4月5~7日に奈良県・七色貯水池で行なわれた
JB TOP50開幕戦にて、
藤田京弥に3日間同船することができた。
藤田の突き抜けたサイト能力の理由が垣間見えた一戦だった。
DAY1:天才を阻んだ上流の壁
サイト・ビー=写真と文 4月5~7日に奈良県・七色貯水池で行なわれたJB TOP50開幕戦にて、
藤田京弥に3日間同船することができた。
藤田の突き抜けたサイト能力の理由が垣間見えた一戦だった。
JB史上初の怪物ルーキー
TOP50で藤田京弥を初めて見てから1年が経った。2018年開幕戦(野村ダム)初日、多くの選手が目をつけていたパワースポットである競技エリア最上流に陣取っていたのが藤田だった。すぐ下流に大ベテランが構えるそのエリアで堂々と自分の釣りをする藤田の姿はとてもルーキーとは思えなかった。藤田はその日5820gで2位。デビュー初日に好スタートを切ったのだった。
TOP50デビュー戦の野村ダム最上流で撮影した1枚。上流が藤田
藤田の活躍はその試合だけでは終わらなかった。第3戦の七色貯水池では得意のサイトフィッシングで優勝。年間レースでも早野剛史と最後の最後までAOY争いを演じ最終2位。マスターズでは第2戦で優勝を決めてAOYを獲得。それだけではない。河口湖で行なわれた大一番、ジャパンスーパーバスクラシックでもサイトで優勝。TOP50優勝、マスターズ優勝&AOY、そしてクラシック制覇。これらすべてのタイトルをルーキーイヤーで獲得したアングラーが現われたのはJB史上初めてのことである。それも22歳の若者が……。
「デビューイヤーでTOP50優勝」という史上初の快挙を達成した2018年の藤田京弥。ムシを駆使したサイトフィッシングで七色貯水池戦優勝
その強さの理由は何なのか。開幕戦前夜、七色貯水池のほとりの温泉で偶然同じ湯に浸かったとあるベテランから興味深い話を聞いた。
「京弥君はたたずまいがいいよね。釣りをしているときの姿勢が抜群にいい。スッと背筋が伸びていて、その姿勢のままキャストが決まる。普通は難しいキャストを決めるときは姿勢が崩れるものだけど。彼は『アスリート』って感じがする。間違いなく今年も釣るよ」
そんな藤田の2年目のTOP50が始まる。はたしてこの天才は「2年目の壁」に阻まれるのか、否か。ディフェンディングチャンピオンとして迎える七色貯水池での開幕戦はそれを見極めるまたとない舞台だった。
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早々に現われた分厚い壁
そして試合初日(試合時の状況はこちら)。
フライトNo5という当たりクジを引いた藤田は迷うことなく北山川上流を目指した。
渓谷然としたバックウォーターでボトムまで丸見えのクリアウォーターを湛えたエリアだ。
見る気がなくともバスが見えてしまう特性上、サイトフィッシングがメインになるエリアといえる。ビッグフィッシュが多い反面バスの警戒心は非常に高く口を使わせるのは難しい。
スタートとともに最上流へ向かった藤田だったが、バスは期待よりも少なくなおかつ口を使わなくなっていた
「上流で釣れたら基本は40cmアップ。稚アユを食べているバスがねらえます。最上流にはヘラブナを飲み込みかかっているロクマルもいます。ただ、プラクティスでプレッシャーが溜まっていてすごく難しい。サイトフィッシングに自信がある人しか来られない場所ですよ。難しいですよ」
それでも迷わず上流へ向かうということは「当然自信はある」ということなのだろう。藤田の言葉のとおり、この日上流域で見かけた選手のなかには山岡計文、三原直之、加藤誠司といった極めて危険かつ厄介なサイトフィッシャーマンが含まれていた。
「加藤さんもおとつい同じロクマルを見ている。だからまずは自分が先に最上流に行きます」
7時30分に上流エリアで釣り開始。バスを見つけるまではキャストしない。バスを捉えたらノーシンカーリグ(RVバグ1.5in×マスバリ)やロングリーダーダウンショットリグ(フラッシュJシラウオ3inとハドルフライ)、ヘビーダウンショットリグ(ラストエース168)、ジョイントゾーイなどをローテーションしてルアーへの反応を見ていく。
この日最も多投したRVバグ1.5in。いわゆる「沈むムシ」。見えバスの進行方向の先に投げてフォールさせ、そのあとは軽いトゥイッチで誘うことが多かった
印象に残ったのはタックルを変える際に悩む時間がほぼないこと。「まずはコレ」、「これでダメならアレ」などといった手順が完全に確立されている。この日に関しては基本的にはムシを投げる機会が多かった。プラではフォールさせたあとのトゥイッチ&ポーズでナイスフィッシュに口を使わせていたという。ロングリーダーダウンショットリグはメインベイトと思われる稚アユに対応したもの。シェイクすることでロールさせてバスの興味を引いた。
