テンヤタチウオはとてもシンプルで、決して難しくない釣り。それでいて、どこまでもどこまでも、奥が深い。子供からお年寄りまで、誰でも夢中になってしまう不思議なタチウオの魅力と、テンヤ釣りの魅力。これさえ読めば、明日から誰だって始められる。そしてきっとすぐ、テンヤタチウオの虜になってしまうはず。
人気ウェブサイト「タチウオマニア」編集長が解説!
解説◎可児宗元(「タチウオマニア」編集長)
テンヤタチウオはとてもシンプルで、決して難しくない釣り。それでいて、どこまでもどこまでも、奥が深い。子供からお年寄りまで、誰でも夢中になってしまう不思議なタチウオの魅力と、テンヤ釣りの魅力。これさえ読めば、明日から誰だって始められる。そしてきっとすぐ、テンヤタチウオの虜になってしまうはず。
この記事は書籍『スキルアップ! 船テンヤタチウオ』に掲載したものを再編集しています。
◆関連記事:実験でわかった擬似餌のカラーとタチウオの釣果の関係
目次
テンヤタチウオは難しい釣りじゃない
テンヤのタチウオ釣りに初めて出会ったのは、今から10年ほど前だった。それ以前から大阪湾ではとても人気のある釣りだったが、当時の釣り人は年配の方が中心で、使うテンヤはグロー一色、釣り方は「ただ巻き」と言って、ひたすらゆっくり同じペースで巻き続け、竿がしなるぐらいに重みが乗ってからアワセを入れる、というのが基本だった。釣り方はタイサビキやタイラバに近い感覚だったかもしれない。それが10年ほどで、大きく変わった。釣りスタイルは、ジャークを多用した激しい誘いやスピーディーな釣りからスローテンポな釣りまで幅広く、タックルも当時は胴調子の軟らかい竿を使う人も多かったが、主流は8対2調子などの先調子、長さは2m弱が主流となった。
それで、最近この釣りを始めたばかりの人を見る機会があると、少し残念に思うこともある。ここ数年の間に、あまりにも道具や釣りスタイルが多様化し、テクニカルな釣りのイメージがついてしまったために、「何がこの釣りの基本なのかが分からなくなっているんじゃないか」ということ。
この釣りは、とてもシンプルな釣り。難しい釣りじゃない。そういうわけで、ここではテンヤタチウオの基本とは一体何なのかを、順を追って、誰にでも分かるようにじっくりと解説していきたいと思う。
タチウオテンヤってどんな仕掛け?
「テンヤ」という仕掛けには、タチウオテンヤ以外にも、マダイを狙う「ひとつテンヤ」や、マダコを狙う「マダコテンヤ」などがあるが、つまり「テンヤ」というのは、オモリと掛けバリが一体化した仕掛けのこと。タチウオテンヤも同様に、ヘッドとも呼ばれるオモリに掛けバリが一体化した独特な形状をした仕掛けだ。さまざまなタイプのタチウオテンヤが市販されている。シーズンや状況に応じて形状やカラーを使い分けるのも楽しい
タチウオテンヤの特徴は、胴突きや天秤などのように小さなハリを使う仕掛けとは違い、タチウオが、テンヤに巻き付けたエサに食い付いた時、竿を上げることでアワセを入れ(イラスト参照)、ハリを魚に掛けてやる必要があるというところ。「ハリにタチウオが掛かった」のではなく「タチウオを自分でハリに掛けた」という満足感が、この釣りの大きな醍醐味であり、多くの人が一度でハマってしまう、第一の魅力だ。
テンヤはどう選ぶ?
