微波動の揺らぎで流心のナワバリアユを挑発する「流斬100F」。友釣りのギミックを取り入れたオリジナリティー溢れる新作ルアーを開発した吉島一郎さんが今夏からアユルアーが解禁になった長良川下流部を釣る。
微波動の揺らぎで流心のナワバリアユを挑発する「流斬100F」。友釣りのギミックを取り入れたオリジナリティー溢れる新作ルアーを開発した吉島一郎さんが今夏からアユルアーが解禁になった長良川下流部を釣る。
写真と文◎編集部
流心で暴れ過ぎないフローティングミノー
アユルアーを始めた人の中には渓流・本流のトラウトルアーアングラーが少なくない。なぜこの釣りに魅了されたかを聞けば「アユの強い体当たり」、「ゲーム性の高さ」、「美味しい」という声のほか、渓魚を釣るのが難しいとされる「真夏の真昼間に成立するのがいい」と答えた人も多い。ヤマメ、イワナ、サクラマス、サツキマスなどトラウトルアーを30余年楽しんできた吉島一郎さんも「アユルアーにハマって夏の釣りのテンションが一気に上がりました」と話す。
吉島さんはパズデザインのルアーブランド「TAGIRI」をはじめトラウトやシーバスなど淡水海水の多彩なルアーを企画開発している。今夏リリースされた同社初のアユルアー「流斬100F」の開発に携わった中心人物でもある。
吉島一郎さんは高原川が潤す岐阜県神岡の町で生まれ育ち、幼い頃からヤマメ、イワナ釣りに親しんできた。さまざまなルアーフィッシングに精通するが近年の夏はアユルアーにのめり込む。ウエアからルアーまでさまざまな製品を手掛ける株式会社ザップ(パズデザイン)に勤務。写真のアユは昨秋に流斬100F で掛けた良型
「何年も前のことですが、本流でヤマメをねらっていると下流にルアーを送り込んだ時に事故のように掛かってしまうアユがいました。特に水切りのよいバルサ製フローティングミノーを使って流心をねらうと、たびたびアユが掛かる。この経験が流斬 100F を企画した原点です」
近年アユルアーの開発を進めるメーカーが続々と増えているが、吉島さんは他社製品との差別化やオリジナリティーを高めるための試行錯誤を繰り返し、ルアーマンだけでなく友釣りマンからも意見を募って独自の形状を見出した。流斬100Fは「流心で暴れ過ぎないフローティングミノー」を目指したという。
特徴のひとつが「しっかりと潜りながらも水を逃がす」リップ形状である。「アユは石を釣れ」と言われるとおり、ナワバリを張る石にルアーがコンタクトする性能が求められる。フローティングミノーはリップを長くするなどして水受けをよくして潜行させる。しかし極端に潜行だけを意識した形状は底に突っ込みすぎて石にハマることもあるし、アクションが破綻して水面を飛び出してしまう。
「我々ルアーメーカーは釣れるルアーを作るのが当たり前です。私はその先の使い心地も追求したい。引き抵抗の強すぎるミノーは操作しているだけで疲れてしまう。流斬100Fは水が逃げるようなリップ構造と、ウエイトを内蔵させずベリー部に配置したアウトシンカーが特徴です。このふたつの効果でルアーが暴れ過ぎずに石の上で揺らぐような微波動を可能にしました」
もうひとつの際立った特徴が友釣り由来のフックシステムである。多くのアユルアーは友釣り仕掛けの逆バリよろしく尻ビレ付近にハリス止メがあり付属の掛けバリもしくはイカリ、チラシなどの友釣り用の掛けバリをセットして使う。写真を見ていただければ分かるが、流斬100Fはフロントのハリス止メとテールのチューブの2点でハリスが固定される。付属の蝶バリをセットした場合はテールのチューブから10㎝ほど後方に垂れる。
アユが掛かるとその衝撃でハリスを挟んだテールのチューブが外れ、ルアーはバランスを崩して浮きやすくなる。取り込み時のルアー抵抗が軽減され、ハリスの遊びが大きくなることでバラシも減る。荒瀬の急流に乗って暴れるアユも寄せやすい。
「掛けるまで、掛けてからもストレスが少ない。テール部のアユが掛かるとチューブが外れるギミックは胃が痛くなるほど苦労しましたね」
アユが掛かるとその衝撃でテールのゴム管が外れる。ルアーの抵抗が弱まりバラシを軽減する
潜行レンジは流れの強さにもよるが水深20~50㎝。浮力が強いため流れが緩いトロ場ではリップが効かずに潜りにくい。こうしたウイークポイントもオモリを噛ませれば対応は可能になる。
「流れに合ったオモリを使えば、オモリを支点にルアーが石を舐めるように揺らいでくれます。ただしオモリをルアーに近付けすぎると暴れすぎてアクションが破綻します。目安はルアーの30~50㎝上に付ける。オモリを使いこなせば攻略範囲は大幅に拡大します」
この流斬100Fを手に吉島さんが初めて訪れたのが岐阜県長良川である。
全5 色のラインナップ。左から遡上アユ、若アユ、ゴーストマットパールアユ、黒金マットアユ、荒瀬アユ(BF)
しっかりと潜行させながらも水抜けのよいリップ。左右と下部のエッジを斜めにカットしていることで引き抵抗を軽減させた
流心にステイさせることに特化させた流斬100F。低重心で微波動の揺らぎを実現する腹部のアウトシンカーはレンジキープもしやすい。自重は7g
アユが掛かるとその衝撃でテールのゴム管が外れる。ルアーの抵抗が弱まりバラシを軽減する
さまざまなフィールドで流斬100F をテスト。相模川では25cm クラスの大アユの入れ掛かりも堪能。そのフックシステムはバラシが驚くほど少ない
アユ釣り王国「岐阜県」を象徴する長良川下流部で挑戦!
