インジェクションルアーというと、高度にマシン化された無機質な生産ラインを思い浮かべるかもしれないが、事実は違う。特にデュオがつくるルアーは、そのマスターの削り出しから、組み立て、色付けまで、ほぼすべての工程が手仕事なのだ。今回、さらなるアキュラシーを求めてフルリニューアルを遂げる渓流クラスのリュウキ51Sと46S開発のストーリーについて、同社代表であり主幹ルアーデザイナーでもある安達政弘さんにうかがいつつ、デュオが誇るルアー製作の現場を取材した。
オニギリ型フォルムの意図
まとめ◎編集部
こちらの記事は『鱒の森2022年4月号』に掲載したものをオンライン版として公開しています。
インジェクションルアーというと、高度にマシン化された無機質な生産ラインを思い浮かべるかもしれないが、事実は違う。特にデュオがつくるルアーは、そのマスターの削り出しから、組み立て、色付けまで、ほぼすべての工程が手仕事なのだ。今回、さらなるアキュラシーを求めてフルリニューアルを遂げる渓流クラスのリュウキ51Sと46S開発のストーリーについて、同社代表であり主幹ルアーデザイナーでもある安達政弘さんにうかがいつつ、デュオが誇るルアー製作の現場を取材した。
デュオ代表・安達政弘さん。ルアーデザイナーとして同社のすべてのルアーを製作監修する。北陸のサクラマス釣り黎明期を知るルアーアングラーのひとりであり、近年は渓流ベイトフィネスにはまり中。
目次
渓流用ミノー『リュウキ51&46(DUO)』フルリニューアルの舞台裏 その1 ◀◀◀前回の記事
渓流シンキングミノーに扁平ボディが多い理由
━━とはいえ、釣りの世界には比重の高いルアーはたくさんあるわけで、すべてが扁平ボディーではないと思います。渓流シンキングミノーに扁平ボディーが多いのはなぜですか?
それは別ジャンルのルアーの場合、盛り込むべき不可欠な性能が他にもあるからです。たとえばシーバスをサーフでねらうためのミノーでは、そもそも頭抜けた飛距離が求められるうえに、ものすごい向かい風の中でも飛んでくれなければ話にならないわけで、それには扁平ボディーだとフォルムとして難しいですし、ボディーが薄くては重心移動システムなどを入れることもできません。つまり、優先順位として「高比重でなおかつ泳ぐこと」よりも「よく飛ぶこと」が上位にくるので、もちろん泳がせる性能は与えつつも、飛距離の充実のほうにスペックを振ったボディーデザインになるんです。
また、バス釣りなどでは炎天下のボートデッキでボックスが熱せられて、ルアーが破裂するのを避けるための強度が欠かせませんが、渓流では夏場でもそこまで暑くならないのでずっと薄肉に設計できます。フローティングだとまた話が違いますし、ある基準の飛距離と強度は当然欠かせないものの、少なくとも渓流ルアー釣りは強度や飛距離の優先順位が「高比重でなおかつ泳ぐこと」よりも下位にくるジャンルで、そのためことシンキングタイプのミノーに関しては「高比重でなおかつ泳ぐこと」に特化した扁平ボディーにできるんです。いわば、渓流シンキングミノーだから許されるカタチですね。
上:安達さんがプラスチックブロックから削り出したリュウキ51Sのマスター 下:そのマスターをもとに「マシンカット」と呼ばれる3倍サイズのサンプルを機械で削り出し、各ディテールを高精度で詰めていく
オニギリ型フォルムに秘められた魔法
━━今回はその渓流シンキングミノーならではと言える扁平ボディーを、より高比重なルアーを泳がせるための新しい扁平ボディーに変えたとのことですが、それは具体的にどんなデザインなのでしょうか?
