ただハイギヤのリールを望むだけなら選択肢はいっぱいある。だが、「愛着あるオールドアブでハイスピードを体感したい!」というマニアがなんと多いことか。その夢を現実化したパーツが登場。しかも、最短10分でできてしまう。今回はパーツの開発者であるバレーヒルの山形さんに手順を解説してもらった。
最短10分でハイギア化できる
写真と文◎松本賢治
バレーヒル開発部所属。ルアーやロッド、パーツなど幅広く開発に携わる。フレッシュ、ソルトを幅広く楽しむが特に食べて美味しい魚(タチウオやマダコなど)を釣るのが大好き。今回は『アンバサダー1500C』をカスタムしていく。1500Cと2500C の違いはスプールの幅のみのため同じパーツが使える。『ハイスピードギヤ01』と『№ .5152 スーパーギヤ2BB』は共通パーツだが、『クロスバー』はスプール幅の違いにより1500用と2500 用があるので要注意。分解していく手順を間違えないようにするためには、分解した順番にパーツを並べていくこと。作業風景を動画撮影している人もいるようだ。なお、今回はパーツ交換のデモ機を使用しているため、オイルやグリスの注油は省いているが、基本的にギヤ系にはグリスを、ベアリングには粘度の低いオイルをそれぞれ少量、使用する。
ハイギヤ化という長年の夢を叶えるには
1970年代以前のアブのリールは3・6:1などローギヤばかりだった。そして、70年以降に4・7:1へと変更され、さらに80年代もハイギヤ化が進み、90年代には6・3:1を実現。アンバサダーでは、この6・3が最もハイギヤとなる。
「初期のアブのギヤ比って4・7:1なんですね。純正は5・3までしかない。今は、6・8とか7・3もあるじゃないですか。やっぱり、それらと比べると巻きが遅いんですよね。他社のカスタムメーカーさんが6・0というのを出されてる。アブではハイギヤですが今の時代のリールとしては高くはないので、僕らとしてはもう少し上を行きたかった。でも、6・0までしかないってことは物理的に無理やからかなぁという不安もあったんです。ただ、弊社は長年、アブのチューニングパーツを出していて、お客さんからもハイギヤのパーツを出してほしいという要望がずっとありまして、そこで2年ほど前に、よし、やったろか!と挑戦したわけです」
しかし、事はスムーズに進まなかったようだ。
「すでに6・0があるのに、ウチが6・1を出したところで面白くない。純正の5・3がハンドル1回転で45㎝、6・0なら56㎝ほど。ここを6・1にしたところで57㎝。1㎝変わったところで……ねえ(笑)。6・5も中途半端やし。ノーマルに比べたら巻き量はあるけど面白くない。それやったら一気に7・0までやろう。そこを目指してアカンかったら商品化はやめておこうって話になりました」
こうして開発魂に火が着き、試行錯誤と挑戦の日々が続くことに。
「ハンドル側にメインギヤとピニオンギヤがある。構造はシンプルです。7・0:1のギヤ比だと、メインギヤが1回転するとピニオンギヤが7回転する。単純な話、メインギヤに70のギヤの山があったら、ピニオンギヤに10のギヤの山があるということ。でも、リール内部のスペースは限られていますし、ギヤを置く場所も決まっているから限界があるわけです。そこへいかに7・0のギヤを入れるかという点が一番の課題となった。最初からハイギヤというコンセプトがあって設計されていませんから。今で言えばローギヤで設計されている昔のアブに現代のハイギヤを入れ込むわけですからね」
ここまで気合いを入れてまで難題に挑む原動力。それは、多くのニーズがあるからにほかならない。先にも触れたが、オールドアブをハイギヤ化したいという声があまりにも多いからだ。
山形さんは当時をさらに振り返る。
「いうならば、見た目が気に入っているレトロな車に最新のエンジンを積み替えてレストアして乗りたいというようなものでした」
ただ速ければいい、燃費がいいだけでは満足しない。こだわりの美意識は譲れないというお客さんの声がかなりあったそうだ。
「これまで弊社でたくさんのパーツを製作しましたが、ギヤは今回が初めてでした。ですからトライアル&エラーの繰り返しで十数個のサンプルを作りました。実は最初はジュラルミンで作ろうとしたのですが、ピニオンギヤに採用することができなかった。片方だけ素材を変えると削れ方が違ってくるデメリットがある。素材は同じにしたほうが馴染みがよくなるということでメインもピニオンも真鍮にしました」
そうした紆余曲折の末、念願のハイスピードギヤは完成した。それがアンバサダー1500Cとアンバサダー2500Cのためのカスタムメイドギヤである『ハイスピードギヤ01』だ。この番手を使うシーンはベイトフィネスとなるためメインは渓流。あとは、バスだろう。
