渓流でソロキャンプ。釣り場に泊まろう。
渓流でソロキャンプ。釣り場に泊まろう。
こちらの記事は月刊『つり人』2020年6月号に掲載したものをオンライン版として公開しています。
布施川は穴場の名にふさわしく釣り人に会うことはまれだが、コンディションのよい良型ヤマメがサオを絞ってくれる。周辺には黒部川、小川などヤマメがねらえる河川はまだまだある。自分のペースでのんびりとソロキャンプで巡るのがおすすめだ。
目次
- その1
- 急激な冷え込み
- 納得の1尾
- その2
- 桜の穴場
- 眼下に広がる夜景を見ながら
急激な冷え込み
春たけなわの穴場の川で渓流魚と戯れ、夜はソロキャンプを楽しむ。そんな話が舞い込んできたのは、異常な暖かさが続いていた3月中旬のこと。私の住む新潟県十日町市は雪深いことで有名だが、折しも今年は小雪。市街地からは早くも雪が消え、頭の中はすっかり春気分である。新緑の川で渓魚と戯れ、満開の桜を眺めながら焚き火を前にチビチビと飲むという光景を思い浮かべ、二つ返事でその企画に飛びついた。
遠くの山並みの残雪と桜の対比が富山らしい
とはいえ問題は釣り場。「穴場」を『広辞苑』で引いてみると「人が見逃している恰好の場所」とある……難題だ。取材日の3日前になっても行き先は決まらない。さらに天気予報には季節外れの雪マークが出る始末。何度も天気予報をチェックし、いくらかでも天候の回復が早そうな富山方面に向かうことにした。
白い花崗岩と青く澄んだ急流が特徴的な富山県東部の河川群にあって、黒部市の南を流れる布施川は対照的に里川の雰囲気。また河川規模の小ささが幸いしてか、晴れれば水温も上がりやすい。年券だけの設定とはいえ漁業権もあるし、過去に私も案内記事などを書いたことがあるが、それでもこの川で他の釣り人に会うことはまれだから、「恰好の場所」かどうかはともかく、広義の穴場といって差し支えないだろう。
夜明け前、十日町市の自宅から北陸自動車道上越インターに向かう峠は4月も半ばになろうというのにみぞれ。さらに稲光までもが闇を照らす。それでも明るくなって布施川に着いたときには雨は上がっていた。雲の切れ間からのぞく青空が眩しい。幸いこちらに大した降水はなかったらしく、川は減水気味だ。ただ冷え込みが厳しく、ここ数日暖かかっただけに渓魚の活性が気掛かりだ。
さっそく釣り始めるが、心配したとおりアタリは全くない。これが5月、6月ともなれば魚がいないのだと判断できるが、この季節、しかも冷え込みを考えると、魚はいるのだが食い渋っているだけとも考えられる。日が高くなり気温が上昇するのを待ちたいが、この季節、昼前には海風が強まり、釣りにならなくなるのがこの地域の常だから、好機は意外に短い。タイミングを逃さないようにようすを見がてらゆっくりと釣り上がる。時おり、釣れてもよさそうな好ポイントが現われるがアタリは得られず、やがて堰堤に行き着いた。落ち込みは「恰好の場所」に見える。だが堰堤下は誰の目にも明らかなポイント。「人が見逃している」という穴場のもう1つの条件が満たせるか微妙だ。布施川が穴場の川だとしても、この場所が穴場といえるのか。疑念を抱きつつエサを投じた。
下流部に目をやれば、富山湾、そして能登半島が飛び込んできた。潮風が鼻をくすぐりそうな距離だ
納得の1尾
自然からの癒しを求めてなどと言いながら、人工構造物が作るポイントに期待してしまうという矛盾を抱えた自分と、そのねじれた期待に応える現実に一抹の寂しさを感じたのは、しかし一瞬だった。小さいながら元気いっぱいにエサを追うヤマメを手にして頬が緩む。つくづく人間というものは矛盾のかたまりである。20㎝前後とはいえ5尾のヤマメが釣れた頃には空は晴れ渡り、春というには強すぎるほどの日射しが降り注いでいた。 とりあえずヤマメの顔を見ることができ安堵するが、今度は抱えこんだ矛盾が頭をもたげる。私はいったん入渓点に戻り、下流を探った。
この日最大の25㎝クラス。平瀬の少し深くなったポイントを見逃さなかった高橋さんの粘り勝ち
とある平瀬の流心がわずかに深くなっていた。その辺りだけ石も荒い。水温も上がってきているし、いれば食い気はあるだろうと考え、小さなガン玉でイトフケを保ったまま仕掛けを流すと、ふわりとラインが止まる。アワセると流れの中でギラギラとヒラを打つ。じっくり弱らせてタモに取ったのは、この時期の釣果としては申し分のない25㎝ほどの美形ヤマメ。穴場の完結である。私は納得して川から上がった。
朝の冷え込みが心配だったが、徐々にサイズアップ。高橋さんもひと安心
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