編集部2022年5月19日

持続可能なサクラマス資源の利活用を探る/全国サクラマスサミット2022講演より 第1回(全3回)

環境レポート サクラマス

秋田県・米代川のサクラマス解禁日となる4月1日、北秋田市内において『全国サクラマスサミット2022』が開催され、「持続可能なサクラマス資源の利活用を探る」と題し、基調講演、各地からの報告、パネルディスカッションが行なわれた。

名川の組合長が一堂に会して開催「全国サクラマスサミット2022」

写真と文◎浦壮一郎 

主催:米代川水系サクラマス協議会 特別協賛:株式会社フィッシュパス 

 秋田県・米代川のサクラマス解禁日となる4月1日、北秋田市内において『全国サクラマスサミット2022』が開催され、「持続可能なサクラマス資源の利活用を探る」と題し、基調講演、各地からの報告、パネルディスカッションが行なわれた。注目すべきはサクラマス、サツキマスの釣りにおいて広く釣り人から知られる全国の漁業協同組合関係者が一堂に会したことだろう。各漁協がサクラマスの生態、増殖に関する知見を共有することで、減少傾向に歯止めをかけることが期待される。

この記事は月刊『つり人』2022年6月号に掲載したものを再編集しています

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全国サクラマスサミット、米代川で開催

 2022年4月1日、秋田県の米代川ではこの日、サクラマスの解禁日を迎えていた。その解禁日に合わせて北秋田市内にて開催されたのが『全国サクラマスサミット2022』である。興味深いのはその参加者。サクラマス、サツキマスの釣りで知られる全国の漁業協同組合関係者が一堂に会す機会は珍しく、各漁協間で繋がりを持って知見を深めたことは意義深い。通常、各漁協は各々の活動に労力を割かれ、他の漁協、その活動に興味すら持たないことが多い。そんな漁協関係者がサクラマス、サツキマスの資源管理に関しては横の繋がりを求め、知見の共有に対し積極的に動き出したのだ。

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秋田県は米代川のサクラマス解禁日となる4月1日、北秋田市内において『全国サクラマスサミット2022』が開催された。サクラマス、サツキマスの遡上がある全国の内水面漁協関係者らが一堂に会し、サクラマス釣りや資源回復について現状の確認、展望などを話し合った

 

 基調講演を行なったのは水産研究・教育機構の佐橋玄記さん。参加した漁協関係者は以下の通り。九頭竜川中部漁業協同組合代表理事組合長の中川邦宏さん、庄川沿岸漁業協同組合連合会主査・髙木秀一さん、長良川漁業協同組合代表理事組合長・白滝治郎さん、狩野川漁業協同組合代表理事組合長・井川弘二郎さん。以上4名がそれぞれの河川における釣りの現状を報告。そして同サミットの主催である米代川水系サクラマス協議会会長の湊屋啓二さん(秋田県内水面漁業協同組合連合会・代表理事会長および鷹巣漁業協同組合代表理事組合長)も、サミット開催の挨拶とともに米代川の状況について紹介。このほか会場には鳴子漁業協同組合代表理事組合長の高橋義雄さんの姿もあった。またパネルディスカッションでは水産研究・教育機構の坪井潤一さんが進行を務め、水産庁増殖推進部・栽培養殖課長・櫻井政和氏の講評もあった。

 サクラマスサミットの舞台となった米代川は、サクラマス釣り場として高い知名度を誇ってきた。県内のみならず県外からも多くの釣り人が来訪し、遡上数が多かった一昨年は解禁日におよそ200尾の釣果が記録されたというのだから驚かされる。今年は遡上数が少ないのか、あるいは遅れているのか不明だが、解禁日の釣果は20尾程度だったという。これが多いのか少ないのか即断はできないが、それでも全国的にみて釣れる川の筆頭といえる。サクラマスの展望を議論する場としてはこの上ない地域での開催になった。

 