このアイテムだけを交換してもハイギヤライフを楽しめるのだが、さらに1段、いや2段上の快適さを味わうためにはレベルワインドとローリングの滑らかさが必須のため、クロスバー(レベルワインド×パイプウォームシャフト×シャフト両サイドにボールベアリング)も交換すると回転性が大きく向上する。「どれだけスプールを軽量にしもベアリングをかましても、レベルワインドのパイプとシャフトが錆びていたり汚れていたら滑らかさが失われて飛距離は伸びません。だから『BBクロスバー』をリリースしました。こちらもなり高いレベルで回転のスムーズさを実感できるカスタムパーツで、このモデルはリトリーブ時もキャスト時もレベルワインドがシンクロして動きますから、すぐに体感できます」
そして、さらに飛距離を伸ばしてキャストフィールを高めるためには、これらと連動しているコグホイール(レベルワインド駆動ギヤ)も交換したい。ボールベアリングが2個入ったコグホイールの『№5152スーパーギヤ2BB』ならさらなる滑らかさを実現できる。
これらのカスタムパーツはどれも特別な工具不要で簡単に交換できる。慣れた山形さんならフルカスタムでも作業時間は約10分。かけがえのない愛機のフォルムはそのままに、この3つのパーツで劇的に滑らかな回転、伸びのあるキャスト、そしてハンドル1回転で65㎝のハイスピード巻き取りが手に入るのだから、釣りそのものが大きく変わってくるずだ。
アンバサダー1500Cのカスタムの手順
Step1
用意する工具は、リール購入時に付属している小型マイナスドライバー付きレンチ(小さくて使いづらい場合は写真のように別途用意)、ピンセット、精密マイナスドライバー、プライヤー、ステンレスの小さな角形トレー
Step2
マイナスドライバーでハンドルリテーナーを外す
Step3
精密マイナスドライバーでEリングを外す
Step4
レンチでハンドルを外す
Step5
スタードラグを緩めて外す
Step6
マイナスドライバーでサムナットを緩める
Step7
右サイドプレートをゆっくり外す
Step8
外した右サイドプレート内にあるギヤを交換するため、マイナスドライバーでネジを緩める
Step9
ネジを外したらひっくり返す
Step10
ゆっくりサイドカップを外していくとギヤが見えてくる
Step11
ギヤを交換する前に精密ドライバーの先でストッパーを上げておく
Step12
メインギヤを外す。ギヤの上に着いているパーツも一緒に手で持ち上げメインギヤブッシングから抜く
Step13
メインギヤの横に並ぶピニオンギヤもピンセットで外しておく
Step14
外したピニオンギヤに付いている金具(ピニオンヨーク)を外して、『ハイスピードギヤ01』のピニオンギヤと交換する
Step15
元の位置にはめこむ。オリジナルより小さくなっていることがわかる。ギヤ比を上げると必ずピニオンギヤの外径は小さくなる(細くなる)
Step16
新しい『ハイスピードギヤ01』を凹んでいる面を上にしてメインギヤブッシングに差し込む
Step17
⑫で取り出したメインギヤにくっついているクリックホイールとドラグワッシャーを精密ドライバーで外す
Step18
ドラグワッシャーを『ハイスピードギヤ01』へ移植する
Step19
クリックホイールも『ハイスピードギヤ01』へ移植する
Step20
ドライブシャフトベアリングをはめる
Step21
ここまで来れば右プレート最終工程。⑥で上げたストッパーを指で押し込んではめることを忘れずに
Step22
『ハイスピードギヤ01』の移植完成。右プレートをはめこむ
Step23
マイナスドライバーでネジを締め込む
Step24
フレームからスプールを抜く
Step25
マイナスドライバーでプレートのネジを緩める
Step26
フレームから左プレートを外す
Step27
交換する『BB クロスバー1500』を用意する。両サイドの軸受にボールベアリングがあり、写真の外れているボールベアリングは『BB クロスバー1500』の先端へ入れるもの
Step28
マイナスドライバーでラインキャリッジナットを外す
Step29
中にあるパイロットガイドも外す
Step30
ウォームシャフトは2 つのツメで固定されているため、指先の爪で押し上げるようにして外
Step31
『BB クロスバー1500』を差し込む
Step32
ラインを通すラインキャリッジにレベルワインドチューブを元のように通す。この時、ラインキャリッジの上部先端(丸くなっている部分)をフレームの溝へはめることを忘れないように
Step33
『BB クロスバー1500』のツメまでしっかりはめこむ
Step34
パイロットガイドを戻し、マイナスドライバーでラインキャリッジナットを締めたらレベルワインドカスタムは完成
※このページは『つり人2023年3月号』を再編集したものです。
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