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編集部2024年6月25日

和歌山県/日高川支流 美しいアマゴの朱点を求めて

全国おすすめ釣り場 和歌山

妖艶な美女に化けた狐にネズミの天ぷらを差し出せば尺を優に超えるアマゴが手に入る――。山本素石のエッセイ「小森谷の一夜」に出てくる“ねずてん”の話は和歌山県の龍神村を流れる日高川上流部が舞台である。素石の時代ははるか遠くに過ぎ去ってしまったが龍神村のアマゴ釣りは今も渓流ファンを惹きつけずにはいられない。

妖艶な美女に化けた狐にネズミの天ぷらを差し出せば尺を優に超えるアマゴが手に入る――。山本素石のエッセイ「小森谷の一夜」に出てくる“ねずてん”の話は和歌山県の龍神村を流れる日高川上流部が舞台である。素石の時代ははるか遠くに過ぎ去ってしまったが龍神村のアマゴ釣りは今も渓流ファンを惹きつけずにはいられない。

写真と文◎前川崇

増水後の谷へ

増水後の谷へ

日高川のアマゴ釣りは椿山ダムより上流がおもな釣り場となる。つまりそこは龍神村であり、渓流にしろアユにしろ日高川と呼ぶよりも“龍神”と呼ぶ釣り人のほうが多いかもしれない。

ダム上流といってもその流程はとても長く広大だ。石が小さく穏やかな流れの本流とそこに注ぎ込む支流、本流上流部の谷など変化に富む無数のポイントは渓流釣りファンを飽きさせることがない。

4月最初の火曜日、雨による増水の影響で本流は笹濁り。かつてこのあたりでは「コサメ」と呼ばれ、雨にまつわる地方名も多い魚だけに釣るだけなら悪くない水況だが、下田成人さんは龍神らしいロケーションと魚を求めて谷に入ることにした。

最上流部の集落である大熊から続く村道とも林道ともつかない道を上流に向けて車を走らせていくと、ふたつの谷の合流点に架かる出合橋を渡る。

右からの流れは平維盛の悲劇の伝説と1960年代に絶滅したとされるキリクチ(諸説あり)、そして“ねずてん”であまりにも有名な小森谷。西日本の渓流釣り文化を考える上で、聖地と呼べる谷のひとつかもしれない。

下田さんはもうひとつの谷である小川沿いに車を走らせる。近年の水害で崩れた痛々しい山肌も見られるが、上流に向かうほど本来の山の雰囲気が濃厚になってくる。知名度では小森谷のほうが上だが、この小川も流程は長く素晴らしい谷である。

「小川の渓相は小森谷とも違いますね。小森谷は荒々しく深いポイントが多いですが、小川は龍神らしいというか。僕は小森谷より小川や古ふ るかわ川のほうがいい思いをしたことが多いです」

 

 

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サオ抜けねらいが鍵

崩れた旧道の屈曲部から木々の間を抜けて谷に降りる。仕掛けをセットして新しいサオを伸ばし、エサを付ける。解禁当初はイクラも使うが、下田さんや地元の釣り人がおもに使うのはカワゲラ類になる。釣れることも理由だが、魚との駆け引きがテクニカルで楽しいというのが理由のひとつだろう。

 

キンパク

この日は地元のお店で販売されているキンパクを使ったが、普段は採取した川虫を使用することが多いという下田さん。川で採れるものであれば少々のサイズなどは気にしないという

 

仕掛けを振り込むとすぐに反応があった。ただエサを触っている感覚はあるものの、決定的なアタリは出ない。そして掛かってきたのはキープサイズあるなしの魚。こんな状況がしばらく続いた。

 

アベレージサイズ

キンパクをがっちりくわえたアベレージサイズ。この日はちょっと小さめ

 

「このサイズを釣っていると、何匹かは20㎝くらいの魚がまじってくるんですけどねぇ」

そんな状況でも頭上の木が気になるポイントをねらっていくと少しサイズアップ。なんとなくパターンが見えてきた。川原の砂地には釣り人の足跡も見られ週末に叩かれていることは間違いない。

伝説に彩られた龍神村は一方で古くから温泉地として栄え、人跡未踏の秘境ではない。昔も今も自然と人々の生活が密着した土地柄のため、当然のように釣り好きが多く渓流、アユを問わず腕の立つ人が多い。それだけに競争率は意外に高いという側面もある。

 

 

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白い川底が食わせやすい

白い川底が食わせやすい

谷とはいえサオをだした区間は大石が点在するような渓相ではない。だから大きなオモリを用いて点で撃っていくような釣りではなく、軽い仕掛けが効果的なようだ。さらに攻略のコツを下田さんに聞くと意外な答えが返ってきた。