また、バスを発見した際は必ず「体型」についてもコメント。そういえばかつての取材でこんなことを言っていた。
「釣れるバスかどうかを判断するひとつの指標としてバスの体型を見ます。太っていて、つやのよいバスは難しいことが多い。なぜならエサを食えているということは賢くて満腹だから。逆に痩せている場合は頭が悪くて飢えている。釣りやすい個体です」
しかし……。初日の最上流で藤田は苦しみ抜いた。前日と比べて見えるバスが減っているうえに、どのルアーを通してもバイトまで持ち込むことができない。何かが変わっていることは明らかだが、どうすれば打開できるのかが見えてこない状況。11時20分まで上流で時間を使い、キャッチできたのは600gわずか1尾だった……。
「まじキツい……。1週間前は普通に食ったのに……」
ピクピクで最大のチャンスを得るが……
決定的なチャンスは一度だけ。ノーシンカーリグ(レインボーシャッド×マスバリ)を水面でピクピクさせていると腹がふくれた50cmクラスが見に来た。ルアーと鼻が触れる距離まで接近し、一度は口を開けたように見えたがルアーは吸い込まれなかった。
サイトで釣った唯一のキーパー。RVバグ1.5inをフォールさせると一度はスルーされたが、トゥイッチを入れると振り返って食ったという
「動かすと逃げられている気がする……」
藤田は11時20分に下流への移動を決断。このままキーパー1尾で終わってしまえば予選落ちが見えてくる。揃える釣りにシフトするべく向かったのは中流域。藤田はこの試合から導入したというライブスコープに目をやると、浮いているバスに対してダウンショットリグでアプローチ。液晶を見ながら「追ってきたけど見切られた」などとコメント。形を変えたサイトフィッシングである。使い始めてから日が経っていない道具をいきなり試合で活用するあたり相当に頭が柔らかいのだろう。プラでは簡単にキーパーが獲れていたというライブスコープシューティングだがこの日は完全に不発。試合終了まで1時間を切った14時の時点で依然キーパー1尾という窮地に藤田は追い込まれていた。
サイトが不発に終わると中流域へ。ライブスコープシューティングでキーパーをねらう。時には湖の沖、水深20mの中層をねらうシーンもあった
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もらうのではなく掴んだヒント
自身の目と液晶、両方を使ったサイトフィッシングが不発に終わると藤田は第3の策としてカバー撃ちに舵を切った。使用したのはスナッグレスセッティングのネコリグ(ドライブクローラー4.5in)。タックルはベイトフィネスでロッドはREV-C69L+。ベイトフィネスロッドとしてはやや硬めのモデルだ。
14時15分、中流の小さなバンクの凹みに打ち寄せられたゴミを撃つと25cmのジャストキーパーが食ってきた。「こんなに小さいのに手が震えてるよ……」。
帰着まで1時間を切ったタイミングで掛けた2尾目はアワセとともに飛んでくるジャストキーパー。しかし藤田の手は震えていた
「カバーいるじゃん!」とゴミを撃つと短時間で3バイト
その後一度のミスバイトを経て、14時46分という帰着ギリギリで食ってきたのは1kg弱のナイスフィッシュ! 時間がまったくないなか、枝に巻かれながらもネットを駆使して冷静に獲った1尾だった。「カバーいるじゃん!」。
ラスト15分という痺れる時間に書けた3尾目は絶対に欲しい1kgクラス。フロントからネットを差し出すも届かず、藤田は落ち着いてリアに移動してランディングした
驚いたのはこのあとの行動である。
帰着間際、ギリギリのタイミングでドラマ性のある1尾をキャッチしたとき、そこでストップフィッシングとする選手は少なくない。帰着遅れで失格になっては元も子もない。しかし藤田は会場方向に向かって走る途中でエンジンを止めて「あと1分やります」と言った。そのあとに続いた言葉は「ここ、夕方になると魚が上がってくるんですよね~」(ニッコリ)。何かトラブルがあれば間違いなく帰着に間に合わないギリギリのタイミング。さらに、土壇場でいい魚を獲ってアドレナリンが出ているであろう状況でニコニコしながら記者に場所の説明をしている余裕は普通はない。ここで思い出したのが前夜の温泉で聞いたベテランの言葉だった。
「あと1分やります」と藤田
「姿勢が崩れない」という話だったが、それはおそらく身体の姿勢だけではない。この男はどんなときも心の姿勢が崩れないのだ。だからこそ火事場でも冷静さと余裕をなくさないし、起きた事を冷静に分析して翌日に繋げられるのだろう。
「カバーにいる」というヒントをもらった……というより自分で掴み取った藤田。2日目はおそらく巻き返すだろうと記者は確信したが、待っていたのはまったく予想していない展開だった。(続く)
2019/5/14
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