45年間、竹と向き合う人生を送ってきた。たたき上げの江戸和竿職人である竿中さんが、タナゴザオの今と昔、こだわりのポイントを語る
竹と向き合う人生
写真と文◎編集部
この記事は月刊つり人2022年2月号の記事を再編集しています
45年間、竹と向き合う人生を送ってきた。たたき上げの江戸和竿職人である竿中さんが、タナゴザオの今と昔、こだわりのポイントを語る
こだわり2:調子について
競技をしてきたベテラン名手は「棒調子」という硬めの調子を好む人もいる。竿中さんが理想とするタナゴザオの調子はどんなものか?
「タナゴザオは切り寸が短くて継ぐ本数も多い。フナザオとかヤマベザオみたいに長い節を4本継ぐという感じじゃない。だから調子を出すのに限界があります。たとえば昔みたいに穂持ちを分無し(3mmちょっと手前の太さ)の竹からスタートして切り組めば強いサオになります。段が付いてくるからやっぱり棒になってしまう。しなるサオを作りたければ紙みたいに各節を薄くして繋がなければいけませんが、根本的に節が短いのでファストテーパーになりがちです。サオ先だけで釣るような調子を求めるなら、節を短くしたほうがそういう調子は出ます。8寸を2本継いだ調子よりも4寸を4本継いだほうが際どい調子にしやすい」
そして竿中さんは釣り人のレベルを見て、よく釣る人ならある程度強い作りにしたほうがいいとも考える。小さなタナゴといえども、釣り続ければ華奢なサオは「へたって」しまう。へたるとは曲がったサオがそのまま戻らなくなってしまうこと。
8寸切り4本継ぎのタナゴザオに根掘りの替え手元。穂持ちと穂持ち下の節は節目が3 節入っている。素材のよい証拠である
こだわり3:塗りについて
すげ口の塗りがシンプルなサオが多いのも竿中さんの特徴だ。「淡色ですっきり仕上げるのが好み」と話す。
「よく使う色はグリーン、うぐいす色、量産しているサオはブルーだし、初期型はベンガラ、朱やオレンジっぽいのとか、柄なし淡色で筋もひかない。それが自分も好きだし幸いにお客さんも好みと言ってくれる。下地の出方が味で、巻いたイトのでこぼことかをわざと出している。金虫喰いとかもやってるけど、装飾過多だとキリっとしない感じがする。ぴっちり竹を出してエッジを利かすのがこだわりといえばこだわりだね」
淡色をすっきり塗るのが竿中さんのこだわりだ
竿作りのこれから
竿中さんは週のほとんどは工房に籠もり、サオ作りに精を出すが、日曜日と水曜日の午前中は自転車ツーリングを楽しむ日と決めている。
自転車フリークでもある竿中さん。70 年代のロードバイクで年に2 回は日光まで走るという
「45年もあぐらばかりかいていたので膝がダメになっちゃった。修業時代は先輩の脇で板の間にあぐらをかいていたせいか、お尻をやった。痔をね。10年、20年苦しみましたよ。痔は滞っている静脈血を循環させなくちゃいけない。自転車で腿をボンボン回すのがよくて。昔はルアー少年、自転車少年だったから10数年前から自転車熱も再燃しちゃった。それからは身体の調子がいい。週に2日は練習で3ヵ月にいっぺんくらいチームでツーリングに行きます。年2回はこの工房から日光まで走るんです」
最後にこれからのサオ作りについて、思いを聞いた。
「竹はあらゆる釣りジャンルに対応できるもんじゃない。どうしても相性がいい釣りがある。ハゼ、フナ、小ブナ、カワハギ、それにタナゴは竹が似合う魚の最たるものでしょう。こういう釣りは残していきたい。62歳、45年竿師の世界で生きてきて、自分の技術を継承してほしいとは思いますが、子どもにはなかなかさせられない仕事です。弟子を取ることも難しい。年上に教えても継承にはならないし(笑)。だからいま言えることは、あと10年、20年は頑張りますということです」
竿中さんの竹と向き合う人生はまだまだ続く。
庭には青々とした竹が干してあった。乾燥する冬は竹を仕入れるいいシーズン
壁にずらりと掛けられたサオ作りの工具。雑然と掛けられているようで「住所がある」と竿中さんは言い、使い終わったらすぐその場所に戻す。置き場がズレただけで作業が滞ってしまう
穂先の竹ひごを削る竿中さん。削り穂(けずりっぽ)といわれる
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