ハリはアユの魚体に触れる唯一の接点。口に掛けるほかの釣りで使うハリとアユバリとで大きく異なるのはアユのウロコを瞬時に貫く鋭さにある。釣果が上向く適材適所のハリ使いの基本を、オーナー勤務で近年アユルアーに熱を上げている西浦伸至さんの日野川釣行から見ていきたい。
ハリはアユの魚体に触れる唯一の接点。口に掛けるほかの釣りで使うハリとアユバリとで大きく異なるのはアユのウロコを瞬時に貫く鋭さにある。釣果が上向く適材適所のハリ使いの基本を、オーナー勤務で近年アユルアーに熱を上げている西浦伸至さんの日野川釣行から見ていきたい。
写真と文◎伊藤 巧
九頭竜川支流の日野川が解禁
神奈川県・相模川でのブレイクが大きな話題となり、全国各地でアユルアーが続々と解禁されている。友釣りの有望河川が名を連ねる北陸でも解禁に向けて舵を切る河川が出てきた。福井県の竹田川が一昨年に一部区間を試験的に解禁して好評を得たことで、昨年から全エリアでアユルアーが可能に。この動きを受け、今シーズンから九頭竜川の最大支流である日野川でもアユルアーが楽しめる運びとなった。
日野川は岐阜県に近い夜叉ヶ池を源流とする嶺北の一級河川で、越前市や鯖江市を経由して足羽川と合わさったのち九頭竜川に合流する。その流路は70㎞を超え、夏は友釣りファンで賑わう。アユルアーが可能なのは、ハピラインふくい線武生駅前に架かる万代橋から九頭竜川に合流するまでの下流域35㎞。今年は天然遡上に加えて80万尾の稚アユを放流しており、魚影はかなり濃密だ。
6月9日、西浦伸至さんが日野川に訪れたのは解禁2日目。西浦さんは下見を兼ねて解禁日から川に入ったものの、想定以上の渇水と代掻きっぽい濁りが入って思わぬ苦戦を強いられたそう。アカを食んでいるアユの脇にルアーを入れても反応は鈍かったという。友釣りでも釣果は振るわず。本来なら好釣果に沸く解禁初日でありながら、多い人でも15尾という厳しい開幕となった。
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キャストしながら扇状に手早く探る
雨混じりの朝イチは府中大橋下流の 広く開けたチャラ瀬にエントリー。下流にアユの供給源となる大きなトロ場が控え、いかにも釣れそうな雰囲気だ。下見でアユの活性が低いことが分かっていたので最初のハリは3本チラシの「鮎ルアーのチラシ」をチョイス。浅いチャラ瀬でも根掛かりの少ない小バリのシャロータイプをセットした。キャスト&リトリーブで広くチェックする。
西浦さんは食み跡のある石や流れの変化といった目ぼしいポイントの上流に立ち、アユを警戒させないようダウンクロスへ20mほどキャスト。柔らかいトゥイッチを入れてヒラ打ちさせながら立ち位置の真下までミノーを流し、おおよそ1mを10 秒ほどの速さでリトリーブした。リトリーブ中もトゥイッチを入れ続け、アカを食みながら泳ぐアユを演出。足もとでルアーをピックアップしたら立ち位置をズラして再び同様の釣り方を行ない、広いチャラ瀬を効率よく探っていった。
「生きたアユを泳がせる友釣りと違い、じっくり見せても見切られるケースが多いので、私はリアクションに訴えるイメージでハイテンポな釣りを心掛けています。ヒラ打ちさせるとルアーの位置を視認しやすいため釣りの精度も上がります」
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適材適所のハリ選び
府中大橋下流で待望の野アユをキャッチした後、サイズアップを求めて前日無数の良型がアカを食んでいた福井鉄道福武線下流の小さな瀬に移動した。広い流れが5mほどに絞られて勢いよく流れており、上下は大きなトロ場に挟まれている。西浦さんはハリをハリスがジグザクになっている「鮎ルアーのチラシ」スタンダードに交換した。ストレートのハリスに比べてチラシの振り幅が大きく、よりアユを掛ける性能に長けている。長ハリスは垂れによる根掛かりがネックだが、ハリスがなびきやすい水量がある強い流れの中では掛けやすいというメリットのみを享受することができる。友釣りと同様にアユルアーでもハリの使い分けが明暗を分けるため、使うシチュエーションやタイミングに合わせてハリを選ぶようにしているという。
アユルアー用のフックは触れるだけで魚体に刺さり込むほどハリ先が鋭い。鋭くなっていくハリ先の長さ(ニードルポイント長)が線径(軸の直径)に対して何倍あるかでその鋭さを数値化した「尖頭倍率」は、「鮎ルアーのフック」「鮎ルアーのチラシ」ともに12倍以上ある。強度と鋭さの両立を図ったルアー用フックであるスティンガートリプルフックの尖頭倍率が4倍前後ということからも、アユバリがいかに鋭さに特化しているか想像に容易い。
