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編集部2020年9月22日

釣り好きアニメ監督・大隈孝晴さんに聞く、『放課後ていぼう日誌』制作の舞台裏

月刊つり人ブログ PICKUP NEWS

2020年4月から放送がスタートし、釣り人からも高い評価を受けているアニメ『放課後ていぼう日誌』。つり人編集部では、自身も根っからの釣り好きという大隈孝晴監督をお招きして、制作現場の舞台裏についてお話を伺いました。


Blu-ray&DVD第1巻発売直前、1万4000文字インタビュー

資料提供=KADOKAWA、動画工房 ©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部
※権利者に無断での転載は固くお断りいたします


 2020年4月から放送がスタートし、釣り人からも高い評価を受けているアニメ『放課後ていぼう日誌』。コロナ禍による放送休止期間や、作中風景のモデルとなった熊本県芦北町の豪雨被災に見舞われながらも、ついに最終回を迎えます。つり人編集部では、自身も根っからの釣り好きという大隈孝晴監督をお招きして、制作現場の舞台裏についてお話を伺いました。9月25日発売の『つり人』11月号では、釣り人としての大隈監督にフォーカスしたお話を掲載します。ぜひあわせてご覧ください。

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9月25日に発売となる『放課後ていぼう日誌』Blu-ray&DVD vol.1。初回生産特典にはタックルボックスに貼れるステッカーや場面ごとの監督のこだわりをさらに詳しく解説したインタビューも封入。また、特定の店舗で予約・購入すると抽選で声優さんのサイン入り台本がもらえるキャンペーンも実施される。詳しくは公式サイトにて

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■プロフィール
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大隈孝晴(おおくま・たかはる)
愛知県出身。中学生のころに入鹿池のバス釣りにのめり込み、上京しアニメ業界で働き始めてからは東京湾のシーバス釣り、関東近郊のバスフィッシングやエリアトラウトをメインで楽しんでいる。『ゆるゆり』シリーズ(2011~)や『干物妹!うまるちゃん』シリーズ(2015~)の副監督など数々の作品で重要な役割を務め、本作で監督に初抜擢。

聞き手:アライ(つり人社ウェブサイト担当)
高校3年のときに『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006)を観てアニメにハマる。大学時代、友人に『トップをねらえ!』(1988)を観せられてオタクの道へ。一時期は痛車を乗り回していた。今回はアニメの監督さんに話を聞けるということで少し緊張している。


アニメの監督には釣り好きが多い


――今日はありがとうございます。大隈監督にお話を伺えるということで緊張していますよ。監督も釣り好きと聞いていますので、そのあたりからお話を伺えますか?

大隈:もともと自分は地元の愛知で中学生くらいのころにバス釣りをしていたんです。上京してからはなかなか気軽に行ける場所もないので全然やってなかったんですけど、いろいろなアニメ制作現場を経験するなかで釣り好きな同業者とつながりができて、そんな仲間同士で河口湖に行ったり、東京湾のシーバスに行ったりしています。

――弊社の雑誌の読者にもアニメ業界の方がいらっしゃって、大隈監督と一緒に釣りに行ったというお話を伺ったんですけども。

大隈:この業界ではかなりベテランクラスの方ですよね。シーバスやトラウトの管理釣り場によく一緒に行っていました(笑)。実はアニメの監督クラスの人には釣りが趣味の人が結構いらっしゃって、そのあたりの人たちと一緒の車に乗り合わせて静岡の管理釣り場に行ったりとかしましたね。『放課後ていぼう日誌』の映像制作を担当されている動画工房さんには、社内に釣り部があるくらい釣り好きの人がたくさんいて、先日もその仲間たちとボートでシイラ釣りを楽しみました。

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インタビューはアニメ放送もクライマックスを迎える2020年9月上旬、つり人社にお招きして行なった。同席していただいたのは右から宣伝プロデューサーの津末達也さん(KADOKAWA)、大隈監督、制作プロデューサーの関根大起さん(動画工房)。関根さんも釣り好きだ

――アニメが出来上がるまでにどのくらいの人数のスタッフさんがかかわるものなんでしょう?

大隈:1話につき150~200人くらいです。エンディングのクレジットにずら~っと名前が並びますが、実は載らない人もいらっしゃいます。

――そんなに! そのなかで監督はどういう役割を担っているのですか?

