弾力効果をより求めるなら硬いワイヤーを使ってもいいのですが、引っ掛かった時に困るんです。ちょっとしなやかなほうが、逃げ道があって外れやすい。中にはこれを真似して、硬いステンレス線を使った人もいますが、やっぱりワイヤーが一番よい。最初は直径0.9mmを使っていましたが、近年は入手できず1mmのワイヤーを使っています。
オートマチックにエビがかかる!
写真・文◎編集部
エビは石の隙間に潜む。ゆえに根掛かりが多い釣りである。そこで、オモリが穴に入らないように考案された知恵が十字テンビンだ。開発者は東京都墨田区在住の口金職人、新村勇夫さん。アイデアグッズ誕生の経緯を聞いた。
この記事は月刊『つり人』2020年8月号に掲載したものを再編集しています
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目次
オートマチックにエビがかかる!
-- ワイヤーを使うようになってからも最初は片テンビンだったのですか?
新村 いや、ワイヤーになってからは両テンビン。つまり十字テンビンになりました。ほぼ完成形に近づきます。このワイヤーを固定するにはハンダでは接着できません。塩水が入るとすぐに取れてしまうのでロウ付けにします。ミチイト、ハリスを結ぶリングは1ヵ所切れ目があるんですが、ここが開かないようにロウ付けするのもだいじです。
-- なぜ十字型がよいと思ったのでしょう?
新村 明確な理由はありません。なんとなくですね。片テンビンで釣れるのなら、両テンビンでも釣れます。むしろ余計にエビが掛かるかもと思って試しました。ワイヤーに出会うまで、つまり十字テンビンができるまで3年はかかりました。
実際に効果があるかを試すのに釣り仲間12、3人に試してもらいました。グループであれば「この人は釣れたけどこの人はダメだった」ということも分かります。
-- どこかの釣りクラブに所属しているのですか?
新村 クラブではありません。釣り好きが勝手に集まったグループで、今でも付き合いがあります。
-- ワイヤーは弾力があるので自動的にハリ掛かりしやすいですよね。
新村 そうですね。弾力効果をより求めるなら硬いワイヤーを使ってもいいのですが、引っ掛かった時に困るんです。ちょっとしなやかなほうが、逃げ道があって外れやすい。中にはこれを真似して、硬いステンレス線を使った人もいますが、やっぱりワイヤーが一番よい。最初は直径0.9mmを使っていましたが、近年は入手できず1mmのワイヤーを使っています。完成形は軸が11cm、アームが15cmのバランスで仕上げ、アームの水切りをよくするためにやや斜めにしています。
-- 新村さんの十字テンビンは竿しばさんで購入できますが、いつごろから卸されているのですか?
新村さんの十字テンビンはつり具「竿しば」(東京都葛飾区西新小岩3-13-7/tel03・3696・0848)で販売されている。店主の芝崎稔さんは竿師であり東京都と葛飾区から認定された伝統工芸士だ
新村 十字テンビンを最初に卸したのは亀戸にある「魚水」さんという釣具店です。今はなくなりましたが、そこの親父が釣り場に見に来て「30本ばかり作ってください」と言われました。最初の分は1日か2日でみんな売れちゃって、1週間で60本くらい売れました。そのうち竿しばさんが来ました。ただね、竿しばさんは最初に他所の人に注文を出したんです。というのも私は十字テンビンをいろんな人に配っていました。この仕掛けの効果を知ってもらいたくて。やっぱり最初のモノっていうのは宣伝がだいじです。竿しばさんは私が開発したというのを知らなかったのですが、そのうち私に注文をしてくれるようになった。十字テンビンは多い時で6~7軒の釣具店で売ってくれました。自分の仕事もあるので作っている暇がなくてね。でもうれしかったです。
-- 竿しばさんに卸し始めて何年になるんですか?
新村 何年になるかなあ。30年くらいですかね。現在も竿しばさんからは100~150本の注文が来るんですよ。
-- 竿しばさんにはテンビンがセットになった仕掛けも売られていますが、セットするウキは何号くらいが適当で、どんなふうに釣るのがよいのでしょう?
新村 ウキの浮力が小さすぎるとテンビンが倒れて寝ます。テンビンが立つ浮力が必要です。足付きの玉ウキでいえば6号がちょうどよいです。それ以上の号数は浮力が強すぎて流されやすくなるんです。特に荒川みたいな流れのきつい川だとよくない。ハリスはアーム下の軸の長さと同じくらいが目安です。長すぎると絡みます。ハリはオーソドックスなエビバリです。私は目が悪いのでアカムシを付けるのが大変です。
テンビンにセットする玉ウキは6号が好適。テンビンが倒れず、浮きにくく水底にしっかりと立つ号数である。特に流れが強い釣り場ではウキが大きすぎると流されてしまう。ミチイトは太い。2号相当の太さでイト切れを防止している
ハリスはアーム下の軸と同じくらいの長さにするのが適当だ
テンビン仕掛けでの釣りはサオを4本くらい並べて釣るのがちょうどいいんです。順番に持ち上げてアタリを聞いて、エサを取り替えるなど面倒を見ているうちに掛かっています。エビが掛かりやすい釣りのペースができるんです。テンビンの釣りはアタリを取って掛けにいく釣りではありません。持ち上げたら釣れていたという単純なものですから。
-- オートマチックに掛かってトラブルが少ない。ビギナーにはもってこいの仕掛けなんですね。今日はありがとうございました。
2本バリに同時ヒットもよくある光景。勝手にエビが掛かってしまうのが十字テンビンマジック
サオは4本を並べ釣りにする。ゴロタ地帯やテトラの際を探る
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この記事は単行本『テナガエビ釣りの「コツ」全部』でも読むことができます。十字テンビンができるまでの作業工程などより詳しくは本書にて!