汐よしさんは和竿のよさの1つに「曲がりすぎない」という特徴を挙げる。「もちろん、竿には“いい曲がり”という要素もあるでしょう。ただ、“いい曲がり”にはアタリを消している部分もある。和竿を使えば、硬いことがダメなんじゃないというのが分かるんですよ」。
和竿のよさは「曲がりすぎない」こと!?
写真・文◎編集部
西の明石、東の鴨居とも称され、東京湾口の急流に育つマダイがねらえる横須賀の鴨居沖。近年、この海でタイラバを試しているのが、横浜竿「汐よし」こと早坂良行さんだ。その釣りに同行すると、タイラバと和竿の両方の魅力が見えてきた。
この記事は月刊『つり人』2021年5月号に掲載したものを再編集しています
この記事の内容
汐よしさんが考える和竿の良さとは!?
房丸のマダイ乗合は、朝8時過ぎに出船するのんびりスタート。代わりに沖上がりが午後4時で、この時期の上げ潮と下げ潮の両方をしっかり釣れるのがうれしい。当日は満潮が朝6時29分、潮止まりが12時26分、次の満潮が夕方6時18分だった。釣り座は右舷のトモのひとつ手前になった。下げ潮の前半、釣りは鴨居沖の航路周り水深70mのポイントから始まる。
現在はネクタイを簡単に交換できるパーツも市販されているが、汐よしさんはループをソフトビーズで止める仕掛けを自作し、同様の交換ができるようにしている。ハリはダイワのSS またはSSS サイズの小バリでハリスは2cmと3cm。下バリのフックにネクタイとの同調をねらってワームを付けるのもベースは中井流だ
ネクタイやワームもいろいろ試している。基本的には細身の中井チューン(ダイワ)が多い
まだ下げ3分ほどで80gのヘッドでも仕掛けが立つ。すると船中1尾目のヒットは、小誌でおなじみのカメラマンで、この日はたまたま趣味のマダイ釣りに来ており、右舷ミヨシに釣り座を構えていた津留崎健さんに来た。実は津留崎さんも鈴木さんと並ぶ房丸の竿頭常連。竿も和竿を自作していて、鴨居式の経験も長いが、今は一つテンヤに状況に合わせてタイラバも織り交ぜ楽しんでいる。
1尾目こそ控えめなサイズだったが、すぐに同じパターンで3.2kgを釣りあげた。すると今度は左舷ミヨシに入っていた鈴木さんがやはり一つテンヤで同サイズをキャッチ。両ヒットは釣り始めから間もない午前9時前後。「今日はエビかね~」という声がどこからともなく上がる。時合や日並みでエビエサとタイラバのどちらかにアタリが集中することがよくあるのだ。
津留崎さんが手にした3.2kgはこの日の最大魚
鴨居のマダイのためにオーダーした「極先調子」で良型マダイを掛けた鈴木さん。鴨居式を経て一つテンヤになり、ここ2 回ほどの釣行でタイラバも試している
「今は一つテンヤの時合かな。まぁじっくりやりましょう」という汐よしさんは、そのようすを確認しながらも、淡々とボトムタッチと底から10mくらいまでの等速巻きを繰り返す。するとしばらくして、左舷トモに入っていた、房丸乗船通算1000日まであと少しという、大ベテランの小川幸夫さんがタイラバでメスのきれいなマダイをキャッチした。続けて2尾目も釣りあげる。
「ハリは閂マダイⅩの7号で自作。ネクタイも細めだよ」と、やはり小バリと細身のネクタイの組み合わせにこだわっているという。さらに右舷トモに入っていたお客さんもタイラバで同サイズ。すると10時40分、潮が少し速くなってきたので100gのヘッドに変えていた汐よしさんにも「来ましたね(笑)」とアタリが訪れた。落ち着いたやり取りのすえ、タモ入れされたのは1kgクラス。気付けばタイラバの時合に変わっていた。
青い海に浮かび上がる鮮やかな赤。春にふさわしい釣り
汐よしさんは和竿のよさの1つに「曲がりすぎない」という特徴を挙げる。「魚の感触がよく分かる。誘いたい分だけ誘えて、曲がらないのが竹竿です。釣りの上手な人はそこを使い分けていて、作る側は硬い竿ではあるけれどもバレない、そんなバランスを目指しています」と言う。たとえば和竿のシロギス竿を使うと、シロギスとメゴチのアタリの違いが分かる。それでメゴチが食って来ていると感じたら、誘うスピードをもう少し上げて本命のシロギスを掛ける。「その調整は、曲がらないからできるんですね。もちろん、竿には“いい曲がり”という要素もあるでしょう。ただ、“いい曲がり”にはアタリを消している部分もある。和竿を使えば、硬いことがダメなんじゃないというのが分かるんですよ」。
手に伝わり続ける海中の魚の挙動。「曲がらない(曲がりすぎない)」竹の素性が生きる
この日、ねらいどおりに1尾目のマダイを手にし、撮影も済んだところで、「ぜひやってみてください」と記者も横浜竿をお貸しいただいた。手にすれば意外なほど軽く、シャキッとしている。籐の握りも心地よい。
実際に使ってみると、まずは魚を掛けるまでがとても安定している。手作業で調整されたグラスの削り穂は、潮の速さが変わっても、ヘッドの重さを変えても、程よい曲がりが自然と維持されて快適な等速巻きができる。
そして魚を掛けたあとだ。この日は幸い、手の平サイズ、1kg弱、2kg弱と複数のマダイを掛けることもできたのだが、そのいずれでもヒットしてから取り込むまでの間、魚の感触が常に途切れず海中から手に伝わり続けてきた。初めは単に「今日の魚が元気なのか?」とも思ったが、けっして暴れられているのではなく、適度にいなしながらも、振動自体は常時伝わってくる感覚と言ったらいいだろうか。思い返せば和竿のハゼ釣りにも共通の感覚がある。相手が特有の三段引きをするマダイになったことで、その感触がより拡張され、明確に感じ取れた。
午後からの上げ潮は、風向きの変化もあって、汐よしさんと記者の並ぶ釣り座が一時潮先になった。それまでしばらく船中でアタリが止まっていたが、記者が試しにやや派手なオレンジのネクタイをセットしてみたところで2連発。それならと汐よしさんも細身だがやはりオレンジのネクタイを入れたところで締めくくりの1尾が来た。タイラバはこうした「少しの調整」が見事にはまることもあるのが面白い。終わってみれば、この日は船中で5人が3尾という好釣果。東京湾口の急流が鍛える鴨居沖のマダイは、食味のよさも折り紙付きだ。竹竿以外でももちろん楽しめるので、春の一日、ぜひお出かけになってみていただきたい。
午前と午後の時合でしっかりマダイをキャッチ。この日は凪もよく、汐よしさんを含め船中で3尾が5人
右トモのお客さんも房丸のタイラバにハマり中。上の一尾はタコベイトを付けたパターンで来た
小バリにすることで柔らかい唇部分をしっかり捉える。すべてこのパターンでヒットした
午前にはコーヒー、昼には味噌汁を乗船者全員にふるまってくれる高橋房男船長。こんなサービスもうれしい
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