冬になると思い出すあの味。寒さが極まるほど旨くなる魚。この時期ならではの釣りの楽しさ。とっておきの寒の味はまさに十人十色。今回は茨城県・霞ヶ浦の「ぺへレイの刺身」をご紹介します。
忘れ得ぬ淡水魚最高レベルの白身
解説◎工藤孝浩(くどう・たかひろ)
この記事は月刊つり人2021年3月号の記事を再編集しています
冬になると思い出すあの味。寒さが極まるほど旨くなる魚。この時期ならではの釣りの楽しさ。とっておきの寒の味はまさに十人十色。今回は茨城県・霞ヶ浦の「ぺへレイの刺身」をご紹介します。
工藤孝浩(くどう・たかひろ)
神奈川県横浜市在住。神奈川県水産技術センター内水面試験場勤務。山下公園前の海底清掃や海、川、森の活動団体のネットワークづくりを精力的に行なっている。海をつくる会所属
冬のおすすめ。ぺへレイの刺身
ぺヘレイはトウゴロウイワシに近縁の南米原産の移入淡水魚で、神奈川県淡水魚増殖試験場(当時)が1966年に初めてアルゼンチンから日本へ食用として導入した魚である。
同試験場は1980年代までに種苗の大量生産技術を確立し、丹沢湖、津久井湖、相模川等へ放流するとともに他県へも種苗を提供した。当時ぺヘレイは地域振興を担う新魚種として期待され、神奈川県内にはペヘレイ料理を看板にした料理屋や民宿があった。
30年以上も前の厳寒の丹沢湖畔、初めてペヘレイを食べた私はその旨さに驚いた。刺身はサヨリを思わせる透明感のある白身で血合も美しく、淡泊で上品な脂乗り。フライはホクホクと柔らかく軽妙な味わいで、堅めに揚がった衣と抜群のコラボレーション。刺身・フライともに淡水魚では最高レベルと思われた。
10年以上前までペヘレイ料理が看板メニューだった神奈川県足柄上郡山北町の『魚山亭やまぶき』では、当時このようなペヘレイ尽くしのフルコースが大人気だった。写真中央が薄造り、右下から反時計回りに塩焼き、煮凝りなどの前菜、天ぷら、しんじょ、ペヘレイの身を使った変わり巻き。現在もペヘレイ料理こそしていないが、川魚料理が人気の温泉宿だ
しかし県内のペヘレイは定着に至らず、放流が終了した1990年代末以降その姿をほとんど見ることができなくなった。ところが2000年代に入ると霞ヶ浦水系でペヘレイが大繁殖し、同時に起きたワカサギやエビの不漁と結びつけられて害魚の汚名を着せられた。しかし大繁殖は一時的で、現在は減少の一途を辿っている。
忘れ得ぬあの味に再会するためには、自ら釣るしか手はないようだ。
霞ヶ浦では1990年代に増え、その後パッタリ姿を消したものの2000年代に突然大型が釣れだし、また現在は存在感が薄まっている。なかなかねらって釣れる魚ではないようだ
食のワンポイント
旬は春の産卵期を控えた冬で、上品な白身に脂が乗る。淡水魚特有の臭みやクセが全くなく、和洋のさまざまな料理に向く。ウロコが硬いので、必ず残さずに落とすこと。身は細長くて一見扱いにくそうだが、しっかりしているので三枚おろしは容易。
和食では刺身、鮨だね、椀だね、天ぷら、酢の物など。との相性がよく熱を通しても身が締まらないので、春から秋はソテー、フライやムニエルなどに向く。
ペヘレイの料理の写真は探してもなかなか見つからなかったが、ウェブ上では釣ったペヘレイを食している方のレポートが散見される。これは「喰っちゃあいかんのか?PARTⅡ」より転載
釣りのワンポイント
国内では、霞ヶ浦・北浦のみに定着していると考えられ、湖の表中層を群れで広く遊泳する。おもに動物プランクトンを食べ、時に小型甲殻類や藻類を食べる。大型は魚食性が強くなる。
釣り場は湖岸全域で、生態が似るワカサギのゲストとして顔を出すことが多い。専門にねらうには軟調ザオと小型スピニングリールを組み合わせた投げウキタックルでポイントを広く探るのがコツ。産卵のために接岸する春にはノベザオに立ちウキ仕掛けで釣れる。口は小さいが50㎝に達する大ものもいるので、ハリは袖6 号前後、ハリスは落としても0.6 号まで。エサはアカムシ、サシやキジなど。
霞ヶ浦でのバス釣り取材時にスピナーベイトに食いついた45㎝以上あるペヘレイ。釣った本人のバスプロの関和学さんは四半世紀以上この湖に通っているが、ペヘレイを釣ったのは初めてだった(2009年の4月)
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