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『全国サクラマスサミット2022』に集まった研究者および内水面漁協関係者。全国の漁協がサクラマスを議題に一堂に会すのは珍しい。この人脈を結び付けたのは特別協賛の株式会社フィッシュパス。電子漁券のシステムが各地の漁協に評価され、全国的にフィッシュパスの取り組みは広まっている

 

人為的な放流がむしろサクラマスを減らすケースも

 佐橋玄記さんの基調講演は「生き物としてのサクラマス」と題する講演であったが、その内容は衝撃的なものだった。サクラマスの現状を如実に示していたといえるだろう。まずは、その講演内容から紹介しておく。

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基調講演を行なった水産研究・教育機構の佐橋玄記さん。人為的なふ化放流ではサクラマス資源を増やすことができないとする衝撃的な内容で、山、川、海の繋がりを回復させることが重要だと提言。野生魚を守ることの重要性を強調した

 

 サクラマスの遡上量は一部地域を除いて減少傾向にある。一方で内水面漁協には増殖義務(義務放流)が定められており、主に人為的放流がその増殖義務に相当する。産卵床の整備などが増殖義務に相当する場合もあるが、一般的には放流によって増殖義務を果たしているといえる。各漁協がサクラマス(ヤマメ)の放流を行なうのはもちろん資源量を増やすためである。が、資源量は増えていない。むしろ多くの河川で資源量は減少傾向にあるのが現実である。

 そこで佐橋玄記さんは「放流が本当に魚を増やしているのか、検証する必要がある」と考えたと言う。そして基調講演では、人為的放流によって資源量は増えるどころか減っている場合すらあると解説。参加者らにその現状を訴えた。

 サクラマスの放流にはこれまでさまざまな種苗が用いられてきた。たとえば飼育池で生涯を過ごした親魚から生まれた継代飼育系、これに対し河川に遡上した親魚から生まれた種苗の遡上系がある。両者の比較について佐橋さんは、

「継代飼育系は遡上系に比べ回帰率が低いことが分かっている」と説明。

 また、他の河川から移植された種苗(移植魚)と地場産の種苗とを比較した事例では、

「移植魚は地場産に比べて回帰率が低い」と指摘。

 であれば地場産を放流すればよいのか。実はこれもまた資源量増加に寄与するわけではないという。

 北海道は斜里川の事例を元に次のように解説した。

「斜里川は放流を行なっている支流と行なっていない支流、両方が存在しますので、放流の効果を比較することができます」

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北海道の斜里川では、人為的放流を行なっている支流と行なっていない支流の両方が存在し、比較に最適だと水産研究・教育機構の佐橋玄記さんは言う。そしてサクラマス資源を増やすには放流ではなく野生魚が上流部まで遡上し産卵できる環境が重要だと結論づける

 地場産放流魚が放流されている支流にも野生魚(自然産卵で生まれたサクラマス)が遡上することから、同支流には放流魚と野生魚の双方が生息する。対する非放流の支流には野生魚のみ。であるなら前者は放流魚+野生魚となり生息密度が多くなるはず。ところが……。

「放流のある支流と非放流の支流とで生息密度は異ならないことが分かりました。双方の支流で野生魚のみの生息密度を比較したところ、放流支流では非放流支流に比べて野生魚が少なくなっていました(放流量と同等の野生魚が減少)。つまり斜里川では野生魚から放流魚への置換が生じているという、いわば最悪の結果を招いているといえます」

 つまり放流している支流では放流分が加算されるわけではなく、放流した分の野生魚が減少しているだけのこと。放流しても増えない、むしろ野生魚が減ってしまうというのであれば、放流にかかる費用や手間が無駄になっていることになる。

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 そればかりか、放流支流では野生魚と放流魚が交雑する可能性がある。その場合どのような影響が考えられるだろうか。

