バーブありとバーブなしのシングルフックでその違いを釣り比べると、最終的なキャッチ率はほとんど変わらなかった。4シーズンかけて得た結論です
バーブありとバーブなしのシングルフックでその違いを釣り比べると、最終的なキャッチ率はほとんど変わらなかった。4シーズンかけて得た結論です
写真と文◎宇野章則
福島県の釣り人、鈴木剛さんの渓流ミノーイングは釣りバリ1本、それもカエシなしが基本。テールのみのワンフック仕様で魚を掛け、ファイトし、そして可能な限りバラさずにネットインするための、シングル・バーブレスフックを使った独自のミノーイング術を解説したい
シングル・バーブレスのセッティングと使いこなすためのコツ
鈴木さんのフックセッティングの面白いところはミノーにスプーン用バーブレス・シングルフックを合わせていることだ。そのままセットすると横向きになってしまうので、スプリットリングを2連結して縦向きにして使っている。ちなみに、スプリットリングを連結するとヒット後のフックの自由度が高まるので、それもバラシの抑制に貢献している感じがするらしい
スプリットリングを2連結させたテールフックとの干渉を避けるためベリーフックを外し、代わりにバランサーを装着。こうすることで小型ミノーを使う時でもテールフックのサイズを下げる必要がなくなり、フックのホールド性が維持できる。
鈴木剛さんはフック部分を切断したアジング用のジグヘッドをバランサーとして取り付ける。0.15、0.3、0.5gを各ミノーのバランスをみてセットしている。
テールのみのワンフック仕様の釣りでは、「テールを食わせる」という明確なゴールを設定した戦術が不可欠。左右にミノーを飛ばしすぎるとミスバイトが頻発するので、トゥイッチで誘いタダ巻きで食わせることを考えた
現場で見ている限り鈴木さんは最終的には魚の顔を水面から出し、そのうえでネットを下からすくい上げるランディングが多かった。水面に誘導した際のテンションの抜けを防ぐ意味では、こうした操作も効果的のようだ。
魚の傷を減らす釣りとバラさない釣りの両立を目指すためには
福島県在住のアングラー・鈴木剛さんと川を歩いていると、あらためて考えさせられることがある。それは、バーブレスフックによる渓流ミノーイングの可能性だ。鈴木さんとシーズンに1〜2回ほど釣行をともにするようになったこの2年、彼はバーブレスのシングルフックをずっと使い続けているのである。
一般的にトリプルフックよりはシングルフックのほうが単純にハリ数が少なくなる分、バイトしてきた魚をフックアップに持ち込める確率は低くなる。それがバーブレスともなれば、せっかく掛かった1 尾を取り逃してしまうリスクがさらに高まるのでは? と心配するアングラーは決して少なくないだろう。何を隠そう僕も渓流では100%シングルフックを使いつつも、バーブレスまでは踏み切れない1 人なのだが、鈴木さんの釣りを見ていて「これなら挑戦できるかも」と思ったのだ。
個人的にバーブレスフックの釣りは、掛かった魚をバラしたくないという気持ちから、慌ててぐるぐる巻き寄せる性急なファイトになりがちで、1尾とのやり取りをいまいち楽しめないところも、これまで導入に二の足を踏んできた理由の1つ。その点、鈴木さんの釣りはバーブレスフックを使いながらも、きちんとロッドの曲がりを活かして相手をいなし、バーブドフックの釣りと変わらない自然さで寄せてネットにすくい取るファイトスタイルが新鮮だ。もちろん絶対にバレないわけではないが、肝心のバラシについても傍目にはバーブレスを使っているとはほぼ分からないキャッチ率を誇る。
ここでは鈴木さんが実践するシングル・バーブレスフックによるミノーイング術を解説したい。掛けた魚に与えるダメージを抑え、美しい姿のまま流れに返したいが、同時にできるだけたくさんの魚をネットにすくい取ることも、あきらめたくない。そう考えるアングラーに試してほしい釣りである
4シーズン検証したバーブなしとバーブありの違い
鈴木さんがシングル・バーブレスフックを使うようになったのは10年ほど前から。その頃はオフシーズンに管理釣り場によく足を運んでいたそうで、すると当然のことながらシングル・バーブレスフックのレギュレーションで釣りをすることになるため、この仕様でも充分に楽しめる事実に気付かされたらしい。
「ヒットした魚を特に問題なくキャッチできましたし、バレるバレないの差はバーブの有無というよりもハリの掛かりどころや、または魚の活性などによる食い方の問題ではないかと思うようになりました。それで、渓流で使ったらどうなんだろう? と興味が湧いたんです」
その後、シーズン開幕を迎えた渓流で実際にシングル・バーブレスフックを試してみたのだが、さすがにこれまでと同じようにはいかず明らかにバラシが増えたと鈴木さんは言う。しかし、いざ挑戦してみるとこれまで使ったことがないルアーをいろいろ試すのと同じで、各種フックとそのバランスをあれこれ考える試行錯誤が面白く、最終的には自分の中で満足できるセッティングを見つけることができたそうだ。
