海園とは、このロレンチーニ器官を利用し、微弱な電気を流すことでエイやサメが近づかないようにする被害軽減装置だ。つまり、ロレンチーニ器官を持たない多くの魚にはまったく影響なく、サメやエイだけに効果を発揮する。その構造は比較的シンプルで、本体内蔵の電池、信号を発する基盤、そして電気信号を水中に通すためのワイヤーからなっている。
「ロレンチーニ器官」を刺激してエイを近寄らせないアイテムがある
編集部=文
シーバスゲームを楽しむうえで、根本的に重要なことは安全であること。海でのトラブルは些細なことでも命に直結しかねない。なにより自分のため、そして他人に迷惑をかけないためにもアカエイ対策を知っておこう。
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目次
注目! 新たなアカエイ対策アイテム
すでにご存知の方もいるかもしれないが、この秋、今までとは全く違う方法でエイから身を守るアイテム「海園エイバージョン」が登場した。ウェーディングするアングラー専用の設計となっており、釣りをしている時はもちろんのこと、歩行時もじゃまにならない。写真の通り、タバコより一回り小さい箱状の物からコードが2本出ている。つまり、かなり小さいサイズだ。なぜ、これによってエイから身を守ることができるのか。それはエイがロレンチーニ器官という独特の体構造を持っているからだ。
これが海園から発売されたばかりのエイ被害軽減装置。本体から出ている出力ワイヤー2本(黄色いコード)が出ているというシンプルな構造だ
エイとサメが持っているロレンチーニ器官て何?
水の中には、非常に多くの種類の魚がいる。しかし、このロレンチーニ器官をもっているのはサメとエイのみ。サメの嗅覚が驚くほど鋭いことは良く知られているが、嗅覚とは別に持っている感覚器官が、このロレンチーニ器官だ。サメの鼻には孔が点々とあいており、その奥にはゼリー状の物質が詰まったチューブがある。この器官で、サメは電気的な信号を感じ取ることができる。
一方、魚は、その体と海水で塩分濃度が違うため、魚と海水の間で電位差が生じ、非常に微弱ながら電気的信号を発している。サメはその信号を感じ取ることで捕食対象である魚の存在を知り、その位置までも特定しているのだ。サメは、まず嗅覚によって遠方から獲物の存在を探知し、接近してからはこのロレンチーニ器官によって獲物を感じ取っている、と考えている専門家がいる。そして、エイもサメと同じ構造のロレンチーニ器官を有している。アカエイの場合は口の周りにあり、サメ同様に捕食対象となる軟体動物、甲殻類、小魚などの存在を感知する。
ちなみに「ロレンチーニ」とは18世紀にこの器官を発見したイタリアの生物学者の名前だ。18世紀に発見されながらも、この器官が電気を感知することがわかったのは1960年代になってからだという。
エイとサメの被害を軽減する海園とは
海園とは、このロレンチーニ器官を利用し、微弱な電気を流すことでエイやサメが近づかないようにする被害軽減装置だ。つまり、ロレンチーニ器官を持たない多くの魚にはまったく影響なく、サメやエイだけに効果を発揮する。その構造は比較的シンプルで、本体内蔵の電池、信号を発する基盤、そして電気信号を水中に通すためのワイヤーからなっている。
海園エイバージョンのテストに関わった浅川和治さんのエイ対策。腰から両足へ延びる2本のケーブルが「海園」。装着方法は後述
今回、ここで取り上げているのは“エイバージョン”だが、実はすでに4年ほど前から“サメバージョン”が発売されており、今では漁業者や釣り人の間ではマストアイテムと言える存在にまでなっているのだ。オフショアキャスティングをする人なら知っているだろうが、例えばキハダマグロをヒットさせ、船べりまで寄せたところでサメに喰われてしまった、なんてことは本当に日常茶飯事と言えるくらい起きる。
船釣りでは、イカやキンメダイ、アカムツなどでも同じようにサメにやられてしまうことが珍しくない。とある船釣り専門店では、それぞれの釣りものに合わせたパワーや装置の強度を変えた様々なバージョンの海園を発売している。そして、マグロ釣りやキンメダイ漁時におけるサメ被害が90%以上低減したという、サメ被害軽減装置として疑う余地がない効果を発揮している。
海園エイバージョンを企画したのは、この人
サメ仕様だった海園の存在を知り、シーバスアングラー用のエイバージョンを思いたったのは山木一人さん。山木さんはブラックバスのトッププロで、その世界では知らない人はほとんどいないというアングラーだ。なぜ、山木さんなの? と思うかもしれないが、山木さんが住む神奈川県・箱根は15分も走れば小田原の海。バスプロになる前から今までずっと、地元の海だけでなく各地でソルトウォーターゲームを楽しんできた人なのだ。オカッパリ、ウェーディング、オフショアと様々なソルトゲームに通じている。そんな山木さんに、色々話を聞いてみた。
山木一人さん 箱根・芦ノ湖のボート屋で生まれ育ち、物心がつく頃には既にブラックバスを釣り、そして近年注目を浴びているSUPフィッシングにも早い段階からチャレンジするなど、魚種や方法を問わず様々な釣りを楽しむ。芦之湖漁業協同組合の理事という一面も持つ
海園が生まれたきっかけ
そもそも、海園はどのようにして生まれたのか?
