愛嬌のある顔が特徴の大型淡水魚、ナマズ。田園の水路や小川だけでなく、近年は護岸されている都市河川にも進出している。対照的な環境に思えるが、どちらにも共通項があるのだ。
ナマズの不思議に迫る
解説◎工藤孝浩(神奈川県水産技術センター 内水面試験場)
愛嬌のある顔が特徴の大型淡水魚、ナマズ。田園の水路や小川だけでなく、近年は護岸されている都市河川にも進出している。対照的な環境に思えるが、どちらにも共通項があるのだ。 そんなナマズの生態を解き明かしていこう。
この記事は月刊『つり人』2021年7月号に掲載したものを再編集しています
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ナマズの魅力
水ぬるむ季節、川べりに手網を突っ込んで小魚を採る「ガサガサ」は、子や孫とも楽しめる川遊びだ。私の場合、ガサガサで最高にアガる獲物はナマズである。ヌメっとした体に大きな頭、怖そうな大口に愛嬌ある小さな目。淡水魚でナマズほど魅力的なキャラは他にないと思う。
用水路のガサガサで採れた50cm超のナマズ
時期によっては、こんな用水路のガサガサで大型ナマズが採れる
そして何よりも、出会いが衝撃的なのである。幅30cmほどの小川で50cm超のナマズが手網に入った時などは、口から心臓が飛び出すかと思うほど興奮する。 なぜ、こんな巨魚がこんな所にいるの? ずっとここで暮らしているの? 網の中でのたうつナマズに次々と湧く疑問符。そんなナマズの不思議を解き明かしていきたい。
ナマズの捕食行動
図鑑には「夜行性の動物食性で、昼間は物陰などにひそみ、夜になると口ヒゲでエサを探し、どん欲に食べる。」と書かれているが、捕食行動は釣り人が最も知りたいテーマであろう。
私の職場では、大きなコンクリート水槽で30~60cm超の中大型ナマズを飼育している。日中、ナマズたちはそれぞれお気に入りの塩ビ管に入ったままで、泳ぐ姿を見たことがない。
大形肉食魚用のエサとして小型の冷凍アユ(職場で飼育し選別されたアユの有効利用)を与えているが、捕食シーンは見られない。アユからはよく臭いが出ており、隣の水槽のウナギは日中でも塩ビ管から出てきて食べるのだが、ナマズは反応しない。
アユへの関心が薄いので、タモロコやモツゴを泳がせておいたところ、アユを食べ残した夜にそれらの数が減っていた。死んだアユより活きた雑魚のほうが魅力的なようだ。
一般的に言われるように、化学物質をサーチするヒゲでエサを探すのなら、死んだアユの臭いが効くはず。それよりも、動く魚が発する振動やキラメキが捕食行動を促したのではなかろうか。
このエピソードは、ナマズは水の流れや振動を感知する側線器官や眼を使ってエサを探すことを示唆しており、伝統的なカエルをエサにしたポカン釣りや最近流行しているルアー釣りが釣果をあげていることとも符合する。
側線器官が目立つ個体。側線は体側中央を縦走するだけではなく、15本前後が背面を横断して網目状となる
ナマズの雌雄
ナマズの雌雄は、尾ビレの形で見分けられる。雄は尾ビレ後縁の切れ込みが雌に比べてやや深く、雌は切れ込みがごく浅いかほとんど無い。 産卵期には、体形の違いから雌雄を見分けることができる。雌は腹部が膨らみ、上から見ると巨大なオタマジャクシのように見える。しかし、エサを飽食した雄も同様な体形になるので注意が必要。
また、雌は雄よりも大型になる。成長の早さには雌雄差がないと考えられるので、これは雌が長寿なことによる。産卵場で観察されるペアは、通常は大型の雌と小型の雄の組み合わせだが、産卵に参加する雌は高齢魚が多く、雄は若齢魚が多いことの現われである。
雄のナマズの尾ビレ(後縁部の切れ込みがやや深い)
雌のナマズの尾ビレ(老成魚のため擦り切れているが、後縁部の切れ込みが認められない)
後編「ナマズの繁殖と繁栄」へ続く……
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