「その仕様にしてからはバラシが激減しました。それで、シングル・バーブレスフックの釣りを2シーズン続けて、それからもう一度シングルのバーブ付きフックに戻して、こちらも2シーズンほど試してみたんです。これはバーブレスフックに不信感があったとかではなくて、あくまで検証目的ですね。フックのセッティングは、『これ』と決めたら最低でも1シーズンは続けないと、検証にならないと思ってるんです(笑)」
シングル・バーブレスフックで2シーズン、そしてシングル・バーブドフックで2シーズンという合計4シーズンの長きに渡る検証を経て、鈴木さんがたどり着いた結論は「最終的なキャッチ率はほとんど変わらない」というものだった。そこで、魚のダメージを軽減できるうえネットイン後のフック絡みのストレスからも解放される、シングル・バーブレスフックを使った現在のスタイルを選択したわけなのである。
ついに見つけた理想的なフックのセッテイング方法
それでは以下、鈴木さんが実践しているシングル・バーブレスフックのセッティングを紹介しよう。
使用するフックはカルティバSBL-5の#6で、それをミノーのテールに1本装着。SBL-35はスプーン用シングルフックであるためこのままだとハリ先が横向きになってしまうが、極小スプリットリング(カルティバのスプリットリングファインワイヤー#00)を2連結したうえでセットして縦向きに調整している。
この極小スプリットリングを2連結する独特の仕様については、バラしにくい形状で貫通力も申し分ないSBLー35#6をミノーイングでも使いたいからという理由だけでなく、スプリットリングで「関節」を増やしてみたところバラシが激減したため、このセッティングを続けているそうだ。また、フックをテールのみのワンフックにしているのは、この極小スプリットリングの2連結セッティングだと、ベリーフックとテールフックが干渉してしまうから。代わりにフック部分を切断したアジング用極小ジグヘッドをバランサーとして取り付けていて、0.5g、0.3g、0.5gを各ミノーのバランスを見てセットしている。
ちなみに、テールのみのワンフック仕様については、鈴木さんの場合もともとスプーンの釣りがベースにあるので、釣りをしていて特に違和感はないらしい。「スプーンの釣りでも魚がボディーに食ってきてフッキングしないこともそこそこあるので、そういうものだと割りきってます」とのことである。
テールのみのワンフック仕様で魚を掛けること
さて、鈴木さんのシングル・バーブレスフックのセッティングの効果を確かめるには、テールのみのワンフックの釣りで魚を効果的にフックアップさせる釣りができなければそもそも始まらない。そして、その戦術こそがシングル・バーブレスフックによるミノーイングの成否を握る核心部だ。トリプルフック2つの釣りと同じ感覚でミノーを操作していると、魚が反応しても乗ってくれないジレンマに必ず悶々とすることになるので、ミノー操作の違いについてもここでしっかり抑えておこう
ミノー操作についてまず鈴木さんが心がけているのは、ミノーを流れに対して、あるいは魚が追ってくる方向に対して「あまり横方向に飛ばさない」ということだ。トゥイッチはサオ先を軽く叩く程度にとどめ、そのうえでラインテンションはリーリングでなるべく張った状態を保つことを意識する。これはミノーが左右に飛んでいないニュートラルな状態でバイトさせられれば、テールフックにフックアップする確率もまた高まるため。つまり、タダ巻きでミノーのテールを食わせて、ハリを魚の口に掛けるのである。
「ラインスラックを叩くトゥイッチでミノーをナチュラルにヒラを打たせる釣り方は一般的ですし、その釣りじゃないと食わない魚は確かにいると思います。でも、自分の場合はフックアップの確実性の優先からあえてそうしないようにしていて、『トゥイッチで誘って、タダ巻きで食わせの間をつくる』という流れがヒットまでの基本イメージです。ヒラを打たせ続けないと食わない状況でも、リーリングでラインテンションをなるべく張った状態を維持して、トゥイッチしながらもタダ巻きの延長の釣り、という感じで行ないます」
それとまた、この釣りを快適に実践するにはミノーセレクトも重要な鍵の1つだ。ヒラ打ち特化型よりはタダ巻きでもしっかり泳ぎ、それでいてトゥイッチすればアクションしてくれるものが望ましく、具体的にはDコンパクト45と同38、ボトムトゥイッチャー50ESと同42ES、ラクス60Sが鈴木さんの高い要求をクリアしたエリートミノー。いずれもロッドワークへのレスポンスがいいうえ、ポイントの流れを選ばずタダ巻きでしっかり魚を誘える安定感抜群のミノーである。