大隈:基本的には全体をまとめていく感じです。監督の大事な役目は各工程のチェック作業ですね。上がってくるシナリオや絵コンテ、設定などに目を通して「ここをこうしてほしい」とか「これでオッケーです」とか。色もそうです。「こういう色をつけてみました、どうですか」と上げてもらったものに「はいオッケーです」「ここはこういう風にしてほしいです」という作業を、作画がフィルムになって音がついて作品になるまで延々とやっていた感じですね。

シナリオライターには「釣りのことは勉強しないで」と伝えていた

――『放課後ていぼう日誌』は放送開始当初から、アニメファンだけでなく釣りファンの間でも高く評価する声が聞かれました。ここからはアニメの制作の流れを追いながら、釣り人として監督がこだわった部分などを教えていただけますか? アニメの企画はどんな作業から始まるのでしょうか?

大隈:最初は脚本の作業から始まります。今作ではシリーズ構成という役職を志茂文彦さんに担当していただいて、シナリオ作りのひと通りを仕切っていただきました。志茂さんがまず「こういう話の流れで全12話を作ります。原作のここからここまでのお話をアニメの第何話で描きます。みなさんどうですか?」という提案をしてくれます。そこでプロデューサーや原作者さん、今回は九州にお住まいの小坂泰之先生のかわりに秋田書店の担当編集の方がいらっしゃったんですけど、何人かで集まってそれぞれの意向を話し合う「本読み」という打ち合わせをしてシナリオ作りがスタートします。

――「本読み」で方針が決まると各話のシナリオライターさんが脚本を作っていくのですね。

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インタビュー時に見せてもらった台本。シリーズ構成の志茂文彦さんは『涼宮ハルヒの憂鬱』『涼宮ハルヒの消失』『Fate/stay night』『NEW GAME!』『ダンベル何キロ持てる?』などでも脚本を手掛けたベテランだ。ちなみに『放課後ていぼう日誌』Blu-ray&DVD Vol.1を対象店舗で予約&購入すると、抽選で声優さんの直筆サイン入り台本がもらえる! 対象店舗など詳細は公式サイトにてチェックを!

大隈:はい。最初のころは釣りをしない視聴者を置き去りにしないための議論もすごくしました。今作の制作現場には釣り好きがたくさんいたんですが(後述)、打ち合わせの席で経験者だけで話が盛り上がっちゃうと、ほかのメンバーが「マニアックすぎて全然わからん」ってなってしまう場面が何度もあって(笑)。視聴者のなかにも、釣りしたことないけどかわいい女の子たちが楽しそうに部活をしているのを観に来てくれる人も多いはずなので、そういう人にも楽しんでもらうにはどうすればいいかなと。そこで、シリーズ構成の志茂さんをはじめ、ほかのシナリオライターさんも釣りをされる方ではなかったので、あえて「釣りのことは勉強しないでくれ」と伝えていたんですよ。

――釣りのことをわかってくれていたほうがスムーズな気がしますが……。

大隈:釣りを知らない志茂さんに入っていただくことによって、「原作ではこうなってるけど、どういうことなの?」みたいに聞いてもらえて、じゃあフォローを入れましょうということができたんです。こちらも「釣りしない人にはここがわからないんだ」というのが理解できたので、そのあたりはストーリーを作るうえでうまくいった部分かなと思います。

――めちゃくちゃ勉強になります! そのおかげで釣りファンも未経験者も楽しめるバランスに仕上がっているんですね。自分の周りでは、小学生の息子さんがいるお母さんが、この作品を観て親子で釣りをしてみたくなったとおっしゃってました。

大隈:ありがとうございます。

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背景美術が描き出したロケ地・熊本県芦北町の風景

大隈:シナリオがある程度出来上がってきた段階で「絵コンテ」作業に入ります。話の流れとそれぞれのシーンの構図を、シナリオを元に絵コンテというものにおこしていきます。同時にキャラクターデザイン、登場する釣り具のデザイン設定、背景になる美術の設定などの作業をどんどん進めていきます。そして絵コンテ、キャラクターデザイン、美術設定などがそろった状態でアニメーターさんと打ち合わせをして、絵コンテを元にキャラクターやカメラワークの指示を入れたレイアウト(原図)というものを描いてもらいます。その後原画作業に入ります。

――美術設定というのは具体的にはどういった作業なんでしょうか? この作品を拝見して、背景のこだわりに第1話から度肝を抜かれまして。とくに堤防の質感などものすごくリアルで、釣り竿をもって漁港に到着した時のオキアミと磯のにおいが甦ってくるくらいでした。そういうのを作り込んでいくのですか?