「ニジマスを例にすると、放流魚と野生魚から生まれた魚の自然繁殖力は、野生魚同士から生まれた魚と比較して24~54%に低下することが報告されています。サクラマスにおいても同様の結果が示唆されています。また北海道の12水系でサクラマス幼魚の生息密度を調査した結果、放流河川のほうが生息密度は低くなっていることが分かっています。つまり放流が自然繁殖を阻害している可能性があるわけです」

 放流魚と野生魚が交雑すると自然繁殖力が低下する。放流しても一向に資源量が増えないのは、ふ化放流事業そのものに原因があると考えられるのだ。

 サクラマスのふ化放流によるリスクは他にもある。それが捕獲後の親魚が死亡する事例だと佐橋さんは言う。

「サクラマスは捕獲から採卵までの蓄養期間が長めのため、採卵用に捕獲した親魚のうち90%が採卵前に死亡する事例すら知られています。また停電や災害による種苗の大量死や、近年は魚病により全数処分を行なった事例も報告されています。このようなサクラマスのふ化放流の難しさから『もうサクラマスには触るな』『自然に任せろ』と言うふ化場の方も実際にいらっしゃいます」

 ふ化放流が資源量増加に役立っていない(むしろ減っている)となれば当然、漁協経営におけるリスクも小さくはない。

「河川遡上するサクラマス1尾を生み出すための放流経費について岩手県安家川のデータを使って試算した事例があります。銀毛放流の場合で5万3000円、幼魚放流で11万8000円が掛かっていることが分かりました。つまり内水面漁協は1尾でも釣られたら大赤字となってしまうわけです」

 実は例外的にサクラマスの漁獲量が増えている海域がある。それは北海道のオホーツク海と太平洋沿岸。一方で同じ北海道でも漁獲量が減少し続けているのが日本海沿岸である。その違いはどこにあるのか。

「太平洋とオホーツク海では放流量を減らしているものの漁獲量が急増している。一方で日本海では放流量を増やしているのに漁獲量が減るという皮肉な傾向が見てとれます。もちろん放流以外にも原因はあるかと思いますが、もしかすると日本海のようすというのは放流に伴う負の影響が現われた結果なのかもしれません」

 ふ化放流事業に効果がなく、むしろリスクのみが際立っているとなれば、サクラマスを増やすにはどうすればよいのか。佐橋さんは川と海の連続性を回復させ、野生魚を守ることが重要だと指摘する。

「サクラマス資源のほとんどが放流魚なのではないか、と思っている人もいるかもしれませんが、実はサクラマス資源の74~86%が野生魚であることが分かっています。つまり資源を増やすためには野生魚を守り増やしてゆくことが大切なわけです」

 そのひとつが川と海の繋がりを回復させることだと言う。

「魚道を付けた支流と魚道を付けていない支流とを比較したところ、魚道を付けた支流では確実に増加傾向にある。遡上範囲を広げると野生魚は増えてゆくわけです」

 余談になるが、ふ化放流事業に依存してきたサケも、サクラマスと同様に漁獲高が減少している。ところが北海道の日本海側の一部の地域で漁獲高が急増している地域がある。

 北海道新聞(2022年2月8日付)によれば、道南地方の檜山管内において2021年のサケの漁獲高は前年比9割増、1958年以来最高を記録したという。道内の他の地域では減少傾向が続いているなか日本海南部のみが増加するといった状況。いったい何が起こっているのか。

 実は道南地方の河川では近年、治山や砂防堰堤のスリット化が進んでいる。良ら るいし瑠石川や須す っ築き 川がその一例だが、堰堤が止めていた土砂はスリット化によって流下(供給)するようになり、河川および沿岸の環境が改善しつつあるのだ。サケやサクラマスにとっては遡上範囲が広がり、野生魚の増加も見込まれる。であれば漁獲高増加とも無関係ではないだろう。サクラマスも同様に、川と海の連続性、これこそが資源増加の要であるといえそうだ。

 

 

第2回「義務放流が資源量回復の弊害?」へ続く……


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