「海園を思いついた人がいるんですけど、その人がキハダマグロを釣りに行って、その日生まれて初めて掛けたキハダマグロ3尾ともサメに喰われちゃったんですよ。それで、サメのヤロー! ふざんけんじゃねえ! と思ったところから始まってるんです(笑)」
「どうすればサメにやられずにすむか、調べまくったそうです。様々な文献を調べて、サメを研究している大学教授に会いに行って話を聞いたり。そんな中でサメが持つロレンチーニ器官に着目して、海園が形になっていったんです」
海園のサメバージョンは、釣り人のみならず漁業者にとっても必須アイテムとなりつつある。そしてどうやってそれがエイバージョンになっていったのか。
「自分はどんな釣りでもやるんですけど、シーバスを釣りに行った時、エイに2回もウェーダーを切られたんです。しかも買ったばかりのウェーダーを切られた時もありましたよ。友人もフクラハギを刺されて大変な目に遭ったし。それで、シーバスのウェーディングはあまりやらなくなっちゃったんですよ。釣りとしては大好きなんですけど……」
山木さんの地元、小田原の海はあえてウェーディングしなくてもエギング、メバル、アジ、カマスと季節によって様々なターゲットをショアから狙うことができる。シーバスのウェーディングをしなくても充分に遊べるエリアなのだ。
「でも、やっぱりやりたい釣りをできないのはつまらないじゃないですか。そんな思いがあったので、海園のエイバージョンができたらいいな、と思ったんです。エイにも同じロレンチーニ器官があることはもちろんわかっていましたし、大学教授もエイにも効果はある、と言ってましたから。それでスタートしたのが去年の春です」
去年の春に動き出して、1年半で製品版になるというのはかなり早い動きだと言える。
「サメ用の研究段階で、エイに効果がある電気信号のタイミングやパワーはわかっていたんです。もっとも、パワーはかなり上げられますけど、電池が持たないので効果が出る最適な出力のセッティングをする必要はありました。海園本体にはコンデンサーや基盤が入っていて、それで電気信号のタイミングや出力を調整しています。サメからの微調整で済んだので、エイの基本形になるまでは早かったですね」
その電気信号を水中に発しているのは、2本のワイヤーの先端になる。そのワイヤーが水中に入り、2本の間で通電する仕組みだ。
「ワイヤー同士が遠くて、出力を上げれば有効範囲は広がります。ただ、エイバージョンの場合はシーバスのウェーディングで使うことを考えていますから、アングラーの周囲2~3m程度の範囲がカバーできれば済みます。基本的に、ウェーディングでは水中から足を上げずに擦り足で動いていきますから、動いていく有効範囲円の中にエイが入ったら逃げていきます。だから、ワイヤーの末端は水に常時浸かっている足の先のほうにしました」
SUPフィッシングにも活用できる
近年、注目度が上がってきているSUPフィッシング。この海園エイバージョンは、SUPフィッシングやサーフィンなどのマリンレジャーでも活用できそうだ。神奈川県茅ケ崎でサーフショップを営んでいる山木さんの知人にも渡して試してもらっているが、去年までストリンガーにぶら下げたイナダをサメに食べられることがあったが、海園を使いだしてからまだ被害にあってないとのこと。
「自然と生き物が相手なので、完全な100%ではなくて、あくまでも軽減装置です。エイガードなどと併用して、より安全な対策を取ることを薦めます。エイガードだって、やられる時はありますし。エイに刺された時のことを考えたら、できることはやっておいたほうがいいですよ」
この海園エイバージョンのテストに関わったのが浅川和治さん。バリバスやカルティバのテスターを務めるエキスパート・シーバスアングラーだ。海園エイバージョンでは、実際にシーバスでのウェーディングで、ワイヤーの長さや取り付け位置などのセッティングを煮詰めたのが浅川さんだ。せっかくなので、その取り付け方法も含めて実釣取材を行った。
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