「これらの渓流ミノーはテンションを張った状態でトゥイッチしてもヒラを打たせやすく、タダ巻き時とテンションを与えたトゥイッチ時の総合的なバランスに優れています。連続トゥイッチに魚の反応がいい時はDインサイト44も使っていて、こちらもテンションを掛けたトゥイッチでも流れの中で泳ぎが破綻しにくく、ギラギラと派手なヒラ打ちを決めてくれるミノーです。性能的にはヒラ打ち特化型に近いですが、比較的安定していてお気に入りです」
バラシを減らすファイト術
魚がバイトしてきたら次はアワセへと移行するわけだが、こちらについては「取り立てて難しいことは考えていません」と鈴木さん。むしろ、アワセが1テンポ遅れたり、あるいは瞬間的に中途半端な向こうアワセになってしまっても、シングル・バーブレスフックの場合は魚の硬い上アゴを釣り人が意識せずともフトコロまでガッチリ貫通してくれることが少なくないので、アワセに対して逆に気持ちに余裕ができる部分があるそうだ。
そしてファイトについては、何よりラインテンションを緩めないことが大事。そのうえで鈴木さんは、テンションをつくるためにロッドを立てるとしてもあまり角度を付けすぎないようにしていて、魚が水面を割って暴れる状況を避けるやり取りを意識しているという。
「それと自分の場合、ドラグは少しキツめに設定しています。同じシングル・バーブレスフックの釣りでも、管理釣り場ではドラグを緩い設定にしてテンションを掛け続けながら巻き寄せるファイト術がありますが、相手が渓流のヤマメだとラインをズルズル出されて複雑な流れの中でローリングし放題になってしまい、予期せぬところでテンションが抜けてバラシに繋がるケースがあるんです。いたずらにローリングさせすぎないこと、これがファイト中のバラシを減らす経験則の1つと言えます」
また、シングル・バーブレスフックの釣りで最もバラシのリスクが高まる瞬間がランディングだ。この局面においては厄介なことにどうしてもロッドを立てて魚を水面まで誘導しないといけないが、「そこでバレてしまわないように、ギリギリまで魚を水中で暴れさせておくといいでしょう」というのが鈴木さんのアドバイス。とはいえ長く遊ばせておくのもよくないので、いけると感じたタイミングを逃さずに素早くすくい取る方法がベターであるそうだ。
あなどるなかれバーブレスの貫通力
鈴木さんによれば、バーブの有無の違いを4シーズンかけて検証して得た「キャッチ率はほとんど変わらない」という結論は、ランディングの危うさは拭えないものの、ことフッキングに関しては明らかにバーブレスに分があるため最終的にプラマイゼロになるから、という理屈によるものらしい。
それどころか、バーブレスの貫通力は同じ太さ・形状のバーブドフックに比べると圧倒的なものがあるので、油断している時のヒットでも向こうアワセでがっちり貫通していることが少なくなく、ひょっとするとトータルのキャッチ率がむしろ高められている印象さえあるそうだ
また、鈴木さんはこれまでトリプル・バーブレスフックを試したことはないそうなのだが、バーブレスの最大の利点はその優れた貫通力にあるため、力が一点に集中するシングル・バーブレスフックを使うほうがそもそも効率的と考えているとのこと。トリプルフックだとランディング後にネットに絡まったり、ボサや底石に根掛かるストレスが増えるので、それで手を出していないところもあるらしい。つまり、バーブレスフックで得られるさまざまなメリットを享受するには鈴木さん的にシングルフックが最適なのである。
バーブレスフックを使う意義は誰もが分かっているにもかかわらず、これまでその普及が広がってこなかった背景にあるものは、バラシが増えることへの不安だろう。事実、バーブレスフックのほうがランディングが難しくなるのは確かなので、それも致し方ないかな、と思う。
しかし、だからこそ今回紹介したシングル・バーブレスフックを使った鈴木さんのミノーイング術は価値がある。魚にダメージを与えたくないという感情的な部分は当然として、そのうえでバラシの軽減からキャッチ率向上までを目指した彼の釣りが、多くの渓流アングラーの楽しみを深めてくれるのではないだろうか。
最後になるが、鈴木さんのラインシステムについても触れておこう。PE ライン0.6号にフロロリーダー6lbを付けていて、リーダーにはシーガーR18フロロハンターを愛用。このラインはフロロの中では比較的軟らかく、なおかつ伸びもあるので、タダ巻きの釣りでアタリが弾かれる場面が少なくなる感じがするそうだ。タダ巻きを意識した釣りをしているにもかかわらず乗らない状況が続く時は、このようにリーダーの特性に注目するとフックアップ率が高められる場合があるので準備しておくことをおすすめしたい。
※このページは『鱒の森 2023年4月号』を再編集したものです。
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