高比重のルアーを泳がすうえで扁平ボディーは大きな鍵ではあるけれど、そのルアーに求める性能はトータルのバランスで導き出されるものなので、どこか一部分だけを抜き出して全体を語ることはできません。今回のリュウキ51、46に関しては、基本性能やフォルムをそのままに1gのウエイトをプラスして、比重をさらに高めることをミッションに掲げた時点で、全部が変わってくるというつもりで取り組みました。その結果として採用したのが、扁平ボディーではあるものの底辺に幅をとったオニギリ型のフォルムです。
━━ 言われてみるまで気づきませんでしたが、従来のリュウキとならべてみると、確かに新型はお腹に幅がありますね。
日本でルアーが生産されるようになって40年、50年というところだと思うんですが、国内におけるルアーのイメージって、あらゆる部分でラパラの影響が大きかったんです。ラパラは涙型を逆さにした断面のフォルムになっていて、それが「いいもの」として刷り込まれてきた面が少なからずあるように思います。
とはいえ、ルアーをつくってきた連中のなかでは、その時代によってきれいな楕円がいいとか、丸がいい、四角がいいというトレンドがそれぞれにあったはずで、僕にもその時々にトレンドがありました。なかでも、自分自身もスタートはラパラ型だったものの、わりと早い段階で「必ずしも背中側に浮力があったほうがいい、というわけでもないようだぞ」と感じていて、逆に「お腹側に浮力を持たせたほうが動かしやすい」、そしてまた「リップのあるミノーに関しては背中側に浮力がなくてもいい」というトレンドをずっと持っていました。ただ、世間のトレンドはラパラ型かその派生タイプがずっと続いていたので、その真逆のフォルムを前面に押し出したルアーをメーカーとしてつくることは、これまでなかったんです。
━━ 安達さんの長年のトレンドを色濃く反映させたルアー、それが新しいリュウキというわけですね。
オニギリ型はシーバス系のルアーでも使用できるフォルムですが、背中を薄くつくるとそのぶんの体積を減らすことになるので、結果として全体重量が減る点も、これまで大きくこのアイデアを採用してこなかった理由です。というのも、かりに14㎝で28 gのモデルと14㎝で32gのモデルが同じシーバスミノーとしてカタログに載っていた場合、「シーバスを釣るうえでは32gのほうがいいんじゃないか?」となんとなく思われがちだからです。実際には同じ飛距離が出るなら軽い28gのほうが製品としては基本的によくできたルアーと言えるわけですが、スペック上でそう判断してもらえないジレンマが生じます。
その点、渓流小型ミノーであれば背中を薄くつくっても大きなスペックの違いに現われないので、そもそも扁平ボデイーが市場にもとからあったトレンドでもありますし、それまで小出しにしていた僕なりのオニギリ型のトレンドを思い切り注ぎ込んだフォルムになっています。
右が新しいリュウキで、左が従来のリュウキ。新旧を並べて後ろから眺めてみるとフォルムの違いがよく分かる
━━それではオニギリ型フォルムの特徴を詳しく教えてください。
従来の薄い扁平ボディーよりもお腹部分を太くしてあるので、まずウエイトが入れやすくなっています。そのうえ全体の体積が増えているので、空気室も広がっています。これにより、ウエイトが増えているものの、レスポンスに関しては従来どおりのパフォーマンスを発揮できるルアーになっていて、誰にとってもこれまでのリュウキと同じ感覚で使えるはずです。
その場の状況によるものの、基本的にはストンと落ちてすぐに根掛かるということも少ないですし、正確に測ったわけではないけれど、1g重くなっても沈む速度はほとんど変わっていないと感じています。ちょっと流れが強めのところで引っ張った時に飛び出してしまうこともなく、これまでのリュウキに限らず、このタイプの重めの小型シンキングミノーと同じ使い方、同じロケーションで扱えるような設計です。
腹部分を広くとったオニギリ型フォルムによりウエイトが入れやすくなり、なおかつ空気室の確保が容易になった。手前が新型リュウキだ