前にも書いた通り、10年前にはテンヤは種類もバリエーションも少なく、大阪湾で主に使用されているカラーはグロー一色だった。それが今では、釣具店に行けば、さまざまな形状、カラーのテンヤが並んでいる。テンヤ選びも大きな楽しみのひとつだが、種類が多いので、初めての人には「一体何から始めたらいいの?」と迷ってしまうかもしれない。テンヤの形状やカラーの選択に行く前に、まずオモリ(ヘッド)の号数だが、基本的に各乗合船では号数が統一されている(重さが違うと、オマツリの原因になるため)。大阪湾で最も多く使われているのは40号だが、大型船では50号を使用する船もある。乗船する船を決めたら、予約時などに号数を確認してから準備するとよい。
さて、テンヤの種類について述べていこう。まず、大阪湾ではシングルフックが標準で、針が二股に分かれたダブルフックは禁止されていることが多いので注意しよう(瀬戸内などでは現在も使用されている)。ここからはシングルフック限定のお話とさせていただきたい。
ハリが二股になった「ダブルフック」はオマツリ時のトラブルが多いことから大阪湾の乗合船では禁止されているところが多いので注意
シングルフックに限定した上で、テンヤの形状、素材について。大きく分けると、ノーマルタイプ、小バリ(小シルエット)タイプ、タングステン素材の物に分かれる。
まず第一歩としては、掛けバリの大きなノーマルテンヤを使ってみてほしい。ノーマルテンヤはこの釣りを理解する上では最もオーソドックスな形に作られているので、できればこれで釣って、釣りの仕組みを理解してから、その他の進化系テンヤに挑戦するのが理想的だと思う。
さて、では小バリ(小シルエット)テンヤとはどういうものか。これは、ハリが従来のタイプよりもかなり小さい物。
上から、ノーマルテンヤ/小バリテンヤ/小バリテンヤ/タングステンテンヤ
小バリテンヤのメリットとデメリット
まず大きなメリットとして、テンヤ全体のシルエットが小さいこと。シルエットが小さいことで、魚の警戒心を少なくすることができる。アタリの少ない低活性時には魚も警戒心が強いので、このメリットは非常に大きく、小針タイプに替えたらアタリが出るようになることも多い。もうひとつ、針先部分が小さいので従来の大きな針よりも掛かりやすく、エサにバイトしてきたタチウオにもハリ先が短い分違和感を感じさせにくいというメリットがある。
だが反面、針が小さい分、大きな掛けバリに掛かった時に比べてバレやすいというデメリットもある。掛かってからはノーマルテンヤよりもさらに繊細なやり取りが要求される。
タングステン素材のテンヤ
もうひとつの、さらなる進化系。昨年登場して話題になったタングステン素材のテンヤがある。通常、テンヤのヘッドは鉛製だが、タングステンはこれと比較すると、かなり比重の高い金属。つまり、ヘッドのシルエットを従来のテンヤに比べてかなり小さくすることができる。ヘッドが小さくなることにより、潮の抵抗を受けにくくなるから、落下が非常に速く、なおかつ2枚潮などにも圧倒的に強い。また、ヘッドおよびテンヤ全体のシルエットが小さいから、前述の小バリテンヤ以上に魚の警戒心を少なくすることができる。
デメリットとしては、タングステンという希少な金属を使用しているので、値段がかなり高いこと。タチウオ釣りではラインブレイクも結構あるから、場面を選んで使用するのが賢明だ。
ヘッドカラーの使い分け
続いてヘッドのカラーの使い分けについて。これは人によっても多少意見が違ってくるかもしれないが、大まかな違いと使い分けを覚えておいてほしい。昔から最もポピュラーで実績が高いと言われているのが「夜光」とも呼ばれる、グロー(写真①)。蓄光性のあるカラーなので、水中でもボワッと光り、タチウオが見付けやすく、アピール力が非常に高い定番カラー。どれか1つと迷うならこれから始めてみるとよいだろう。
①グロー
このグローに対して、夜光塗料が塗られていないタイプ(写真②)は、正反対のキャラクターを持つカラー。魚の活性が低く警戒心が強い時など、目立ちすぎるグローを魚が嫌っていると感じる場面がたまにある。そんな時には発光しないグローなしのカラーをお勧めしたい。
