清冽な渓流でも水温む夏。多くの魚は活性が低くなるのだが標高1000mを超える高原の川は別世界。元気いっぱいのヤマメやイワナが毛バリに出るし、張り出す木の下にチョーチン仕掛けでエサを送れば一発で食うことも多々あるのだ。
七曲を上れば天然クーラーの利いた別天地
案内◎石垣尚男
清冽な渓流でも水温む夏。多くの魚は活性が低くなるのだが標高1000mを超える高原の川は別世界。元気いっぱいのヤマメやイワナが毛バリに出るし、張り出す木の下にチョーチン仕掛けでエサを送れば一発で食うことも多々あるのだ。そんな真夏に熱いフィールドをエキスパートがセレクト。
この記事は『つり人』2016年9月号に掲載したものを再編集しています。
案内◎石垣尚男
愛知県豊田市在住。愛知工業大学教授・医学博士。テンカラ歴37 年。海釣りからアユまでほとんどの釣りを経験してきたが、今ではテンカラ一筋
イワナのナワバリ争いを見る
うだるように暑い夏を避け、涼しい高原でテンカラ。私の夏の定番は中央アルプス宮田高原の黒川である。標高1500~1800mの高原で汗ひとつかかない快適なテンカラができる。中央自動車道・駒ケ根ICを降りて北上すること約10分で宮田高原の標識がある。そこからは七曲の道だ。車でグングン上っていくと下界の街並が右に左に見えていく。登ること30分で宮田高原キャンプ場だ。標高1600m.。さっきまでの暑い下界から30分で天然クーラーの利いた釣り場である。アベレージサイズのイワナ。黒い毛バリが好適だ
駐車場で釣り支度の後は細い道を下る。一日がかりの釣りになるので昼食、水、予備ザオのデイパックは必須である。さらに帰りの登り坂や林道歩きのためにウオーキングストックがあると楽である。晴れていてもレインギアは持っていきたい。雨に濡れると震えるくらい寒くなるからで曇りなら半袖では涼しすぎる。
下りの途中にガレ場がある。落石は私のトラウマなので、怖々と速やかに通過する。ここを過ぎる頃から渓音が聞こえてくる。下ること20分で黒川である。ジンクリアの水、丸い石、上が開けた明るい渓である。
釣れるのはイワナのみ。稚魚放流から野生化したイワナと自然繁殖ものである。サイズは23㎝程度がアベレージ。小さいのも釣れないが尺ものも稀である。毛バリは夏の定番の黒毛バリである。サイズは太軸の10番。この時期のイワナには黒い毛バリがよい。夏は水生昆虫が少なく、アリなどの陸生昆虫をエサにすることが多いからだ。毛バリまで4・5~5m程度の仕掛けがベストである。
高地なので水が冷たい。10℃あるかなしかである。このためテンカラでは真夏でも早朝、夕マヅメは釣りにならない。晴れれば水温が上がる9時ごろからである。それでも活性が低いことがある。雨が降ると釣りにならない。曇りでも終日活性は低いので、黒川は晴れた日がねらいめだ。
ある夏のお盆休みの一日にテンカラ仲間4人で黒川に入った。林道と黒川が合流した地点は大石の淵が好ポイントであるが、サオをだす人が多いのでそこからさらに林道を20分歩くと最初の堰堤になる。ここまで来ると魚影は濃く10時から交互に釣り上がる。それぞれが数尾釣れると満足なので釣り上がるペースはゆっくりである。やがて大堰堤に着く。ここまで3時間の釣りである。大堰堤の上でお昼を取ってさらに上流へ。
ここからは渓が狭くなるが毛バリは充分に振れる。釣り上がること2時間で伊勢滝である。ここで標高1800m。充分に楽しんだので林道を下るがうち一人がバテ気味である。高所とはいえない釣り場であるが酸欠かもしれない。
落差の大きな伊勢滝
帰途、林道からイワナのナワバリ争いを見た。一等地の瀬に26㎝ぐらいのイワナが定位している。その斜め後ろの二等地に24㎝くらいのイワナがいる。この魚は一等地のイワナにときどき近寄って来る。おそらく場所が空いていないかを見に来るのだろう。一等地のイワナはその都度追い払うことを繰り返す。そのうち一等地のイワナが仲間に釣られた。すると二等地にいたイワナがさっとその場所を占めたのだ。さらに、右岸の岩盤のエグレにいたイワナが釣られた。するとそれまで白泡の中にいたイワナがサッとそのエグレの中に入った。その距離は4m以上ある。白泡の下よりもエグレのほうがいいポジションなのだろう。上から俯瞰しているのでナワバリ争いが手にとるように分かるが、イワナはどうしてその場所が空いたことが分かるのだろうか。貴重で面白い体験だった。その夜はペルセウス座流星群の日だった。高原に寝転び流れ星を数えながら眠りについた。
夜は流星を捜してのんびりとすごす。星がすこぶるきれいな高原だ
●管轄漁協:天竜川漁協(℡0265・72・2445)
●交通:中央自動車道・駒ケ根IC を降りて県道75 号を経由して宮田高原キャンプ場(7月から営業)。途中の道路が閉鎖されている
2017/7/25