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第1話「ていぼう部」より。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

大隈:そうです。作中に出てくる芦方町の風景は、熊本県芦北町がモデルになっています。アニメを作るにあたって、自分を含め数人でロケに行き、現地の写真を大量に撮影してきました。それを美術さんにお渡しして、そのまんまな形で描いてほしいと発注したんです。色もなるべく写真のなかから拾ってもらったので、だいぶ現地の風景が再現できているのではないかなと思います。

(同席してくれていた、動画工房の制作プロデューサー・関根大起さんが美術設定資料を出してくれる。ロケハンで撮影された遠景をイラスト化したもの)

――これが背景になるんですか?

大隈:これがそのまま背景になるわけではないです。本編中のシーンでは1カットごとに背景が変わってくるので、この原図のなかで「キャラクターはここにいます、背景で使うのはこの範囲です」みたいな指示を美術さんに渡して、シーンごとの背景を描いてもらう作業になります。今回、美術さんにはすごく頑張ってもらいました。美術さんはロケに来られなくて、ちょっと描き直してもらったりしたのもあるんですよ。「ここはこういうふうじゃない」とか、行った人間だからこそわかる部分っていうのがやっぱりあるんです。

――ロケはどのようなメンバーで行かれたのですか?

大隈:自分のほかにプロデューサーの山下愼平さん(KADOKAWA)と、原作担当編集の後藤恵士さん(秋田書店)、設定制作の長友公亮さん(動画工房)が参加されました。現地では小坂先生に原作で登場した場所を案内してもらいました。芦北高校の取材も許可をもらうことができまして、当時の教頭先生に校内を案内していただきました。原作にはない中庭とかもアニメに登場させることができてありがたかったです。学校って普通は断られてしまうことが多いんですよ。

――聖地巡礼のときは迷惑をかけないようにしないと……。

大隈:KADOKAWAの山下プロデューサーは持参されたドローンを飛ばしてくれて、それで撮影した映像をイラスト化してポスターに使ったりもできました。

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ドローン撮影をもとに作られたティーザービジュアル。この構図のポスターも作られた。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部


大隈:いちばん最初のティーザービジュアルなので、芦北町の景色を大きく見せたいなと思ってこの構図にしました。まだキャラクターデザインや釣り具の設定が決まる前に作ったので、自分のほうでキャラクターを描かせてもらいました。なのでアニメ本編と比べると違っている部分もあって、制服の色とかちょっと濃いですよね。

――このポスターはアニメにしたことで新しく生み出された景色なのですね。モデルになった地域の新しい魅力がうまれるのは素晴らしいことですね。

釣り好きスタッフがこだわりまくった色彩設計と釣り具デザイン

――アニメ化となると、白黒で描かれたコミックのストーリーをカラーにしていく作業も必要になりますよね?

大隈:はい。キャラクターや作中に登場する釣り具や魚のデザインのときに色の設定も決めていきます。

※アニメの制作現場では大勢のアニメーターさんが分担して作画作業を行なえるように、登場する人や物のデザインに関する共通の設定資料を作る必要がある。それがキャラクターデザインやプロップデザインと呼ばれるもので、作業時に参照してもらいシーンごとに齟齬が発生するのを防いでいる

大隈:色がついたときの見栄えも考えて、原作から若干の変更を加えないといけない部分も出てきます。そこでデザイナーさんによって個性が出たりもしますね。


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第1話「ていぼう部」より。本作のキャラクターデザインは熊谷勝弘さんが担当(『ガヴリールドロップアウト』キャラクターデザイン&総作画監督ほか参加作多数)©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

大隈:色は原作の表紙などカラーページで使われているものをなるべく拾っていく感じで、色彩設計の真壁(源太)さんが配色を考えてくれます。真壁さんも釣り好きで、動画工房さんの釣り部の部長なんですよ。魚や釣り具の色についても、ぼかしなど撮影の時に乗せる処理まで考えたうえで、配色の段階での色を作ってくれます。

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第1話よりアジのアップの場面カット。魚の光沢を見てほしい。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

大隈:このアジも設定画で見るともっと淡白な感じなんですけど、撮影済みのフィルムではギラギラした感じになっています。

――生きている魚の光沢をここまで表現できるんですか! 釣り具ではリールのスプールを外した裏側まですごく描き込まれていて、「見たことあるある!」ってなりました。キャストしたときにリールから出ていくときの糸の形状だったりとか、ルアーがボトムに着いた時の竿先の挙動だったりとかも、アニメでここまでリアルに表現されているのは初めて見ましたよ。

大隈:その辺はですねぇ、釣り具の設定関係を描いてくれた小倉(寛之)さんが細かく指示を出してくれたんです。

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第2話「リールとキャスティング」より。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