②グローなしのカラー
実際、シーズンやポイント、潮の澄み具合により、グローにアタリが目立つ、逆にグローなしばかりにアタリが集中するということもある。
そして、グローとグローなしの中間に当たるカラーがゼブラ(写真③)などの中間色系。ゼブラのほかにグロードットや一部だけにグローが入っているカラーもある。ほどよいアピール力で、さまざまな場面に対応しやすいオールマイティなカラーと言える。
ほかにもケイムラやホログラムなどさまざまなカラーが発売されているが、まずはこのグローのあるなしで使い分けするところからスタートしてみるといいだろう。
③中間色系
テンヤにエサをセットする
大阪湾の乗合船では、船でイワシを準備してくれることが一般的。身持ちのよいサンマも最近は人気だが、ここではベーシックなイワシをテンヤにセットする方法を紹介しておこう。まずは市販のテンヤに付属しているワイヤを取り出す。ワイヤは結構な長さがあるものが多いが、イワシを巻くのに必要なのは、40㎝程度(好みの巻き方にもよるが)。イワシを巻くのに必要な分を残し、余りのワイヤはあらかじめ針の軸部分に巻き付けておくとよい。釣りをしているとタチウオにワイヤが噛み切られることが多いので、その時に巻いていた余りの分を出して使っていくとスムーズ。
まずはヘッドの後ろの針の軸部分にワイヤの余りを巻いて固定
イワシをハリの軸の上にセットし、頭部分を強めに巻いてしっかり固定し、後ろへ巻いていく。尻尾の手前あたりで折り返して前まで巻いていく。頭のほうまで戻ったら針の軸に1回程度巻くか、テンヤ下のアイで固定する。
ワイヤの巻き方については、ベテランになってくると人によりさまざまなコダワリがあるものだが、まずはとにかくイワシが真っ直ぐにしっかりテンヤに固定されていて、釣りをしている途中にズレたり外れたりしなければ大丈夫だ。
ノーマルテンヤの場合にはよほどイワシが大きくなければこれでOKだが、小バリタイプなど、針の軸が短いテンヤにセットする場合にはハリの長さに大きさを合わせるように、イワシの頭をカットしてから巻くとよい。
お腹の部分は柔らかいので、まず硬い頭の部分を多めにしっかりと巻いて固定してから尻尾のぽうへ巻いていく
タックルとライン
まずロッドは、テンヤタチウオ専用のロッドをお勧めしたい。長さは2m弱。まず最初の1本として扱いやすいのは8対2調子などの先調子で、タチウオの小さいアタリが分かりやすい物を選ぼう。ロッドはタチウオテンヤ専用の2m弱、先調子の物が扱いやすい。電動リールはPE2or3号が200m以上巻ける小型の物がお勧め。ダイワのシーボーグ200J、シマノならフォースマスター400か600あたりがよい
リールは手巻きの両軸リールでもよいが、水深が深いポイントが多いので小型の電動リールの使用がお勧め。大阪湾ではポイントの主な水深が50~100m前後で、深い場所では150m近い場所もある。タチウオやサワラなどに切られるケースもあるので、リールに巻くラインはPEの2~3号を200m以上は巻いておきたい。
リーダーはフロロカーボンまたはナイロンの10~16号あたりが標準で、最近はテンヤに付属していることが多く、もし付属していないようなら市販のテンヤ用リーダを準備しておこう。
タナを探る
道具の準備ができたら、いよいよ釣り方について学んでいこう。船がポイントに到着して仕掛け投入の合図があると、まずはエサを巻いたテンヤを海中へ落とそう。潮が速い時や二枚潮の時には隣の人とオマツリになりやすいので、フリーで落としていてラインが少したるんでいると感じたらサミング(=親指でスプールを軽く押さえること)して少しラインにテンションをかけながら落とそう。置き竿にしたまま仕掛けを下ろしている人を見かけるが、これもラインのたるみの原因になり、オマツリなど周りの人の迷惑になるのでご法度だ。