6月1日、岐阜県長良川最下流部を管轄する長良川漁協エリアに吉島さんの姿はあった。アユは岐阜の県魚であり、木曾三川や飛騨の多彩な水脈にはアユ釣りの名川が幾筋も流れている。このアユ王国のシンボルともいえるのが世界農業遺産になった長良川である。
長良川は上流から郡上漁協、長良川中央漁協、長良川漁協の3漁協が管轄しているが、2024年から長良川漁協管轄の全エリアでリールを使ったアユルアーが解禁になった。また長良川中央漁協も板取川支流の片知川の一部の区間で7月1日からリールを用いたアユルアーが認可された。
岐阜県は友釣り人口が減少していく現在、アユルアーに大きな期待を寄せている。その結果、昨年アユルアーを許可されたのが2漁協だったのに対して今年は9漁協が追加され11河川で可能になった。
岐阜城が見下ろす金華山の下、鵜飼大橋上流部の瀬に吉島さんと友釣りフリークの小川隆さんがサオを並べた。吉島さんはリールタックル、小川さんは友釣りタックルに流斬100Fをセット。釣り人はひとりもおらず貸し切り状態。しかし数日前に降った大雨の影響で大部分は苔が飛んだ白っ川である。時期的に遡上途中の小型アユばかりで石に付いている魚が少なく、ナワバリアユをねらい撃つルアーにとっては厳しい状況。それでも天気は快晴で照り込めばアユの活性は高まりそうな期待はあった。
熟練の友釣りマンの小川さんは残りアカの付いた石周りに的確にルアーを通していく。そのルアーを引いている時の目印の動きと穂先の曲がり方に驚かされた。小川さんはソリッド穂先の8・5mのアユザオを使用。かなり柔軟なモデルのサオだが、穂先が少々曲がる程度でルアーをスイスイと引けているのだ。目印の動きはまるで元気なオトリがじわじわと引き上げられている状態と大差がない。抵抗の強すぎるミノーであればサオはもっと極端に曲がり目印ももっと暴れた感じになる。
「オトリが石を縫ってきれいに付いてくる感覚にとてもよく似た引き心地です。いかにも釣れそうですね」
と小川さんは引き抵抗の滑らかさに純粋に驚いているようす。
一方、吉島さんはベイトタックルを使ってルアーを操る。ダウンで下流に送り込むのがリールタックルの基本の探り方。ポイントのやや下流から流斬100Fを潜らせてねらいの石に当てステイさせる。反応がなければリールをじわじわと巻いてルアーを上流に上らせながらアユを探る。
チャラ瀬をネチネチと探る攻略も得意
しかし結論からいえばこの日は石に付いたアユが皆無といえる状況だった。小川さんが3尾のアユを掛けたが、色の白い若魚だ。どう見ても遡上途中のアユばかりで落ち着いて石を食む魚がいない。吉島さんはなかなか反応を得られず苦戦していた。西日が色濃くなった15 時ごろ、急瀬に沈むひと際大きな石の波立ちに流斬を通した。するとガツン! とくる手応え。うれしい1尾が舞い上がりタモに収まった。
フックのシステムが特殊なのでバレにくい!
「岐阜には石の大きな川が多いんです。潜り過ぎるルアーでは石と石の間に挟まりやすく攻略の難しいフィールドばかり。レンジキープに優れた流斬は水受け加減がちょうどよく、石の頭や側面を舐めるように動かすことができます」
長良川のアユルアーはまだ始まったばかりで認知度は低く実績も少ない。この日の1週間後に小川さんから流斬100Fを使った同エリアでの釣果写真が届いたが、アカがべったりと付いた瀬では18㎝クラスの立派な黄色いアユが掛かったという。
この夏に拡大した岐阜のアユルアーフィールドはもちろん、全国各地の多様な河川で流斬100F のストレスフリーの実力をぜひとも試して欲しい。
タックルデータ
ロッド●ブレインストーム鮎(ゴールデンミーン)
リール●アルデバランBFS XG(シマノ)
ライン●シンキングPE プロトタイプ 0.6 号(サンライン)
リーダー● BMSプロトタイプ 8 ポンド 約1m(サンライン)
ルアー●流斬100F(TAGIRI)
オモリは1 ~ 5 号まで用意。ルアーの上30 ~50cm に付ける
※このページは『つり人 2024年8月号』を再編集したものです。