(関根さん、釣り具の設定資料を見せてくれる。釣り竿やリールの形状の細部が簡潔かついろいろな角度から説明されていて、釣りを知らないアニメーターさんもこれを参照して絵を描くことができるようになっている)

大隈:小倉さんも釣り好きなので、レイアウトのなかでどう動くのかなども細かく指示をしてくれるんです。「竿はこういうふうには曲がりません」とかですね。

――そこまで丁寧な描きこみってストーリーを楽しむだけならあまり必要ないもののような気もしますが……。

大隈:架空の女の子たちの話ではあるんですけど、道具ってすごく大事だと思うのでその辺は気を遣ってやっていました。釣り具に関してはかなりマニアックに作らないと嘘っぽくなってしまうので、キャラクターが使っているリールやほかの道具も実際の製品をモデルにしたものがあります。サビキ仕掛けのパッケージや、作中では名前は若干変えていますけど、ある商品がモデルになっている人工エサも出てきます。その辺のリアリティーは、知ってる人は「おお、あれじゃないか!」と楽しんでもらえますし、知らない人でも説得力を感じてもらえるのではないかなと。

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第6話「アジゴ」より。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

――作中に出てくるていぼう部メンバーのリールはツイッターでも機種を当てている人がいるほどリアルに描かれていました。しかも高校生が使っているくらいの価格帯のエントリーモデルなんですよね。

大隈:そうなんですよ。原作だといろいろ使ってると思うんですけど、アニメでそれをやってしまうと大変なことになってしまうので、小坂先生からもオーケーをもらってキャラクターごとに統一しました。そのときに「ただし高校生が買えるくらいの価格帯のものにしてほしい」と先生から指示をいただいていたので、こちらで現実にあるリールのなかからチョイスして、設定を作っていきました。たしか大野が使っているのをいちばん高級なモデルにしたんですよ。

――自分も含め、釣りファンはそういうところ注目して観てますよ! 

(関根さん、社外秘の設定資料を見せてくれる。キャラクターと実物のリールの対応表)

――黒岩部長だけ右ハンドルになってるんですね。

大隈:こういうのもはっきりと決めごととして詰めておく必要があるんです。部長はほぼほぼ作中で竿を持つことなかったですけどね。

――見本になる釣り具の実物も用意していろいろな部署に参照してもらえるようにしているのですね。

大隈:普段は動画工房さんに置いてあります。ミュージックビデオで声優さんが使っている道具にも注目してもらえると発見があるかもしれません。陽渚、夏海、大野、部長が使うのはこれで、って用意してありますから。



大隈:で、小倉さんとそういう作業をしていると、色彩設計の真壁さんからも「ここの糸の出方はこうじゃないよね?」とか出るわけですよ。それで小倉さんと二人で議論が始まって(笑)。お二人は釣りも理論派で、いまこういう状況だからこのルアーがいいんじゃないかとか、考えながら釣りをされてます。その辺のところがアニメの作業でも出ていて助かりましたね~。


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釣りを知らないアニメーターさんに描いてもらう難しさ

――シナリオと美術と設定が出来上がってくると、いよいよ作画の作業に入るのですね。釣りの動作をアニメで表現するうえで難しかったところやこだわったところはありますか?

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作画作業で描かれる原画(をプリントアウトしたもの)も見せていただいた。原画とはアニメのなかの動きの基準になる絵で、このあとに原画と原画の中間の絵(動画)が作られ、仕上げで色が付き、撮影されてフィルムになる

大隈:絵を描くアニメーターさんは釣りをやらない方が大多数なので、リールの動きや竿や仕掛けについて「こういうものなんですよ」という説明を打ち合わせでするんですけど、なかなか伝えきれないのが難しかったですね。

※このあたりのエピソードは月刊『つり人』2020年11月号誌面でもどうぞ!

大隈:NGの作画は作画監督さんが修正を入れてくれるんですが、でもやっぱり完全に理解してくれているわけではないのでチェック漏れはどうしても出てきてしまいます。「これリールの動き方が違う」とか、フィルムになってからヤバいことに気づいたのもありました。釣りをしたことがないと、リールのハンドルを回す向きも、逆回転に回すのが普通だと思っている方も結構いるんですよ。ハンドルノブも指でつまむのではなく、手で握っている絵になっていたりもしましたね……。釣りに限らず、自転車とかを題材にした作品でも、制作にかかわる人全員が知識をもっているわけではないので、同じ難しさがあると思います。今回は真壁さんや小倉さんをはじめ、釣りをやるスタッフさんがたくさんいてくれました。そのおかげでここまでやれた感じがしています。

――監督がこだわったところでうまくいった部分はどこですか?

