どこでメジナを食わせるか。競技会で活躍する名手は千変万化する海を前に迅速にポイントを見極める。大分県佐伯市に住む田中修司さんもそうだ。潮流と風が複雑な自然条件で、仕掛け選択、コマセワーク、ライン操作を的確に行なう。さらなる1尾、そして良型を引き出していく釣りの組み立ては鮮やかだ。
おすすめ時期:12~1月
つり人編集部=写真と文
40cm のオナガメジナを手にする田中修司さん。’13 年シマノジャパンカップ磯(グレ)釣り選手権全国大会で優勝。’15 年大会では準優勝。2女の父、2人の孫もいる
どこでメジナを食わせるか。競技会で活躍する名手は千変万化する海を前に迅速にポイントを見極める。大分県佐伯市に住む田中修司さんもそうだ。潮流と風が複雑な自然条件で、仕掛け選択、コマセワーク、ライン操作を的確に行なう。さらなる1尾、そして良型を引き出していく釣りの組み立ては鮮やかだ。この記事は『つり人』2016年2月号に掲載したものを再編集しています。
5試合で30㎏弱のメジナを釣る
五島列島は長崎県の西、東シナ海上に浮かぶ大小140の島々からなる。黒潮から分岐した対馬暖流が川のように流れ、クチブトメジナ、オナガメジナともにすこぶる多い。磯釣り競技会の決戦の舞台とし毎年さまざまな大会が催され、2015年11月下旬には、列島最大の福江島周辺で『シマノジャパンカップ磯(グレ)釣り選手権全国大会』が開催された。檜舞台で活躍した名手のひとりが田中修司さん。今大会では上田泰大さんに敗れ2位の成績に終わったものの、予選5試合の総釣果はトップ。その重量28.625㎏と圧倒的な釣果を上げた。中でも予選リーグの3試合目は1時間30分の競技で10㎏を超えるメジナを引き出す。これだけの重量を釣りあげるには、数を釣るのはもちろん、良型を揃えなければ難しい。今回は同大会の終了後に田中さん監修のロッドテストに同行する機会を得た。当日のようすを振り返っていこう。
2015年シマノジャパンカップ磯(グレ)釣り選手権全国大会の翌日、新作ロッドのテストで訪れた五島列島は草島・北のハナレで何度も40cmオーバーを掛ける田中さん
中ハリスを介す理由
田中さんと訪れたのは福江港から行程30分ほどの距離にある草島の北のハナレ。
「磯は限られたエリアしか釣れません。立ち位置を決めたら、大抵は目の前の180度のエリアで釣りを組み立てるのです。刻一刻と変わる海に対応する仕掛けは何とおりもありますが、なるべく同じ仕掛けで釣ったほうがタイムロスはありません」
そう話す田中さんの仕掛けは中ハリスが特徴だ。ミチイトとハリスの間に中ハリスを介し、そこにウキを通している。中ハリスにはフロロカーボン1.5~1.7号を用い、ミチイトが1.7号なら中ハリスは1.5号。ミチイトが2号なら中ハリスは1.7号。その長さは1~1.5mを基準にしている。
フロロカーボンは重い。中ハリスはウキのトップよりも沈んだ位置にあり、常にウキに密着する。風波などの表層の流れに仕掛けがとられにくいのもメリットのひとつ。軽い浮力のウキであれば、イトの重みを背負って沈みやすくなる。田中さんは00号のウキを主に使い、沈めて釣ることが多い。「潮のつかみやすい幅広い形状のウキ、10~13gが使いやすい重さですね。ウキにバランサー鉛を貼って浮力を調整することもありますが、主にガン玉を打って状況に対応しています」
もうひとつの特徴は中ハリスに3つのウキ止メがあること。上ふたつは化繊目印で、ウキから20㎝上にはなるほど結びのウキ止メをセットする(写真A)。
「私の釣りは基本的にウキ下を固定したいのです。ウキ止メを付けないと、付けエサの位置がイメージしづらくなります。アタリが出た時になるほどウキ止メはウキが抜け、食い込みを妨げません。次に目印のウキ止メに引っ掛かるのですが、この時にアワセを入れます。私の中でなるほどと目印、2つのウキ止メの距離は、食わせ幅という考えです。魚の活性が低い時は、しっかりと食い込ませるためにも距離を長く取り、高活性なら短くします」
上に2つ付けた目印のウキ止メは適切なライン角度を見るため、また手前のポイントでアタリを見るうえでも重宝しているが、中ハリスを使う理由はなんといっても繊細なアタリを手で取りやすいことだという。
「ウキの上部で下にたわんだ中ハリスは、張るとウキが下に引かれるのです。こうなると水面下のイトはハリまでが一直線になりやすく、小さなアタリが手もとまで明解に伝わりやすくなります(図A)。コンとかコツンと手で感じるアタリを取って合わせることは何度もあります」
図A 中ハリス使用時の水中イメージ ①中ハリスのフロロカーボンは比重が高い。ウキのトップよりも下にたわむ感じで馴染む
