2021年8月21日にクロマグロ採捕の規制が強化され、2022年6月1日まで遊漁(釣り)は禁止となった。この経緯や背景について釣人専門官である小川一人さんに話を聞いた。
クロマグロ採捕禁止は資源豊かな未来を目指す措置
まとめ◎編集部
2021年6月に遊漁でのクロマグロの30kg未満のキープ禁止、30kg以上は要報告という規制がかかったが、8月21日にはクロマグロ採捕の規制が強化され、2022年6月1日まで遊漁(釣り)は禁止となった。この経緯や背景について釣人専門官である小川一人さんに話を聞いた。今回の要点
◆クロマグロ釣り規制についての詳細(2022年6月1日から新たな規制が始まっています。採捕禁止の公示等もこちらからご確認ください)- クロマグロは世界的に資源管理が行なわれている
- 採捕禁止=リリース前提のクロマグロ釣りも禁止
- 誤って釣った場合や死んでしまっても必ずその場でリリース
- 2022年の6月1日から再開できる
クロマグロを対象とする遊漁者・遊漁船業者の皆様へ(水産庁)
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クロマグロは世界規模で資源管理が必要な魚種
まず念頭に置いてほしいのが、クロマグロは資源が少なく資源管理が行なわれている魚種であるということ。世界規模で管理を取り組んでいて、日本もそのひとつだ。6月に発表された規制は、遊漁において30kg未満はキープ禁止、30kg以上は水産庁に報告の上、キープ可能というものだった。それでも発表後2週間で水産庁が想定した漁獲量を上回り、日本海でのクロマグロ釣りの自粛が要請された。漁獲のペースは緩やかになったが、それでも増え続けていった。そこで広域漁業調整委員会が7月末から8月上旬にかけて会議が行なわれ、今回の遊漁におけるクロマグロの採捕禁止という指示が決定された。もちろん、この会議では日本釣振興会など遊漁の団体からも意見をもらっている。
禁止の「採捕」はランディング行為も含む
そもそも採捕とは自然界のものを人の支配下に置く行為を指す。釣りでたとえると、魚がヒットしてファイト中はバラす可能性があるので採捕ではないが、キープはもちろん、ランディングも採捕にあたるのだ。今回の指示は採捕が禁止なのでリリースすればクロマグロ釣りをしてもよいという話ではない。さらにマグロ類は長時間のファイトや出血などさまざまな理由で完璧なリリースは難しい。今回の指示では、たとえ死んでしまってもその場で捨てなければならない。なぜなら港まで持ち込んでから捨てると「投棄」という別の問題になってしまうからだ。他の魚をねらっていて偶然掛かってしまった場合も同様だ。船釣りであれ、岸釣りであれ、その場でリリースをしなければならない。
ちなみに30kgを基準としていた理由は、クロマグロは30kgほどで成熟するからだ。一度は産卵をさせたいということもあり、30kgを基準としている。クロマグロは一度の産卵で100万粒以上産む。さらに産卵場所は日本の近海。親魚が減ってしまえば資源量に痛手を与えてしまうのは容易に想像できるだろう。また、国際的にも大型と小型の区分が30kgとなっているようだ。
遊漁に割り当てられた漁獲可能枠が上限に迫ったことによる禁止措置
現在、クロマグロはTAC制度(漁獲可能量制度)によって資源管理されている。年間漁獲量の上限が定められていて、漁業者に枠が分配されているのだ。その中で遊漁の枠というものは制定されておらず、現在は留保枠というバッファーの枠から遊漁に充てているのである。その留保枠とは年間81.7トン。その内訳は約50トンが漁業の突発的な漁獲量超過に対応するもの。10トン程度は学生の漁業実習による漁獲への充当分、残る約20トンが遊漁用に充当している。今年はこの20トンに差し迫っていることから今回の釣り禁止の指示が出たことになる。
遊漁者の意見を尊重してもらうためにも指示は守りたい
漁業者への資源管理は以前から行なわれていたが、遊漁の管理は今年が初めて。まだまだ体制が不充分で混乱を招いてしまったようだが、今後も遊漁の意見を取り入れつつ、改善されていくことだろう。現状は留保枠を間借りしているが、釣り人が指示を守り、資源管理に協力していけば、遊漁の枠ができる可能性も充分にある。資源を増やして多くの人がクロマグロ釣りを楽しめるようにするためにもしっかりと指示は守ってほしい。
※2021年8月28日追記
本記事公開後、シェアしたつり人公式Facebookに読者の皆さまから多数の意見をいただきました。ほとんどは「日本に与えられたクロマグロの9000トンの漁獲枠の中の、わずか0.2%程度に過ぎない遊漁の20トンを厳しく管理する一方、全体の6割以上を占めるとされる産卵期の巻き網漁を規制しないのはなぜか」という意見でした。この疑問を水産庁・釣人専門官の小川一人さんにぶつけたところ、下記の回答をいただきましたので追記いたします。
A.こちらもそのような意見を多数もらっているが、20トンもいかない漁業や、漁獲枠が1トンも満たない県がある中で、20トンは決してわずかではないと思う。
産卵期の採捕について、WCPFCの科学委員会(ISC)での報告では産卵期のマグロ親魚量と加入量(仔魚)の間には明確な相関関係が見られないとされている。水産庁としては小型魚を取らないことで多くの個体が一回でも産卵を経験させた方がよいとしている。
さらに、巻き網漁については、2002-2004年における小型魚の漁獲量よりも半減するよう措置が取られていて、これはどの漁法でも同じ措置である。さらに巻き網漁船は独自に2002-2004年の漁獲量である1/3、1500トンまで漁獲量を減らしている。