パコンッという小気味よい音でルアーが吸い込まれる魅惑のトップゲーム。なぜトップウォーターなのか。そしてどうすれば多くのバイトを引き出し、フッキングに持ち込めるのか。そのA to Z をキャスティング新大宮バイパス店の石川さんに教えてもらった。
身軽さと奥深さにハマる都会の水遊び
写真と文◎編集部
こちらの記事は月刊『つり人』2020年9月号に掲載したものをオンライン版として公開しています。
近年、東京湾やその流入河川で増えているクロダイ。ルアー用のライトタックルを使って、その見釣りを楽しんでいるのが、元々ヤマメやイワナのトラウトフィッシングが得意だった井上尚之さんだ。少ない道具と仕掛けで誰でも挑戦でき、やるほどに緻密で面白い。楽しみ方のコツと実践のためのアドバイスを語ってもらう。
井上尚之(いのうえ・なおゆき)
1993 年生まれ。山梨県出身。地元の桂川などで長く渓流のルアーフィッシングに入れ込む。自動車関連の仕事に就き、上京してからはシーバスゲームや海・河口域のライトゲームに傾倒。最近はクロダイ・キビレ釣りの面白さを実感している
目次
ライトタックルでクロダイを釣ろう
多摩川で初めてクロダイを釣ったのは、夜釣りでシーバスをねらっていた時のこと。状況が芳しくなく、橋脚の後ろのヨレを底までルアーを沈めて探っている時にヒットした魚だった。その時は、多摩川の中流域にはそもそもクロダイがいると思っていなかったので驚いた。その後、同じ多摩川の河口域での「底ズルクロダイゲーム」に出会い、夜な夜なクロダイを釣る日々を過ごした。
底ズルは、クロダイが集まる泥質のフラットで、夜間をねらえば高確率にヒットが得られる釣りだった。しかし、デイゲームで「見えクロダイ」をねらうには適さない。警戒心が強い日中のクロダイには、インパクトが強すぎる釣り方なのだ。
その後、アクアラインを渡って千葉方面に釣りに出かけた時のこと。たまたま接岸していた浚渫船の下にクロダイが群れているのを発見し、車に積んでいたルアー用のライトタックルでなんとか釣りたいと思って、即席で作った仕掛けが「カニワームの落とし込み仕掛け」だった。トラウト用の5フィート8インチロッドで、ミチイトはPE0.3号、リーダーはフロロ5ポンドで組んだ。「昨日渓流に行った」ままのタックルに、たまたま持っていたチヌバリを結び、Bのガン玉を打ってカニワームをチョン掛け。浚渫船の影が出来ている所に投げ込んだ。すると1投目で金属的なアタリ。いとも簡単にクロダイが釣れてしまったのだ。普段からクロダイがいるポイントなのか、周りには落とし込みファンなど、クロダイ専門の人が複数サオをだしている中で、自分だけが連発。なるほど、ちょっと遠くの障害物に付いたクロダイは、どれもサオ抜け状態で、ルアータックルの独壇場なのでは?と思ったのがこの釣りを始めたきっかけだ。
悠々と泳ぐクロダイ。しかし警戒心は非常に強い
フィネスな「食わせ」の釣り
現在、私がクロダイをねらって足を運んでいるのは、多摩川、鶴見川、それらの周辺の京浜運河といったエリア。ルアータックルでクロダイをねらう際、大きく分けて2つの釣り方があると思う。
一つは「リアクションの釣り」。バイブレーションや、ミノーを素早くリトリーブし、クロダイの反射食いをねらうもの。目の前にいきなり現われる物体に反射的にアタックしてしまう魚の習性を利用した釣り方だ。反射食いをねらうには速く巻かなければならないから、ルアーはなるべく遠くに飛ばせて、速く巻いても浮き上がらないよう、自ずと重いものになる。重いものを投げるために、タックルも強くなるから、基本的にはシーバスタックルを使うことになる。いま、ルアーゲームでクロダイといえば、この釣り方がメインだと思う。
釣りは魚影の確認が第一。偏光グラスを掛けてまずは回遊コースを確認する
もう一つが、「食わせの釣り」だ。本物のエサやエサを模したルアーを、ナチュラルにプレゼンテーションして食わせる、地味なようでゲーム性の高い釣りだ。リアクションの釣りは広範囲にたくさん投げてストライクを得ることも多いのに対して、食わせの釣りは仕掛けをじっと見つめるクロダイと釣り人の心理戦だ。警戒心の強い相手に見切られないよう、より自然に、違和感なく沈めたいから、仕掛けは軽いものになる。軽いものを投げるために、ロッドは繊細に、ラインは細くなるから、ライトソルトタックルや、トラウトタックルを使うことになる。前者に比べて、まだニッチな釣りだと思う。
流行りの言葉でなら、前者が「ストロング」で、後者が「フィネス」ということになる。フィネスは「技巧、巧みさ」だが、私にはこの言葉がとてもしっくり来ている。なぜなら、警戒心が強く、足音一つで逃げてしまうクロダイを、あえて日中、見ながら釣るには、多くの工夫が必要だからだ。
たとえばキャスティング。クロダイにとって「エサが落ちてくる場所」にピタリと投げる必要がある。間違えてクロダイの頭上にルアーが落ちようものなら、驚いて一瞬でどこかに飛んでいってしまう。ねらいの場所に落とせたら今度は自然に沈めて誘う。横風を受けてラインに不自然なテンションが掛かると、仕掛けも不自然に沈んでしまい、クロダイは逃げてしまう。投げて、沈めて、アタリを待つ。警戒心の強い相手を前にして、シンプルな動作の一つ一つの「巧さ」が必要とされる。まさにフィネスなのである。
クロダイは一尾ごとに動きが違う。そのたびに頭を使う駆け引きが面白い