②フロロカーボンの重みが乗ることでウキは沈みやすくなる
③ミチイトを張るとウキ上部の下にたわんだフロロに引かれるようにしてウキがシモる
水中のイトが真っすぐになりやすく、アタリも伝わりやすくなる潮
①ナルホドから上の目印ウキ止メまでを長くエサをなかなか吸い込んでくれない。活性の低い魚が多い時
②ナルホドから上の目印ウキ止メまでを短く
①’エサをなかなか吸い込んでくれない。活性の低い魚が多い時
②’オキアミに食いついた後ですぐに反転するような活性の高い魚が多い時
ウキ下に付けるストッパーは小粒だ。潮を受けるのはウキであり、その下には大きな抵抗物を付けたくないという。
ハリスは1.5~1.7号。長くて3ヒロ(約4.5m)。田中さんのウキ下は主にハリスの長さ分である。
ハリは4~5号のストレートタイプ。重量を競うことが多い大会では良型のクチブトメジナを主体にねらう。オナガメジナの場合は飲まれにくいネムリの入ったハリを使うが、クチブトねらいであればハリ先の立ちやすい形状ほど掛かる率が高い。
上滑りする潮はその下層を流す
この日の最初の状況を解説したのが図Bだ。田中さんは東側先端付近に立ち位置を決めた。5mほど沖は、本流に引かれる潮が右から左に流れ、磯際周辺は反転流がある。
図B 二枚潮(上滑りする潮)を釣った時の状況
①先に打つ寄せエサ
②仕掛け投入。仕掛けを早く馴染ませるため00号のウキに4号ガン玉を噛ませる
③後に打つ寄せエサ
④イサキが連発したので投入点を沖に変える
aミチイトを送らず、張って流すため仕掛けは手前方向に寄りやすい
b微風時はこの反転流にミチイトが取られないようにサオを立て気味にして操作
豊穣の東シナ海に浮かぶ五島列島。島々の間を時に川のような潮が走る。複雑な潮流を相手に巧みに仕掛けを送り込む田中さん
田中さんはまず00号のウキにシズを打たず引かれ潮に仕掛けを投じた。田中さんはサオを立て、ミチイトを手前の流れに置かないように操作する。反転流にミチイトが取られると仕掛けが素直に流れにくい。強風時では当然このような操作はしにくいが、この時の風はそよ吹く程度。引かれ潮は速く、ウキは上滑りして仕掛けが馴染む前にあっという間に本流まで運ばれる。寄せエサの溜まりやすいヨレ、すなわちポイントに仕掛けが落ち着かない。
「上滑りする潮を釣る時は、ウキが上潮の層を素早く通過するように重めのガン玉を噛ませます。潮の速さなど状況に応じて打つガン玉は変わりますが、00号のウキに5Bのガン玉を噛ませることもあります」
田中さんはG4のシズをウキ下30㎝ほどに噛ませ、馴染みを速くした。投入間もなくジワジワと沈んだウキは上潮の下層を漂うように流れていく。この際、ウキが沈みすぎないようにミチイトはほとんど送り込まず、張り気味にして流す。ねらいのヨレまでウキが運ばれると、きれいに消し込んだ。浮上したのは脂の乗ったイサキ。これが2尾、3尾と釣れ続いた。
本流と引かれ潮の境目ではイサキが先に食ってしまう
「イサキとメジナはエサを捕食するタナが違う場合もあれば、潮筋が違うケースもあります」
と言って今度はやや沖に仕掛けを投入。ポイントをずらすと本流の手前のヨレで、ヒュンと勢いよくミチイトが引かれた。合わせると気持ちよくサオを曲げてくれたのは、40㎝クラスのオナガメジナであった。
当て潮を征すポイントストローク
午前9時を回った頃から当て潮と向かい風が強くなった。アタリが遠くなったので、田中さんは風裏となる西側に釣り座を移した(図C)。
図C 当て潮を釣った時の状況 ①先に打つ寄せエサ
②仕掛け投入
③後に打つ寄せエサ
④エサ取りを足止めする寄せエサ
風裏は海面が池のように凪いでいた。手前にエサを撒けば、スズメダイやチョウチョウウオなどの魚影が見える。そこで追い風を利用して40mほど沖に遠投。仕掛けと寄せエサを合わせると、ウキは本流に引かれていく。本流と引かれ潮の境目となるヨレまで送ると、これまたイサキが連発した。
「本流に近づくほどイサキが群れていますね」
田中さんは遠投をやめ10mほど沖の泡が浮かぶ潮目にねらいを絞った。手前のエサ取りを足止めする寄せエサを数回撒いてから、ポイントにも撒き、その潮下に仕掛けを入れた。潮上に寄せエサを被せたところで、馴染んだウキがじわじわと沈む。オープンベールで出した手もとのイトを指でつまみ、軽く引いてアタリを聞く。と、一気にサオを立てた。
「コンときましたよ」
満月を描いたサオが、魚の引きをじっくりと吸収する。隙のないやり取りでスムーズにタモに収まったのは、43㎝のクチブトメジナ。このパターンで良型を次々にヒットさせていると、潮が変わった。引かれ潮が弱くなり手前に仕掛けを押すような当て潮が強くなった。