さて、ところでテンヤはどこまで下ろしたらいいのだろう?と初めての人なら疑問に思うだろう。船長から、例えば「底から〇mまで」とか「水深〇mから〇mまで」といった指示があれば、基本的にそれに従うとよい。
釣り座に設置して魚影や水深が確認できる探見丸は非常に便利なアイテム(探見丸設置船のみ使用可)
タナ(魚のいる層)が定まっていない時、特に指示もないようなら、底から10mぐらいを探ってみるとよい場合が多いが、やはり分からなければ都度船長か仲乗りさんに聞くのが間違いがない。
タチウオという魚は、底周辺から中層、場合によっては(日中の釣りでは少ないが)水面近くまで浮いてくることもある魚。同じ日でも、時間によってタナがコロコロ変わることも少なくない。だからこそ、魚がいるタナを探すことは、テンヤタチウオの面白さの重要な一要素だ。
ベースとなる基本の誘い
「底から10m」と船長からアナウンス。さて、どうしよう? 自分の場合、基本の誘いは2パターンを軸に考えている。まず覚えるべき1つめの誘いは、昔からこの釣りの定石とも言える最も定番の誘い「ただ巻き」。タイサビキやタイラバなどと同じく、とにかく一定速度で巻き続けるという誘い。
手で巻いてもいいし、電動リールなら電動の等速巻き上げで巻くだけ。速度は速い速度から探り始める人もいるし、遅い速度から探り始める人もいる。例えば今、手元にある電動リールのカウンターの巻き上げ速度「3」から始めたとして、それを基準にアタリがなければ少し速くしてみたり、遅くしてみたりして、アタリが出る巻きスピードを探る。
この釣りでイメージしてほしい最も大切なことは、タチウオがテンヤを追いかけてくるスピード、つまり、その時にエサを追いかけて泳ぐスピードだ。 その時その時の潮の速さや濁り、船の移動速度、魚の活性などによって、タチウオがテンヤを追ってくる速度は大きく変わってくる。まずはタチウオがいる所にテンヤがいることが大前提だが、テンヤ(エサ)をタチウオが見付けたとして、タチウオのその時の泳ぐスピードに合っていなければ、アタリは出ない。
先ほどの電動リールの「3」を例にすれば、タチウオが「1」の速度でしか追ってこない時であれば、当然追いつけなくて諦めてしまうか、食べたくてもテンヤを見失ってしまうことになる。
逆に、もっともっと速い「10」ぐらいで泳いでいるような時だってある。その場合だと、逆にタチウオがテンヤを追い越してしまうか、テンヤを自然のエサではないと見切られてしまうだろう。
最も大事なのは、群れの中のタチウオの移動速度を見つけることだと思う。もう少し突っ込んで言えば、タチウオが追ってこられるギリギリ速めのスピードで、群れの中でやる気のある、活性の高いタチウオを狙っていくのがベストだと個人的には考えて、いつも釣りをしている。
「巻き」+「止め」の誘い
「ただ巻き」からの発展形になるが、もう少しメリハリを付けた誘いが、2つめの基本の誘い「ストップ&ゴー」だ。ただ巻きよりは少し速めの速度で巻いて(手巻きで)、ピタッと数秒止める。この動作を繰り返す。巻くことでタチウオを誘った後に「止め」を入れることで、タチウオに食わす間を与える。タチウオの活性がよい時にはこういった動きにメリハリのある誘いのほうがアタリが明確に出やすいことが多い。
1回に巻く幅は、1m前後のタチウオが立ってテンヤを追ってくることを想定して、1~1.5 m(ハンドル2~3回転)を基準に。「止め(ステイ)」は2~5秒ぐらいを基準に。
ただしこれはあくまでも基準で、先ほどのただ巻きの場合と同じく、タチウオの追ってくるスピードを意識しつつ、「巻き速度」、「巻きの幅」、「ステイの時間」をかえて最もタチウオがアタってくるパターンを探していく。文章で読むと少し複雑に感じるかもしれないが、実際にやってみればそんなに難しいことではない。
誘いはどう変えていくか
2つの誘いパターン、どちらも単純な動作なので覚えていただけたのではないだろうか。ただ、どの誘いから始めて、どう変えていったらいいかが少しわかりにくいかもしれない。タチウオの群れの中でも、活性が高く、やる気のあるタチウオとそうでないタチウオがいるのだと思う。のんびりしているのもいれば、元気満々だったり腹ペコだったりするヤツもいる。
