きっと誰もが一度はやったことがあるサビキ釣り。サビキから釣りの世界へ入った人もいるくらいイージーで皆が楽しめる広き門だ。しかし、サビキには知られざる深い世界がある。「釣れるサビキ」の真相に迫る。
より多くの魚に出会うために
写真と文◎松本賢治
こちらの記事は月刊『つり人』2020年5月号に掲載したものをオンライン版として公開しています。
きっと誰もが一度はやったことがあるサビキ釣り。サビキから釣りの世界へ入った人もいるくらいイージーで皆が楽しめる広き門だ。しかし、サビキには知られざる深い世界がある。「釣れるサビキ」の真相に迫る。
橋本太陽 (はしもと・たいよう)
見ための美しさや結びを厳しく検査し、製品管理を行なうオーナーばり製品課所属。開発からの声を受けて、中国やフィリピンなどの自社工場へ出向いて現地の各リーダーへ仕掛け作りのハウツーをティーチングする。個人的には沖釣りが好き
吉成秀人 (よしなり・ひでと)
アングラーやショップスタッフの声をベースに、そして、自らのあらゆる釣りの経験をていねいにアイテムへ落とし込む研究熱心な熱きベテラン。フライから荒磯でのショアジギングまで幅広く釣りをカバーし、造詣も深い。オーナーばりで製品企画を担当
目次
〝釣れる仕掛け〟ができるまで
より釣れるサビキ仕掛けを作るために。オーナーばりがこだわる1mm の違い・前編◀◀◀前編はコチラ
「上がったサンプルを見てもらうと吉成からすぐに電話が掛かってくるんです。“何で、こんなに大きいねん。もう1mmカットして”とか、細かくいわれました(笑)」
橋本さんは吉成さんから指定された仕様(サビキ仕掛けの各寸法やデザインなどすべて)を資材とともに、海外の自社工場へ持ち込み、自らが地元の工員たちへ作り方を指導。そして、できあがったものをチェックしている。吉成さんから指示されることは、サビキのハリの部分だけではない。枝スの長さや枝間など、すべて。ハリに付けるフラッシャーの本数まで、随所にこだわりが詰まっている。
「吉成からは、“サビキは疑似餌。アミエビに見せるために先(尾っぽ)が細くないとダメ”と厳しく言われるので、形や長さは特に厳しくチェックしています。寸法を守らないと“釣れる仕掛け”にならない」
最初は吉成さんのいう細かさが理解できなかったが、今ではサビキの要点を理解しスムーズなやり取りを行なっているという。
「たかが1mm、2mmのことですが、修正してほしい部分があればすぐに橋本に電話するんですよ。これは、僕よりもはるかに分かっている人がいくらでもいるから、その人たちに馬鹿にされないものを作らないとブランドが傷ついてしまう」
サビキとはいえ、先述したように決してターゲットはビギナーだけではない。またビギナーであったとしても、絶対に釣ってもらわないといけない。だからこそ、ストイックなまでに作り込まなければいけないのだ。
「サビキの皮の切り方もいくつかあります。ひし形や燕えんび 尾服(ツバメの尻尾のような形)でいうと、ひし形のほうは水の抵抗を受けるからアピールが強い。逆に燕尾のほうは、水を逃がすから動きもナチュラル。そういう使い分けもあります。僕がひし形を使う時はハリぎりぎりまでカットする。スキンの場合は丸まっているんで、センターをカットすると沈下姿勢がよくなる。このチューンだけでも釣果は上がります」
橋本さんにサビキの製作工程を実演してもらった。大きめの板に細いクギが3〜4本打たれてあるだけの超シンプルな作業台。枝スの長さもこれで正確に均等にできるという。一番難しい作業はハリの軸にスキンを巻く工程。幅5mm ほどのスキンを広げて軸に合わせ、最初に2〜3回テンションを掛けて重ね巻きし、そのテンションを保ったまま巻き上げていく。チモト付近まできたら最後にハーフヒッチを2回入れて終了。ハリやラインはもちろん、スキンやサバ皮、ビーズなどすべて釣具店で購入可能で自作できるが、完成した仕掛けを買ったほうが安いし、釣れる
〝目玉〟の重要性
「フライでメバルをねらっていたら、釣っているうちにマテリアルがメバルに取られてなくなっていく。最後に残るのがハリと目玉。でも、その目玉だけでも釣れ続くんです。パッケージにも“目玉が捕食信号”って書いてありますが、そういうことなんです」
吉成さんは目玉の有効性をあらゆるところで体感している。ヒラメやサワラなど歯のある魚は内臓部を目掛けてバイトしてくるが、シーバスやブリ、ヒラマサ、マグロなど吸い込むように捕食する魚は頭をねらいに来る。頭から捕食すればウロコが邪魔して逃げられないことを知っているからだ。「目玉がバイトマーカーになります。そのバイトマーカーを強調するために作ったのが『目玉シリーズ』です。ファミリー向けとはいえ、釣れる要素は必ず入れます」
ジグなどのルアーに目を付けているのは単なるデザイン性だけではない。バイトマーカーとして必要があるから。よく釣れるサビキには目玉があるが、同様に大きな意味がある
もう20年ほど前から作られている『波止目玉サビキ』シリーズだが、今なおヒットしているロングセラーサビキ。サビキの疑似餌部分にアミエビの目を模したつや消しの黒ビーズは定番化。それ以降は、他のモデルにも黒以外のビーズをバイトマーカーとして採用するほど必須アイテムとなっている。
「『波止目玉サビキ』は6本バリがスタンダード。パッケージもファミリー向けでしょ。でも、本気で釣れるサビキですから。アミエビを透かしてみると目の部分だけが黒く見える。目玉と内臓、骨格の陰影っていうのは、魚も小さい頃から捕食対象として刷り込まれているということを聞いたことがある。僕もそうだと思っています。黒ビーズでやっているのはウチが初ですね」
6本バリがスタンダードだが、近年はサビキ釣りもより手軽になり、扱いやすさが注目されている。ショートロッド化しており、仕掛けもショートレングス化している。
「これまでのように4・5mの磯ザオを使う人よりも、1・6mくらいのサオでサビキをやる人がけっこう増えてきている。だから、仕掛けも全長が短くハリ数の少ないものが売れています。とはいえ、ベテランの人には8本バリの『アミエビ実寸サビキ』が相変わらず人気です。慣れている人はイトを張ったまま上のハリから魚を外していって、最後にカゴに手が届いて、そのまま寄せエサを入れてサビキを放り込む、という手順を難なくこなすから、ハリ数が多くても問題ない。『アミエビ実寸サビキ』はベテラン向けで、僕らが“サビキ釣りを分かっていますよ”というメッセージでもあるんです」
なんとも奥の深いサビキワールド。釣果至上主義であるからこそ妥協は許されないのだ。
吉成さんがサビキを大きく進化させることができたのは、自らのフライフィッシングの経験によるところが大きい。フライを自作することで、バランスや食わせに必要な要素が見えてきたという
日本を代表する釣りバリ、播州針の産地、兵庫県西脇に社屋を構えるオーナーばり
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