なぜシーバスには巻き物にもスピニング+PEなのか
なぜシーバスには巻き物にもスピニング+PEなのか
編集部=写真・文、もりなをこ=イラスト
バスだけでなくソルトウォーターのターゲットも日ごろから釣りまくっている荻野貴生さんと沖田護さん。バスよりもPEラインの使用頻度が高い海釣りに精通しているふたりは、PEラインに関する知識も豊富だ。
この記事ではBasser2013年3月号、特集「PEラインで手繰り寄せるバスフィッシングの新たな世界」に掲載された対談をプレイバック。
PEラインの長所、短所はもちろん、リーダーの結び方、モノフィラとPEでルアーのアクションや操作性にどんな違いが出るのか、などなどオギタコンビが語りつくします。
荻野貴生(おぎの・たかお)
荻野先生のブログ「荻野貴生のオギ日記」
1967年生まれ。東京都出身、東京都在住。プロガイドとして活躍しながらタックルショップ「GOOBER」の店主を務める。バスはもちろん、シーバスやメバルなどさまざまな魚種のエキスパートとして活躍している。かつてはW.B.S.に参戦し、クラシックやスーパー3デイズで優勝経験あり。
沖田護(おきた・まもる)
1971年生まれ。TBCトーナメントで2010年から2015年までの6年間に5回AOYを獲得するなどの実績をもつ超実力派アングラー。一方、Basserにて連載されていた「オギタ式。」のように日ごろからバスに限らず海の魚もバンバンねらいに行くという顔ももつ。
海の釣りではPEのメリットがデメリットを上回ることが多い
――バスフィッシングではPEを使うけれども多用はしないという荻野さんも、シーバスでは多用していますよね。
荻「シーバスでは9割がPEですね。ただシーバスも今はみんながPE一択になっているけれど、もともとはナイロンの釣りだったわけで、ボクは今もナイロンも使っています。でも多分ほとんどのシーバスアングラーが『えっ、シーバスにナイロンなんて使うんですか!?』って時代になっているのも事実。もうPEありきの時代ですから」
沖「でも、ナイロンとPEじゃルアーの動きがまるで変わるよね?」
荻「そう。でも現在のシーバスルアーはPEで使うことを前提にしているから、PEありきでのルアーのチョイスであり操作になっている。それは何かを犠牲にして何かを得ているんだけど……」
沖「巻き感は変わりますよね」
荻「それが一番の変化であり犠牲ですよ。とくにハードベイト。動かし続けて使うものですから」
沖「そうだね。前回挙げたPEラインの出番がある釣りって動かし続ける釣りではなく、動かして抜いて、動かして抜いてという釣りですもんね」
荻「まさしくそうです。フロッグもそう。メタルもそう。0か100かの操作法をする釣りにはPEはとってもいい。海のエギングもそう。遠くにある餌木にシャクリの力を素早く伝達させるためのPEであって、シャクリで誘って、その後のテンションを抜いたフォールでイカを抱かせる。虫パターンも移動距離の短い誘いを入れて放置の釣りだし」
――ジャークベイトは?