群れの中でよく動く、活性の高い魚を狙いたい。同じようにテンヤを見付けても、活性の高いタチウオのほうがヒットにつながりやすい。
そんな風に考えて、自分の場合には、速い速度のストップ&ゴーから始めるようにしている。速い速度でアタリが出ないようなら、少しずつ速度を緩める→移動距離を縮める→ステイを長くするといった感じで、ソフトな誘いへと落としていく。
ストップ&ゴーで色々パターンを試してアタリが出なければ、誘いを、ただ巻きに切り替え、速度をいろいろと試してみるようにしている。
アタリが出てからすること
タチウオ釣りは、1尾を釣り上げるまでに4段階の工程がある。まず第1段階は、タナを見つけること。次に第2段階は、タチウオにテンヤを見付けさせ、興味を持たせてアタックさせる、つまり前述いた「誘い」の工程だ。そして、テンヤのタチウオ釣りならではの、他の釣りとは少し違う、一番の面白さが、次の第3段階。テンヤを見付け、興味を持ってアタックしてきたタチウオに、エサ(テンヤ)を追わせてイワシの腹に食い付かせること。
タチウオという魚は歯も鋭く、いかにも獰猛そうな顔つきをしているが、案外臆病で神経質な面もある。エサを捕食する時は一発でガブっと食い付くことは少ない。相手が小さな小魚でも、何度か口先の鋭い歯でアタックして弱らせてから食べるような習性がある。
テンヤを見付けて興味を示しても、1度、2度と何度か口先で突いて、その後にしっかりとエサを咥えて捕食しようとする。
最初のアタリの多くは、小さく「コツン」と竿先に出る。そこからタチウオとの駆け引きが始まると言っても過言ではない。
ここから先も、これまた人によりセオリーが違ってくるが、自分の場合には、生きたベイト(小魚)であることをタチウオに意識させて、より「追い気」を誘発したいので、小さなアタリが来たらアタリがくるまでの誘いと同じ速度で巻く。
タチウオが追ってきていると過程して、数m同じ誘いを繰り返して「コツン」とアタリが来れば、同じように繰り返してどんどんタチウオを焦らしていくイメージで追わせる。
そのうち、タチウオが本気モードになって「今だ!」と言わんばかりにテンヤへ食い付くと、ロッドの穂先に「グッ」とか「グウッ」と重みが乗る。これがタチウオがイワシの腹を咥えた証拠。
その瞬間、すかさず竿先を上げる、もしくはリールを素早く巻くことでアワセを入れ、テンヤの針をタチウオに掛ける。
掛かった瞬間、グンッと直下に引き込む強烈な引きがロッドと手元に伝われば、フッキング成功。その何とも言えない手応えに、思わず誰もが一瞬にしてこの釣りの虜になってしまう、まさに至高の瞬間だ。
「食い上げ」のアタリ
先ほど述べた、焦らした末に竿先を抑え込む本アタリのほかに、タチウオならでは別バージョンの本アタリのパターンがある。誘いを掛けて止めた瞬間、もしくは巻いている途中、ラインのテンションが抜け、竿先が「フッ」と浮くような時がある。これが「食い上げ」と呼ばれるアタリ。エサを追ってきたタチウオが勢い余ってテンヤより速い速度でイワシの腹に食い付いた時、こんなアタリが出ることが多い。糸フケが出たなら急いで巻きつつアワセを入れると掛かることが多い。こんなアタリが続く時は、タチウオの活性が高いことが多く、思わずシビレてしまう瞬間だ。
合わせて掛からなかった時
合わせて掛からなかった。ここも非常に重要な、この釣りならではの面白いところなのだが、意外に知らない人が多い。合わせて掛からなくても、タチウオはまだテンヤを追ってくる可能性は高いのだ。合わせて掛からない場合に、タチウオの立場に立って考えてみると、2パターンある。1つは、エサを噛みに行ったら針に掛けられそうになってびっくりして逃げた、というパターン。もう1つは、エサを噛もうとしたのに、テンヤに逃げられてしまった、というパターンも考えられる。