しかし、ハリ先は鋭いほど鈍りも早くなる。
「常に底石を掻いているので気づかないうちにハリ先が鈍ったり、根掛かりした際には曲がったり折れることもあります。こまめにハリ先を爪に当てて鋭さをチェックし、少しでも不安を感じたら交換しましょう。私は目立ったトラブルがなくても1時間に1回は交換しているので、1日に10セットは使います」
釣果が途切れるとハリの交換も疎かになりがち。アユの活性が低い日は掛かりも浅くなるため、ハリ先のチェックを怠らないことが釣果に直結する。
今回メインで使った「鮎ルアーのチラシ」(オーナー)のスタンダードとシャロー。ジグザグに折れたハリスにシワリタイプのハリをセットしたスタンダード(上)は広くなびくので、アユを掛ける性能は抜群。ハリ先が内向きにネムっているのでアユのキープ力に優れ、ハリ先の傷みも少ない点が魅力。ストレートのハリスに小バリを組み合わせたコンパクトなシャロータイプ(下)は、ゴミが多い場所や浅い場所で威力を発揮する。ハリ先がストレートなので掛かりも早い。いずれもハリのサイズは7.5号でハリスはスタンダードがフロロカーボン1.2号、シャローが1.5号。
チラシは河川によって長さに規定がある場合がある。「鮎ルアーのチラシ」はパッケージの裏がメジャーになっているので便利
活性が高い時は「鮎ルアーのフック」(オーナーばり)が好適。キープ重視、掛かり重視、大鮎用と目的に応じて使い分ける。キープ重視
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ローラー作戦でくまなく探る
前日の下見では無数のアユがアカを食んでいたそうだが、その姿はどこにもない。昨日から気温が10℃近く下がっていることも影響しているのかアユが瀬に入っていないようだ。しかし西浦さんは気温が上がれば必ずトロ場から差してくると踏み、腰を据えて探ることに。
ここでは先ほどよりもスローな釣りを行なった。キャストはせず10~15mほど下流でルアーを馴染ませたらロッドを寝かせ、先ほどと同じようにトゥイッチを入れながらヒットを誘う。少し待って掛からなければルアーを回収しないまま川を横切るように1~2歩移動。移動した分だけルアーをスライドさせて馴染ませ、同じようにトゥイッチを入れて誘う。これを繰り返して対岸に辿り着いたら2~3歩下って折り返し、同じ手順で再び横に移動しながら反応をうかがう。こうして川を何度も往復して瀬肩から瀬尻まで隈なく探っていった。友釣りでいう引き釣りに近いイメージだ。このようなローラー作戦はアユが少ない場面でもヤル気がある魚を取りこぼすことがない。西浦さんの読みどおり、瀬の中で20㎝近い良型がヒットした。
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待望の良型がロッドを絞る
午前中は分厚い雲で覆われていたが、午後2時を過ぎると太陽が顔を出して状況は一変。新緑が眩しく輝き冷たかった川の水が温んでくるとアカを食むアユの姿を確認できた。川を横切りながら瀬の少し上流から探っていくと、瀬肩の流心で顔を出している大石の裏側で不意にラインテンションが抜けた。ロッドを立てて聞いてみると白泡に抱く急流を遡って掛かった野アユが泳いでいる。素早くラインを巻き取ってやり取りを行ない、ランディングに成功した。「この勢いで下流へダッシュしていたら対応できずに身切れしていたと思います」と安堵する。シーズン序盤にしては大きな20㎝の野アユをキャッチして西浦さんから笑みがこぼれる。
「シチュエーションごとにハリや釣り方を変え、この時期にしては上出来ともいえるサイズと出会えました。数的には物足りませんが、ゲームの内容としては満足です。今回は今ひとつ調子の悪い日野川ですが、九頭竜川の支流とあって本来のポテンシャルは高く、シーズン終盤には25㎝ほどある良型が連発するはず。頭上が拓けていて釣りやすく、ビギナーでも楽しめますから是非足を運んでみてください」
まとまった雨が降るなどして石を覆っている泥が流れれば釣果は一気に上向くと思われる。増水が落ち着けばトロ場で群れているアユも散らばり、ナワバリを持つようになるだろう。梅雨入りしてからの推移に注目したい。
九頭竜川の支流・日野川では夏の終わり頃に25 cmを超える良型が釣れる。今年は解禁2日目にして20㎝がヒット。今シーズンも型に期待ができそうだ
※このページは『つり人 2024年8月号』を再編集したものです。