コンパクトロッドのLUXXEパックスタイル使って黒部源頭でイワナをねらった。
コンパクトロッドのLUXXEパックスタイル使って黒部源頭でイワナをねらった。
写真と文◎編集部
標高2000m超えの環境に泳ぐイワナ
河川や個体ごとでさまざまな容姿を見せ、多くの釣り人を魅了するイワナ。サケ科の中でも冷水性が強く、国内で最も標高の高い場所に棲む魚種とも言われている。そんなイワナの中でも最も標高の高い場所に棲息するイワナを求めて、今回は黒部川源頭部へ足を運んだ。
黒部川は、富山県と長野県の境にある北アルプスの鷲羽岳を水源とし、3000m級の山々を縫うように流れて数十㎞という短い距離を一気に下り日本海へと注ぐ急流河川だ。
黒部川源頭までの行程を考えると最低でも3日は要する。そのため、釣り道具だけでなくテントや食料、防寒具などを詰め込んだ十数kgにもなるリュックを背負って挑むこととなる。
タックルのほか食料、調理器具、テント、防寒着、ヘッドライトを山に持ち込んだ
私は2000m以上の標高で釣りをしたことがなく、泊まりを伴なう登山さえも未経験。源流での釣りには高いハードルを感じてなかなか踏み出せずにいたが、経験者に誘われたことでようやくその一歩を踏み出すことができた。
標高2000m地点の気温や気候、雪渓の有無を考慮すると8月がチャンスだと判断し、日程は8月上旬に決めた。天候などのアクシデントにも柔軟に対応できるように登山期間は釣行日を含めて4日間を確保。岐阜県側から入山し新穂高温泉から黒部川源頭へ直行で向かうルートで、初日で三俣山荘まで登り切り、最終日は新穂高まで一気に下る3泊4日の計画だ。中2日は三俣山荘のテント場を拠点に釣りをする行程である。テント場から黒部源頭は目と鼻の先だ。
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
黒部川源流に近い三俣山荘を目指す
1日目の早朝、私たちは午前4時頃に新穂高温泉を出発。山の日を翌日に控えたこの日は、登山フリークで大いに賑わっていた。
初日は三俣山荘のテント場から鷲羽岳の雄大な姿を眺めつつ就寝
釣りに行くとはいえ軽量化のために釣り道具は最小限、ロッドは仕舞寸法28cmのPACKSTYLE S49FL -solidなので全てリュックの中に収まっている。傍から見れば釣り人だとはなかなか気づかないだろう。登山や沢登りを伴なう源流釣行では両手を使わなければいけないシチュエーションが多く、リュックに収まるパックロッドはマストとも言える。セミハードケースが付属しているので、パンパンのリュックに入れても折れる心配はない。
出発してしばらくは登山道の横を左俣谷が流れ、イワナを見つけるたびに見入ってしまい足が止まる。途中のわさび平小屋から鏡平山荘まで長く続く登り道は登山に不慣れな私にはしんどい。
イワナの姿を見るためにひたすら歩みを進めた
テンポよく登っていく登山者に前を譲りつつ、水分をこまめにとりながら自分のペースで歩く。
鏡平山荘で長めの休憩を取り、再び進む。
鏡平山荘で一休み。登山客で賑わっていた
しばらく登って弓折乗越を通過すると尾根に出た。
弓折乗越にたどり着くと北アルプスの名峰、槍ヶ岳が出迎えてくれる
その先は尾根伝いに歩いて双六小屋を目指す。鏡平山荘から双六小屋までの道では槍ヶ岳を望む絶景を拝むことができる。蒼天に突き立つ姿形が綺麗に見えた。溜息が出るほど美しいその光景は疲れた身体を癒やしてくれる。
昼過ぎには双六小屋に到着。昼食を済ませ三俣山荘へと向かう。慣れない運動量に身体の限界も間近、なんとか日没前に着くために先を急いだ。
三俣蓮華岳の麓を通過し、ハイマツのトンネルを抜けると赤い屋根の山荘が現われた。三俣山荘だ。テントの受付を済ませると一気に力が抜けた。テントを張った場所の近くにいた方に労いの缶ビールをいただき、釣りの準備もそこそこに眠りについた。
