黄色に黒の警戒色で誰もが身構えてしまうのがハチ。渓流で特に出会いたくないのはスズメバチの類だろう。攻撃性・毒性が強いのでとにかく近づかない・刺されないことが重要だ。刺されると人によってはアナフィラキシーという過剰反応が起こる。呼吸がしにくくなったり、動機やめまいといった症状はアナキラフィシーショックといい、最悪の場合数分で死に至ることさえある。症状が出たらためらわずに救急車を呼ぼう。
渓流で出会いたくない小さな生き物をまとめました
写真◎刈田敏三、浦 壮一郎、編集部
まとめ◎編集部
そんな厄介な生き物たちの特徴や対策をご紹介します
この記事は月刊『つり人』2022年9月号に掲載したものを再編集しています
カ
都会から山間部までどこにでもいる厄介者
地域を問わず多くの人を困らせている虫がカだろう。街はもちろん、家の中から山 間部までどこにでもいる。日本には約100種類のカがいるとされているが、そのうち 吸血するのは30種類ほどといわれている。特によく刺されるのは縞々模様が特徴 のヒトスジシマカ(ヤブ蚊)と褐色のイエカ類。野外で見かけるのはヤブ蚊であるこ とが多い。
実は吸血性のカであってもすべての個体が血を吸うわけではない。カのエネル ギー源は糖分で花の蜜などを吸って生きている。血を吸うのはメスで、産卵のため のエネルギー源として栄養豊富な血液を求めるようになるのだ。一度に吸う血の量 はカ自身の体重とおなじくらいだそう。
カは体温や呼気に含まれる二酸化炭素を感知して人に寄ってくる。若い人が刺さ れやすいというのは代謝がよく、体温が少し高いのかもしれない。また、皮膚にい る常在菌の種類が多いほど蚊に刺されやすくなるという実験結果を高校生が突き 止めたとしてテレビなどで話題となった。
ハチ
警戒色が見えたら静かに立ち去ろう
黄色に黒の警戒色で誰もが身構えてしまうのがハチ。渓流で特に出会いたくないのはスズメバチの類だろう。攻撃性・毒性が強いのでとにかく近づかない・刺されないことが重要だ。刺されると人によってはアナフィラキシーという過剰反応が起こる。呼吸がしにくくなったり、動機やめまいといった症状はアナキラフィシーショックといい、最悪の場合数分で死に至ることさえある。症状が出たらためらわずに救急車を呼ぼう。
スズメバチに刺されないようにするためには、まずは巣に近づかないことが大切。渓流では釣りの最中よりも釣り場までの道中に遭遇することが多い。彼らのテリトリーに侵入した際、威嚇行動が見られる。大きな羽音を立てて周りを飛び回り、その後、顎で「カチカチ」と音を出す。これが警告のサインだ。周囲を飛び回るようになったら慌てずに姿勢を低くして来た道を戻るのがよいだろう。姿勢を低くすることによってハチの視界から外れることができる。攻撃性の高い個体は50~80mも追尾してくることもあるので潔く撤退しよう。
ブユ
小さいくせにカ以上にかゆい!