沖「あれはいきなり100には持っていけません」
荻「ジャークしたあとに抜くんだけど、0からいきなり100にはならない。その前に巻く」
沖「動かしっぱなしではなく、テンションをすっかり抜くからいいんですよ。ヘビキャロもサビきっぱなしの釣りにはならない。やっぱり抜く。でも、これがスモラバやダウンショットだと同じボトム系をズル引く釣りであってもPEのメリットは活かしにくい。こっちはラインを這わせてこそだと思います」
荻「ああ〜、そうだね。そう考えるといっぱいあるね。ジグヘッドのスイミングなんて最たるものだ。フロロは水に馴染んでいくからいいんだけど、PEは水を切って馴染まないから、アングラーは一定のリズムやテンションで巻いているつもりでも、水中のジグヘッドは『ツッツク、ツックク』とか『ド、ドドドドッ』と突っかけちゃう」
沖「フロロでなら『ツー』と動かせるジグヘッドがぎこちない動きになるよね。ジグヘッドもI字系の一種だからI字系プラグにも同じことが言えるよね」
荻「PEは水に馴染むのではなく水を切りながら水面の雑音を拾ってしまう。止水でそうなんだから海なんて波もあれば潮流もあって雑音だらけですよ。だから波が静かなとき、メバルをジグヘッドリグで釣るときは絶対にPEよりもフロロだし、フロロよりもナイロンが断然いい。ルアーがギクシャクしませんから」
沖「ジグヘッドのスイミングをPE、フロロ、ナイロンでやると遠目には同じように見えても拡大してみるとアイへのラインの入り方が違うよね。PEはライン先行になってしまうのに対してナイロンは小さなフクロが生まれるから実はルアー先行になる。フロロはその中間。で、メバルでいえばナイロン、フロロ、PEの順で食いがいい」
(写真B参照)
写真B 上の図は同じジグヘッドリグのスイミングでもフロロ(赤線)でならツーっと巻けるのにPE(青線)で巻くとぎこちなくなることを解説。下はその拡大図で、フロロはラインアイのやや後ろからラインが出ているのに対してPEは完全にラインが先行している。右端に赤字で描いたのはナイロンで、大げさに言えばもっともフクロが大きくなり、もっともルアー先行になる
荻「メバルは大きな群れを作るんで、多少ライン先行になっていてもそこそこ釣れちゃうからその差がぼやけてしまう。でも、食い渋った状況で、ひとりはPE、ひとりはフロロ、ひとりはナイロンで並んで釣ったらその差は歴然。普通、そんなことは試さないけど、ボートメバルなんてそんなシチュエーションは何度となく経験済みですから」
沖「ひとりでの釣りは思い込みで終わってしまうけど複数でやれば真実が見えてしまう」
荻「でも、ナイロンが一番かというと、そんなことはないわけで、たとえば水深12mのブレイクの角のピンポイント。しかも上潮は右から底潮は左から流れる二枚潮のときにナイロンで1.8gとかのジグヘッドを沈めたらどうなるか。もうラインがS字を描いて、ルアーがどこにあってラインがどんな状態なのかサッパリわからなくなる。それを制御してくれるのはPEしかないんです」
沖「細くて潮の抵抗を受けにくく水切りがいいというPEのメリットですね。だからアングラーとルアーまでの中間のラインを整理しやすい」
荻「だから海の場合はメリットとデメリットを天秤にかけるとPEのメリットが上回ることが多い。それは飛距離もしかりですし、ヨレもしかり」
――ヨレですか?
荻「スピニングリールはその構造上、投げて巻いてを繰り返せばどうしたってヨレるんです。それはPEでもフロロでも同じことなんですけどPEのほうが気になりづらい」
沖「同じ量がヨレているけどね」
荻「そう。編みイトだからヨレが吸収されているだけでヨレは溜まっていく。投げるときにトップガイドに絡むとか、あれはヨレのせいですから。昔は『PEは水を吸わないし強度もあるからそのままワンシーズン使えますよ』なんて言っている人も多かったけど、それはとんでもない勘違いだし、どんだけ魚釣ってないの?って話ですよ。PEは伸びがないから魚が怒るのも早いんですよ。シーバスやっている人はわかるけど、ドラッグが効くのがとにかく早い。『ドンッ、キュン、ジィー!』ですから」
沖「ナイロンを使っていると同じサイズの魚でも最後までドラッグが滑らないこともある」
荻「伸びがないからどうしたってドラッグが効いちゃうんです。だから釣れば釣るほどヨレが入る。なのに1年持つなんて自慢している人はどんだけ魚を釣ってないのってことになる。フロロほどわかりやすいヨレが早く出ないだけで同じだけヨレているし、ドラッグが効いちゃう分、もっとヨレているのがPEです。しかもフロロみたいにボートから吹き流してもヨレは取れづらい。フロロはヨレたら戻ろうとする力が働くからクルクルってなる。クルクルってならないからヨレづらいと錯覚してしまうのがPEなんです。最終的には編んだイトにヨレが溜まって、そこに負荷が掛かれば簡単に切れますよ」