大隈:第4話のエギングのシーンですかね。キャストからシャクりまで、一連の動作は自分や山下プロデューサーが実際やった映像をそのままアニメーターさんに渡して、「こんな感じで描いてください」とお願いしました。実は『つり人』6月号で取材していただいた声優さんのミュージックビデオ撮影現場の横でこの撮影をやったんですよ。それがこのシーンに反映されています。

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第4話「エギング」より、夏海のシャクりシーン。このあと大野がお手本を見せるシーンでは後述のようにドラグ音が入れられている。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

――夏海のシャクりの動作は肩から手首まで腕全体が動いているのが表現されていますね! どこか1か所だけが動くのではないので、作画の手間もすごそうですね。

大隈:ここは音も結構こだわりまして、自分はエギングではまだ釣れたことがないんですけど(笑)、うまい人の映像を見ているとシャクったときにドラグの音がジッ、ジッ、って鳴りますよね。大野がシャクるときはその音を入れていて、夏海と陽渚のときは入れていないんです。音響効果の中島(勝大)さんに実物のリールをお渡しして音を録ってもらいまして。でも夏海のリールはドラグの音がならない機種だったんですよ(笑)。

――普段の釣りではそういうところって無意識にスルーしちゃってますけど、アニメの制作で向き合うと再発見があるんですね。

大隈:あ、中島さんも釣りをやられる方です。

――みんな釣りしてる!

大隈:あと、どれくらいの人が気づいてくださるかわからないですけど、フナムシをところどころで画面のどこかに入れているんですよ。第1話で結構生々しく描きましたけど、それ以降も堤防の見えるか見えないかのところに引っ付いていたりとか。探してみてほしいなぁ。

(関根さん、釣りシーンの本編映像見せてくれる)

――たまにチョロっと動きますよね! あ! 大野先輩が堤防のコンクリートの繋ぎ目で糸垂らしてるのに気づいちゃいました!

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第6話「アジゴ」より。別のカットでは大野先輩がコンクリートの繋ぎ目部分で釣っているのがわかる。フナムシも探してみよう! ©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

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小清水亜美さんの起用は監督の指名

――声優さんのアフレコはどのタイミングで行なうんですか?

大隈:作画では原画をもとに中間の絵(動画)ができ、仕上げで色が着いて、それぞれの絵を撮影して映像が出来上がります。その間に声優さんのアフレコと環境音やBGMを入れるダビング作業を行なうという流れです。今回お願いした音響監督の高寺(たけし)さんも昔釣りをしていて、これを機にまた始めて小型船舶免許もとったとおっしゃってました。

――船も動かせる音響監督さん! 声優さんの演技指導は監督がされるのですか? 音響監督?

大隈:それは監督さんによりますね。基本的にはお芝居の指導は高寺さんにお任せしていました。レギュラーの4名ともめちゃくちゃ上手な声優さんたちでしたので、陽渚役の高尾奏音さんも現役高校生なのにこんな上手なの!?って驚くほどでしたし。ただ、皆さん釣りはほぼ未経験ということで専門用語のイントネーションが違ったりとか、そういうのはありまして、とくに大野は説明セリフが多いのでちょこちょこ指摘はさせてもらいました。

――声優さんとのやりとりで印象に残っていることはありますか? 

大隈:部長役の篠原侑さんは地声がキャラクターとは全然違ってすんごいかわいい声なんですよ。収録が終わった後に「おつかさまでした~」って挨拶に来られるんですけど、4人のなかに部長の声の人がいたとは思えない(笑)。すごいのがオープニングとエンディングの歌も彼女たちに歌ってもらっているんですが、部長の声で歌えているんです。オープニングテーマ「SEA HORIZON」もちゃんと部長の声が入っているのがわかりますからね。

――声優さんの配役を決めるのは監督のお仕事ですか?

大隈:いいえ、配役を決めるのは、原作の小坂先生とKADOKAWAや動画工房のプロデューサーさん、秋田書店さん、音響監督の高寺さんなど、いろいろなスタッフさんを交えて相談しながらです。最初に候補の声優さんのリストと、こちらで出したセリフをしゃべってもらったサンプル音声をもらうんですよ。そこから絞り込んで、スタジオのオーディションで演技をしてもらって、イメージに合うのは誰かなという感じで決めます。ですが、ていぼう部顧問の小谷先生役はオーディションをやらずに決めうちで「小清水亜美さんでどうですか?」と自分から高寺さんにリクエストさせてもらいました。初登場回がほんとにドギツイ印象になってしまっているので、小清水さんに演じてもらったことでそれが和らいでいるかなという感じはしてるんですよね。

