「サクラマスとサツキマス、一番の違いは海中生活の長さの違いです。サクラマスが丸一年海を回遊してから川へと帰ってくるのに対し、サツキマスは秋に降下して翌春の5月には遡上します。5~6ヵ月間しか海におりません。太平洋岸の水温の関係で高水温に耐えられなくなって川に戻ってくるのだと思いますが、そういった違いからサツキマスはサクラマスよりひと回り、ふた回り小さい。私が過去に釣った魚でも44~45cmがマックスです」
名川の組合長が一堂に会して開催「全国サクラマスサミット2022」
写真と文◎編集部 主催:米代川水系サクラマス協議会 特別協賛:株式会社フィッシュパス
秋田県・米代川のサクラマス解禁日となる4月1日、北秋田市内において『全国サクラマスサミット2022』が開催され、「持続可能なサクラマス資源の利活用を探る」と題し、基調講演、各地からの報告、パネルディスカッションが行なわれた。注目すべきはサクラマス、サツキマスの釣りにおいて広く釣り人から知られる全国の漁業協同組合関係者が一堂に会したことだろう。各漁協がサクラマスの生態、増殖に関する知見を共有することで、減少傾向に歯止めをかけることが期待される。
この記事は月刊『つり人』2022年6月号に掲載したものを再編集しています
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長良川と狩野川のサツキマスを考える
次にサツキマスについてである。長良川漁業協同組合代表理事組合長の白滝治郎さんはまず、サツキマスについて次のように解説してくれた。
「サクラマスとサツキマス、一番の違いは海中生活の長さの違いです。サクラマスが丸一年海を回遊してから川へと帰ってくるのに対し、サツキマスは秋に降下して翌春の5月には遡上します。5~6ヵ月間しか海におりません。太平洋岸の水温の関係で高水温に耐えられなくなって川に戻ってくるのだと思いますが、そういった違いからサツキマスはサクラマスよりひと回り、ふた回り小さい。私が過去に釣った魚でも44~45cmがマックスです」
長良川漁業協同組合代表理事組合長の白滝治郎さん。かつて数千尾が獲れていた長良川のサツキマスだが「昨年(2021年)、岐阜市中央卸売市場に出荷されたサツキマスたったの11尾。これが実状です」と現状を報告するとともに、サツキマス釣りの魅力を紹介
長良川はアユの釣り場として有名だが、かつてはサツキマスの漁場としても全国に名を馳せる存在だった。現状はどうなのか。白滝さんは言う。
「漁師が岐阜市中央卸売市場に出荷したサツキマスの量ですが、2021年は11尾です。かつて最盛期には数千尾が獲れていたんですが、去年はたったの11尾。これが実状なんです」
こう話す白滝さんだが、一方でシラメ(スモルト化したアマゴ)の数は減っていないと指摘。海に降下するシラメはいても、それがサツキマスとなって長良川へと戻って来ないということ。海まで辿り着けないのか、あるいは遡上できないのか、その理由は特定されていないが、原因として誰もが考えるのは長良川河口堰だろう。運用開始から今年で26年。シラメの降下期、サツキマスの遡上期にゲートの全開操作が行なわれたら、あるいは長良川産サツキマスの復活もあり得るのかもしれない。
次に狩野川についてである。伊豆半島の中心部を北上しながら沼津市内の駿河湾に注ぐ狩野川にもサツキマスが遡上するが、どちらかといえばアユの川といったイメージが定着している。狩野川漁業協同組合の井川弘二郎組合長は次のように釈明する。
狩野川漁業協同組合・組合長の井川弘二郎さん。「アユ釣りがメインでアマゴ(サツキマス)には力を入れてこなかった」と話すが、今後は「放流する支流と禁漁にする支流、放流しない支流を設定する方針」と言う
「狩野川はアユの友釣りがメインだったこともあり、アマゴには力を入れてこなかったのが正直なところです。今までは解禁日を前に成魚を放流していました。本流、支流を含め、成魚を放流してそれで終わりという感じでした」
この現状を前出・佐橋玄記さんの話に重ね合わせると、むしろサツキマス資源の確保には有利だといえるのではないか。ただし今後は各種放流事業も実施してゆく予定だという。
「今後ですが、成魚は解禁前に放流しますが、それ以外に発眼卵放流、稚魚放流も実施してゆく予定です。昨年は親魚放流も行ないました。また狩野川は支流がたくさんあるため、放流する支流と禁漁にする支流、そして放流しない支流を設けてゆく方針です」
人為的放流が資源増加に寄与しないとなれば、今後予定される稚魚放流の支流よりも、放流しない支流の存在に価値がありそうに思う。パネルディスカッションで進行を務めた水産研究・教育機構の坪井潤一さんも、放流しないという選択肢を評価する。
「放流しない支流を確保するという意味で立派なゾーニングですし、野生のアマゴのなかから一部が海に下るわけですから、野生のままの支流を残すことは価値がある。今後に期待したいと思います」
こうしたさまざまな課題を抱えるサクラマス、サツキマスだが、サミットが開催された米代川は最も安定的に釣れている河川だといえる。米代川全体(7漁協)におけるサクラマスの遊漁券収入はアユの2倍強だというから驚かされる。サクラマス人気と遡上数の安定が要因だといえるが、主催者でもある米代川水系サクラマス協議会会長の湊屋啓二さん(秋田県内水面漁業協同組合連合会・代表理事会長および鷹巣漁業協同組合代表理事組合長)は、次のように解説してくれた。
同サミットの主催者でもある米代川水系サクラマス協議会会長の湊屋啓二さん。比較的好調な河川といえる米代川ながら「計画されている大型洋上風力発電によって、サクラマスの回遊ルートにどんな影響を及ぼすのか心配」と話す
「まず、米代川は本流にダムがありません。そして数多くの支流が流れ込んでいることも多くのサクラマスが遡上する要因になっていると考えています。また岩盤が多いことも特徴のひとつで、そうした岩盤のある場所はサクラマスが身を隠す場所にもなりますし、伏流水が湧き出していて夏も水温が適温になっています。源流部までいくと砂防ダムは数多くありますが、幸いにもその下流で産卵することができる。こうしたさまざまな要因がサクラマスを育てているのだと考えています」
こう話す湊屋さんだが、懸念材料もあると言う。
「実は米代川の河口の能代沖周辺に大型洋上風力発電の計画があります。非常に巨大な風力発電が20基計画されている。それらがサクラマスの回遊ルートにどんな影響を及ぼすのか心配しているところです」
今後の課題はあるとはいえ、米代川がサクラマス釣りの有望河川であることは間違いない。このままサクラマス資源を存続させるためには人為的放流に頼ることなく、山、川、海の繋がりを維持、あるいは再生させてゆくことが重要だということだろう。
サミット当日の午前中、米代川水系サクラマス協議会会長の湊屋啓二さんを始め、全国から集まった漁協関係者らもサクラマス釣りを楽しんだ