親ウキにははっきりとした反応が出なくても、水中のシモリがまっすぐに並んで立つ直後のタイミングで、ツンと震えるような細かなアタリが出る場面が多かった。
キラリと輝く水郷の美麗オカメ
レポート◎編集部
水郷のオカメタナゴ釣りといえば、本誌でもお伝えする機会が多いのは冬、春、秋。いわゆる寒タナゴの釣りと、穏やかな季節に楽しむのどかな小もの釣りだ。とはいえ猛暑が続くこの季節も、実はとても魅力的なのである。
この記事は月刊『つり人』2017年9月号に掲載したものを再編集しています
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目次
ヤリタナゴとはどんな魚?
ヤリタナゴ(tanakia lanceolate)は、コイ科タナゴ亜科アブラボテ属に属し、成魚では全長10㎝になる大型のタナゴ類である。日本にアブラボテの仲間は、ヤリタナゴとアブラボテのほかに国の天然記念物であるミヤコタナゴの3種が生息している。
標準和名の「ヤリタナゴ」は、名前のとおり体形は細長く体高が低く「槍」をイメージする。また、同様に学名の種小名 lanceolate (ランケオラータ)は、「槍のような」という意味がある。在来タナゴ類の中ではよく見ることができる一般的な種類で、特に小川や里川を代表とする身近なタナゴ類である。
分布と見分け方
ヤリタナゴは日本産タナゴ類の中では最も分布が広く、北海道と九州南部を除く全国に分布するとされる。しかし本州では、もともとタナゴ類が自然分布しない山梨県と、東北地方の太平洋側には分布していない可能性が高いと思われる。そのほか国外では中国鴨緑江から朝鮮半島南西部まで分布している。
ヤリタナゴを含むアブラボテ属の3種には、一対の口ひげがあり背ビレの条間膜に紡錘形の黒色斑が複数(おおよそ7〜8個)あることが共通の特徴となっている。さらにヤリタナゴにはエラブタ後方のウロコ5枚目あたりの側線上付近に比較的明瞭な暗色斑があり、オスはさらにそれが目立つ。通常期のオスとメスの体色は銀白色が強くウロコ1枚1枚がはっきりとした印象を受ける。同所で見られるタビラ類やカネヒラ未成魚などとは、肩部の暗色斑が明瞭でないことと合わせて、前記のエラブタ後方の暗色斑も識別するポイントとなる。
アブラボテとの識別は同属であることや同所でよく見られるため混同しやすい。全長4cm以上になればアブラボテは体色が黒く識別しやすいが、3cm程度の未成魚ではヤリタナゴのほうが細く、アブラボテの体形は寸詰まりだ。背ビレ、尻ビレ、尾ビレ全体がやや薄い橙色の印象を受ける。同じ仲間のヤリタナゴとアブラボテは、同所にしばしば混棲するため交雑個体が比較的容易に出現する。
ヤリタナゴのオスの婚姻色は背ビレ上端部と尻ビレの外縁部が朱色から紅色に色付き、エラブタから体側胸部にかけては紅色から紫色に染まり、地域によっては尾丙部も朱紅色になる個体もいる。さらに胸部から腹部にかけては黒色になる。吻の追星も白くやや大きい。口ヒゲは長くよく目立つ。分布が広い種であるためか、地域による体形の違いや婚姻色の違いが多く見られるタナゴ類でもある。メスにもごく薄くだが、オスの婚姻色に似た背ビレ先端部と尻ビレ後端部に橙色が出る個体も多い。産卵管は短く灰色で伸長時でも尻ビレ後端を超えない。5㎜ほどの長さでは、黄色もしくは橙色である。
どんな環境を好んで生息しているのか?
ヤリタナゴは主に河川の中・下流域や平野部の用水路、潟湖およびそれに連なる小河川や用水路に生息しており、流水環境を好む。そのため、池沼にはあまり生息していない印象だが、ヤリタナゴは季節による移動が大きく、前記のような水路などとの連続性が保たれている水域であれば冬季は潟湖や池沼などの止水域にも出現する。普段比較的よく見られるのは、流速のある水草が多い底質が砂礫〜砂泥の用水路と思われる。同所によく見られるそのほかの魚種は、ヤマベ(オイカワ)やタモロコ、フナなどが多い。
ヤリタナゴは水が澄んでいて流れのある場所が好き
霞ヶ浦流域のヤリタナゴは2007年頃まで釣れるエリアが決まっていて、タナゴやアカヒレタビラといったほかの在来タナゴ類よりも個体数が少ない印象だった。しかし、その後なぜか分布が広がり、個体数も増加傾向。タナゴやアカヒレタビラの激減も相まって現在では最もよく見ることのできる在来タナゴ類になった。
主な捕食物、生活史
タナゴ類全般の食性は一般的には植物質に偏った雑食性だが、主に付着藻類やプランクトン、またそれらのデトリタス(有機物)なども食べている。ヤリタナゴはそのほかにもイトミミズやユスリカの幼虫(赤虫)など底生動物も好んで捕食する。
ヤリタナゴは春産卵型で、3〜8月頃に繁殖を行なう。マツカサガイやヨコハマシジラガイなど小型の流水性の二枚貝に好んで産卵する。ただし、同所に複数のタナゴ類が混棲する場合は二枚貝の選択性はほかのタナゴ類よりも低く、ドブガイ類などにも産卵するといわれる。卵は紡錘形で一回の産卵でメスは数十粒の卵を産む。受精後およそ3日で孵化し、1ヵ月後に1㎝ほどの大きさになり二枚貝から浮出する。その後は流れの緩やかな河川や水路などの淀みや水草帯で成長する。8月の終わりから9月の初めにかけては全長およそ4㎝になり、活発に動き回る。その頃は釣り人のハリにも掛かるようになる。翌年の春までには成熟し産卵。自然界での寿命はおよそ2〜3年と考えられる。
希少なタナゴを守るために
小川や里川でタナゴ釣りをされる釣り人は、近年のヤリタナゴをはじめとする在来タナゴ類の減少を実感されていると思う。その反面、初めて訪れた場所でも偶然群れに当たり、たくさんのタナゴたちの顔を見ることがあるのもこの釣りの一面だ。タナゴ類や二枚貝の主な減少原因は、開発による生息地そのものの消滅や河川、水路の改修による環境改変などによるもので、人間生活の変化が大きな影響を与えている。さらに肉食性外来魚による食害もタナゴ類には脅威。また最近では自分のフィールドに、本来そこには生息しない他所から釣ってきた同種および他種のタナゴ類や二枚貝を放流したり、その場所のタナゴ類を釣りきってしまったり、さらに大量のタナゴを持ち帰ったり、釣り人のモラルの低さや過度の捕獲圧も在来タナゴ類の減少に拍車をかけている。タナゴ類は内水面で唯一放流に頼らない(頼れない)魚種であることは間違いない。いつまでもタナゴ釣りを楽しむためにも、節度ある行動をとることが求められている。
手作りの竹ザオと水桶。こうしたハンドメイドもタナゴ釣りの楽しみ
ハリは流線。オモリの調整はエサが付いた状態で行なう
親ウキは斜め通し。下の小さなシモリに出ることも多い