――ハマグリ食べて帰っちゃってもCV.小清水亜美さんなら許せちゃう不思議。

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第5話「潮干狩りと顧問」より。部室で飲酒、絡み酒、ハマグリを食べるなどパワハラムーブをかました小谷先生も小清水亜美さんの演技で愛すべきキャラクターに。小清水さんは大隈監督が副監督を務めた『干物妹!うまるちゃん』シリーズに出演。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部


大隈:部長役の篠原侑さんは小坂先生が推していたんです。やっぱり部長役は九州出身の声優さんがいいということで、イントネーションがいちばんきれいだったのが篠原さんだったそうです。篠原さんも熊本出身ですが、県内でも芦北町のある南のほうは鹿児島の方言が入ってきたりするらしく、アフレコのときに「こういう言い方でいいんですか」と先生に質問されたりしてました。それがわかるのは先生だけだったのでスタジオと先生をSkypeでつないでやり取りをしていたんです。たこひげや店長役の千葉繁さんも熊本出身ですし、モブの生徒役も含めて九州出身の声優さんは結構多いです。

――アニメ全体を当たり前のものとして観ることができるのはここまで教えていただいたような小さなディテールの積み重ねなんですね。

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第3話「マゴチ」より。「マゴチは砂地に住んどっけんね〜〜。ここの堤防は岩ばっかでおらんとたい」と方言が魅力的な黒岩部長は、熊本出身の篠原侑さんが声を当てている。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

押し付けではないマナーの伝え方

――おかげさまでこのアニメを観て釣りに興味をもってくれる人が多くいます。今はYouTubeやブログなど無料の釣りコンテンツが増えて、ビギナーもひとりでデビューしやすい時代になっているんですけど、マナーやルールなど大事だけど自分で探さないとたどりつけない情報はなかなか知ってもらえないという状況もあります。そのなかでこの作品は、ゴミを捨てると生き物がかわいそうなことになってしまうよとか、ライフジャケットを着けないとほんとに命にかかわるんだよとか、ストーリーを楽しみながら知ることができるように作っていただいていて、釣り業界の人間としても本当にありがたいことだなと思っています。

大隈:ありがとうございます。マナーについてはアニメではあんまり押し付ける伝え方にはしたくないなと考えていたんですよ。押し付けられると「え、だったらやらない」ってなっちゃう人もいると思うんです。だから「こうしましょう!」じゃなくて、さらっと。遊漁券の話(第8話)も原作だと漁協の看板の前で立ち止まってそれを読んでいるシーンですけど、アニメではあえてその看板の前を通り過ぎるという描写にしたんです。ラストに入れている川柳もほぼワーニングの内容なんですよ。気づいてもらえているのかな? ネット上の感想はあんまり見ないようにしているんですけど……。

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第4話「エギング」より、各話Bパート終了後に挿入される川柳。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

津末(KADOKAWA):ツイッターでは「川柳が心に刺さった」って書いてくれていた人がいらっしゃいましたよ。

大隈:あ~、そう言っていただけると作った甲斐がありました! あれはギリギリまで「こういうときは気を付けましょう」みたいな普通の文章にしようかと迷ったんですが、なんだかありがちだし押し付けっぽくなっちゃうなと。それなら釣りに興味をもってくれた人が見たらワーニングとして受け止めてくれるくらいがいいかなと思って、川柳ならアリかなって。で、ギリギリになってKADOKAWAさんに「これで行きます。なので次回予告は映像しか流しません」ってお願いしたんです。

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『放課後ていぼう日誌』のキャラクターとコラボする形でリニューアルした水産庁のパンフレットも釣具店などで無料配布されマナー向上に貢献している。水産庁のウェブサイトからもダウンロード可能。イラストはアニメ版キャラクターデザインの熊谷勝弘さんが担当した

監督のお気に入りエピソードベスト3は!?

――それでは最後に監督のお気に入りエピソードベスト3を教えてください!

