株式会社昌栄が作る超々ジュラルミンを素材にしたオーバル型のフレームは、シーバス釣りのランディングネットを席巻した「ツール」。それを生み出す大阪東部の町工場には日本製にこだわる職人魂が受け継がれている。
Made in Japanを貫くランディングツール
写真と文◎四元秀敏
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金属加工の職人技
大阪府の中東部、生駒山系を境に奈良県に接する八尾市は人口約26万人の中核都市。中小企業を中心に高い技術力と製品開発力を誇るものづくりのまちとして知られる。ランディングネットの「TooL」ブランドでおなじみの株式会社昌栄はそうした企業のひとつだ。
大阪府八尾市にある昌栄の本社工場。千早の第2 工場と合わせて12人の職人が製造をてがける
グローバル時代といわれる現在、コストを考えて、生産拠点を海外に移したり、海外製の素材を組み合わせたりする企業が多いなか、なじみの業者や腕の立つ職人、そしてその職人を支える家族や協力してくれる下請け業者がいるからこそ、作りたい製品がきっちりできるのだと日本製を貫くことにこだわり続け、さまざまなランディングツールを展開する。その思いと職人魂は創業から脈々と受け継がれている。
實近博子社長の父、博市さんが「日々栄えるように」と思いを込めて創業したのが1957年。自動車部品など金属のプレスや加工の下請けを経て1975年に釣り具の製造販売を開始する。
専用の機械を使って手作業で形を作っていく。寸分違わず形成するのはまさに職人芸
「下請け仕事でしたので、毎月4トンの材料を買わないといけなかったんですが、オイルショックで仕事がストップしたんですね。たまった材料をなんとかしないといけないということで、毎週尾鷲(三重県)へグレ釣りに行っていた先代(博市さん)が、岩場に脚1本で立つサオ受けを作ったんですよ。当時はそんなサオ受けはなかったですから、釣り場で使っていたら『それはどこのや』と話題になって、売りだしたんです」
金属加工の職人技を駆使したそれは、サオの角度を上下に調整できること、左右に向きを変えて固定できることなど、釣り人の“あったらいいな”を具現化し「ユニバーサルピック」の商品名で大ヒット。次に手がけたマキエシャクも大当たりした。
昌栄が開発販売した釣り具の第一号「ユニバーサルピック」。業界初となる1 本脚のサオ受けで大ヒットした。これは初代社長の功績をたたえて作られた記念のチタン製
「先代がいつも言うてましたのが、隙間をねらっていけ、何かを作るんやったらひと味違うものにしろということでした」
失敗作も多いというが、磯やイカダで使うサオ受けや荷掛け、パラソルスタンドなど個性的なアイテムはいまも生産を続けている。また、子どもが水遊びで使うものから始まったタモ網では、1999年に業界初となる超々ジュラルミンを採用したタモ枠「ウルトラフレーム極」をリリース。圧倒的な軽さに加えて、独自のジョイント構造によるスムーズな開閉と剛性の高さが大いに注目された。
そして2007年には、今日のソルトゲームでは当たり前になっているオーバル型(卵型)フレームの「ランディングフレーム」をリリースして市場を席巻する。
いまやシーバスゲームの定番となったオーバル型を世に広めた功績は大きい
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フレーム素材は特注品
これを手がけたのはシーバス釣りに精通し「TooL」ブランドを立ち上げた博章専務。
「エサ釣りは1本バリなのに対しルアーはトレブルフックが何本も付いてますから、トラブルなくすくいたい。魚をすくうときは枠全体を水に入れるのではなく半分ぐらいですよね。丸型のように水面から上に出ている面積が大きいとそこにフックが掛かりやすいんです。水面から出ている面積を小さく、入っている面積を大きくすることでそうしたリスクを減らしてすくいやすくしたんですよ」
細長い魚体のシーバス、それも80㎝や90㎝がきても安心してすくえるように、従来の丸型に比べてサイズも大きくなった。
フレームに採用する超々ジュラルミンは特注品。国内で流通しているジュラルミンのパイプは船のマストのポールだけで、フレームに使えるサイズは規格そのものがないため、軽さと強度と耐久性、さらには価格と加工のしやすさから8㎜径に落ち着いた。これを国内に1、2社しかないというメーカーに作ってもらうのだが、日本製を貫く当社の信頼があってこそ実現した取引であることはいうまでもない。
そんな超々ジュラルミンのパイプは、そもそも直線で使うことしか想定しておらず、とても硬い。熟練の職人がひとつひとつ手作業で曲げて形成し、ジュラルミンの弱点ともいえる海水での腐食を防ぐためにアルマイト加工を施したあと、ネットを通してからシャフトとのジョイント部分を取り付けて完成となる。