沖「フロロほど早くはヨレが気になる状態にならないことがメリットといえばメリットだと」
荻「ヨレの入っていない新品のPEの強さったらないし、魚をたくさん釣っていない人ほどその恩恵に与かれますからね」
沖「その強度なんですが、正直言うと、ボクは不安もある。じわーっという引っ張りには強いけれど瞬間的な衝撃には弱いし、それが近距離であればあるほど弱い。バス釣りって接近戦じゃないですか。しかもボクのフルフッキングですよ?」
荻「牛殺しみたいなアワセだもんね(笑)」
沖「はい。あとは違和感のある巻き心地。だってシーバスってミノーやバイブレーションとか巻き物が主体でしょ。ボクのなかではラインはフロロ以外に考えられないんですけど……」
荻「そもそも巻き物にスピニングリールが不向きだもん(笑)」
沖「絶対にベイトがいいですよ。クランクベイトをスピニングリールで巻いたらガックンガックンして上手く泳がないし」
荻「そう。なのに、なぜシーバスはスピニングリールにPEで巻き物を扱うのか。それはPEが細くて強いからです。0.6号とか細いからベイトリールではライン同士が食い込んで扱いにくい。でもナイロンのメリットもとっても大きい。だからうちの店にビギナーのお客さんが来て『これからシーバス釣りを始めたいんでタックルを揃えてください』というリクエストがあれば、ボクは用意したリールにナイロンを巻いて渡します。けど、『なんだあの店は。テキトーなラインを巻きやがって』となるわけですよ。だってよその店なら確実にPEを巻くし、雑誌にもシーバスにはPEって書いてあるし」
沖「変なものを売りつけるけしからん店だと(笑)」
荻「ホント、そう思われていますよ。でも、そのアドバイスを忠実にやったお客さんは上手になっています。ナイロンのよさを知ったうえでPEも使っているから」
沖「やっぱりPEになるんだ」
荻「シーバスもボートからの釣りがメインだったらまた違うんだろうけど、普通はオカッパリでしょ。川にしても堤防にしてもサーフにしても磯にしても大場所がメイン。となると、キャスト精度や巻き心地よりも飛距離が最優先になる。しかも、飛距離が出れば出るほど中間のラインの整理がしやすいというPEのメリットが活きてくるから」
沖「PEありきの釣りでいいということ?」
荻「だけじゃないんだけどね。ルアーってキャストしたあとのスラックをたどってくるわけですからディスタンスが長くなるほど軌道が変わる。潮の流れのある大場所でフルキャストしたとき、あまり上手ではない人がフロロを使ったら、ブワーンと出たスラックが水に入ってしまうから、ルアーはそれをたどろうとして思わぬ方向に流されちゃう。でもPEなら多少のスラックはピッと制御しやすい。そもそも上手じゃない人はフロロだとそこまで飛ばせられないしね」
沖「たしかにPEはキャストもバチコーン、ピューですからね」
荻「行って来いの釣りですから遠くに投げるのが簡単なんです。でも、空中にあるルアーの軌道を修正したりメンディングをしたりするのはモノフィラのほうが簡単です。発射したらそのままになってしまうのがPE」
沖「同じところへ同じように2回キャストするなんてモノフィラなら当たり前にできるけどPEだと難しい」
荻「海で、食い込まない太さのPEで巻き物をしても、精度が著しく落ちるからナイロンに戻してしまうもん。リリースタイミングなどすべてにおいてものすごくシビアになってしまうから」
沖「初速が速くなってスプールの回転も速くなるんだ」
荻「ピッチングみたいに動作がスローな釣りならそこまでの差は感じませんけど、『あのブッシュの奥まで入れ込むぜ』って本気でビュッと投げたら難しい」
沖「伸びのあるラインから伸びのないラインに変わればガイドの通り方も違うしロッドの曲がりや反発具合も変わる。当然、ルアーのスピードも変わる。フロッグをPEでキャストすると、いつもより少しズレますよ」
荻「その対処法は緩い弾道で投げること。軟らかいロッドでフワッと投げるトップの釣りだと気にならなくなってくる。だからトップの人たちはよくPEを使うのかもしれないね」
沖「逆にフロッグはPE一択って言っていたけどナイロンもありでしょ?」
荻「もしもフロッグしか使えないという縛りがあるなら、PEをメインにナイロンも使うね」
――ナイロンの出しどころは?
沖「オープンウォーターのアシ原のポケットですよ」
荻「オープンだから突っかかるものもないしキャストは決まりやすいですからね」
荻野貴生さん&沖田護さんコンビが映像でも活躍
2016/09/30