「流れの筋にある石裏の合流点などをベースにねらうんですが、川底が白っぽい砂利のようなところもいいですね。魚もエサが見つけやすいのだと思います」

見逃せないのは、適度な石が沈む流心よりひとつ脇の流れで、かつ川底がそのような状態のところ。変化に囲まれた中に、白くきれいに見える砂利底があれば期待値は高い。

 

流し方

 

流し方も独特かもしれない。斜め上流に仕掛けを振り込み、その流れ方が不自然になり始める頃には回収するのが通常のミャク釣りのセオリーだろう。しかし下田さんは仕掛けいっぱいまで流しきることも多い。エサは仕掛けが張られるために浮上するが、誘いになるのかそのタイミングで食ってくることが多いという。

「淵ならギリギリまで流すのが理想。ちょうどそこにカケアガリがあるようにするといいですね」

この日はまだ瀬に魚は入っていなかったが、これからの季節はむしろ淵よりも瀬でよいアタリを得られることが多い。驚くような浅場も見逃せなくなるが、目印に魚が跳んでアタックしてくることが多々ある。だからこそ毛バリ釣りの好シーズンでもあるのだが、エサ釣りにおいてはなるべく避けたいと下田さん。

「目印に跳んだ魚はエサを食わなくなってしまうんです。そんなときはなるべく目印を上げて魚が反応しないようにしておきます」

また、淵尻に浮いている魚をよく見かけるのもこの頃だ。警戒心の強いこの“見張り役”を上手く釣りあげるコツがあるという。

「淵尻に浮いている魚は、魚の上流にエサを落とすより下流に落とすほうが、食い気があれば回り込んでパクッと食ってくれます。上流にエサを落とすと、いちばんいい場所にいる魚とせめぎ合って、見えていた魚は食い気があるのにも関わらずスーッとどこかへ行ってしまう。釣れる魚を逃がさないようにポイントの状況によってエサの投入点は変えます」

その時期は川で採れる川虫にも変化が見られる頃だ。カワゲラ類は羽化してしまう種類もあり、ヒラタの出番も増えてくる。弱りやすいエサだけにこまめに補充しながら遡行するケースも想定しておきたい。

 

 

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美魚が主役のフィールド

美魚が主役のフィールド

釣れてくる魚は朱点の鮮明なものと控えめなものに分かれたが、おそらく前者が放流されたものだろうか。成魚放流が増えた昨今において、本流の一部を除いて稚魚放流が主体なのも日高川の特徴だが、いずれにせよ成魚放流とは異なり美しい魚であることに変わりはない。

一見よさげに見えるポイントでも、頭上が開けているとやはり反応が悪いことも少なくなかった。完全に木が覆い被さるほどではなくとも、掛けてそのままサオを立てるには心配なくらいのポイントがいい。

あと1尾、もう1尾。サイズアップの可能性が少ないポイントはパスしながら、なるべく型のよい、美しい魚を求めて遡行を続けていくと小さな滝が見えてきた。

この滝壺も反応こそあったが、どうやら良型は次にお預けのようだ。退渓点はすぐ上流になる。小川の流程はまだまだ続き、渓相も素晴らしいがサオを納める潮時だろう。

 

 

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新緑の季節こそが本番

新緑の季節こそが本番

近年は5月1日のアユ釣り早期解禁の影響で、地元の名手も早い段階で友釣りに鞍替えしてしまうため、何となくそのタイミングがひとつの区切りとなっている。しかし梅雨以降の本流は増水後にミミズをエサにした釣りやルアーで尺上の大ものをねらうチャンスとなる。

そして谷の釣りは、5月を過ぎた新緑の季節こそが本来のベストシーズンだろう。関西方面の渓流釣りは解禁周辺に極端な人出のピークを迎える感があり、季節が進むほど落ち着いてくるし、それはちょうど年を経た良型が瀬に出てくるタイミングとも重なる。

山本素石は『西日本の山釣』でこう述べている。

「一般には、山釣は五月頃までに終るぐらいに思っている人がずいぶんいるようですが、実はその頃からが本格的なシーズンインであって、昔からの渓流師は“第二の解禁”といってこれをよろこびます」

化けた狐にネズミの天ぷらを差し出さずとも、素晴らしいコンディションの龍神アマゴが釣れる季節は、もうすぐ駆け足でやってくる。

 

ナノヤマメ

ハリは4 ~ 5 号。この日はナノヤマメを多用した

 

天井イト

仕掛けの天井イトはマーキング入りで長さの把握と視認性にすぐれたものを愛用している

 

星煌峰

サオは星煌峰R4 の5.3m。胴に乗るというよりも、比較的シャキッとした調子ながら軽い仕掛けも振りやすいと下田さん。調子のよさだけでなく、まさに夜空の星が煌めくようなデザインも目を引くフラッグシップモデル

 

魚

水が出ると平水のときよりも魚体は少し銀毛がかったようになるのだとか

 

 

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※このページは『つり人 2024年6月号』を再編集したものです。

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