例えば、追ってきたタチウオが1尾だったとしても、釣り人側は自分がしくじったからもうダメだと思って、魚がいないと勝手に思い込んで、また誘い始めの位置までテンヤを下ろしてしまうのを見ることが多い。これはもったいない。
案外、タチウオはまだエサを追いかけてことは多い。追いかけているのが1尾の場合をイメージしてもそうだが、実際は数尾のタチウオがテンヤを追いかけているケースもさらに多いはず。
1尾が脱落したら、次のやる気のタチウオが追ってくるという可能性は非常に高いし、アワセの動作でテンヤが跳ねた動作が誘いになって、さらに追い気が強くなる場合だって多々あるのだ。だから、合わせて掛からなかった時は、実は次のアタリへのチャンスかもしれない。しばらくは誘いを続けて、次のアタリをさらに誘発してみてほしい。
フッキングからのやり取り
さて、見事駆け引きが成功し、フッキングまで持ち込んだら、船へ取り込むまでの、最後の第4段階。フッキングした時点で「ほぼ釣ったようなもの」と思いがちなのだが、案外、この釣りはバラシも多い。バラシの要因のひとつとして、電動リールの巻き上げ速度が速すぎる場合。やり取りは竿先を上げてロッドの曲がりを利用して引きをいなしつつ、巻き速度は中速ぐらいで控え目にするほうが無難だ。
もうひとつは、ラインのテンションが途中で抜けた場合。巻き上げ途中でラインのテンションが抜けることがある。それで「高切れだ」と言っている人をよく見る。実際に高切れすることもあるのだが、テンヤに掛かったタチウオがリールの巻き速度よりも速く泳ぎ上がっている場合が多々ある。
それでリールを巻くのを止めてしまったりすると、さらに食い上がってきてリーダーや道糸を切られてしまったり、テンションが抜けてテンヤが外れてしまったり。
だから、巻き上げ途中にテンションが抜けたら、食い上げを疑って、巻きの速度を少し速めるか、手巻きでアシストして確かめるとよい。
周りの人と比べて自分ばかりテンヤをロストするという人は、この食い上げを理解して意識すれば、ロストはかなり減るはずだ。
水面までタチウオが上がってきた。抜き上げ時のバラシも結構ありがち。まず、リールの巻き上げを止めて抜き上げの動作に入る時、テンションが抜けてバレることが多い。
ロッドでラインのテンションを保ったまま、できるだけ素早くリーダーをつかみ、船上へ一気に抜き上げよう。
ロッドでの抜き上げも、特に大型の時はバラシの大きな原因になりやすい。しかもロッドの弾性でテンヤが思わぬ所へ飛んでいく危険性が非常に高いので、必ず手でリーダーを掴んで抜き上げるようにしよう。
というわけで、これから始める人たちに向け、この釣りの基本の考えを知り、その楽しさをより深く知っていただきたいと願いながら、書いてみた。ここまで知れば準備は万端だ。まずは実際に船に乗ってテンヤタチウオの楽しさを、ぜひとも実感してみてもらいたい。
これ一冊で丸わかり!関西の船釣り最新テクニック
大阪湾、播磨灘、和歌山沖、若狭湾など、関西の主な海域を舞台に、大人気の「船テンヤタチウオ」「タイラバ」「落とし込み」など12の釣りの基本と実践を詳しく紹介。『つり人』連載時の情報に加え、よりハイテクニックな視点からのアドバイスや分かりやすい釣り方のイラストも大幅加筆。ほかに「メバル」「イサギ」「キス」「鬼アジ」「マダコ(船タコエギング)」「カワハギ」「マダラ」「深海釣り」「イカメタル」も紹介しています。
大阪湾、播磨灘、和歌山沖、若狭湾など、関西の主な海域を舞台に、大人気の「船テンヤタチウオ」「タイラバ」「落とし込み」など12の釣りの基本と実践を詳しく紹介。『つり人』連載時の情報に加え、よりハイテクニックな視点からのアドバイスや分かりやすい釣り方のイラストも大幅加筆。ほかに「メバル」「イサギ」「キス」「鬼アジ」「マダコ(船タコエギング)」「カワハギ」「マダラ」「深海釣り」「イカメタル」も紹介しています。
解説:可児宗元(かに・むねもと)
フィッシングライター。大阪湾のテンヤタチウオの魅力にハマり、2013年に大阪湾タチウオKINGバトルを発足。以来テンヤタチウオ関連の執筆、普及に勤しむ、大阪湾テンヤタチウオブームの火付け役