カとは違う腫れ方をして治りも遅い。小さいのにとても厄介な虫がブユだ。地域によってはブヨやブトとも呼ばれるが同じ虫を指す。
1~5mmほどの小さくずんぐりとした体形が特徴で、水辺近くの草むらに多い。渓流以外ではあまり見かけないのは水質の変化に敏感で、きれいなところでしか繁殖できないから。気温の高い日中よりも朝夕に活発に活動する。
カとは吸血方法が異なり、ブユは皮膚を齧りとって流れ出てくる血をすするようにして吸血する。敏感な人は皮膚を噛まれた瞬間に気づくこともある。噛まれて腫れ上がると猛烈にかゆい。炎症が広がったり化膿してしまうのでかきむしるのは厳禁だ。赤いしこりが長く残ることも多いが、そんな時はステロイド外用剤を使うとあっさり治ることも多い。
ブユは小さい分、わずかな隙間を見つけて血を吸ってくる。特に膝より下の範囲で刺されることが多いので長ズボンの着用はもちろんだが、長めの靴下を履くなどして肌が露出しないようにしよう。また、暗い場所を好み、黒色に寄ってくる習性があるので明るい服を着るなどの対策も効果的。よく似たものに、目の周りを飛ぶメマトイの仲間もいるが、こちらは吸血するわけではない。
ヒル
気付かぬうちに大流血
ヌルヌルとした見た目が妙に気持ち悪いヒル。シャクトリムシのような動きで足もとから登ってきて服や靴下の隙間に忍び込む。
ヤマビルは円筒形で体長は2~5cmほどで、伸びると5~7cmになる。吸血する時は血液抗凝固や麻酔作用などを持つヒルジンという物質を体内に注入する。そのため、吸血されていても痛みもなく目視以外では気付かない。噛まれた後もかゆくないが、しばらくの間血が止まらなくなってしまう。
ヒルを避けるためには靴下や服の隙間をガムテープなどで巻いて止めるとよい。ディートを含む市販の虫よけやハッカも忌避効果がある。
もし吸い付かれていても無理に剥がしてはいけない。ヒルの体を押すことによってヒルが持つ病原菌などが人の体内に入り込むだけではなく、傷が大きくなってしまうからだ。塩をまぶしたり、塩分濃度の高い醤油をかけるほか、タバコの火を近づけたりするとポロッと落ちる。その後は、流血しないようにするためにも毒(ヒルジン)をできるだけ絞り出してたくさんの浄水で洗い流したい。
アブ
最盛期は8月。熱や排気ガスに反応する
釣り場に着くやいなやブンブンと速いスピードで車の周りを飛び回る虫、それがアブだ。アブの仲間は日本だけでも100種類以上存在しているが、吸血するのは10種類ほど。
大小さまざまなアブが渓流で見られるが、渓流マンが嫌がるアブの筆頭がメジロアブ。このアブが大量発生するのは8月。この呼び名は釣り人での通称でイヨシロオビアブのことを指しているようだ。他にもオロロと呼ぶ地域もある。
大群に囲まれると釣りどころではないのでこの期間の釣行は控える人も多い。吸血方法はブユと同じ。大きい分齧られた時にはチクリと痛みを感じる。虫避けスプレーなどの効果はあまり期待できず、皮膚を露出しないくらいしか対策はないとされている。薄いラッシュガードなどではその上から刺されることもあるので気を付けたい。
マダニ
ヤブ漕ぎ後はすぐにチェック
森林に生えている草の葉の上などで獲物を待ち構えているのがマダニ。動物の体温や振動、二酸化炭素を感じると獲物に乗り移って吸血するための軟らかい場所を探し歩く。普段のサイズは3~8mmと小さいが、吸血するとどんどん膨らんで1~2cmにもなる。釣り人が被害にあうのはヤブ漕ぎの後が多いだろう。こまめに確認しておくと噛まれる前に取り除ける。肌を露出しないことと虫避けを使うことが対策となる。
ヤマビル同様、噛まれても痛くも痒くもないので気付きにくい。吸血している場合、無造作に手で取るとマダニの口器が肌に残って悪化する恐れがあるが、感染症の観点からは除去は早いほうがよい。アウトドア用やペット(犬猫)用のダニ取りピンセットを使うときれいに取れやすい。自分で除去できても化膿や発熱が起きた時は、なるべく早く皮膚科に行くこと。
また、近年、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)ウイルスの媒介が確認されるようになったことから、改めて注意が呼び掛けられている。2013年1月に国内で初めて報告され、それ以降、西日本を中心に発症が見られるようになった。感染すると、6日~2週間の潜伏期を経て、発熱や倦怠感を経て重症の場合は多臓器不全、最悪の場合は命を落とすことになる。致死率は10~30%程度と感染症の中では最も高い恐ろしい病気だ。
あわせて読みたい