田中さんは連発ヒットした泡目の、やや沖に寄せエサを撒き、その手前に仕掛けを投げる。さらにウキの手前、左右に寄せエサを被せ、足もとのエサ取りが出ていかぬように磯際にもピシャリと撒く。ウキがねらいの筋に入ったところでゆらりと揺れながら消し込んだ。合わせる。痛快に曲がるサオ。再び肉厚のクチブトメジナが浮上した。
田中さんはタモ入れも電光石火。一発ですくい取る
「当て潮は仕掛けが手前に流されるので、ねらいのポイントの沖に仕掛けを入れます。そこに到達するまで、どれくらいのストロークで仕掛けが馴染むのかを計算に入れ、寄せエサはウキ周りで十字を描くよう前後左右に撒きます。払い出す潮に比べ、当て潮は仕掛けが馴染みにくい。重いガン玉を噛ませてウキ馴染みを速くしたり、オキアミではなく抵抗の大きなシバエビを付けエサに使うこともありますね。今回のジャパンカップでは、当て潮時にシバエビを付けて素早く手前に馴染ませているとアタリが連発した試合もありました」
仕掛けを流す時は、ミチイトを指でつまみ適度な張りを保ちつつ送り込む姿が多かった。理由はウキが沈みすぎないようにしつつもアタリを取りやすい状態にするため
当て潮の状況は10分も経つと瞬く間に変わり、上滑りする2枚潮が発生。このように五島列島の海はめまぐるしく変化するのだが、田中さんはどこで仕掛けを馴染ませれば釣れるのか、食わせたい位置、寄せエサの流れをすばやくつかみ取る。
「ウキフカセ釣りは1投毎のデータを蓄積して正解を出します。寄せエサと付けエサを離すのか、潮筋や根の位置、風、タナ、エサ取りの種類なども読んでいきます。その組み立ては、ポイントはもちろん、その日その時で違います。だからこそ、この釣りは深みがあって面白いんです」
いくつもの技術が重層的に組み合わさって釣果に影響するウキフカセ釣り。その魅力は果てしない。
当て潮の釣りにくい状況もなんのその。良型を連発させる
田中さんの愛用アイテム 限られた競技時間内に素早いウキ交換を可能にするシマノ『ファイアブラッドゼロピットタイプD』。下膨れ形状は抵抗が大きく、沈下速度が速くなりすぎず潮をつかみやすい。主にL とM を愛用
中ハリスは主に適度にしなやかな『ファイアブラッドコンペエディションEX フロロ』を使用。硬質な『リミテッドプロマスタープロ』は主にハリスに使用する
写真A
田中さんの仕掛けは2つのウキ止メを付けるのが特徴。なるほどはウキを一定のウキ下に保つため、上ふたつはライン角度を知るための目印であり、ウキがここまで到達した時点でアワセを入れる
ウキ止メストッパーは小粒のタイプを愛用
リールは革新的レバーブレーキシステムのSUTブレーキを採用した『BB-X テクニウムC3000DXG』が愛機
2015年大会でも活躍した愛竿は『ファイアブラッドグレデクストラル』1.3-50。1.5 号のパワーがありながら、1.2 号の操作感
エア断熱システムを採用したエサ箱『サーモベイト』にはマルキユー『くわせオキアミスーパーハード』のL をメインに、シバエビのムキ身なども入っている
田中さんの寄せエサはエサ取り対策にオキアミを混ぜ込まず残しておくことがある。ツブだけを際付近にパラリと撒き、エサ取りを足止めすることも多い
中ハリスは主に適度にしなやかな『ファイアブラッドコンペエディションEX フロロ』を使用。硬質な『リミテッドプロマスタープロ』は主にハリスに使用する
写真A
田中さんの仕掛けは2つのウキ止メを付けるのが特徴。なるほどはウキを一定のウキ下に保つため、上ふたつはライン角度を知るための目印であり、ウキがここまで到達した時点でアワセを入れる
ウキ止メストッパーは小粒のタイプを愛用
リールは革新的レバーブレーキシステムのSUTブレーキを採用した『BB-X テクニウムC3000DXG』が愛機
2015年大会でも活躍した愛竿は『ファイアブラッドグレデクストラル』1.3-50。1.5 号のパワーがありながら、1.2 号の操作感
エア断熱システムを採用したエサ箱『サーモベイト』にはマルキユー『くわせオキアミスーパーハード』のL をメインに、シバエビのムキ身なども入っている
田中さんの寄せエサはエサ取り対策にオキアミを混ぜ込まず残しておくことがある。ツブだけを際付近にパラリと撒き、エサ取りを足止めすることも多い
エリアマップ
●渡船:せいわ(℡ 0959・73・0779)
●交通:福江島には福岡空港、長崎空港から飛び立つ飛行機と長崎港から出船する高速ジェット船やフェリーもあり。渡船基地の福江港近くには五島ターミナルホテルがある
2017/1/8