ADVERTISEMENT
点で釣る源頭イワナ
2日目早朝4時、10℃を下回る寒さと他の登山者がテントを片付ける音で目が覚める。いよいよ黒部川源頭釣行開始。出発して間もなく黒部川の源頭部が見えた。遠目で見るとゴロ岩だらけで勾配がきつく、魚が棲める環境なのか疑問に思うほどの光景だ。まだ前日の疲労が残っていたが、釣り道具のみの軽量装備だったのと目的の魚がすぐ近くにいるという高揚感から、川までの道のりは苦ではなかった。
登山道からほど近い場所から入渓し、釣りをする準備をしていると黒い魚影が見えた。
登山道からほど近い場所からエントリー。日が昇らないととても寒いが魚の反応はある
最初の落ち込みにルアーを放つとピックアップ直前でヒット。憧れの黒部川源頭部で最初のイワナを手にし、思わずガッツポーズが出る。最初にイワナを確認した地点で標高2403m。しかし私は「最高所のイワナ」を釣るためにここまで来たのだ。
イワナはどこまで泳いでいるのか?
魚影は濃かったのでコンスタントに反応してくるが、チェイスが多い割に掛からない。同じ目的の釣り人も一定数いるのだろうか。急峻で段々と続く流れでは、ルアーを引ける距離が短くなるため、「点の釣り」となる。フライやテンカラだと楽しいシチュエーションだが、ルアーで釣りたいと意地を張った。
通常のヘビーシンキングミノーでは思うように釣りが難しくなってきたのでフローティングミノーに変更。イワナの鼻先をかすめるようなコースをドリフトすると口を使ってくれる。キャスト&ロッドコントロールが重要となる訳だが、4ft9inという短いロッドならではの取り回しと軽量ルアーを操作しても水面を飛び出しにくいソリッドティップのしなやかさで、快適に釣りをすることができた。
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT
イワナが釣れる限界はどこなのか
ある程度進んでいくと2440m付近で途端に魚影が確認できなくなった。まだまだイワナが遡れそうな渓相だが、目に見えない何かが魚止の要因となっているのだろうか。魚影が確認できなくなっただけで、釣りを終えるわけにはいかない。あくまでも目的は「最高所のイワナ」なので、アタリが途絶えるまで釣り進む。
2456mまで登ったところで大岩の影にひときわ大きなイワナがいるのを確認した。ルアーを放り込むと、着水してすぐにバイト。魚体を大きく捩らせるイワナを慎重に寄せて取り込む。体高がありぼってりと太った立派な尺イワナだ。こんな奥地でここまでコンディションのよい個体に出会えると思っておらず不意を突かれた気分だった。
冬は雪に覆われ、夏は渇水に見舞われることもあるであろう。そんな過酷な環境で力強く生きているタフなイワナたちが、ただひたすらにカッコよかった。尺イワナを最後に、魚信は途絶えた。
3日目。もう一日釣りをする予定だったが、台風の影響により翌日から天候が崩れることが予想されたため、1日早く下山することとなった。距離39km、累積標高差3228m。実釣時間は6時間ほどだったが、充実した源流釣行であった。最後は疲れた身体を奥飛騨温泉で癒やしてから帰路についた。
黒部川源頭部までの登山道は整備されていて歩きやすいがハードであることには変わらない。事前の準備や無理のない計画が大切だと実感した。また、ゴミの持ち帰り、火の取り扱い、指定地内のみでのテント設営など他の登山客の迷惑にならないよう、ルールとマナーを守って楽しもう。
体高のある良型の黒部イワナとの出会いを果たして充実した釣行となった
運がよければライチョウが間近で見られる
※このページは『つり人 2024年7月号』を再編集したものです。