今回のクロマグロ採捕禁止措置に対して水産庁には「遊漁者には理不尽な措置だ」という意見が多く寄せられている。釣り人はどう対応していくのがよいか? 水産資源学を専門にしている東京海洋大学准教授・勝川俊雄さんに話を伺った。
非民主的なクロマグロ採捕停止の問題点
解説◎勝川俊雄
今回のクロマグロ採捕禁止措置に対して水産庁には「遊漁者には理不尽な措置だ」という意見が多く寄せられている。釣り人はどう対応していくのがよいか? 水産資源学を専門にしている東京海洋大学准教授・勝川俊雄さんに解説いただきました。勝川先生Twitter:https://twitter.com/katukawa
公式サイト:http://katukawa.com/
◆クロマグロ釣り規制についての詳細(2022年6月1日から新たな規制が始まっています)
クロマグロを対象とする遊漁者・遊漁船業者の皆様へ(水産庁)
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国際的な義務の上では、遊漁への規制も不可避
今回の禁止措置について、理解しておきたい要点は2つ。①国際的な義務と②国内の手続きについてだ。➀の国際的な義務については、日本も加盟している中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)という国際組織が、クロマグロの漁獲枠(漁獲上限)を国単位で定められていることが背景にある。商業漁業ばかりでなく、スポーツフィッシングも対象となるので、規制の網がかかるのは不可避である。
アメリカをはじめとする多くの先進国では、商業漁業だけでなく、スポーツフィッシングもすでに規制の対象になっていて、漁獲枠や報告義務などさまざまなルールが整備されている。一方、日本では、スポーツフィッシングはこれまで規制の対象外で、報告義務もなければ、捕獲数量の把握もできていなかった。今年の6月に、水産庁は重い腰を上げて、釣り人のクロマグロの採捕量の調査を開始したところ、想定をはるかに上回るペースで漁獲されていったため、急遽、採捕禁止措置に踏み切ったものと思われる。
国内手続きは非民主的で問題が多い
採捕停止にいたる日本国内での手続きには疑問点が多い。水産庁は8月20日に通達を出して、8月21日からクロマグロ採捕の全面禁止(キャッチアンドリリースも許可せず)とした。突然のことで、釣り人ばかりでなく、釣り船、旅館、コンビニなど、釣り客に依存していた地域経済にも少なからぬ混乱を与えている。本来規制すべきスポーツフィッシングを後回しにしてきた行政の不手際のツケを釣り関係者が払わされているのである。漁業法では、内水面におけるスポーツフィッシングにおける規定はあるが、海面のスポーツフィッシングに関する規定はない。今回の採捕停止を決定した広域漁業調整委員会は、そもそも漁業者間の利害調整のための組織であり、スポーツフィッシングに関する決定をする機能は無い。委員にスポーツフィッシング関係者はいない。釣り人を参考人として話をする機会を与えたが、その意見は全く反映されていない。
釣り人にもクロマグロ資源を利用する権利はあるはずである。スポーツフィッシングを資源管理の枠組みに入れるならば、釣りの現状やそれらが地方に与える経済効果なども考慮した上で、漁業と釣りをどう共存させていくかを、釣り人も交えて議論すべきだろう。クロマグロの漁獲規制が始まって何年も経っているのに、スポーツフィッシングを無視して、漁獲枠のほぼすべてを商業漁業に配分してきたのは水産庁の不手際である。それを理由に、スポーツフィッシングの漁獲枠を設定せずに、採捕禁止に踏み切るのは非民主的である。
国の行政機関が命令等(政令、省令など)を定めようとする際には、事前に広く一般から意見を募るためのパブリックコメントの実施が義務づけられている。その手続き等は行政手続法(第6章)に示されており、原則として、案の公示日から起算して 30日以上の意見提出期間を定めることになっている。憲法で認められた経済行為を規制するにもかかわらず、クロマグロではこういった手続きも無視されている。
漁業法改正によって、クロマグロばかりでなく、多くの魚種についても、今後は漁獲規制が強化される見通しである。釣り人不在のまま、一方的に国がクロマグロの採捕停止を決める事を容認すれば、他の魚種についても同じように手続きが進められる可能性が高い。クロマグロを狙わない釣り人にとっても他人事ではないのだ。
釣り人の権利をどうやって守るのか
国際的な流れに従えば、水産資源管理の枠組みにスポーツフィッシングが組み込まれるのは必然であり、釣り人の理解と協力は必要である。一方で、クロマグロの採捕停止の決定が、釣り人を無視して、非民主的な方法で行なわれたことは問題である。管理義務が課せられる以上は、釣り人にも関係者として合意形成に関わる権利を要求すべきだろう。釣り人の権利を主張する上でネックとなるのが、釣り人を代表する交渉窓口が不明なことだ。商業漁業には、漁協や業界団体など、外部と交渉する窓口がある。スポーツフィッシングとして窓口の一本化をしないと、国や水産業界も、誰と交渉したらよいいのかわからず、議論の場を設定できない。スポーツフィッシング関係者は、対外的な窓口を早急につくった上で、国や漁業関係者に対して、クロマグロ資源の有効利用に関する議論を呼びかけるべきだろう。
編集部より
今回はクロマグロへの規制だが、今後は他の魚種にも制限が掛かってくると予想されると勝川先生は言う。
今まで日本の遊漁は治外法権であり、そこに甘えていた。しかし、世界基準に従い、釣りは好きにやっていいという時代は終わりを迎えようとしている。現状のままでは、今回と同じような事態が今後起こる可能性は充分にある。
遊漁も資源管理のステークホルダーとして行政に認められつつある今こそ、釣り業界全体で行政へ交渉するための仕組みを作っていくことが急務だ。
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