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編集部2025年3月28日

大河・利根川の生まれる場所へ。100年前の水源探険の舞台は、巨大イワナの巣窟だった!

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利根川最上流部にある矢木沢ダム(奥利根湖)より上流の本流筋は「利根川本谷」と呼ばれている。そこはかつて魑魅魍魎の棲む地とされており、明治、大正、昭和に行なわれた水源探険の舞台でもあった。最終的に水源が特定されたのは昭和29年。それから70年以上、幾県も跨ぎながら最初の1滴まで「利根」の名を変えない大河を、大イワナを捜しつつ今改めて遡ってみた。(『渓流2025』より抜粋)

文◎成田賢二

【動画】利根川最初の一滴まで!迫力満点の源流釣行を動画で見る

ダムを越え、水源探険の舞台へ

 今回のメンバーは7人、出発前夜に下山口となる新潟県の三国川ダムを望む公園に集まった。大所帯のため装備類の打ち合わせを綿密にせねばならない。
 利根川源流の地形的特徴として、バックウォーターから水源の大水上山まで奥深く食い込んだ「一本沢」であることが挙げられる。一本沢というのは、有望な釣り場となるような支流を持たないという意味である。右岸には越後沢や裏越後沢という大滝を秘めた支流が注ぐが、どの谷も概して急峻で魚止が近い。本流核心部の釣りに専念できるよう、初日はできるだけサオをださず、支流も思い切って通過することにした。
 「民宿やぐら」のエンジンボートで矢木沢ダム(奥利根湖)を渡してもらい、小穂口沢との分岐で下船した。湖岸に付けられた道を少し歩いて本谷の河原に下り、荷を下ろしてようやくたどり着いた利根川源流入口の景観に見入った。少し進むと左岸から静かに水長沢が入る。
 有史以来、奥利根は極めて人跡の稀な土地であった。そこで明治27年、大正15年、昭和29年と3度にわたる水源探検隊が結成され、最後の”昭和隊”がようやく水源を突き止めたという経緯がある。
 目の前の水長沢は”明治隊”が水源を求めて入り込んだ支流である。当時の探検隊の名簿を見ると、水上村長や沼田警察署長、沼田収税署長、沼田尋常高等小学校長などとある。日清戦争の只中であった当時の記録を読むと、利根川本谷を遡ったものの水長沢出合の先にてその険しさと日数不足、食料計算のミスなどにより本谷遡行を断念。左岸の水長沢を尾根から巻き登り、文珠沢へと抜けたらしい。その道中では今は矢木沢ダムに沈んだ温泉を掘ったり、マムシを蒲焼きにして食べたり、マイタケの汁を作ったりして、上越国境を確定しながら尾瀬ヶ原を経て戸倉へ下山している。
 当時、藤原以奥は魑魅魍魎が住む地とされており、ボッカ人夫にはピストルや日本刀を持参させていたが、結局日本刀は藪を狩る鉈に堕し、ピストルは夜露のために錆びついて10日間の山行の下山を祝う時の祝砲にしか使わなかったというオチがある。
 先へ進むと最初のゴルジュ帯「シッケイガマワシ」となる。「シッケイ」とはカモシカの異名であり、カモシカでさえも高巻くという意味だろう。明治隊が遡行を諦めたであろう場所がこの辺りである。
 やがて右岸に越後沢を見送ると谷はさらに狭まる。泳ぎとヘツリを交互に繰り返すとようやく魚影が見え始めた。ダム近辺で見たウグイとは違い、明らかにイワナの動きである。ここにきて中道君の投じたフライにヒットがあり、ここ数年でテンカラを始めた和田の毛バリにも反応が続いた。この日は滝ガ倉沢の合流点付近でビバーク。

渓流釣り

矢木沢ダム(奥利根湖)より上流の本流筋は「利根川本谷」と呼ばれている。極端に切り立ったV字谷が続く

渓流釣り

豪雪で知られる奥利根だが、この年の9月は上流部に1ヵ所雪渓が架かっていただけだった

渓流釣り

利根川本谷の遡行には本格的な沢登りの技術が必要になる

 

やっぱり、いないはずはない

 翌日は早朝から魚の反応が連続し、型も良くなってきた。ドラマは難所「オイックイ」の先で起こった。ルアーロッドに持ち替えた中道君がまたしてもサオをあおった。大きい、明らかに大きい。50cmは優に超えている。バラすな!怒号が飛び交う。振り出しの源流ルアーロッドではヒットした淵で耐えきれず、やがて魚が下流に走り始めた。中道君がサオをしならせながら河原を駆け下り、つい先程登ってきたばかりの小滝を飛び降りる。
 私もザックを捨ててランディングネットを持ち、それを全力で追走した。握っているのはグリップを楓の瘤材で作った中道手製の源流ネットである。50mほど下流の淵で隙を見せたイワナを、なんとか私がネットに魚を放り込んだ。……が、ネットより魚の方がはるかに大きい。まずいことに魚は頭側がネットの外に出ていた。魚は暴れ、ルアーは外れ、その瞬間にイワナは帰らぬ魚となった。私たちはずぶ濡れのまま呆然と立ちすくんだ。
 「ネット小せえだろ!」
 「知らないっすよ!」
 私は叫んだが祭りは終わった。その日は定吉沢の出合にて幕営した。

渓流釣り

最初に出た1尾に見入る。この川のイワナは引きが強い!

渓流釣り

難所「オイックイ」。雪がないのでサオを出しながら通過する

 

巨大イワナ再び、そして稜線へ

 ハイライトは翌朝に再び起こった。テント場から本谷に降りるとすぐに扇形に開けた深い淵がある。そこで中道君が次は53cmを手にしたのだ。深い淵にスプーンを沈めての釣果だったという。
 そのすぐ先にある魚止滝を越えると、連続する滝群が待っていた。大利根滝20mは直登したのちに荷揚げをし、ハト平周辺でわずかに残った雪渓をくぐる。人参滝や深山滝を越えると午後5時をまわり、どうにも今日中に稜線まで抜けることが不可能だということが分かった。
 源頭部にわずかにあった砂利の河原を均すと、貧しいながらもテント場が出来上がった。寝床の頭のすぐ脇を利根川が流れているという贅沢なテンバであった。

 翌朝は疲れた身体を引きずりながら小滝を越え、源頭を詰めて稜線に立ち、ようやく荷物を下ろして大水上山を往復した。うねるように笹原が続く稜線を眺め、平ヶ岳や本谷山、中ノ岳へと連なる上越国境の極みに立ったことに大いに満足を得た。
 結果的に雨には一度も合わない4日間だった。はるか足元になった利根川本谷と関東平野を眺め、ひとつの旅が終わったことを知った。豊穣の森を無心に漂ったものだけが理解しうる穏やかさを感じながら、私たちは笹原につけられた緩やかな登山道を下りはじめた。

渓流釣り

大イワナに引きずられながら沢を下る!

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ついに出た、今回最大の53cm

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ついに稜線へ!中央に刻まれた沢筋が利根川の源頭部

 

 

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