったらよいのか、という釣り場の知識と経験。
3・実行力。いろんな仮説を立てることができても、それを現場で実際にやってみる、というのは意外にハードルが高い。あのフライが効くかも、と思っても、結び換えるのが面倒で、そのままにしてしまったり、あのプールが怪しいと思っても、降り口を簡単には見つけられず引き返したり。
4・運動能力。思ったところに思ったようにフライ、ティペット、リーダー、ラインを落とし、ナチュラルドリフトができる能力。これを実現するには反復しかない。
実はこの中で、4の重要性はかなり高いとニラんでいるのだが、ここは筆者はもう諦めたクチだ。草野球後のビールが楽しみなおじさんが、イチローのスイングを教わってもしょせん無理な話。だから今回の『FlyFisher』特集にあたっては、具体的な技術以外の考え方や心構えのようなものを中心に語っていただいた。
彼にはアンチがいるかもしれない。直接的な発言で、周囲がピリッとすることもある。ロングティペット・リーダーシステムを使い切れなかった人もたくさんいる。あくまでフライフィッシングは遊びであるし、●●道、というように突き詰めれば、それだけつらくなることもある。それでも渋谷直人の思考は1度の釣行で最大限の喜びを得る、という目的へ一直線に向かっていて、それは多くの人と一致するはずだし、彼の話にはハッとさせられる言葉が詰まっている。
■渋谷直人公式ホームページ:http://kawatsura.com/
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