現在のシーバス釣りではフレームとシャフトのジョイント部分は、折りたたみ構造のものが一般的に使われるが、これを開発したのも昌栄だ。
ポイントをどんどん移動しながら釣るときに、タモを腰にさしたり肩に掛けていたのではフレーム部分が飛びだして使い勝手が悪い。それを解消する折りたたみ式がほしいという釣り人の要望だった。
「こだわったのは片手での操作性ですね。タモを使うのは最後の取り込みの時なので、もたつかずにスムーズに片手で開閉できてセットできること。それとシャフトの先に付けるパーツなので、重くなるとすくいにくくなる。少しでも軽くなるようにいろいろ試作しました」
ino に取り付けるロックタイプのフレックスアーム
こうして初代の「フレックスアーム」を2005年にリリース。収納時はシャフト側に折りたたまれたフレームが、シャフトを手にして軽く振るとまっすぐ伸びるこれは、シーバスアングラーとクロダイの落とし込みファンに一気に浸透。まさにランディングツール革命だった。
その後、収納時にばたつかないロックタイプの追加や、フレームとの一体化が進められ現在にいたっている。
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選ぶ基準は足場と高さ
シーバスに適したオーバル型フレームのラインナップは、ロック式のフレックスアームが一体となった「ランディングフレームinoロックタイプ」、ロック機能のない「ランディングフレームino」、ロック機能付きでフレームの先端を下向きに曲げた「ランディングフレームino+(プラス)」、そして折りたたみタイプでフレックスアームは別売りの「ランディングフレームver.Ⅱ」の4種類。
「石畳やゴロタ石など足場が低い場所だとタモ入れ角度が浅くなって、水につかる面積が小さくなります。ino+はフレーム先端を下に曲げることで、魚を引き込む入り口が広くなり、すくいやすい。垂直ケーソンなどタモ入れ角度が深く取れる場所では、普通のinoでも差はないと思います」
フレームサイズは、足場が水面から1〜2mの高さならMサイズ(W460㎜×L550㎜)。それ以上なら魚を誘導しやすいLサイズ(W530㎜×L690㎜)がおすすめ。また、電車釣行などフレームをコンパクトに収納したいときは折りたたみ式を選ぶといい。
ちなみにジョイント部分がロック式かそうでないかは好みだが、慣れていない人はロック式でないほうが取り込み時に慌てなくていいとのことだ。
シーバス釣りでは、携帯性がよくキャストの邪魔にならない小継ぎのシャフトが一般的だ。小継ぎのなかにはブランクの張りが弱くたわみやすいものがあるがこれはNG。特にフレックスアームが付くとフレームまわりの重量が増すため、シャフトは張りの強いものが絶対にいいと博章専務。4〜5m先の重さの差は想像以上に大きいからだ。
TooL が手がけるランディングシャフト「ブラックシープ」はバットから先端部まで30 トン以上の高弾性カーボンを採用することでしっかりとした張りをもたせた。ランディングフレームの性能を最大限に引き出すアイテムだ
ネットの自社生産に成功
ランディングネットのお手入れとしては、使用後に水洗いで塩を落として乾かすのが基本。特にジョイント部分は塩がみで固着しないよう、真水に浸けてしっかり抜くことだ。
さて、国内生産にこだわる昌栄のなかで、唯一中国から買い付けていたネットだが、このほど自社生産に成功した。編み終えたネットの後染めではなく、原糸に色を付けることで色あせや耐久性の高い仕上がりになっているそうで、今後の製品に随時投入していく。
6 年の歳月をかけて完成した自社生産のネット。網目のコブすべてが外側にくるよう編まれており魚にやさしい仕様だ
「先代が創業して67年。たくさんの方々のおかげでここまで続いてきました。当社が続けてきたきちんとしたモノ作りは、日本人が好むことですし日本の文化ですから、これを一生懸命続けていきたいですね」
と博子社長。100年企業を目指して歩みを続けるなかで、より使いやすいランディングネットへと進化は続く。
實近博子(さねちか・ひろこ)
釣り好きの初代が釣ったコッパグレを離乳食に子どもを育てながら仕事に邁進。腕利きの職人を束ねる株式会社二代目社長。近年はネット(網)の自社生産を牽引
實近博章(さねちか・ひろあき)
子どものころから釣り好きで、さまざまな釣りを経てシーバスにハマり「ランディングフレーム」シリーズを擁する「TooL」ブランドを立ち上げる。株式会社昌栄専務
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