大隈:ひとつめは第7話のガラカブ(カサゴ)回ですかね。カサゴってほかの魚と違って、釣りあげたときに硬直してしっぽだけ「くりん」って曲がるじゃないですか。あれが結構こだわりで、こう描いてってお願いしたんですよ。でもそういう個体ばっかりではないので、第9話のアオサギ回で釣れていたリリースサイズのやつはビチビチしているんですけどね。

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第7話「穴釣り」で描かれたカサゴ。くりんと曲がったしっぽが監督のこだわりだ。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

大隈:ふたつめは第1話。夏海と陽渚が最初に出会ったときに、夏海が持っていた竿を丁寧に地面に置くシーンがあります。普通のアニメだとポンってやっちゃうと思うんですけど、ちゃんとリールのハンドルを下にして傷がつかない置き方をしている、っていうアップの絵を入れているんですよ。

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第1話「ていぼう部」より。夏海が置いたロッドのアップに注目。このシーンの前にさらっと描かれる夏海が竿を置く動作にも作画の枚数が割かれている。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

大隈:あとは最終話かな……シロギス回ですね。いや、でもこれはやめときましょう。この辺を語り始めると作画のマニアックな話になってしまうので……。

――そういうの知りたいです! 教えてください。

大隈:え? じゃあ……。アニメの映像をゆっくり動かすのって描かなきゃいけない絵の枚数が多くなってたいへんなんですよ。キス釣りの動きって竿で仕掛けを引くのもリールを巻くのもゆっくりじゃないですか。なので第11~12話のシロギス釣り前後編はすごく苦労してやっています。普通にやると枚数がべらぼうにかかってしまうので、撮影のときに工夫して一枚の絵を背景の上でスライドさせて動きを出せないかとか。リールをゆっくり巻くのとかもすごく大変なんですよ。立体的なものの形がどんどん変わっていくじゃないですか。ベールアームなんて恐ろしく複雑な形してるのに、それを1枚1枚角度を変えて描かなちゃいけないわけですよ。

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第12話「これから…」より。リールをゆっくり巻く動作の作画はたいへんな労力が必要になるという。監督自身も作画に参加した気合のカットだ。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

――撮影で工夫もしたけど、描いた枚数も相当なものになったということですね。

大隈:はい。アニメって速い動きはパパっとすぐできちゃうんですけど、ゆっくりな動きって大変なんだなって思い知りました。

――ぜひ注目して観てもらいたいですね。ちなみに私は夏海ちゃんとお勉強する回が好きです! 趣味の釣りって3つの要素があると思っていて、釣りに行く前のワクワク感と、釣りをしている最中の興奮や楽しさや悔しさ、そして釣りを終えた後の振り返りや料理の楽しみと。この作品は、その全部が描かれていますよね(早口)。

大隈:そうなんですよね! 釣具屋さんで買い物をするのも楽しみのひとつっていうか、明日はこういう状況だからこの道具がいいんじゃないかとか考えるのも。

――とくに釣りに行く前のワクワク感が印象的だったのが釣具屋さんに行く回(第4話)と、夏海ちゃん家で勉強する回(第7話)。

大隈:そうですね!

――私は眼鏡っ子の夏海ちゃんが好きなのでこの回にしました。

一同:(笑)

大隈:夏海人気は結構あるかなと思っていました。ギャップ萌えですもんね。夏海みたいなキャラクターは勉強できないのが定番じゃないですか。だけど夏海は勉強めちゃめちゃできる。

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第7話「穴釣り」より。眼鏡モードの夏海にヤラレる視聴者多数。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

八木(月刊つり人編集長/途中から登場):私は大野さんが気になりますね! いつになったら眼鏡を外してくれるんだろうとか。素顔を見たいと思った時点で小坂先生の術中にハマってしまった気がしますけども。

大隈:実は自分たちスタッフと声優さんは見ているんですよ。原作が始まる前の初期設定の段階で描かれたものを見せてもらいました。すごく美人さんに描かれていましたねぇ。『放課後ていぼう日誌』原作の魅力のひとつはキャラクターの個性がしっかり立っているところだと思います。観ていて受け入れてもらいやすい感じがありますよね。4人とも個性があるキャラクターたちなので、アニメでもそこをちゃんと描いていけたよなーっていう手ごたえを感じています。

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第9話「備えとアオサギ」は落水時の備えとライジャケの重要性を学ぶ回。しっかり者の大野はとあるトラウマから水が苦手という一面も。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

大隈:でも陽渚って毎回釣れているんですよね……(笑)。釣りやる人間からするとちょっと嫉妬しませんか? ボウズなんてしょっちゅうあるのに毎回釣れていて。

一同:(笑)

――私は九州に行けばこのくらい釣れちゃうんだろうなって夢をもって見てますよ。

大隈:実際そうでした! 芦北町でロケをしたときも、ルアーちょっと投げたらすぐにヒラが食ってきて、びっくりな感じでした。

――(やっぱり釣りしてたんですね……)いいなぁ……。

大隈:最初はアタるんですけど全然乗らなくて、たぶん口が柔らかくてアワせちゃうと口切れしちゃうんでしょうね。なので、そぉーっとアワせてゆーっくり引きあげたらこれがあがってきました。あと、このときキス釣りもしたんですけど、投げて巻いてくるともうガブガブあたるんですよ。関東だとそんなことないですもんね。

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大隈監督が釣りあげたヒラ。サッパに似ていて食べても美味しい/提供:動画工房

大隈:今回の作品では、先ほども少しお話しましたが、場所は本当に大事にしたいなと思っていて、美術も上手な会社(スタジオイースター)にお願いできたので、陽渚たちが釣りをしている自然や風景も見せてあげたいし、キャラクターもかわいいから見せたいし、見せたい見せたいを詰め込んでしまった感じですけど、モデルとなった芦北町(熊本県芦北町)の人たちも観てくださっていて、描いてくれてありがとうという言葉もいただいています。

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ロケハンで撮影された芦北町の風景/提供:動画工房

大隈:芦北町は7月の豪雨(球磨川が大氾濫した7月の豪雨。原作者の小坂先生も被災した)で大きな被害を受けましたが、『放課後ていぼう日誌』のファンからの義援金やふるさと納税も力になっていると先日の地元ニュース番組で紹介されていました。TVアニメ化に合わせて芦北町とのコラボ企画も予定されていたんですが、コロナ禍や豪雨で残念ながら当面は中止になってしまったものの、ぜひ復活してほしいですね。

――お話を伺っていて私も芦北町に行ってみたくなりました! 大隈監督、今日はありがとうございました。

2020年9月8日、つり人社会議室にて

◆芦北町へのふるさと納税はこちら
https://www.furusato-tax.jp/city/product/43482

◆アニメフィギュアの人気シリーズ『ねんどろいど 鶴木陽渚』を注文すると、発売元の株式会社グッドスマイルカンパニーを通じて300円が芦北町に寄付されるという取り組みも。



月刊つり人編集部的『放課後ていぼう日誌』(コミック&アニメ)のここがすごい!

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第11話「キス」より。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

■釣行前のワクワク感、釣行中の楽しさ・興奮・悔しさ、釣行後の楽しさの余韻や次回への情熱(趣味の三要素:コトマエ・コトナカ・コトアト)がそれぞれ欠くことなくストーリーに落とし込まれているところ。これによって、釣り未経験の読者へもその面白さや楽しみ方を押し付けることなく伝えることに成功しています。アニメ第4話「エギング」、第11話「キス」、第12話「これから…」など。

■テクニック解説場面でもストーリーが停滞していないところ。趣味系漫画/アニメは技術の解説場面がビギナーを導くだけでなく経験者の心もつかむ重要な見せ場である一方で、そのシーンの間はキャラクター側のストーリーが進まないという弱点があるように思います。本作でもキャスティング、結び方、アワセのタイミングなど解説場面が多く出てきますが、キャラクター同士の会話を利用してストーリーの中で無理なく要点を伝えています。白眉は主人公の陽渚が先輩たちからキャスティングを教わるアニメ第2話「リールとキャスティング」でありましょう。教科書的な回であるにもかかわらず、陽渚が上達していく過程でのコミカルなやりとりを通じて、遠慮がちであった陽渚がていぼう部のメンバーと距離を縮めていくきっかけになっているように見て取れます。

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第2話「リールとキャスティング」より。©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

■マナー面も啓蒙するストーリー。近年はブログやYouTubeなどの無料の釣りコンテンツが増え、未経験者もひとりで釣りデビューしやすくなりました。釣り業界でもマナーの啓発を継続して行なっていますが、ビギナーにはなかなかリーチできない状況です。そんななかでビギナーに魅力だけでなくマナーも伝えていきたいという小坂先生や大隈監督をはじめスタッフの皆さんの釣りへの愛と責任感を感じました。水産庁や日本釣用品工業会と積極的にコラボを行なっていることなども含め日本の釣り文化史に残る作品になるでしょう。

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『放課後ていぼう日誌』©小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部
秋田書店「ヤングチャンピオン烈」連載の小坂泰之先生によるコミックが原作。九州のどこかにある海辺の町・芦方町に引っ越してきた高校1年生の主人公・陽渚は、ひょんなことから謎の「ていぼう部」に入部してしまう。引っ込み思案だった陽渚がていぼう部メンバーとの活動(釣り)を通して、徐々に心を開いていく成長ストーリー。ゆったりまったりな作風にもかかわらず、釣り風景や解説にも抜け目がなく釣りファンの心をつかんだ。コミックスも好評発売中!




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